人間の運命 1 (新潮文庫 せ 1-5)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101072050

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  • 重厚長大。深みのある小説だ。

    主人公・森次郎の父は、熱狂的な天理教の教父である。次郎が幼い頃に私財をなげうって、信仰の道に邁進しはじめた。そのため次郎は、幼い頃から極貧生活を味わわなければならなかった。

    次郎にとって、父の信仰は疑わしいものであった。「人間の幸福」を謳っておきながら、現実はちっとも幸せでない。その疑いは、祖父や親戚の死、信仰共同体の赤貧ぶりを通じて、ますます高じてくる。病人の枕元で懺悔の強要や人格否定をする厚顔無恥な教父たち。本当に幸福を追求しているのか?また、次郎本人も批判を浴びる。次郎の不幸は「すべて」不信心のせいだと?冗談じゃない…。確かに、素朴な信仰共同体のなかでは、次郎のような神童は異質な存在だ。しかし…。矛盾はつのるばかり。

    足の置き場がないということは、交友関係についてもいえる。当時、旧制中学に通っていた生徒は、生活水準が高い人が多い。次郎とは家庭環境が全く異なるのだ。例えば、沼津中学時代の親友・石田は、地元の名士である。それも、皇太子陛下が宿泊(!)するほどである。食事にも事欠くほどの次郎とは雲泥の差だ。しかし、学業、特に文学の才能は、石田も一目置くほど豊かなものである。それゆえ、石田との交遊がなりたつのだが…やっぱり一筋縄ではいかないのだ。例えば、石田や大塚(一高の僚友)が、次郎が書いた文章や、居住地の風景を褒め称える。大自然の豊かさが感じられる、と。しかし、次郎からしてみれば、貧民街の実生活でしかない。ブルジョアジーが高みの見物をしているようで、癪に障るのだ。

    信仰、経済的苦難。次郎の悩みはつきない。重いテーマを取り扱っているため、陰鬱な雰囲気になりそうだ。しかし、決して暗い話ばかりではない。それは、次郎の人間性ゆえだろう。次郎には、極貧状態と宗教的緊縛から抜け出そうとする強い精神力が備わっている。そして、同じような境遇にいる人々への優しい眼差しも持ち合わせている。もちろん、常に聖人君子であるわけではない。貧乏と信仰という生得的な環境を、次郎が負い目に感じていることは確かだからだ。しかし、それでも明るい将来に向かって歩んでいる。これからどうなるか、大変気になる。

  • 昔の旧制高校・・「一高」の雰囲気がリアル。

  • 明治・大正・昭和を生きた森次郎の生い立ち。著者の自伝的小説。新潮文庫で全7巻。

    すごい。読めてよかったと思った本は久しぶり。

  •  作者の自伝的長編小説です。長いです。親の信仰や貧困などで身動きとれないような環境、確か体も丈夫ではない主人公。暗いけど、とても好きな作品で、特に主人公が子どもの頃の話が印象に残ってます。
     作者の「教祖様」はまだ読んだことはないが、これは一度読んでみたい。人間の運命では作者のような主人公がこんなに父の信仰のために苦労したのに、それを書いたというのが興味深い。

  • 題名は難しそうですが、著者の自伝的小説です。人生・仕事・夫婦・学問・宗教などなど多岐に渡り若い方の「生き方」の参考になると思います。じっくり読んで欲しい本です。

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著者プロフィール

1896(明治29)年5月4日生。1993(平成5)年3月23日、満96歳没。東京帝国大学経済学部卒。静岡県沼津市名誉市民。
静岡県駿東郡楊原村我入道(現在の沼津市我入道)に父・常蔵(後に常晴と改名)、母・はるの子として生まれる。1930(昭和5)年、療養中の体験に基づいた作品『ブルジョア』が、「改造」の第3回目の懸賞小説に一等当選し文壇に登場。1943(昭和18)年刊行の代表作『巴里に死す』は森有正によってフランス語訳(1953(昭和28)年)され、1年で10万部のベストセラーとなり、ヨーロッパで高い評価を受ける。日本ペンクラブ会長、文芸家協会理事、ノーベル文学賞推薦委員、日本芸術院会員など数多くの役職を歴任、日本文芸の普及に貢献した。

「2019年 『新装版 巴里に死す』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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