東京夜話 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101069258

作品紹介・あらすじ

田町のアパートの一室にひっそりとあった闇のバー。酒と詩情溢れる「うつぼかずらの夜」。新宿で世にも可憐なダッチワイフを助ける「天使はジェット気流に乗って」。大海で出会った二匹が築地で思いを遂げる純愛物語「クロマグロとシロザケ」など、東京の街を舞台とする全18篇。『ぶらんこ乗り』の前史時代、原石の魅力が煌く幻のデビュー短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 今は中途半端な町に住んでいるのだけど、前に東京に住んでいたことがあって、こういうタイトル見るとつい読んでみたくなるのですよね。
    いしいしんじって何者かも知らず、読み始めて、タイトルからこちらが勝手に持っていたイメージと違ったので、ちょっと戸惑いました。
    シュールな感じにちょっとついて行けないところもあったりして。
    それでも読み進めていくと、じんわりと沁みるところが結構あって、悪くなかったです。
    私のお奨めの一番は「築地」かな。あとは「浅草」「新宿ゴールデン街」「田町」ってとこでしょうか。
    おしなべて後半戦が楽しめましたが、これはこの本の感覚に慣れてきたせいかも。

  • 巻末の解説にあった、境界を消しにいく人、という話。

    すごくしっくりきた。

    世の中にあるあらゆるものを、自分のもってる目で等価に眺めることができるひと。周囲が作り上げた括りに囚われるのではなく、自分が感じたまま、思ったままに向き合いそれを表すことができるひと。

    自分の中に入ってくるあらゆるもの。あるがままでいようとして、ヘンテコでこっけいなもの。そんな存在に素直に寄り添い、紡がれる言葉という表現。

    不器用なものたちにそそがれるやさしさに惹かれて、ぼくもこのひとの物語を読んでるんだと思った。



    吾妻橋の下、イヌは流れる。

    川は、人に似ている、と。
    隅田川という川はそこにあっても、水はいつだって絶え間なく、ずっと流れていく。
    私という人がここにいても、こころ、というか、いのちというか、そういうものはずっと流れていくんだなあ。

    川はそこにある。水は流れていく。そして、すべての水は、合流する。いや、合流する以前から、ひとつの流れとして、すべての流れがある。


  • 真夜中の生ゴミ
    なんの話かわからないうちにどんどん進んでいき、生ゴミやその回収の実態がわかっていく。シュールな現代版SFショートショート。ブラックジョークとなぜかほっこりする感じが奇妙。

    ベガ星人はアップルパイが得意なの
    その後何が起こるか気になりつつ、いつのまにか終わる。原宿という街を上手く表現できている。クスッと笑えるところがあってポップでオシャレなかんじ。バシャールの宇宙人会議(?)が本当なら、これがSFファンタジーではなく、本当に現実世界である可能性があるのだが。。

    お墓アンダーグラウンド
    奇妙なアンダーグラウンドを見たのは、墓地という特殊な環境のせいか酔いのせいか。常識を覆す面白い発想。暑さと冷たいビールの爽快感、夏の暑い日にぞくっとするかんじが良い。

    魚のおろし方を学ぶ速度で
    ここで普通の短編。いしいしんじ氏の過去の思い出の一片のようだが。

    老将軍のオセロゲーム
    決定的に不思議な事が起こるわけではないが、とても不思議な気分にさせる。深く考えるうちに余計に意味が分からなくなる。まず、老人は「ぼく」が出まかせで言った古書が予め分かっていたのか。その値段を変えた理由はなんだったのだろうか。老人の意味不明な言動に微妙な違和感を感じる。

    クロマグロとシロザケ
    出だしはクロマグロとシロザケの行動範囲と生息地の説明で、また変な物語が始まるのかと覚悟をする。次のページから少しずつ主人公はマグロであることが分かり、その独特な世界観に引き込まれて行く。自分が人(他マグロ)よりでかいのは、親マグロの死体の塊を多く食べていたからだ、ということが分かると彼はショックを受け自己嫌悪に悩む。そんな彼がある時出会った異種のサケと恋に落ち、異種間のそれがとても自然で切なく、ラストで不意を突かれることになる。
    愛するモノ同士その行為を成し遂げようとした純粋さに、心を強く打たれた。最後は悲しいや可哀想ではなくて、子供を作るという行為がこんなにも無垢な愛の形であるかということに、ただただ感動した。うかつにも、涙腺が崩壊した。

    estas ahí? そこにいるの?
    短いが未来とか希望とか笑いとか、なにかちょっと気持ちが良い。少しだけ感傷的になっても明日を思うと悲しくは無い。日常に潜むメランコリー。

    クリスマス追跡
    クリスマスのエッセイ。
    特に書き留めたいこと無し。

    クラブ化する日本
    うーん、途中まで信じてしまった。それから飛ばし読み。昔に実際にあったような外人の可笑しい勘違いエッセイ。

    うつぼかずらの夜
    いしい氏の実際の体験記だと思うけど、青春時代の一幕のような物語。本当に飲むことが好きなんだな。

    すごい虎
    犬の主人公を中心に下町らしさを感じる。
    その虎って、、

    正直袋の神経衰弱
    池袋の西口公園って一世風靡?した小説(ドラマ)のあそこじゃん、そう思いながら読んだ。池袋に田舎があったり妙な話だけど、そこには池袋に対する筆者の情が垣間見れる。

    アメーバ横丁の女
    不思議な街上野のアメ横だからこそのゾクゾクするような奇妙な物語。古典的な展開で現代の現実から昔の異次元に引き込まれるかんじ。その甘く無い不思議なアメがどんな味がするか食べてみたい。

    もんすら様
    おばあちゃんの描写が面白おかしい。巣鴨の街ショートエッセイ。

    お面法廷
    何がなんだか分からないかんじがどんどん大きくなり終わっていく。

    天使はジェット気流に乗って
    ビニールのダッチワイフに、ここまで優しく感情を抱いたり色々想像できるのがすごい。新宿で終電を逃したのは、あの女学生さんと飲んだ日かな?

    吾橋の下、イヌは流れる
    大便をするときは涙を流す、、柴又の犬だ。
    浅草はわたしの好きな場所。夜の店が閉店した中での散歩に惹かれる。飯の配給で変わったヤジが飛ばされるのが面白かった。
    ところでこれは実際の体験記だったのか。先生のエピソードに溢れていて、最後もなにかあったかくなるお話だった。川のエピソードがとても深い。二番目に好きな作品。

    二月二十日 産卵
    東京を鳥(カラス?)の目線で俯瞰して見る、ラストにふさわしいエピソードだ。話題はほとんど(生)ゴミなのに汚いと思わない。むしろ美しいと思えるのはなぜだろう。

  • いしいしんじが詰まった作品。
    いしいしんじが上手につく嘘と本当を、たっぷり堪能できた。
    さっきまで日常にいたのに、気がついたらフィクションの中にいる、みたいな不思議な感覚が味わえる一冊。
    なんていうか、境目が滑らか。

    個人的には巣鴨のおばあちゃんの話と先生の話がよかった。
    おばあさんの群れを「濃密なブラウン運動」と表現したのが笑った。
    「人生の入り口と出口において、人間の風貌はユニセックス化するのだ。」も、なるほど。


    先生のおでんの話や、「川はそこにある。水は流れていく。そして、すべての水は、合流する。いや、合流する以前から、ひとつの流れとして、すべての流れがある。」
    なんだか錬金術みたいだなーと思った。

    ぶらんこのりの、指の音もでてきて嬉しい。

    でも正直、読むのに時間がかかった。笑


  • いしいしんじさんの小説を読んでいると、いしいさんって普段はどんな人なんだろう?といつも気になる。普通の人は気にしないようなことを面白おかしく書かれていて普段も楽しい人なんだろうなと思う。

  • 村上春樹の『東京奇譚』とセットで読みたい「東京小説」集。
    ちょっと怖い話もあり、不思議な話もあり。
    クロマグロの一人称視点で、シラサケとの種を越えた恋が語られたかと思えば、「池袋」の町が擬人化された池袋くんが、池袋の町で酔いつぶれるとか、なにか頭の中が捩じれていくような不思議な感覚。

    毛皮に落書きをされた、情けない老犬が、柴又の章にもほかの章にも出ていた。
    「ぶらんこ乗り」でもそういう話が出ていたっけ。
    野良犬やホームレスの人々など、町と一体化して生きる存在が登場する。捨てられたダッチワイフも。
    恥ずかしながら、私は実生活でそういう存在に対し、見て見ないふりをしてしまう。
    彼ら、彼女らは間違いなく町の一部。
    実にいろいろな関係の取り方があるんだなあ、と思う。
    どれだけ懐の広い人なんだろう。

  • 1話目のシュールさに若干引いて、読むの止めようかと思ったのですが、読み切りました。
    中には心地よい感動をくれる話もあったけど、気持ち悪いという印象の方が強く残ったかな・・・

  • 凄い。
    現実から非現実へとひょいと飛び越えていく物語が沢山ある短編集です。
    あまりに自然に、唐突に非現実的な世界観が始まるので、逆に自然にすっと頭に入ってきます。

    きっと、作者は現実のちょっとした風景から、
    一気に想像力を膨らませるのだろうなぁ。

    とても、面白い小説でした。

  • 「ぶらんこ乗り」が面白かった印象があったし
     (内容は覚えてない。。。こんど読みなおします)
    原田郁子のアルバムで歌詞も書いてて印象が良かったので買ってみた。
    すなも(南砂町)に入ってる古本屋が、品ぞろえ・価格ともに良かったのでびっくり。


    短編集で、それぞれの話がほんの少しだけリンクしてるけど、そのリンクにほぼ意味はないみたい。

    順番に読んでいって、4話目までは「つまらん。外したなあ」と思ってたけど、神保町の話でちょっといいなと思って、築地マグロの話はかなり良かった。

    仲間たちより体が大きいクロマグロが主人公。
    誰よりも速く長く泳ぎ続けるんだけど、
    群れの中でもなんだか孤独で、ついには一人になっちゃう。
    「お前は、変だよ。お前を見てると、なにか、悲しいんだ」
    冒頭のシーンですでに漁港に引揚げられてて、
    時々漁港のシーンが間に挟まれる形で話が進んでいくんだけど、
    この進め方も、主人公マグロの悲しい強さを引き立たせてて、よくできてると思った。

    そんなクロマグロがある日、メスのシロザケと出会って、恋をする。だけど
    「うちらには実感ないけどな、このあたりの水温は、もうシャケには無理や。…あの子はシャケなんやで。マグロやないんやで。寒い、寒い、川の生まれなんやで」
    関西弁のおばちゃんがいい味出してるよね!さすが。

    ということでまあ、別れが来て最後に人間につかまっちゃうんだけど、築地で再会(?)することになって、ラスト。なんだけど!!!
    このラストはなんなんだ。。。マグロの悲しい強さも、シロザケの一途な美しさも、すべてが台無しのラスト。これって最後のページだけ他の人が書いたんじゃないのかと思わせるほど、最悪の終わり方。
    みんなこんなグロテスクなラストに感動するわけ!?安っぽいし、俗っぽくて、とってつけたみたいで、最低じゃん!

    そもそも性的なものを「汚い」ものだと感じてしまうおれがロマンチストすぎるのだろうか。
    みんな、「子どもは愛の結晶」なんて気持ち悪いことを、キリッとした表情で、心から言えちゃうのかな。気持ち悪。。

    とまあ、なんだか最後はよくわからなくなっちゃったど、これだけ話の種になるってだけで、いい本の証拠だよね。
    大半はつまらなかったけどね!

  • 今まで読んできたいしいしんじは無国籍な童話のようなお話ばかりだったので、現代の東京を舞台にしたこれは意外でした。悪くはないけれど、自分が求めてたのとちょっと違うと感じてしまった。

  • 短編。不思議話。東京。

  • 読み始めは ん?んん?となるけども
    次の場所へ移るごとにじわじわきます。
    一番のお気に入りは銀座。
    大阪版も書いてほしい!

  • 読みながらもっかい読みたいなぁと思いながら読みました。

  • 解説にもあったように、いしいさんは本当にあらゆる境界線をふらふら行ったり来たりしている人なのだなぁということがよくわかる一冊。

    色んなことがらは、紙一重なんだな。
    そう、改めて思うのだ。
    生と死とか、正と誤とか、光と闇とか。
    ぶらんこ乗りの時もこんな感想を抱いた気がする。

  • シュールな短編集です。
    わたしは好きですが、不思議だから好みは分かれるかもしれません。
    面白がったもん勝ち、みたいな印象です。

  • 東京の下町でおこる、不思議な出来事。そこに住まう不思議な人たち。地面の上をしっかり足で踏みしめて主人公は歩いていく。さまざまな掌編が収まった短編集。

    「ぶらんこ乗り」に感銘をうけ、それ以降の作品に戸惑った僕に取って十分に楽しめた一冊。

    読んだ人はきっと、愛着のわく作品をこのなかから一つ、見つけられるはず。

  • 東京にまつわる短編集
    引き込まれる感じがいい

    東京は絶望とか希望とかの
    象徴だと思う。

  • 図書館で借りた。

    「東京夜話」
    (とうきょう やわ)と読む。

    東京の色々な土地をテーマに
    登場人物もかなりユニーク。

    いしいしんじの独特な作品。

  • 東京の個性豊かな街ひとつひとつを舞台に描かれた物語18篇。
    いしいさんがあたかも本当に目にしてきたかのように語られる物語はなんだか不思議な感じ。想像力豊かな人だー。
    クロマグロとシロザケの純愛の物語に思わず涙してしまった(笑)
    いしいしんじさんやっぱり好き!

  • あとがきにあった「境界を消しにくい人」にとても共感。人間て性別とか役職とか見た目とか年齢とか、そういったその人についてるいろいろを見て人に接するけど、いしいしんじにとっては会社の偉い人もおばあちゃんも浮浪者も同じ「人」というくくりなのだろう。
    そうやって分け隔てなく人と接することができる人がとてもうらやましい。境界を消したい人。うーん。素敵な響き。

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著者プロフィール

いしい しんじ:作家。1966年、大阪生まれ。京都大学文学部卒業。94年『アムステルダムの犬』でデビュー。2003年『麦ふみクーツェ』で坪田譲二文学賞、12年『ある一日』で織田作之助賞、16年『悪声』で河合隼雄物語賞を受賞。そのほか『トリツカレ男』『ぶらんこ乗り』『ポーの話』『海と山のピアノ』『げんじものがたり』など著書多数。趣味はレコード、蓄音機、歌舞伎、茶道、落語。

「2024年 『マリアさま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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