麦ふみクーツェ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101069227

感想・レビュー・書評

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  • 完璧やられました。
    またいしいさんの本で泣いちゃいました。
    この本ステキすぎて言葉にならないので読んでもらいたいです。


    読んでる間ずっと小学校のとき2年間やってた器楽クラブのこと思い出してました。大体はアコーディオンをやってたんだけど、1回だけシンバルをやったことがあって、間違えて鳴らしちゃったときの申し訳なさとか、先生に叩き方を教えてもらったこととか、なんかいっぱい思い出した!この本に出てくるおじいちゃんが先生だったら間違いなくティンパニーをぽいーんと鳴らされて怒鳴られるんだろうな(笑)
    合奏の楽しさとか味わったすごく幸せな思い出です。
    「音楽のよろこびの大きな部分を合奏のたのしみが占めている。なにかにつながっていること、それをたしかめたい、信じたいがために、音楽家はこれまで、そしてこれからも、楽器を鳴らしつづけるのかもしれない。」
    また合奏したいなー。


    今回わかったこと。
    私にとってウソとかホントとかは別に大して問題ではなくて、語られるお話が好きだということ。
    まぁ、何でも信じ込みやすい私だからその話がほんとなのか気になって仕方ないんだけどね(笑)
    この本に出てくるんだけど楽譜にほんとに「ねこの声」とか「犬の声」ってあるんですかね?もしあるのなら、そんな音楽が聴いてみたい!
    2008年12月18日

  • このひとの文章は、景色も音も匂いも温度も伝わってくる気がする。

    突き放すでもなくくっつくでもない温かさ。

    絵も描きたくなるし、音楽も聴きたくなるし、演奏したくなるし、お菓子もつくりたくなるし、散歩を楽しみたくなる。
    生きたくなる。

    それぞれの人生ににっこり笑ってしみじみ乾杯したくなるおはなし。

  • 普段、目をふさぎ、耳をふさいでしまうような悲しい現実の中から、きらきら光るものを取り出して大きくひびかせてくれる、いしいさんの小説こそ、「一流の音楽家」の音楽ようだな、と思いました。
    いしいさんの小説では、胸がしめつけられるような現実を見せられるので、途中、読んでいてつらくなるのですが、でも、最後には、必ずあたたかい気持ちで本を閉じているのです。
    「ぶらんこ乗り」も「トリツカレ男」もそうでした。
    この感情は、胸がしめつけられるような現実を見せてもらったからこそ、得られたものなのだと思います。

  • 一気に読み切ってしまいました。同じリズムで流れていても、音楽は先へ先へと進んでゆきます。変わらないことを抱えながら(あるいは信じながら)、自分に出来ることを黙々と続けることが大切なんだなぁ、と改めて気づきました。
    僕たちはみんな「クーツェ」なんですね。

  • 次々と降りかかる、不思議で、時に不気味だったりするできごと。
    そうしたものごとに巻き込まれてゆくのは「へんてこ」な個性豊かな人々。

    ストーリー全体に物悲しさややさしさが感じられて、ぎゅっと引きつけられる。
    切なさを漂わせながらも、終盤のくすぶっていたものが大きく開くような展開に、読み終わったあとはとってもあたたかい気持ちに。

    理屈より感覚にうったえられているように感じた作品。
    おとなのための童話という表現、うなずけました。

  • なんでもないところで泣きたくなる。
    永遠に愛しい話。

  • 音楽のことになると人が変わるティンパニ奏者のおじいちゃん、素数にとりつかれた「ねずみ男」と呼ばれる数学者の父さん、そしてあまりにも背が高い「ねこ」と呼ばれる少年の物語。ある夜、「ねこ」は不思議な音で目を覚ます。とん、たたん、とん。窓の外に見たものは、金色に輝く一面の麦の波。そして、麦ふみをするクーツェの姿だった。
    小さな港町で育った「ねこ」は音楽家を目指す。「ねこ」は様々な「へんてこ」な人に出会い、成長していく。

    大好きでした。今まで読んだいしいさんの本の中でも一番好き。優しくて、まっすぐで、あたたかで、悲しくて・・・しっかりと感動させていただきました。

    誰もが持つであろう何らかの「へんてこさ」。それに悩み、どうしようもなく孤独を感じた時、この本が救ってくれることでしょう。
    「へんてこさ」に誇りを持つ為に努力すること。「何十万人にひとりの確率」ではなく、「この世にたったひとり」であること。私も背中を押してもらいました。

  • 読むのに時間がかかりましたが、読み終わってしまうのが惜しいような、長編大作でした。
    ファンタジーが好きなので私にはとても面白かったです。どんな本とも似ていなくて、独特でしたし、登場人物が、際立っていました。

  • いしいしんじさん読むの4つ目。「トリツカレ男」「プラネタリウムのふたご」「ぶらんこ乗り」。
    どれも世界観と文章がとても好きなんだけど、これ読んで確信した。ストーリーが自由に進んでいくようで、実はものすごーーーく緻密に構成されてるんだよ。印象的な途中のエピソードや何気ない小道具が後からバチバチバチって嵌っていって物語の中で意味を持ってくる。それが凄いの。鳥肌。
    いやオムレツのエピソードに不意打ちされて涙がぶわってなりましたよ…あんなのむりだろ…うう…

    クライマックスで、すべてがつながってひとつの音楽を奏でる、暗闇の中での観客たちがそれぞれの音を鳴らす、ホッチキスやはさみやおもちゃの合奏。生きている人たちのたてる雑多な音が音楽になる。
    このシーンを読んだ後ふと本から顔あげると、窓の外から聞こえてくる電車の音とか、家族の足音とか、空を行くヘリコプターの音とか、そういう世界の音がなにもかも愛おしくなるような気がした。

    そしてねこのおかあさんの話のあとの一文。これがこのどこまでもやさしい物語におけるもうひとつの核心でもある気がする。
    「たったひとつの『ひどい音』、一瞬の音とそのこだまが、あらゆる吹奏楽の音色、それまで過ごした生活すべての彩りを、真っ暗に塗り替えてしまうってことが、この世ではまちがいなく起こり得るのだ」

    そうなんだよな、残酷な悲しい出来事は起こり得る。どこにでもやみねずみは潜んでいる。
    だけどそれに飲み込まれないために音楽を奏でる。合奏をする。シャドウボクシングをする。

    いしいしんじさん、いままで読んだのも全部好きだったんだけどこれはホントとくに衝撃というかもう…やられた…ってひっくり返りました。ため息。

  • この著者の童話の世界観と言葉のリズムが好きである。

    いいこと?わるいこと?
    とクーツェはうたった
    みんなおなじさ、麦ふみだもの。

    録音された音楽も、ごくたまに生演奏をうわまわる。ただし音楽家であるためには耳なりがするほど生演奏にふれること。どんなひどい演奏であっても、生の楽器演奏には、音楽家のための栄養がわずかながらそなわっているからだ。

    独立した特殊な事件など、この世には何も起きていないような気がしてくる。クーツェの言ったように、大きい小さいは距離の問題。

    それらの嘘によって、街のみんなには楽園の風景が見えた。おおきな代償を支払いはしたけれど、みんなの手に、なにひとつ残らなかったわけでもない。ぼくはやっぱり、今もそうおもいたい。

    へんてこはあつまらなくっちゃ生きていけないってそう思ってな。へんてこはひとりじゃめだつ。めだつから、ぼんやりふつうにいると、ひとよりひどいめにあう。

    この世のところどころにしがみつくへんてこなひとたち。彼らはそれぞれの技をみがく。自分のへんてこさに誇りをもとうと。まじめに、まるでばかにみえても。

    熟練のティンパニ奏者のように、ぼくは待つことを学ばなけりゃならない。それはなかなかに難しい。ばかといわれてもへんてこ呼ばわりされてもけっしてばちを捨てず、ステージのいちばんうしろでじっと立っていること。そのときをききのがさぬよう、ちゃんと耳をかたむけて。

    音楽のよろこびの大きな部分を合奏のたのしみが占めている。

著者プロフィール

いしい しんじ:作家。1966年、大阪生まれ。京都大学文学部卒業。94年『アムステルダムの犬』でデビュー。2003年『麦ふみクーツェ』で坪田譲二文学賞、12年『ある一日』で織田作之助賞、16年『悪声』で河合隼雄物語賞を受賞。そのほか『トリツカレ男』『ぶらんこ乗り』『ポーの話』『海と山のピアノ』『げんじものがたり』など著書多数。趣味はレコード、蓄音機、歌舞伎、茶道、落語。

「2024年 『マリアさま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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