しろばんば (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063126

感想・レビュー・書評

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  • 浦野所有
    →10/09/26 山口さんレンタル →11/03/27返却

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    『しろばんば』、よかったです。This is 名作。ですね、まさしく。

    孫バカ、傍若無人、世間知らずで恥知らず。そんなおぬい婆さんと、婆さんを誰よりも頼りにしながら、ときに鬱陶しく思ってしまう洪作少年。

    2人の純な生き方が、友人関係、親戚関係、隣近所の住民関係を交えつつ、つとめて冷静に、洪作の視線でもって表現されています。これほど緻密な心理描写の作品は、そうそう読めるものではありません。

    さまざまな人や物と出会い、そのたびに洪作が抱く感想は、正に少年ならでは。子どもだけがもつ理性と本能が見事に描かれていて、「ああ、自分も昔はこんなだったのかもしれないな」と、不思議に納得してしまうのです。

    そして『しろばんば』でもっとも特徴的な表現といえば、たとえば次のくだり。

    「納屋を少し焼いただけで火事は大事にならず収まった。子供たちは火事も見に行かなければならなかったし、バスも見なければならなかった。それからまた火事を出した農家の嫁が、自分の不始末で火を出したということで、火事の収まった直後、どこかへ姿を消すという事件があった。子供たちはまたこの嫁を探しに長野部落の山へも出かけて行かなければならなかった。やりたいことは沢山あったが、体は一つしかなかった。」(後編四章より)

    何か事件があると、それを見届けなくてはいけない。それが子供の特権というか、義務なんですよね。

    とにかく『しろばんば』は感動的な作品ではあるけれど、愉快な場面もたくさん散りばめられています。私も列車内で読んでいて、思わずクスッと笑うことも何度もありました。そういう意味でも、これまで読んだ小説とは異なる性質の作品だったと思います。

  • 高校の時に模試の問題で後編2章から少しだけ読んだ記憶が。その時ものすごくこの本の世界に引き込まれた覚えがあります。実際読み終わってみてちょっと泣いた。

  • つまんなかったー!
    あれですね、超正統派純文学ですね。

  • 全体が清純で品格があって、たっぷりとした情感で溢れています。
    特に何が書かれているわけでもないけれど、どこか精神的にも肉体的にも、ぽっ、と心温まる作品。

    (2010.02.15)

  • ほんわか、じんわり、

    たっぷり愛された感じがしっかり伝わります。

  • 井上靖的最強物語。

  • この物語は好きで好きで、中学生の頃から何度読んだか分からない。主人公・洪作と自分を重ねあちこちで共感を感じるし(自然の中で生まれ育ち祖母に溺愛されるとことか)戦前の田舎の暮らしがユーモラスに描かれているのも魅力。どこまでが井上靖さんの実体験かは分からないけれど、それにしてもなんと鮮明に少年時代のことを覚えておられたことでしょう。

  • 「伊豆の湯ヶ島の山村で、おぬい婆さんと二人で暮らす洪作少年の日々。ゆたかな自然と、複雑な人間関

    係のなかで、洪作少年の心は育っていきます。井上靖の自伝的な名作」


    ――ああ、良いな。この小説すきです。 もう純!の一言。 洪作少年の成長を描いた小説なんですけ

    ど、もう感情が伝わってきて。 おばあちゃんの気持ちも洪作少年の気持ちもすごくわかるよ。子どもの

    頃って何であんなに純粋なのかな。いろんなことにいちいち打ちのめされますよね。 洪作少年も紆余曲

    折経ておとなになるけど、共感する部分がたくさんあって。じーんと味わいながら読みました。 なんつ

    ってもおばあちゃんがいい!あの包容力っていうんですか。安心感ていうんですか。おぬい婆さんに会い

    たいです。 これ井上靖さんの自伝的小説らしいです。だからかな。精練されてるっていうか。 特に目

    立った展開とか、オチとかはないんですよ。ただおばあちゃんと孫の生活の物語なんですけど。でも、こ

    れがホントに良い小説なんだなって読み終わってから思いました――

  • 作者の少年時代の思い出。
    なんだか淡々としていて、あんまり面白いと思えなかったなあ。

  • 舞台がほぼ自分の郷里であることの贔屓目も手伝った側面はあるが、ここまで感情移入して自分の感性ですんなり受け入れることのできる小説は初めてであった。

    郷愁というよりは、多くの人が幼少期に出会ったことのある心の動きがかなり正確に再現されており、そこに懐かしさを感じるといったところ。外的な出来事や環境に対して内的なものがどう応答するか、まるで子供の心がそのまま端正な文章になったようである。それでも幼年期の前編は叙事的な傾向が強く、少年期を描く後編は多分に抒情的になっていく。一人の人間の魂が形作られる過程のようである。
    後編に移ると幅も奥行きも大きくなっていく洪作の世界で、おぬい婆さんは小さく老いていく。あれだけ剛毅でつっけんどんだったおぬい婆さんが衰弱し、もう洪作の庇護者たりえないことを2人が共有してしまう描写が非常に悲しい。
    おぬい婆さんに対する惻隠の情を言葉にできなかった洪作が、二度と会わないであろう老人に優しく声をかけるのも象徴的。子供の大きな成長は些細で何気ないことから起こるのだろう。

    以下好きな場面等

    村の人間の意地の悪さや皮肉っぽさは、不快というよりはむしろ、この作品ではユーモアを担っており小気味良さを感じさせるものがある。

    豊橋で迷子になった場面において、「あとへ引き返すより、まだ前へ進む方が怖さが少いような気がした」とあるが、子供の心理描写としてここまで適切なものは寡聞にして知らない。

    沼津のかみきの小母さんに好きな食べ物を聞かれるところ、「よく理解できなかったので、何でもみんな嫌いにしてしまおうと思っていた」とあり、子供の頃ってこんな感じだったなと強く懐かしさを抱いた。

    湯ヶ島から大仁が4時間は (長すぎて) 驚かされるが、下田までも4時間で行けるのは意外。下田行きの描写は、量的にも物語的にも比重はそれほどないように思うが、丘の上から入江を眺める2人の構図が快い。

    村を去るとき、最も親しい幸夫が遠くから笑いかけるだけというのもいい。
    最後に遠く離れていく天城が、読者にも湯ヶ島との別れを感じさせる。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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