孔子 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101063362

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  • 「孔子」井上靖著、新潮文庫、1995.12.01
    429p ¥560 C0193 (2019.05.11読了)(2000.07.12購入)(1996.11.15/7刷)
    「100分で名著」で『論語』が採り上げられたころから読んでしまおうと思いつつだいぶ経ってしまいました。やっと読み終わりました。
    読みにくいわけではないけど、読書に集中できず、読み終わるのに大分苦戦しました。
    孔子の架空の弟子蔫薑(えんきょう)が語り手です。
    蔫薑さんは、蔡の国に生まれ孔子と弟子の一行が蔡の国を通ったときに臨時雇いで雇われ、それ以後孔子が亡くなるまでずっと孔子の側で過ごした。
    孔子が亡くなり高弟たちも亡くなったあと、孔子を研究する人たちに呼ばれて孔子のことを語るという形の話です。
    蔡の国は、呉と楚に挟まれた国だったけど、呉と楚の争いの末に滅んでしまった。
    孔子の教えで重要なのは、天、天命、仁、信、といったところでしょうか? 繰り返し述べられています。第一章では、どのような場面でどのような詞が語られたのかという感じの進め方だったのですが、第二章から第四章までは、蔫薑さんと孔子研究会の皆さんとの質疑応答という形で孔子の教えや高弟たちの話が述べられています。孔子が亡くなってから各地に孔子の詞や逸話を収集して、後世に残そうという人たちがいたんですね。
    第五章は、蔫薑さんが、かつての蔡の国を訪ね歩いて、自分が暮らしていた頃との変貌ぶりに驚いたり、当時のことを懐かしんだりして、終わります。
    作家の想像力は、すごいですね。

    【目次】(なし)
    第一章    5頁
    一~五
    第二章    121頁
    一~四
    第三章    198頁
    一~三
    第四章    259頁
    一~四
    第五章    327頁
    一~五
    解説  曾根博義(1995年10月)  422頁

    子貢
    子路 63歳で死去
    顔回 41歳で死去
    孔子 73歳で死去
    子夏 衛
    子張 陳
    子游 呉

    ●天(8頁)
    天、何をか言うや。四時行われ、百物生ず。
    天は何も申しません。四季の運行は滞りなく行われ、万物は成長する。
    ●信(59頁)
    人が口から出す言葉というものは、〝信ずるもの〟、〝信じられるもの〟でなければならない。それ故に〝人〟という字と、〝言〟という字が組み合わせられて、〝信〟という字はできている。
    ●仁(59頁)
    〝仁〟という字は、人偏に〝二〟を配している。親子であれ、主従であれ、旅で出会った未知の間柄であれ、兎に角、人間が二人、顔を合わせれば、その二人の間には、二人がお互いに守らなければならぬ規約とでもいったものが生まれる。それが〝仁〟というものである。他の言葉で言うと〝思いやり〟、相手の立場に立って、ものを考えてやるということである。
    ●君子も窮する(72頁)
    ―君子も窮することがありますか。
    ―君子、固より窮す。
    ―小人、窮すれば、斯に濫る!
    (小人が窮すると、自分を取り締まることができなくなる。)
    ●蔫薑・えんきょう(127頁)
    〝ひね生薑〟(しょうが)とか、〝萎れ生薑〟とかいった意味
    ●道(157頁)
    道の将に行われんとするや、命なり。道の将に廃れんとするや、命なり。
    ●天の摂理(159頁)
    いかに正しい立派なことをしておりましても、明日の生命の保障すらありません。いかなる思いがけない苦難が立ち塞がって来るかも知れません。吉凶禍福の到来は、正しいことをしようとしまいと、そうしたこととは無関係のようでございます。大きい天の摂理の中に自分を投げ込み、成敗は天に任せ、その中で己が信じた道を歩く!
    ●天命を知る(169頁)
    人間として、自分がやるべきこと、それを知るということである。

    ☆関連図書(既読)
    「孔子『論語』」佐久協著、NHK出版、2011.05.01
    「論語」貝塚茂樹著、講談社現代新書、1964.08.16
    「論語の読み方」山本七平著、祥伝社、1981.11.30
    「蒼き狼」井上靖著、新潮文庫、1954.06.
    「あすなろ物語」井上靖著、新潮文庫、1958.11.30
    「風林火山」井上靖著、新潮文庫、1958.12.05
    「天平の甍」井上靖著、新潮文庫、1964.03.20
    「淀どの日記」井上靖著、角川文庫、1964.05.30
    「敦煌」井上靖著、新潮文庫、1965.06.30
    「おろしや国酔夢譚」井上靖著、文春文庫、1974.06.25
    「後白河院」井上靖著、新潮文庫、1975.09.30
    「西域物語」井上靖著、新潮文庫、1977.03.30
    「遺跡の旅・シルクロード」井上靖著、新潮文庫、1982.12.25
    「シリア沙漠の少年」井上靖著、教育出版センター、1985.08.25
    「アレキサンダーの道」井上靖・平山郁夫著、文春文庫、1986.12.10
    「西行 さすらいの歌人」井上靖著、学習研究社、1991.06.20
    (2019年5月16日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    二千五百年前、春秋末期の乱世に生きた孔子の人間像を描く歴史小説。『論語』に収められた孔子の詞はどのような背景を持って生れてきたのか。十四年にも亘る亡命・遊説の旅は、何を目的としていたのか。孔子と弟子たちが戦乱の中原を放浪する姿を、架空の弟子が語る形で、独自の解釈を与えてゆく。現代にも通ずる「乱世を生きる知恵」を提示した最後の長編。野間文芸賞受賞作。

  • 久しぶりの井上靖。もう一度、色々読みたい。

  • 孔子の伝記ではなく、架空の人物が孔子との生活を振り返りながら、天命とか仁とかのテーマに対して考察をしていくという内容。
    私は、儒教というのは徳だとか天命だとかによって、規則なり秩序なりがガチガチに決められているような印象を持っている。しかしこの本では、天はどう決めるか分からないが自分たちは一生懸命がんばる、仁は死んでも通す信念という意味もあるが相手を思うことというのもある、など実生活のシンプルな考え方を提示していた。これは老荘にも連なるのかな。

  • 論語は読みきれなかったが、これは孔子や弟子たちの人間的な面とあわせ書かれているので、孔子の言葉の解釈の役に立った。「"五十にして天命を知る"というお詞の意味は、御自分が為そうとしていることに、天の使命感をお感じになったということが一つ。それから使命感を感じた以上、当然なこととして、大いに努力はするが、いくら使命感を感じようと、いかにそのために努力しようと、そのことの成否となると、それは、また、別問題である。…すべては天の裁きに任せる他はない」「子の最も大きいところは、人間の小さい努力を決して軽く見ないで、そうした人間の努力が招き寄せるであろう人類の明日というものを、明るく見ていらっしゃる点であろうかと思います」

  • 今、乱世であると思う…いや乱世でない世があったろうか?
    …と思いを馳せたとき、古典・経典の読み継がれる意味が、
    ことさら感じられ手にした一冊だった。
    まさに「論語」成立の過程を臨場感あふれる筆致で描くような小説。

    いつの世も、人は悩み、惑い、糧となる指針を欲するものだろう。
    終盤、本書では、こう語る…
    ー人が自分の力で、世の中を動かしたとか、動かそうなどと考えるのは、とんでもないことで、大きい天命の動きの下で、それを応援させて貰ったり、それに逆らって、闘わせて貰ったりする。ただ、それだけの話であります。

    それは、諦念だろうか? 違うと思う。
    どんな世にあろうと、人は、希望を持つものと思う。
    終盤…こんな言葉が置かれていた…
    ー子は人間というものの将来を、いつも明るく、ごらんになっておられました。人間というものは、自分たちの種族を絶滅させるほど、それほど愚かではない。

  • 10代の頃大好きだった作家だが、この作品は未読だった。晩年に書かれた最後の長編だそうだ。とにかく紡ぎ出される言葉の美しさ。そこに書かれる孔子への限りない憧憬。儒教に対して断片的な知識しかない私にとっては、堅苦しく、封建社会の人々を縛る規範となった哲学、という印象が強かった。孔子の言葉の数々をこれほどあたたかく人間的に解釈し、美しい理想を求める真摯な人間として描いたこの小説を読んで、もうちょっと儒教のことをよく知ってみたい、という気持ちがある。

    考えて見ると、イエス・キリストとキリスト教の関係と似たようなもので、本人はもっと柔軟に、しなやかな教えを説いていたのに、後々の人々によってその教えは変わっていったのかもしれない、などと思ったりもしたのだった。

    何度か読み返したい美しい作品。その文体だけでも陶然となる美しさだ。

  • 請求記号 913.6-INO(上野文庫)
    https://opac.iuhw.ac.jp/Otawara/opac/Holding_list?rgtn=1M024754
    人生指南を孔子に求めようとする時、その言葉を切り取って解説したものを知識として学んでも、感情的に認識できない。井上靖によるこの歴史小説は、孔子の生き様そのものを追っており、そこから生まれた名言は心に響く。

  • 孔子と末弟子が、研究会の人たちと語る、孔子の名言集。
    「仁」「天命」など、孔子がどのように考えていたのかを皆で推測している。現代でも変わることのないテーマ。人の生き様の根底、つまりはポリシーとしてそれぞれの心に刻んでおきたい

  • 二千五百年前、春秋末期の乱世に生きた孔子の人間像を描く歴史小説。
    『論語』に収められた孔子の詞はどのような背景を持って生まれてきたのか。十四年にも亘る亡命・遊説の旅は、何を目的にしていたのか。
    孔子と弟子たちが戦乱の中原を放浪する姿を、架空の弟子・蔫薑が語る形で、独自の解釈を与えてゆく。

    孔子サマといえば論語、春秋時代の代表的な思想家ですが、実はあまり好きでなないのです。
    たしかに理想は大事だけど、理想だけをふりかざしていては、戦乱の世の中を渡っていけないという思いが強くあり、その理想を他の人に押し付けるかのように思ってしまう・・・・・
    「晏子」の晏嬰が斉君を補佐していたころ、孔子が訪れたとのことですが、晏嬰は孔子が説く理想を君主が実践できないことを理解していたので、孔子は斉での仕官をあきらめました。
    本書は孔子の架空の弟子である・蔫薑が語る形で物語が進められており、孔子サマの生々しい部分は避けて通れますが、それだけにあっさりとしすぎているというか。

    孔子サマについて本格的に知りたくなったら「論語」でも読みます。

  •  井上靖の最晩年の長編小説である。この名作には既に多くの評価がなされているから私の愚考を重ねても無意味である。
     架空の孔子の弟子の語りが中心となるこの作品は紛れもなく作者自身の孔子に対する思いを述べたものである。孔子という人物の事績が弟子の記録によって言語化されていることを考えるならば、この作品は紛れもなく昭和の論語といえるだろう。
     一人の作家がたどりついた一つの境地を窺い知るためにもこの作品の価値はある。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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