田園の憂鬱 (新潮文庫)

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著者 : 佐藤春夫
  • 新潮社 (1951年8月17日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (177ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101070018

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田園の憂鬱 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • これほど内容と題名がマッチしたと思える小説も珍しいのではないだろうか。まさにそのまんま。(笑)
    妻と2匹の犬(レオとフラテ)と猫(青)を連れて、片田舎の田園風景の中の一軒家に男が引っ越してきたところから物語は始まる。いや、物語といっても何か筋書きがあるわけではない。そこに住み始めた男の自然の中での生活や人との交わりを過ごす中で、雨季の鬱陶しさとともに神経質な気質や癇癪、幻覚が次第に全面を覆い高じて、狂寸前の頂点の中で自らを薔薇に象徴して振り返るところで物語が終わるという話。
    もともと本書自体の原作が「病める薔薇(そうび)」で、さらに「田園の憂鬱 或は病める薔薇」となり、本書の「田園の憂鬱」になるまでに加筆・改稿・合体と紆余曲折があったようで、初頭の薔薇(そうび)への世話と、最後の象徴化とで、ようやく主人公の男の田園でのあり様に一貫性を与える物語となっているように思える。
    生活の中であらわれる数々のエピソードが面白いが、色彩感覚のある田園風景と、細やかな人物や動物描写、そして主人公の男の神経質な言動の切迫感は見事に表現されている。静かな自然の中でともに生きることの憂鬱さを詩情豊かにあらわした作品。

  • 都会の重圧と喧騒に苦しみ、己の生の意味を見失った青年が、愛人と二匹の犬と一匹の猫をかかえて草深い武蔵野の一隅に移る。

    田舎の草葺き屋根の一軒家を紹介してもらったとき、青年が感じたのは自然に包まれた大らかで穏やかな生活だったのでしょう。愛人の不安をよそにこれからの隠棲生活に思いを馳せます。ところが、長雨やご近所トラブル、変わり映えのない食事や風呂のない生活。いろんな鬱々とした感情が彼を襲いはじめます。それにしても幻聴や幻覚の描写はまるで絵のように思い浮かべることができます。愛人がいない夜。犬たちと暗い台所の土間で心細そうにしている青年の背中なんか、ぽっかり浮かんできます。この精神のバランスが危うい青年の憂鬱さと生命力溢れた田舎の自然や人間と(犬たちも!)の対比が印象的でした。

  • とても雑なことを言ってしまうと、田舎に引っ越してきたニートの苦しみについての小説。それをこんな風にロマンチックに書くとはさすが佐藤春夫なのだけれど、ニートになるのがあまりにも簡単になってしまった今、ちょっとぬるい印象を受けてしまった。

  • 佐藤春夫?誰それ?・・・。

    読んだことがないどころか、知らないという世代というか時代がついに来てしまったのかという感慨もひとしおですが、たとえ記憶の片隅にでも名前だけでも知っていてほしかったのですが、去る8月23日に新宿駅のホームで42歳の男が不意にぶつかったせいで押し出され、電車とホームに挟まれて亡くなった心理学者で社会人を対象にした通信制の星槎大学学長である佐藤方哉その人こそ、佐藤春夫と谷崎順一郎から譲られた妻の千代夫人との間に出来た長男だったのです。

    もちろん方哉氏のことは存じませんでしたが、文学的教養などと言わないまでも、せめて佐藤春夫ときたら『殉情詩集』か『田園の憂鬱』の題名だけでも覚えているのが日本で小説を読んでいる者として最低の自覚というものでしょう、とかなんとか母と弟と妹に苦言を呈したら、逆に、面白いとか読む価値があるのなら誰かが推薦するとかして文学難民の私たちにもメッセージが届いているはずで、それが見当たらないということは埋没してしまっても仕方がないんじゃないみたいなことを言われて、開いた口がふさがらなくて憤慨してしまいました。

    この文脈では、私は単なる異常な文学オタクということで話になりません。

    でもまあ、たとえ手にとって読んだとしても、田園も憂鬱も友人の奥さんを欲しがる激しい愛も、今の私たちに皆目わかるわけがありませんが。



    この感想へのコメント
    1.抽斗 (2010/10/20)
    私は岩波文庫の『美しき町 西班牙犬の家』で佐藤春夫を手に取って、その年のベストに挙げました。あまりに好きだったので、大学でも購入して、ポップを書いて薦めておいたのですが、とうとう誰にも手に取られないままだったようです・・・。たぶん、みんなも「佐藤春夫? 誰それ?」状態だったのでしょう。

    『田園の憂鬱』はまだ読んでいませんが、薔薇さんが五つ星をつけられているのですから、読むしかないですね!

    2.薔薇★魑魅魍魎 (2010/10/24)
    私は古典は図書館で読み、購入するのは図書館にないか身近で再読したかったり徹底的に読む本に決めています。せっかく生まれてきたのですから、文学も美術も音楽も、今までの人類の創造してきたものを享受しない手はないと思っています。
    なんちゃって、でもかつて一日3冊は読めたピチピチした読書力が、最近はダメで、めっきり衰えてきて、目も悪くなって文庫本が恐い!

    3.抽斗 (2010/10/24)
    1日3冊! すごいですね、遅読な私には「ふわー」ってかんじです。

    時間のある大学生のうちに、できるだけ読みたいとは思っているのですが・・・自分の読書スピードと比べて、読みたい本が増えるスピードがあまりに早くて泣けてきます。。

    4.抽斗 (2010/10/24)
    (上の続きです)
    そうですね、私も、できだけたくさんのことを知り尽くしたい、と思いつつ日々を過ごしています。
    努力すれば色んなところに行きやすい、手に入りやすい環境にいるのだから、貪欲にならなければ多くの先人たちに申し訳ない、とすら思いますね。
    そう思うのはときどきですけど(^^;)。

  •  自然の描写は美しいが、それ以上に主人公たる『彼』の気鬱の病の描写が怖い。雨のシーンは恐ろしいが、惹かれる。
     後半は、頼むから早く病院へ行け、あたられる奥さんが可哀想、と思ってばかり。
     田舎生活に憧れて移住して馴染めない状況が気の毒になる。縁故も頼る人も仕事もない零スタートの厳しさを感じた。

  • 良かった。好きな文だった。
    20代?の男が田舎で長雨に耐えつつ鬱々と暮らす話で、起承転結や盛り上がりは無い。そういうのを求めると、この本はつまらない。けれど田舎の風景の描写や、男の幻聴幻覚の表現が妖しく美しいので、文を追うだけで詩集や画集を見ているような気持ちになった。

  • 田舎に移り住んでからのお話。ペットも連れていた。しかし、彼の病は一層深まるばかり...風景描写は綺麗でしたね。

  • 佐藤春夫の情景を表現する見事な筆致。現実と幻想の間で、ふらふらと、不安定に展開される彼の思想が不思議な味わいをそこに表現している。短く、明確な筋もないながら、不思議と引き込まれる作品。

  • 一人の青年が、都会での重圧と喧騒に疲れて愛人と二匹の犬と一匹の猫を連れて、武蔵野に来てからの話ですが。そこでも憂鬱になり。

  • 文学的で静かな狂気を感じさせる一冊。

  • 個人的にはあまり好きではないが、これは詩的な感性に満ちた名作と言っても差し支えないかも。
    自身の病に冷徹なまでに客観的で、かつ、我儘放題という私性も持ち合わせる。なお、奥方は大変と下世話な感想もありかな。
    読み辛いが、最後まで読めば何かを感じさせてくれる。

  • 幻想的で主人公の憂鬱が雨となり幻聴となって漂う。こういう形で心境を描き出した作家は、まだ読んだこともない。名作。

  • 主人公の「彼」は、「彼の妻」と犬2匹、猫1匹を連れて、都会の喧騒から逃れるために、田舎に移り住む。
    冒頭では、田舎の豊かな自然に癒しと寛ぎを見出して喜んでいた「彼」だが、やがて彼の精神は悩みを深めていくこととなるというストーリー。


    ふと付けたラジオで、たまたまこの「田園の憂鬱」を軽妙に解説していたのを聞き、読みたくなって図書館で借りてきた。全編が詩的表現で紡がれていて、佐藤春夫は基本的に「詩人」なのだろう。ある晩、夜にトイレに起きた「彼」は「彼の妻」を「便所に行くんだ。ちょっとついて行ってくれ」と揺り起こし便所に同伴してもらう。その帰りに月を見上げて「彼」は月のことを「白銀の頭蓋骨だ。研ぎすました、或は今熔炉からとり出したばかりの白銀の頭蓋骨だ。」と形容する。

    この「彼」という主人公が、臆病で、偏屈で、病的でなんとも男らしくない。

    それでも最後までぐいぐい読ませる、佐藤春夫の筆力は凄い。

  • 豊かな感性で写し出される武蔵野の田園風景と、都会を捨て縁もない田舎の村で暮らし始める芸術家夫妻の孤独な感情が、ぐるぐると渦巻く。読んでいるこちらまで、病んできそうだ。

  • いやはや、まことに憂鬱であります。
    作者自身がモデルと思はれる主人公が、都会から逃れるやうに郊外へ出て来た訳ですが、とにかく鬱々としてゐます。
    随行した女性は女房のやうですが、正式な夫婦ではなささうです。彼女も幸薄さうだ。
    イヌも連れて来てゐます。フラテとレオの二匹。近所に何かと迷惑をかけてゐますが、飼ひ主たちにあまり反省の色は見られません。それどころかまるで自分たちが被害者のやうな物言ひであります。

    「彼」は心の病を患つてゐます。しかしこの環境では事態は好転しさうにありませんな。はたせるかな幻聴幻覚症状がひどくなるのであります。
    そして後半に繰返される「おお、薔薇、汝病めり!」のフレイズ。彼自身が発してゐるのに、まるでどこか別の場所から聴こえてくるやうな感覚。
    そして、あたかもTVドラマが後半になるとCMが挿入される頻度が高くなるやうに「おお、薔薇、汝病めり!」を連発します。薔薇は「そうび」と読ませるのであります。

    ...文学史的に見れば「記念碑的名作」となるのでせうが、今読むとその藝術至上姿勢が苦しい。もつと言ふと、笑ひを誘はれるほどであります。
    坪内逍遥の小説の会話を、現在の我我が読むと大爆笑であります。無論坪内逍遥は読者を笑はせやうとして書いた訳ではありません。
    『田園の憂鬱』もそれに近い存在になつてゐるのではないかと感じました。現役選手から古典の棚に収められる作品といふか。

    まあ、それも良いでせう。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-69.html

  • 多分、大正という時代をもっとも体現している作家ではないでしょうか(昭和期の作品はまた別)。そして私の感性の源はこの時代にあることを確信。佐藤春夫が源流にいます…!!

  • ここに描かれているのは、田園地帯のような牧歌的な軽やかさではない。むしろ、この小説に表現されているのは、鬱蒼とする森の中を彷徨う登場人物の意識の流れだ。それは、深緑の迷宮に迷ってしまったような感情の流れだ。一見軽やかでいて、その心の奥には、見えない深淵が口を開けているような感覚。全てがそこで静止し、淀んでいる。

  • この筆者の文体に慣れるまでの間、とても読み難かったです。
    物語らしい物語がほとんどないのに、ここまで書き上げる気迫に天晴れです。

  • 虫や草や風景の描写が、一見ありきたりに思えるけど実はありきたりじゃない。
    発見の「印象」を淡々と書いているのがいい。
    植物と虫の境界がつかず、だんだん人間と自然の境界もつかなくなっていくような。
    ・・・これを読んだ後だと言葉の選択がうまくいかない!

  • 所沢などを舞台とした作品です。

  • 「おお、薔薇、汝病めり!」
    詩人が小説書くとこうなるのだなあ。一文読むのに凄く力が要る。
    めくるめく自然と人間への讃歌。それをひっくり返した描写にまた、豊穣な表現力を見る。
    いつも読んでて素敵だと思った描写はメモるんだけど、今回本文がずっとそんな感じだったんで逆に殆どメモれませんでした…。
    浪漫派の文章は楽しくて美味しいなあ。ずっと口の中に入れていたい。
    解説は壇一雄。この酒飲みめ……

  • 父親から三百円を与えられ、武蔵野に借家した詩人とその妻、二匹の犬と一匹の猫の物語。
    詩人は都会の喧噪に疲れ、田園に逃れてくる。
    最初のうちは気分も静まり、荒れ果てた庭に薔薇の株を見つけ、それに陽がさすように庭木を剪定したりする。
    だが、長く降り続く雨の中、詩人ややがて神経をすり減らし、幻覚や幻聴に悩まされる。
    雨がやんだ朝、薔薇のつぼみが虫に冒されていることを知った詩人は「おお、薔薇、汝病めり!」と繰り返し叫ぶー。

    詩人の文章だけあって、『田園の憂鬱』は美しい言葉で綴られている。
    幻覚や幻聴を、それと知りつつ見聞きする詩人の苦悩に、一瞬共感もしたけれど、臆病なくせに自分の妻や愛犬には権威的にふるまう詩人がどうにも好きになれない。
    米くらい炊けるようになれ、便所には一人で行け、薔薇は自分で取ってこい、と言いたくなる。
    私はこの『田園の憂鬱』を読みながら、ウルフの『自分だけの部屋』のことを考えていた。
    詩人の傍らで、藤村の『春』を読んだり、東京のことを夢想したり、猫を膝に抱いたりしている妻。
    女ゆえにあさはかで、無邪気で、夫をいらだたせる存在としてのこの妻が、もしもペンを握っていたら、と。
    田舎家の台所から夢を見る瞳で遠い東京を幻視していた彼女に、自分だけの収入と部屋があれば、この夫よりもいいものが書けるのではないかと思う。

  • とりたてて何のストーリーもない。盛り上がりもオチもない。
    お話としてみると相当つまらん話。
    けど……ここまで書くか、という、書くことへの鬼気迫る執念っていうのかなあ……この辺りの時代の作家の描写力ってのは本当にすごいですね。
    ひたすら鬱鬱としているわけですけど、筆力のおかげで怖いもの見たさで最後まで読めちゃう。

  • 佐藤春夫の代表作品。解説も壇一雄という豪華な一冊。
    中盤からの「彼」の抱く幻想と眼前の現実が入り乱れる場面が面白かった。僕はこういう描写を佐藤春夫っぽいと思うけど、そうなのかな。もっと他の作品も読んでみようと思う。
    でも一番好きば場面は台所で「彼」が犬二匹と猫と一緒にいてご飯を炊いてるところ。ほのぼのした。

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