- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101063218
感想・レビュー・書評
-
「幼き日のこと」は自伝的小説「しろばんば」と対をなすかのうようなエッセイである。事実をもとにしたフィクションがいくつか小説に散りばめられていることがわかり面白い。「青春放浪」も自伝的小説「夏草冬濤」と「北の海」の基になった日々を語っている。著者が幼少期に暮らす年月の少なかった父母との思い出を、その場面毎の絵画として記憶していることが印象的である。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
井上靖の自伝。井上靖が感銘を受けた作品が興味深い。(全部フランス人作家)
-
井上靖の作品で、中学生か高校生の時に読んだものは『額田女王』と『黒い蝶』。それ以来読んでいなかった。歴史的作品を多く書く、品の良い作家というイメージだった。先日、『しろばんば』を読み、イメージが少し変わり、親近感が増して、『しろばんば』の世界をもっと知りたくなって手に取った。
湯ヶ島での、おかのお婆さんとの暮らしについて書いているところが、やはり一番面白かった。エッセイなので、『しろばんば』のようにその世界に引き込まれることはなく、お婆さんの語り口も現代風で情感はないけれど、『しろばんば』の背景を色々と知ることができた。
「…わが儘いっぱいに振舞ってはいたが、家庭で育つのと異って、甘えというものはなかったと思う。おかのお婆さんの方も、盲愛と言っていい愛情を注いではいたが、血の繋がりから来るどろどろしたものはなかった筈である。祖母と孫の関係ではなく、世の男女の愛の形のようなものが、私とおかのお婆さんの間には置かれていたのではないかと思う。」
「私は今でも、おかのお婆さんの墓石の前に立つと、祖母の墓に詣でている気持ではなく、遠い昔の愛人の墓の前に立っている気持である。ずいぶん愛されたが、幾らかはこちらも苦労した、そんな感慨である。」(233頁)
青年期以降は、随分と、のりしろの多い生活を送っていたようだ。こののりしろこそ、後に数々の優れた作品を生み出した作家の源泉となったのだろう。 -
随筆調の自伝
まったくの私的な見解だが
伊豆地方民は地元愛がすこぶるうすい気がする
井上靖ほどの作家はもちろん
修善寺も韮山も先も後も北条氏に対するおらが感がまったくない
といって江川家をみるに江戸時代の人心統治が優れていたとも思えない
というふうに風土をこじつけるような話が随所にみられるが
昭和も遠くになりけるかな -
2017.06 再読。評価変更☆4→☆3
洪作3部作のあとにあとがき的位置付けで読むのがいい感じ -
著者が生涯に大きく影響を与えたとする幼年、青年時代の随筆。特に曽祖父の妾であるおかのお婆さんに愛されたことへの思いは子どもであるが故の純粋さのみならず美しさを感じる。14.1.25
-
「しろばんば」も読まねば!
「あすなろ物語」も! -
初めて文章の美しさに泣いたのはこの本に線を引きながら
-
井上靖が幼少時代を振り返ったエッセイ。
小説「しろばんば」「あすなろ物語」の登場人物たちが実際に数多く登場してきて、なんだか舞台裏を覗いたようで新鮮です。そしてエッセイといえども世界観は「しろばんば」のそれで、久しぶりに伊豆の田舎町の夕暮れと“おぬい婆さん”が思い出されました。