廻廊にて (新潮文庫 つ 3-2)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101068022

感想・レビュー・書評

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  • ロシア人の母をもつ女性画家マーシャの日記などをもとに、彼女の生涯と芸術を明らかにするという形式で書かれた作品です。

    寄宿学校時代のマーシャは、アンドレという魅力的な少女に出会います。彼女の暮らすドーヴェルニュのタピスリによって芸術へのあこがれを呼び覚まされたマーシャでしたが、その後アンドレは発作のために飛行機事故を起こします。マーシャの心は芸術から離れ、田舎で自己と世界の和解を果たしたように感じますが、やがてそれも錯覚であることに気づきます。

    本作のマーシャは、亡命ロシア人の母をもち、パリというヨーロッパの中心的な都市で芸術を学ぶという設定になっています。これは、西洋近代の境界に立つ女性画家である彼女が、近代的な芸術観を体現する存在であるとともに、そこに安住することも許されず、悲劇的な生涯をたどることになった理由でもあるように感じられます。

    カタカナ書きの文章が読みにくく、また本作と同様のモティーフをあつかった『夏の砦』にくらべるとややもの足りなさを感じるものの、ヨーロッパ精神史について深い理解をもつ著者ならではの作品といえるように思います。

  • カテゴリ:図書館企画展示
    2015年度第2回図書館企画展示
    「大学生に読んでほしい本」 第2弾!

    本学教員から本学学生の皆さんに「ぜひ学生時代に読んでほしい!」という図書の推薦に係る展示です。

    向井隆代教授(心理学科)からのおすすめ図書を展示しています。
        
    展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。
        
    開催期間:2015年6月15日(月) ~ 2015年9月30日(水)
    開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース

    辻邦生のデビュー作として知られています。「私」という語り手を通して主人公の女性の人生が描かれています。高校生の頃に読み、人の生について考えさせられた作品でした。何度も読み返した文庫本は今実家にあり手元にはありませんが、少女時代の主人公が寄宿生活の中で成長していくエピソードが特に印象に残っています。

  • 初の辻邦生はこの処女長編作に。端正さに惹き込まれた。小説を書き始めて間もない頃の理念めいた青々しさが瑞々しく、かたばる気概すら美しく感じた。既に確固たる美学が存在している。日本人画学生がフランス留学時に知り合ったロシア亡命画家マーシャの生涯を探るという設定。語り手の存在は弱いが、反してマーシャを初めアンドレ、ローザという女性たちの強さを引き出す。彼女らの生き様に「生」と「死」と「美」の体現をみる。特にアンドレの刹那的な思考に魅力を感じた。短い人生の中に彼女の魂をぎゅっと詰め込んで最後の瞬間まで美しかった。

  • 2冊あり

  • (2004.01.06読了)(1999.08.15購入)
    日本経済新聞に連載された「のちの思いに」を拾い読みしてその文章に惹かれて辻邦生を読もうと決めたのですが、いっぱい集めて(40冊ぐらい)どこから手をつけていいやら呆然としているうちに早くも5年ぐらい経ってしまいました。その間「花のレクイエム」「風の琴」といったとっつきやすいものを4冊ほど読んだのですが焼け石に水状態です。
    「廻廊にて」は、辻邦生のデビュー作ですが、いきなりカタカナ主体の文章で始まるので読みにくいことおびただしい。亡命ロシア人マーシャ(マリア・ワシレウスカヤ)の物語です。物語は、マリアの日記、画家の仲間パパクリサントスというギリシア人の話、語り手の日本人もパリの画塾でマリアにあっているのでその話、という形で進められる。
    晩年のマーシャとパパクリサントスの間で交わされる会話の中で「今、ちょうど薔薇が咲いているわね。毎朝、ここにくると驚くのだけれど、それは大変な生命力なのね。わずか何日もない生命なのに、いかにも精いっぱい咲いてるって感じだわ。ながい季節のあいだいく日もいく日も、同じ花が咲き、同じ花に取り巻かれているような気持ちで、その美しさを味わうのね。でも薔薇の一輪一輪は短い何日かの生命を終わって、散り、新しいのが絶えず香りを放ちだすのが本当なのね。花は内側からの純粋の欲望によっていつも咲いている。人間だって、どうして花のように、内からの純粋な欲望で咲くことができないだろうか、花々がその美しさを誰に捧げるわけでもないのに、完全な形で開くように、人間だって、虚無の中に、内からの純粋な欲望によって、咲き続けるべきじゃないかって、考えられはしないかしら。」というのがある。これは、先日紹介した「これがニーチェだ」の「人生の無意味さは、耐えるべきものではなく、愛すべきものであり、喜ぶべきものであり、楽しむべきものである。」に通じる考え方ではないだろうか?
    マーシャが修道院の寄宿舎に住んでいたころの友達?にアンドレという名家出身の少女がいる。禁書を公然と読むばかりでなく、夜にマーシャの部屋に窓伝いにやってくるという離れ業までやってしまう。何度もやっているうちに窓の外の黒い影に気付くものがいて悪霊騒ぎになったりする。アンドレは、そのうち告白し、修道院から去ってしまう。
    アンドレの退学後、マーシャは、夏休みを利用してアンドレの館へ遊びに行く。ここで1週間過ごす。アンドレは、マーシャのところに屋根伝いにやってきたりして驚かす。
    驚くマーシャにアンドレは、何故そのようなことをできるようになったかを説明する。アンドレは、子供のころから病気で、ベッドの上だけで暮らさなければならず12歳ときに動いてもいいことになったけど体が固くなっていて歩くこともできなかった。歩くことができるのに一年かかり、平衡感覚の訓練のために平衡台を使用したらそれが面白くて、それが嵩じて高い狭いところも平気になったという。
    アンドレはのちに、飛行機の操縦をしているときに発作を起こし死んでしまう。
    物語の半分は、アンドレとの話がつづられているので、アンドレが主人公かと思ってしまう。マーシャの結婚生活もつづられているのだが幸福とは言えなかった。これが晩年のバラの話に繋がってゆく。「無心に生きよう!」

    ☆辻邦生さんの本(既読)
    「風の琴」辻邦生著、文春文庫、1992.05.10
    「花のレクイエム」辻邦生著・山本容子絵、新潮社、1996.11.15
    「美しい夏の行方」辻邦生著・堀本洋一写真、中公文庫、1999.07.18
    「生きて愛するために」辻邦生著、中公文庫、1999.10.18
    著者 辻 邦生
    1925年 東京生まれ
    1957年から1961年まで フランス留学
    1963年 「廻廊にて」近代文学賞受賞
    1968年 「安土往還記」芸術選奨新人賞受賞
    1972年 「背教者ユリアヌス」毎日芸術賞受賞
    1995年 「西行花伝」谷崎潤一郎賞受賞
    1999年 死去

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著者プロフィール

作家。1925年、東京生まれ。57年から61年までフランスに留学。63年、『廻廊にて』で近代文学賞を受賞。こののち、『安土往還記』『天草の雅歌』『背教者ユリアヌス』など、歴史小説をつぎつぎと発表。95年には『西行花伝』により谷崎潤一郎賞を受賞。人物の心情を清明な文体で描く長編を数多く著す一方で、『ある生涯の七つの場所』『楽興の時十二章』『十二の肖像画による十二の物語』など連作短編も得意とした。1999年没。

「2014年 『DVD&BOOK 愛蔵版 花のレクイエム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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