巴里に死す (新潮文庫 せ 1-2)

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著者 : 芹沢光治良
  • 新潮社 (1954年6月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101072029

巴里に死す (新潮文庫 せ 1-2)の感想・レビュー・書評

  • 芹沢先生の本を読むと心が引き締まる。私はこの感覚が好きで、さいきん彼の作品を進んで読んでいる。

    伸子が手記を通じて、ひとりの「妻」に成長していく様子が、とても快い。
    教養小説の傑作だといえるだろう。

    しかし、「愛」の考え方が夫婦で大きく違うと痛感させられた。
    それは、宮村(夫)の妻に対する言動からも読み取れる。
    例えば、療養所で静養する伸子を見舞いに行くこともほとんどなく、娘・万里子の誕生日に送った電報を、結局のところ返信しなかったことなど、首を傾げざるをえない。
    (伸子はその態度を東洋的として何とか納得させようとはしていたが…)
    また、伸子もあまり主体的ではなく、つねに宮村を主語に置いてある点が変に思った。あまりにも家父長制的だと思うのだ。

    宮村は克己の人だ。だから彼は、弱点を克服し、理想像に近づこうと日々努めている。そしてそれを妻にも期待している。すると、どうなるか。伸子は理想像として「良き妻」と「鞠子」を置いてしまう。つまり、伸子は鞠子のような妻になろうと努めなければならなくなった。
    (ちなみに鞠子は宮村の元恋人だ。宮村のように克己心が強く、教養も深い人である。家族との不和や生活上のすれ違いから別れざるを得なくなり、その後、伸子と結婚することになった)

    伸子が良き妻になろうと努力すればするほど、鞠子に近づく。この結論は、個人の人格が大切にされる現代においては、ちょっと納得いかないようにも思われる。克己によって、洗練はされたけど、どこか疎外されてしまった人間。それは人間的というよりは神に近い存在なのだ。

  • 夫(宮村)には昔愛した人が居て、その相手が大変高潔な人だったらしい、と知ってしまった女性(伸子)の話

    絶えず嫉妬に苛まれる奥さん。あの子供じみた態度は、女性もしっかり自立している西洋では浮くだろうし、悪目立ちもするだろう。自信がないから周りと比較して、できない点だけが目について、悪循環に陥る伸子。
    ただ、手記を書いている時点では、一段精神が高くなったというか、成長している。時折弱さも見せつつ、強くなった。自分を省みざるを得なくなったからかな。

    デティールは違えど、たぶん夫側の手記にあたるものが、『人間の運命』なんだろうなー。

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101072027
    ── 芹沢 光治良《巴里に死す 195406‥ 新潮社》
     
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B00HSE8UHQ
    …… 芹沢 光治良《巴里に死す 19520920 角川書店》雑誌初出/伊藤 鑛治・画
     
     芹沢 光治良 作家 18960504 静岡 沼津 19930323 96 /~《人間の運命》
     
     《巴里に死す》をモチーフに作詞された。
    ── 水木 かおる・詞/藤原 秀行・曲/西田 佐智子・唱
    《アカシアの雨がやむとき 196004‥ ポリドール》
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/19600615
     安保に死す ~ アカシアの雨やまず ~
     
    (20140705)
     

  • 巴里に散る。


    祖父の蔵書シリーズである。
    題名からして巴里に留学した芸術志望の青年の精神的な葛藤を描いた小説を想像していたが、いい意味で裏切られた。 
    鱗を落とすまでとは言わないが全く期待していなかっただけに、非常に良くできた、なんて言うと失礼だろうが、本当に優れた小説だと驚かされた一冊だった。


    物語は、作者が出席したとある結婚式の新婦の亡くなった母の記述を中心としている。
    彼女は医学博士である夫が研究生として巴里へと渡るのについて行き、そして新婦の幼い頃に題名通り巴里でなくなる。残された記述は主にその娘にと託されたもので娘のこと、そして夫に対する想いの葛藤が切々書かれている。
    この母であり、妻である女性:伸子の記述なのだが、正直私にはイライラする部分がかなり多い。なんて自分本位、何と未熟な、なんともまぁ無思慮と思える部分が非常に多いのだ。本当に何度もいらっとしたというか、呆れたのだが、その彼女の未熟さが、子を授かり、そして病気の進行が深まってゆくうちに、少しずつ変化してゆく。結局、残された手記であるだけに彼女は人間としての完璧な結実をなさないまでも、最後にはそれを託された娘が聡明に母への解釈を成す。
    これを見て私は本当に感心した。
    正直はじめ私は、この小説の伸子の手記を見て、またもや男性目線の女性のリアルな姿を描いた小説か、とうんざりしていたのだ。
    今まで読んできた小説で男性作家がリアルに描く女性というものは、私にはていのよい理想をまぶされた都合の良い表現しかされないモノと感じることがほとんどだった。それに近い雰囲気を感じたのだ。
    しかしこの作者は、確かにスタートや実情は同じように並べても、伸子を動く存在として描いている。愚かしいとも言える未熟さや嫉妬、女性の求める愛情の証明とわがままを、あまりにも上手くくみ取り、そのある種醜いともとれる正直さを非常に上手く書き出している。
    伸子には葛藤があるのだ。そして精神もある。あるからこそそれを成長させる。しかしそのどれもがすこぶる女性らしいものなのだ。男には本来なら理解できないような部分すら忠実に書き出しているように私には思えた。作者の芹沢光治良は女性というものの本質的な部分を非常によく観察し、また巧妙な心理描写を駆使して物語に組み込んでいる。
    いや驚いた。
    それでいてそれも最後の方は当然に感動を得る様なストーリー運びにして収めている。
    加えてのこの一言だ。


    【「お母さんのこの努力は、君にも真似して欲しいね。結婚というのは新しいものを、創って行く努力だから、努力がなくなった瞬間に、結婚は堕落するからね」】


    やけに納得してしまった最後の一言だった。
    してやられたりって感じ。



    女性という存在の心理を知るためには男性は一度は読んでみるといい物語だと思う。
    女性らしい心理と、そして母としての強さを感じられる小説だ。
    ホント勉強することが多い小説だったと私も思う。
    日本にこんな作家が居るとは夢にも思わなかった。
    隠れた名著だと思う。
    芹沢氏はノーベル文学賞候補だったんだって。納得。いや感服だわ。

  • フランス、パリなどを舞台とした作品です。

  • 夫とともにフランスで暮らすひとりの女性の手記を読むかたち。徐々に西洋的な女性になる姿が美しい文体でつづられています。

  • 未読。タイトルに惹かれて。

  • ノーベル文学賞候補になった。90才から「神シリーズ」を書いた芹沢光治良氏が昭和17年の戦時中に書いた作品。フランスで子どもを産み、結核で亡くなるまでの短い結婚生活を綴った女、伸子の手記を柱にしている。

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