路上の人 (新潮文庫 ほ 2-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101087078

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  • 4.13/58
    内容(「BOOK」データベースより)
    『1243年5月、異端討伐十字軍がピレネーの山麓に集結した。迎える異端カタリ派は、天空に突き立つ岩峰上の城塞を最後の砦としていた…。法王庁が絶対的な力を持ち、一方、王権も漸く台頭してきた中世ヨーロッパで、路上に生活の糧を求めて浮浪する“自由人”の眼に、教会は、教義は、騎士たちの生態は、どう見えたか。時代の転換期を舞台に、人間の自由と尊厳を問う長編小説。』


    『路上の人』
    著者:堀田 善衛(ほった よしえ)
    出版社 ‏: ‎新潮社
    文庫 ‏: ‎327ページ


    メモ:
    『堀田善衛は、国家が成立する前の一三世紀前半のヨーロッパに着目し、皇帝や諸国の王たちと対抗するローマ法王庁の権謀術数と惨劇を「路上の人」ヨナの目線から観察し、人間の自由と尊厳を問う長編小説『路上の人』を書いた。ヨナは堀田自身の分身であると、対談の中で述べている。』
    (『堀田善衞を読む 世界を知り抜くための羅針盤』(集英社新書)より抜粋)

  • ≪新≫の方が、地上での権力を握り、≪旧≫を亡ぼそうとするならば、戦わざるをえない。敗れることがわかっていても、戦わざるをえない。一宗教は、たとえ敗れることがあっても、亡びることはない。…。中世の十字軍の虐殺は、姿の異なる異端審問官に自らの刃を向けられているのだろうか。

  • 1243年5月、異端討伐十字軍がピレネーの山麓に集結した。迎える異端カタリ派は、天空に突き立つ岩峰上の城塞を最後の砦としていた…。法王庁が絶対的な力を持ち、一方、王権も漸く台頭してきた中世ヨーロッパで、路上に生活の糧を求めて浮浪する“自由人”の眼に、教会は、教義は、騎士たちの生態は、どう見えたか。時代の転換期を舞台に、人間の自由と尊厳を問う長編小説。

  • 登場人物が、それぞれ曰くありげで怪しい人ばかり、話の構成も、推理あり、ロマンスあり、スパイ小説のようなスリルもあり、緻密にできていますが、それよりも当時の人々の息苦しさを体感してしまう一冊です。

  • (2008.10.06読了)(2002.08.24購入)
    スペイン文学の古典に作者不詳の『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』というピカレスク小説があります。堀田さんの「路上の人」を読みながら堀田さんは、『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』から「路上の人」のヒントを得たのではないだろうかと思いました。
    解説から本の概略を拾うと以下のようです。
    「「路上の人」は、12世紀末から13世紀のころのヨーロッパを時代背景としている。このころ、ヨーロッパ各地の街道には法王庁や諸王侯の密偵や使者たちが往来し、町から町へと仕事を求めて移ってゆく様々な職人たち、乞食から失業中の傭兵や詐欺師に至る種々雑多のアウトローたちが歩いていた。主人公ヨナは年齢45歳前後。17歳のころ故郷のイタリアをなんとなく出てしまって以来、社会の周辺部にはじき出された恰好で、乞食、旅の道にある貴人や僧侶の従者など仕事を転々と変えながら、ヨーロッパ各地を放浪してきた。まだ国境というものがほとんどない当時のヨーロッパ各地の地方語を覚えるだけでなく、ラテン語の片言まで口にできるようになった。そのためヨナはすっかり重宝がられて、スペインのトレドに教義調査に赴く学僧の従者になったり、スペイン東部の大きな僧院で働いたり、法王庁の密使の従者となったりして、イタリア、南フランス、スペインの間を行き来する。そういう間のヨナの見聞や経験という形で、1244年に異端のカタリ派が殲滅されるまでの数年間のヨーロッパが、この小説で語られる。」(322頁)

    普通の人が聖書を読むことを禁じられていた時代の物語です。聖書を読むことは、聖職者の特権だったのです。
    物語の時代背景から説き起こされて、23頁になってやっと主人公が現れる。
    「その名をヨナと言う。年齢は45歳前後、ということにしておこう。」
    「ヨナの名は、旧約聖書のヨナ預言書に由来し、」(23頁)
    ヨナが従者として仕えた僧は、秘密の指令を受けていた、「キリストは果たして笑ったか、笑ったとすれば如何なる場合に、如何なる場所で笑ったか?」また、「笑いの神学的意味如何」を究明するために、法王の命によってトレドに向かうものであった。(37頁)
    「キリストが笑った」とすれば、それは神の子としてのそれよりも、人間としての比重のほうが重くなるであろう。(38頁)
    密命を帯びた僧は、トレドに着いてから8カ月ほどして冬の日に、突然血を吐いて死んでしまった。(50頁)何者かに毒殺されたものと思われる。
    密命を帯びた僧の名は、フランチェスコ会士セギリウスというものであった。
    ヨナは、トレドへ向かう途中で立ち寄ったタラゴーナの北にあるミレトの僧院に世話になることにする。副院長のブーチ師からセギリウスに関することを根掘り葉掘り聞かれる。
    ミレトの僧院で暮らしてしばらくすると、コンコルディアの大秘書官がやってきた。
    大秘書官は、どこかで入手した、セギリウスの草稿をブーチ師に朗読いて聞かせる。
    その内容は、大旨次のようなものであった。(123頁)
    1.あらゆる人間の魂にあって、神に対する信仰は同じものであること。
    2.教会が、その固定した教義を、それに背く者に厳罰の脅しをもって上から課するのは誤りであること。
    3.教会が、聖書の自由な講読を禁止するのは誤りであること。
    4.教会が、迷信を信者に強制することは誤りであること。
    5.ヨハネの預言書を、教会の利益を正当化するために勝手に解釈すべきではなく、またこの預言書を聖書から外し、附属書とすべきこと。
    6.教会が占星術を用いるのは誤りであること。
    7.されば改革さるべきは教会自体であるべきこと。
    等々。
    大秘書官の名前は、アントン・マリア・デ・コンコルディアであった。
    ヨナは、アントンの従者として、旅を続ける。ピレネー越えの話。アントンの恋物語。異端審問。等。ヨーロッパ中世のことがよく分かるようになっている。

    ☆堀田善衛さんの本(既読)
    「キューバ紀行」堀田善衛著、岩波新書、1966.01.25
    「ゴヤ 第一部」堀田善衛著、新潮社、1974.02.15
    「ゴヤ 第二部」堀田善衛著、新潮社、1975.03.20
    「ゴヤ 第三部」堀田善衛著、新潮社、1976.03.20
    「ゴヤ 第四部」堀田善衛著、新潮社、1977.03.25
    「スペイン断章」堀田善衛著、岩波新書、1979.02.20
    「情熱の行方」堀田善衛著、岩波新書、1982.09.20
    「スペインの沈黙」堀田善衛著、筑摩書房、1979.06.20
    「時代と人間」堀田善衛著、日本放送出版協会、1992.07.01
    「バルセローナにて」堀田善衛著、集英社文庫、1994.10.25
    (2008年10月13日・記)

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著者プロフィール

1918年富山県生まれ。小説家。1944年国際文化振興会から派遣されて上海に渡るが、敗戦後は中国国民党宣伝部に徴用されて上海に留まる。中国での経験をもとに、小説を書き始め、47年に帰国。52年「広場の孤独」「漢奸」で芥川賞を受賞。海外との交流にも力を入れ、アジア・アフリカ作家会議などに出席。他の主な作品に、「歴史」「時間」「インドで考えたこと」「方丈記私記」「ゴヤ」など。1998年没。

「2018年 『中野重治・堀田善衞 往復書簡1953-1979』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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