一千一秒物語 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101086019

感想・レビュー・書評

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  • 月光のワルツと、シガレットの香り。

    あの世界史レベルで有名な幻想譚『千一夜物語』、アラビアンナイトと関係があるのかないのか分からないけれど、『一千一秒物語』はとにかくヘンテコな物語だ。月と星をテーマにした幻想掌編小説集…と言ってみても、全然説明した気がしない。

    おとぎ話の絵本みたいに幻想的だが、メルヘンというには少しヤンチャが過ぎるような気もする。ピストルをぶっ放してお月様を撃ち落としたり、流れ星と取っ組み合いの喧嘩をしたり、月の光で密造酒を作ったり…。サイレント時代のキネマみたいなドタバタ劇が繰り広げられたかと思えば、こんな詩が混ざっていたりもする。

     お月様でいっぱいで
     お月様の光でいっぱいで
     それはそれはいっぱいで……
      (A CHILDREN'S SONG)

    月光を受けて煌めくビール瓶の破片、理科室に置き去りにされた年代物の天球儀…。そんな風に、この作品に触発された断片的なイメージでしか、内容を語ることができないのがもどかしい。タルホ・ワールドを語るには、私はまだまだ夢を見足りないようだ。

    案外、子どもの方がタルホおじさんとすぐ仲良くなれるのかもしれない。「お月様とけんかした話」を小学生の息子に読んでやったら大笑いしていた。ルビのふられた児童版の出版が待たれるところである。

    ☆彡

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ご自身で読むなら、筑摩の「ちくま日本文学」がお薦め。
      https://www.chikumashobo.co.jp/special/niho...
      ご自身で読むなら、筑摩の「ちくま日本文学」がお薦め。
      https://www.chikumashobo.co.jp/special/nihonbungaku/
      猫は、まりのるうにいがイラストを描いている本が欲しい、、、
      2020/08/06
    • 佐藤史緒さん
      猫丸さん、いろんな情報ありがとうございます! 装丁もあたらしくなるんですね。
      それにしても出版に異様に詳しいアナタは何者?(笑
      猫丸さん、いろんな情報ありがとうございます! 装丁もあたらしくなるんですね。
      それにしても出版に異様に詳しいアナタは何者?(笑
      2020/08/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      佐藤史緒さん
      猫は単なる本好きなだけですヨー
      佐藤史緒さん
      猫は単なる本好きなだけですヨー
      2020/08/09
  • 「一千一秒物語」は素直に感動した。何というか、安部公房的では全然ないんだけど、僕の中で2人はかなり特殊な位置付けにいる、という点では似てるかもしれない。というか僕が詠む短歌の目指すテイストは既に「一千一秒物語」の中で完結しているのかもしれない。

    「黄漠奇聞」はボルヘスの『アレフ』に入っていてもまったく違和感のないくらい、非日本文学的というか、国内には他に類を見ない作風。ボルヘスのことは知っていたのだろうか?もしかしたらこの2人も近い場所を目指したのかもしれない。

    「チョコレット」が最高。ムーミンっぽさもあるなあ。上の作品たちもそうだけど、「詩の言葉」で小説が紡がれてる。この感覚が気持ちいいという点では村上春樹的なのかなあ。もし僕が同じ設定で「チョコレット」の物語を書くなら、グッドフェロウが変身したチョコレットのようなものを主人公に食べさせていたと思う。

    「星を売る店」も魅力的ではある。だけど実はこの辺から文章が難しくなってきて、ちゃんと小説らしい小説の文体になってしまったから少し残念だった。この話に出てくるようなコンペイ糖を口に入れたらたちまち理解できるようになるのか知ら。でもそれじゃ魅力が消えてしまうかも。

    「弥勒」は、五十六億年後の未来都市に弥勒菩薩が下生する話かと思ったら、ぜんぜんそうではなかった。登場人物も入り組み始めてくる。

    「美のはかなさについて」と「A感覚とV感覚」なんかは、(特に後者は)文は読めても彼の思想が分かることは正直なかった。だけど、彼なりの美学や理念みたいなことが熱を持って語られているのは良かった。そういう強い考えみたいなのがないと、ここまでの文章は綴れないと思う。

  • なんたる世界!言葉の無限の可能性。
    どこかで宇宙と繋がってる。

  • 稲垣足穂 「 一千一秒物語 」表題ほか短編集。

    読み手の時間感覚を解放するのがうまい。時系列より永劫回帰(同一の状態を永遠に反復) を重視している〜一つのシーンで 一人の人間の現在と幾世紀後の姿を描いたりする。


    著者が「六月の夜の都会の空」と表現した 宇宙的郷愁(都会的、世紀末的、未来的な情緒)が 時間感覚の解放に役立っている。

    理解できたか不明だが、短編小説「弥勒」 エッセイ「美のはかなさ」は 面白い。有名な「一千一秒物語」は 擬人化した月や星をどう捉えるのか わからなかった。


    弥勒は 著者の自伝的要素(貧乏地獄経験と終末思想)が面白い。貧乏地獄に耐えるための名言も多い。美のはかなさは 美の壊れやすさをテーマとしたエッセイ。


    名言「美は一切か無かの性格を持つ〜完成されたものは さらに手を加えると 元も子もなくなる際どさを持ち〜積み上げでなく不可解な創造的飛躍によって出来ている」




    貧乏地獄に耐える名言
    *手段が尽き果てた時こそ 人間は最もよく生きている
    *物質、精神とも 常に最少限度にとどめる習慣をつけること。とどめるべく絶えず念じる



    美の はかなさ
    美的なもの=はかなさ+虚無性
    *美的なものの壊れやすさ
    *美的なるものは 極端に傷つきやすい瞬間的な体験の中にある
    *美しきものは 全く現象である

    一千一秒物語の世界
    *「月から出た人」から 始まる創世記のような童話
    *物語が 目的や時間感覚を持たない カオスな構造
    *人間の理想としての 擬人化した月や星
    *宇宙の原理に支配された人間

    六月の夜の都会の空とは
    *宇宙的郷愁、永遠癖、奇異な郷愁的翳り
    *都会的、世紀末的、未来的な情緒
    *ここにいることは実は昔では?
    *一瞬に幾世紀を飛び越えて 未来にいるのでは?
    *ここは地球でなく 他の星では?

    ★六月の夜の都会の空
    *飛行士を目指して上京した最後に見た夜景。どこでもない所へ遠ざかりつつある大都の夜の雰囲気

    *全ての事物と自分が 無関心の中に沈みこんで 何もかもが 何処でもない所へ遠去かりつつある雰囲気

    *構築物も群衆も自動車の列もすでに無限へと拡大し、吾人の観たる夜の都会は透明にして、只エーテルが立体的存在の虚空に投影せる七色のファンタジーのみ








  • 図書館

    新潮文庫版を読んでたんだけどデータないとか

    美のはかなさ、A感覚とV感覚 は読めなかった。
    黄漠奇聞と弥勒が好きかな

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「データないとか」
      昔の表紙(山本美智代の絵を使ったヴァージョン)のコトかな?
      「データないとか」
      昔の表紙(山本美智代の絵を使ったヴァージョン)のコトかな?
      2013/08/03
  • 高校生のときに読んで、いつの間にか手放していた本を
    読み返したくなったので、改めて購入。
    初読時は、
    表題作の無駄のない切れ味のよさに唸っていたけれど、
    今回は「黄漠奇聞」が一番ツボに突き刺さりました。
    読み始めてすぐ、結末には見当がついてしまうのだけど、
    それでも読み進めずにいられないし、余韻が素敵。
    そして、再購入の最大の動機は、なんといっても「天体嗜好症」。
    本編の内容と直接には関係しないけど、
    読むと“あの歌”を聴きたくて堪らなくなるなぁ。
    でも、歌詞をここに書き写すのは、

     無 理 だ ね (・∀・)!

    ……↑これ↑が精一杯なり(笑)

  • 稲垣足穂の作品集。個人的に足穂といえば、少年愛や同性愛的な感覚の作品というイメージが強い。前半は、星や月に妖精といったモチーフにキラキラ輝く感じがするお伽話、大人のための童話集と言った感じなのだが、後半の自伝風な雰囲気の強い作品になってくると、一転して、当時のエログロナンセンスな感じが強くなってくる。本作に収録の「弥勒」とかは、かなり引き込まれる。ただし、作品の語り口がとても独特で哲学的なので、読者の読解力が試されます。足穂入門には手頃で良い本だと思います。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「足穂入門には手頃で良い本だと思います」
      そうですね。どれも映像が目に浮かぶ。とっても刺激的ですよね。。。
      「足穂入門には手頃で良い本だと思います」
      そうですね。どれも映像が目に浮かぶ。とっても刺激的ですよね。。。
      2013/01/09
    • いりあさん
      >nyancomaruさん
      コメントありがとうございます。
      足穂は難しいというイメージが強いのですが、もっと色々な人に触れてもらいたいですね...
      >nyancomaruさん
      コメントありがとうございます。
      足穂は難しいというイメージが強いのですが、もっと色々な人に触れてもらいたいですね。
      2013/01/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「もっと色々な人に触れてもらいたいですね。」
      私は知人に薦める時は、たむらしげるの絵本を紹介しています(イメージがピッタリ!)
      「もっと色々な人に触れてもらいたいですね。」
      私は知人に薦める時は、たむらしげるの絵本を紹介しています(イメージがピッタリ!)
      2013/01/11
  • わけが分からないけどなんだか面白い。分かろうとしないでこの文章を味わえばいいんですね。それにしてもこんなに夜毎お月様やお星様と格闘していたんでは身が持たないよ!

  • 「黄漠奇聞」、ダンセニイ大尉とか出てくる上、ぺガーナの神々っぽいのまで出てくる。うむうむ。
     他、うむうむ。

  • 不思議な短編集。
    美しくもあり儚くもある。

著者プロフィール

稲垣足穂(1900・12・26~1977・10・25) 小説家。大阪市船場生まれ。幼少期に兵庫・明石に移り、神戸で育つ。関西学院中学部卒業後、上京。飛行家、画家を志すが、佐藤春夫の知己を得て小説作品を発表。1923年、『一千一秒物語』を著す。新感覚派の一人として迎えらたが、30年代以降は不遇を託つ。戦後、『弥勒』『ヰタ・マキニカリス』『A感覚とV感覚』などを発表し、注目を集める。50年に結婚、京都に移り、同人誌『作家』を主戦場に自作の改稿とエッセイを中心に旺盛に活動し始める。69年、『少年愛の美学』で第1回日本文学大賞受賞、『稲垣足穂大全』全6巻が刊行されるなど「タルホ・ブーム」が起こる。

「2020年 『稲垣足穂詩文集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

稲垣足穂の作品

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