蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101084015

感想・レビュー・書評

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  • オホーツクの漁場で漁をし、船で加工をする蟹工船。
    蟹工船に集められた乗組員は、貧乏人ばかり。劣悪な労働条件のもと、資本家にいいように使われる。
    病気になっても働かされる。

    貧乏な労働者は、不衛生な劣悪な環境でこき使われ、資本家は苦労をせずにボロ儲けをする。

    当時の資本主義の構図が描かれている。

    一方、党生活者の方は軍需用品を製作する会社に勤める「私」が、工場の中で戦争反対の動きをつくろうとする。


    どちらかというと、蟹工船より党生活者の方が読みやすく感じた。
    蟹工船の乗組員の病気や虫とも戦う姿は目を背けたくなるほど悲惨で、読んでいて苦しくなってしまう。

    この作者の生涯と照らし合わせて読んでしまうため、どうしても同情的になってしまう。
    今の時代に生まれていたら、作者の人生も大きく変わっていただろうに。。。

  • 29年前に読んだ本らしい。当時はプロレタリアートという語さえ理解できなかったに違いない。
    「蟹工船」は数年前だったか、世間で妙にリバイバルされたようで、「いま」のリストラ吹き荒れ、賃金がどんどん下がってゆく状況とこの作品内の労働状況とが似ている、とのことだったが、果たしてどうか。
    「蟹工船」の世界では極めて劣悪、過酷な労働を強いられており、死者さえ出すことから、ロシア人から「アカ」思想を吹き込まれたことをきっかけに、雑多な経歴をもつ労働者集団が自然発生的にストライキを組織するに至る。
    ここでの雇用者-被雇用者という対立図式は極めて明快であり、ストの自然らしさには説得力がある。雇用者を代弁している「監督」は悪辣な人物であり、同情の余地はない。ただし、彼でさえ、最後にはクビにされるので、実は被雇用者にすぎなかったことが確認される。
    小林多喜二の死の前年に書かれ、「前編おわり」という文字で終わる「党生活者」では、主人公は完全に当時非合法な共産党員として活動する。しかしマルクス主義思想が作品の前面に突出することはなく、「階級闘争」という言葉すら出てこない。あくまでも関心は、現在の職場の労働条件の改善である。そこに反戦思想も少し混ざっている。満州事変の最中の作品だが、当時は反戦を掲げるには「アカ」になるよりほかなかったのかもしれない。
    ともかく、どちらの作品でも、問題となっているのは現在の職場の労働条件であって、マルクス主義の思想ではないし、理屈っぽさは全くない。ジャン=リュック・ゴダールの映画「中国女」の世界とはまったく異なる。
    小林多喜二のえがく職場にはシモーヌ・ヴェイユあたりも潜り込んでいそうだが、現在のような労働基準法等の諸制度が完備し、たとえパワハラがあったとしても(現にたくさんあるのだが)その気になれば何とかできる体制が整っている社会とは異なる。小林多喜二作品の「雇用者」の背後にあるのは帝国主義・軍国主義と結びついた企業である。現在でも大企業は、いかにも腹黒そうな経団連、政府(特に自民党)と結びついているが、労働者に対する拘束は比べものにならないくらいゆるやかだ。
    これらの小説がえがきだすように労働組合という「組織」が社会史上重要な役割を果たし、現在でも重要さを失っていないことは確かだが、マルクス主義的「理論」はフランスとは異なり、日本人にはまるで根付かなかったと思われる。
    よく言われるように「働き過ぎ」の日本の労働者の実態は、確かに外国人の労働観とはどこかで決定的に異なっているが、たぶんそれは、「企業」のせいでも「国家」のせいでもない。日本人全体のあいだに何となく漂っている独特の雰囲気のせいだろう。だから何十年たとうとも、労働組合がいかに頑張っても、日本労働者の根本的な姿勢は変わらない。
    「働かないとメシが食えない」というのは表向きの言い訳である。
    「蟹工船」の労働者たちも、本心からがむしゃらに働きたいのである。そのへんが、どうも諸外国とは異なっているし、雇用者-被雇用者の対立が、たとえばエミール・ゾラの『ジェルミナール』のような激しい闘争にまで到達しない原因なのではないだろうか。

  • いつの世も、搾取する側とされる側がいるのは変わらんなぁ…と。

    読んだの学生の頃なのですが、あまり「おもしろかった!」という印象はないものの、今でも結構鮮明に内容思い出せる。
    当時の経済学の教師がゴリゴリの左傾だったのでそれともマッチして記憶されてるのかな。

  • 青空文庫と古本で購入した新潮文庫を並行しながら読了。
    戦中という時代の中、資本家と労働者との対立は先鋭化していた。その後、日本は戦争に敗れ、アメリカを中心とした連合軍の統治を経て民主化を果たす。一方、共産主義は、東欧・ソ連で崩壊した。中国の共産党は、西欧民主・資本主義社会にも増して、格差が進んでいるように思える。小林多喜二が目指した世界というものは、果たしてどういう世界だったのであろうか。

  • ちょっと前に流行ってましたよね。現代のブラック企業に勤める若者が共感できる……的な。まあ、2ちゃんねるブラック企業偏差値ランキングで偏差値76のIT業界でもっともブラック、と評されていた会社で働いていた僕から言わせてもらうと、ハッキリ言ってまるで共感できない。ブラック企業とか全然甘い。蟹漁船怖すぎ。
    だって、いくら酷いプロジェクトマネージャーでも、メンバーを殺したりしないですしね。それで、殺しておいてそれをなかったこととかに出来ないし。
    なのでまあ、何が言いたいかというと、ブラック企業に勤めてしまって毎日が辛い人たちも、「あーでもオホーツク海で蟹漁船に放り込まれてるわけじゃないしな」と思ってがんばってください。いざとなれば、地続きなのでどこにでも逃げられる。蟹漁船は逃げ場すらないのだ。

  • 実に10年ぶりぐらいに読み返した。福岡久留米の大砲ラーメンみたいな作品。プロレタリア文学の先駆け、実にクセが強い。ただ、蟹工船の社会的弱者の団結と闘争を描く過程はグッと嵌まり込むところがあり、開高健「日本三文オペラ」を読んだ後のようなある種の勇壮さを感じる。

    一度目に読んだ10年前は蟹工船ばかり印象に残ったんだが、今読むと党生活者もなかなかに読み入った。人間としてのあらゆる幸せを全て投げ出してまで、誰か別の人が考えだした思想を広めることになぜここまで投身できるのだろう。これは極端な例だしもちろん程度によるけどブラック企業に日々出社する人、創価学会の勧誘員、政治デモで国会前に集う人、みーんな根っこは同じだと個人的には思っていて、つまりは「悲劇的な役割を大衆の中であえて選ぶことにより、己が人生の価値に特別感をもたらす」ことじゃないかと。何かに頼って生きていくのは楽なようで虚しい気がするんだけどなぁ。もっと別の方法で自己実現の道筋探す方が、絶対ストレスないと思うんだけども。

  • 過酷な労働環境もさることながら、弱者同士でも格付けが行われるのが人間的だと思いました。
    人間は平等だと言いながらも、動物の部分は消せないのですね。今も昔も変わらない。

    地名や方言が強いせいか、読みにくい方もいらっしゃるかと思います。



  • プロレタリア文学の代表的な一冊。
    プロレタリア文学に目覚め、労働運動に関わる。
    非合法下の共産党に入党し、左翼文学に注力するが、逮捕され29歳という若さで築地署で特高警察の拷問により殺された小林多喜二。

    時代という言葉で片付けてしまっては何だけども。
    帝国主義の辺境における植民地的な搾取、未組織労働者の団結、国家と財閥と軍隊との関係、天皇制の問題を示そうとしたわけだ。
    現代だとブラック企業みたいなものかな。

    しかしまぁ、非常に読み疲れる一冊でした。
    赤だシンパだ、マルクス、レーニンだ、と。

  • 奴隷のように働かされる労働者の話。
    まさに地獄のようで気分が悪くなった。

  • 蟹工船は現代の労働問題とも通じるところがあると思いました。自然発生的にストライキが起こるという点は少し無理矢理感があって思想の偏りも感じましたが、劣悪な労働環境の描き方は見事でした。
    党生活者は身を隠しながら生きる人間の姿として純粋に楽しめました。

著者プロフィール

1903年秋田県生まれ。小樽高商を卒業後、拓銀に勤務。志賀直哉に傾倒してリアリズムの手法を学び、28年『一九二八年三月一五日』を、29年『蟹工船』を発表してプロレタリア文学の旗手として注目される。1933年2月20日、特高警察に逮捕され、築地警察署内で拷問により獄中死。

「2008年 『蟹工船・党生活者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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