杏っ子 (新潮文庫)

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著者 : 室生犀星
  • 新潮社 (1962年6月10日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (521ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101103068

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杏っ子 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 600ページを超える長編だけれど新聞連載だったこともあり、すいすい読める。前半は日本版『大きな森の小さな家』シリーズのように家族の成長をたどり、しかもお父さんの女人幻想がバクハツしていて甘い薄焼き菓子を食べている気分。そして後半は失敗した結婚が壊れるまでを執拗に追いかけて(よくある話なのだけれど)目が離せなかった。平四郎はなんとも奇妙なお父さんだけれど、節度をもって妄想しまっすぐに愛情を注いだおかげで、娘は健やかに育ったのだった。

    杏子は平四郎の思い通りの美人にはならなかったかもしれないけれど(「美人に育てたい」って無茶である)、背筋のぴんとしたいい女になったのだから、平四郎の勝ちなのだろう。でもいい女であることと駄目な男に引っかかることは別なのが、なんとも平四郎向きに仕上がった杏子さんだった。父親が素敵すぎるのも考え物。

  • 室生犀星の自伝的長編小説。
    文庫で600ページ超という長さだし、50年以上前に書かれた小説。
    正直、途中で挫折しても仕方がないと思っていたが、読んでみたらするする読める。知らない言葉もたまに出てくるが(重畳、●●輩など)、勉強になるので良かった。

    作家平山平四郎が生まれるところから物語は始まり、金沢で不遇の少年時代を過ごす。大人になった平四郎は東京で作家として生計をたてるようになり、やがて娘の杏子(きょうこ)が生まれる。
    杏子の成長を軸として、戦時中の暮らしなどが綴られ、何気ない日常の一コマでも当時の人々の息遣いが感じられるようで興味深い。

    平四郎は杏子を自分の好みの美しい女性としてつくりあげようとしていた。これはまだわかるとしても、杏子の少女時代の友達である、美しいりさ子の足を意識して見ていたりする。とにかく「美しい女性」という存在を礼賛している。醜いよりも美しいほうがいいのは当然だけど、平四郎の女性観は少し歪んでいる気がした。

    そして平四郎好みに育てられた杏子は、美しいかどうかはよくわからないが、嫁にいくことになる。物語の後半は、杏子の夫の亮吉のクズっぷりについてばかり。どうなってしまうのと思っていたら、杏子が出戻ったところであっさり終わってしまった。

    ストーリーと言えばこれだけなのだが、読後の満腹感はすごい。
    「作家はその晩年に及んで書いた物語や自分自身の生涯の作品を、どのように整理してゆく者であるか、あらためて自分がどのように生きてきたかを、つねにはるかにしらべ上げる必要に迫られている者である」
    「私という一個の生き方に終りの句読点をも打ちたかった」
    とあとがきにあるように、これは室生犀星の人生を詰め込んだ叙事詩だ。
    きっと何度読んでも、読む度に違う感想が得られるだろう。

    平四郎が杏子に向けるあたたかい愛情、思いやり、信頼、そして自分で決めさせようという突き放した厳しさ。自分の父親も、自分に対してこんなふうに思っているのだろうかと思って少し涙ぐんだ。
    間違いなく心に残る一冊。

  • かわいかった。これは友情かな。

  • 長編ながら短く章が区切ってあって読みやすい。美人ではないかもしれないけどさっぱりとした杏の様子と、飄々とした父と娘の会話がおもしろい。ドラマチックな事が起こらない部分も楽しかった。平四郎は苦労して育ったせいか、作者の理想なのか、人間出来すぎてる気もしたり。えん子のエピソードがしみじみときれいな話なのはとても好き。離婚の話はりさ子ほどキッパリするのもどうかと思うけど、杏にしても金をつぎ込み献身をしながらもさっぱり期待しないままずるずると終わらせないのには、私もけっこうやきもきしました後半。

  • 平四朗が娘(杏子)の交際相手の親から、もう付き合わないように娘に言ってほしい、と言われ、激高してある行動とるのが一番印象に残った。親ゆえの業であろうか。結局娘も息子も結婚に失敗してしまう。自らも私生児であったのも因果なのだろうか。興味深かったのがこの時代、男が無職で女が仕事していて結婚できたことである。

  • じぶんのなかで室生犀星についての勘違いをしていたに違いない。ある日突然、このお金が全部なくなってしまうにちがいないというように何となく絶望を感じながらページをめくったけどそんなことはなかった。
    かわいいものをめでてだけいるというのと親になるということは違うのだなあ。今は親になるということがしみじみと身にしみる。

  • 「あんずっこ」こと主人公の娘、杏子が非常に魅力的。
    家族から向けられる父親への視線が注目される点。

  • 古本屋で何か惹かれるモノを感じて数年前に読みました。

    とても長い作品なのですが、飽きません!
    古さを感じさせず、読みやすかった記憶があります。

    今度、再読しようっと。

  • 詩人が書いた小説って感じ。全然長編な気がしなくて、ひと場面ひと場面を切り取った感じ。平四郎と杏子の父娘関係がすごく良くて、男と女の生活を書いているのに全然くたびれきった印象が残らない

  • 「菜穂子・楡の家」と共に軽井沢にちなんだ本として紹介されていたので読みましたが、
    文章時代が読みにくく、また内容的にも惹かれなかった為、途中放棄。

    普通に読んだら良かったのかもしれませんが、
    「軽井沢」という好きな土地のことが書かれていると思っていたので残念感がたっぷり。

  • 浦野所有。
    ◆以下、ネタバレ注意◆

    作者の室生犀星が詩人であるという先入観のためか、全体的に詩的な雰囲気のただよう作品でした。詩というにはあまりにも長い、父娘ふたりの数十年の歩みをつづっているわけですけど、ほとんど直観的に筆を走らせ切ったのではないか? と思ってしまうほどストレートで、よどみなく、流麗な筆致でした。

    また、抽象的な心理描写が多いことも特徴といえるでしょう。父と娘の会話も、核心のところまでは言葉に表さないですし、会話以外の部分(全体は三人称形式なのですが)でも、あまりにも細かすぎる心理描写はでてきません。それゆえ、父――平山平四郎――や、娘――杏子――ら、登場人物の表情や息づかいが、読者の頭のなかで容易に思い描くことができるのです。現代小説にありがちな、あまりにも細かすぎる、ありがた迷惑的な描写はありません。実に快く読み進められる作品でした。

    ところでストーリーに関していえば、この作品は悲劇なのでしょうか。

    平四郎は杏子を日本一の娘に育てあげようとしながらも、結局は平平凡凡な女にしかならず、その杏子も結婚後の生活は泥沼で、たった4年で離婚してしまいます。物語の前半から中盤にかけて、杏子の存在は、平四郎にとっての宇宙のすべてであるかのように語られます。ところが物語の後半になると、今度は平四郎が、杏子にとっての全宇宙になっているのです。

    好意的にみるとこの父娘は、互いによき理解者であり、幸福そうに思えます。けれども冷静に見れば、お互い、自分の存在価値を認めてくれる肉親がいることに安心しきってしまい、自分の世界にひきこもっているだけといえなくもないような気がします。

    人の一生など、思いどおりに行かないものです。夢も希望も、いつの間にか現実の前に消えてなくなり、いまの暮らしに妥協するともなく、漫然と毎日が過ぎてゆく……。まさにいまの私がそういった状況であるので、『杏っ子』の作品世界には共感できると同時に、社会を生きることの虚しささえも感じてしまうのです。

    物語は全部で600ページ以上。実に起伏に富み、平四郎の出生にはじまり、苦悩に満ちた少年時代、結婚、杏子の誕生、東京大森の新居住まい、軽井沢での疎開生活、杏子の結婚と、核となる出来事が見事に連ねられています。杏子の夫・亮吉のくすぶりっぷりはあまりにも惨めですが、そもそもこの話は実話なのでしょうか?

    まあ、その辺のことはさておき、これほど読みごたえがある作品は久しぶりでした。「10年前に読んでおけばよかった」と思うと同時に、「何年後かに読みなおせば、きっと違った感想をもてるに違いない」と確信できる、貴重で崇高な作品だと思います。

  • 室生せんせいはいろんなもののオブラードをがんがんはがしますよね…

  • これ読んで室生犀星の文章に嵌りました。こんな父娘関係かっちょいいです。「父親にとって娘とは最後の女である」。深い…。

  • 長編だけど、気軽に読めるお話。はっと(ほっと?)する様な描写に、作家と娘、その周囲で起こる日常生活。お気に入りです。

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