華麗なる一族(下) (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101104140

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    上中下3部作の下巻を読み終えましたが、かなり壮絶な終わり方でした。
    ちょっと前にドラマで「半沢直樹」を観ていて、池井戸潤特有のスカっとするような勧善懲悪の終わり方を本作品にも期待していたのですが・・・
    そこは山崎豊子、容赦がありませんね。残念ながらかなり胸糞悪い終わり方となっていました・・・
    この一族、全然華麗じゃねえよ!!!!笑

    読んでいて特に、下巻で凋落っぷりを感じたのは、やはり相子に関するエピソードでしょう。
    上巻・中巻では思うがままに万俵家を采配し、栄華を極めるような相子でしたが、下巻の途中からは万樹子の里帰りや、次女・二子の縁談がうまくいかないなど自身の影響力の低下が露わになり、最後は大介から破局の申し出をされ取り乱してしまう始末。
    読者としてはざまあ見やがれ!と思いましたが、よくよく考えられると大介に弄ばれた一人の不幸な女性だと思うと、哀れでなりませんでした。

    また、万俵大介も、下巻になって影響力に衰えを見せ始めた内の一人だったかと思います。
    あれだけ憎んでいた鉄平が自死を遂げてしまい、その時になって初めて鉄平と自分が血のつながった父子だと理解するなんて、なんて滑稽なのかなと読んでいて思いました。
    そして、万俵自身が色々な事を犠牲にしてようやく成し遂げた都銀同士の合併でしたが、それすらも近い将来により大きな銀行に食われてしまう事が確定事項としてあるなんて・・・・
    作中では描かれていませんが、近い将来にこの「華麗なる一族」が凋落する事を喚起させる描写に、戦慄が走りました。


    などなど、かなりドロドロして胸糞悪い終わり方をした物語でしたが、唯一の救いだったのは、鉄平の死後に心情の変化があった万俵家の子ども達でしょう。
    二子は結局お見合いは破談となって自身が思い合った男性と縁を結ぶことが出来ました。
    ニヒルで斜に構えた考え方しかできなかった次男・銀平も、鉄平の死によって心の氷が融和するような描写がありました。
    鉄平は犠牲となりましたが、その命と引き換えに、万俵家の子どもたちに新たな幸福が訪れる事を、切に願っています。


    【あらすじ】
    万俵大介は、大同銀行の専務と結託して、鉄平の阪神特殊鋼を倒産へと追いやり、それをも手段に、上位の大同銀行の吸収をはかる。
    鉄平は、三雲頭取を出し抜いた専務と父親の関係を知るに及び、丹波篠山で猟銃自殺をとげる。
    帝国ホテルで挙行された新銀行披露パーティの舞台裏では、新たな銀行再編成がはじまっていた。
    聖域〈銀行〉にうずまく果てしない欲望を暴く熾烈な人間ドラマ。


    【メモ】
    p56
    「では、ご機嫌よう。皆さまにはあなたからおよろしく」
    と言い、万樹子は玄関を出て行った。
    その後ろ姿を見送りながら、相子は、どうせ自分の婚前の秘密を明かされることを恐れて、万俵家の三台並んだベッドのことも言えず、舞い戻って来るに違いないとたかをくくっていたが、初めて自分の指図が通らなかった口惜しさが相子の心を錐揉んだ。


    p156
    こうして一対一で向かい合うと、一種の威圧感を持って映る。
    万俵はこの時、自分が都市銀行でただ一人のオーナー頭取のは云いながら、たかだか第十位の地銀的都市銀行の頭取にしか過ぎないことに、かすかな劣等感を覚えた。

    (中略)

    総理夫人の予定に合わせて、二度も正式の見合いの日取りを変更し、京都の嵯峨の「吉兆」であれほど大層にした見合いであるにもかかわらず、総理には全く伝わっていないのか。
    万俵は自尊心を傷つけられて、視線を総理の背後へ移した。

    (中略)

    万俵は、視線を佐橋総理へ向けた。
    今日の本当の目的は、総理夫人の甥の細川一也との婚約を有難って報告に来、田舎者扱いされるためではない。


    p278
    「いまとなっては、お目にかかる必要はないと思います。あなたと私との間はもう終わっているのです。あとは法廷で争うだけです」
    万俵の耳に法廷という言葉が強い響きを持って残った。

    (中略)

    万一そのようなことになれば、阪神銀行の信用と同時に、万俵家の家名を汚し、来春にひかえている二子の結婚にまで響き、ここまで完璧に積み上げて来た自分の野心が一挙に打ち砕かれてしまう。

    今は何よりも、鉄平に告訴を取り下げさせることであった。


    p314
    「お父さんも、今度ばかりは、やり過ぎですよ」
    「なにがだ?」
    「鉄平兄さんのことですよ。会社を潰しておいて、その上、管財人が帝国製鉄の常務ではひどすぎますよ」

    (中略)

    「兄さんに対するお父さんの態度は少なくともそんなものじゃありませんね。しかし、どのような大きな意図のもとでも、息子の会社を平然と潰すお父さんと、だからと云ってそれを告訴する兄さんも、どちらもおかしいですよ。僕には解りませんねぇ」


    p501
    三雲は、しばし万俵の顔を凝視し、
    「万俵さん、孟子の教えに『天下ヲ得ルニハ、一不義ヲ成サズ、一無辜ヲ殺サズ』という言葉がありますねぇ」
    静かな淡々とした語調で言った。
    天下を得るには、一つの不義もなさず、一人の罪なき者も殺してはならぬという意であった。
    自ら不倫、不義の私生活を営み、罪なき者、鉄平を死に追いやってしまった万俵としては、その言葉がぐさりと鋭く胸に突き刺さった。


    p521
    「あなたって怖ろしい人ね。ご自分の企業的野心を満たすためには、親子の絆のみならず、男女の絆も、ご用済みとなれば平然と切っておしまいになるのね」
    相子は許し難いように言い、目の前の封筒を万俵に押し返した。
    「別れない!意地でも別れて差し上げない!」
    万俵は瞬きもせず、相子を凝視し、
    「妻でもなく、まして子供もない仲で、意地でも別れないなどというのはおかしいじゃないかねぇ。相子らしくない取り乱し方だ」
    ぷつんと断ち切るように言った。


    p527
    「金融再編成の火蓋を切るために、ともかく都市銀行同士の大型合併が必要だったからだ。
    (中略)
    今日発足した東洋銀行の合併後の体質改善を図り、名実ともにワールドバンクたる銀行をつくる。
    そのためには東洋銀行を上位4行の一つと再合併させることだ。」
    永田大臣の声が室内に低く籠り、美馬は驚愕のあまり言葉も出なかった。

    (中略)

    その一瞬の引きつれるように歪んだ笑いが、まさか舅である自分を裏切る戦慄だとは、万俵は気づかなかった。
    万俵は、3年先に再合併される運命に置かれつつあることも知らず、会場を埋めた来賓たちの乾杯を受け、激励の握手をさらに受け続けていた。

    • kurumicookiesさん
      きのPさん、

      ドラマの時に見てなかったのですが、いつか読んでみたいと思っている作品です。きのPさんの感想を読んで、絶対、いつか読みたいと思...
      きのPさん、

      ドラマの時に見てなかったのですが、いつか読んでみたいと思っている作品です。きのPさんの感想を読んで、絶対、いつか読みたいと思いました!
      でも上、中、下巻は、読むのに大変そうです(*´-`)
      2020/10/14
    • きのPさん
      kurumicookiesさん
      コメントありがとうございます(*^^*)
      上中下巻と長編ですし、内容も中々ハードなのですが、気が付いたら...
      kurumicookiesさん
      コメントありがとうございます(*^^*)
      上中下巻と長編ですし、内容も中々ハードなのですが、気が付いたら読み終えているほどのめり込める面白い作品ですよ♪
      是非ご一読ください(*^^*)
      2020/10/16
    • トミーさん
      きのpさん

      さすが読後済みでしたね。
      私めも早くにレビュー読ませていただいてました。
      もうのめり込んで
      山崎豊子作品を片っ端から読んだ時が...
      きのpさん

      さすが読後済みでしたね。
      私めも早くにレビュー読ませていただいてました。
      もうのめり込んで
      山崎豊子作品を片っ端から読んだ時が楽しかったです。
      ここまでの作者は令和に現れますかね。

      もうぐいぐい引っ張られました。
      人間って哀れですね。
      2021/03/25
  • まさか鉄平が自殺するなんて思いもしなくて、衝撃を受けた。
    (これを裏表紙のあらすじに載せる編集者の神経がわからない)
    死で報いてやる! という強い気持ちの自殺なので、鉄平らしいと言えばらしいけど、やっぱりショック。
    ショックというか、シェイクスピアの悲劇のようなあまりにも劇的な展開で、急に現実感が無くなった。

    大介は姑息で粘着質なタイプなので、世間に堂々と顔を出していいタイプのリーダーではない。
    彼は完全に組織のNo.2 が適当のタイプ。
    阪神銀行の頭取で満足しとくべきだったし、その程度の器だった。
    美馬を婿にもらったのが、運のつきだったのかも。
    美馬は、大介を踏み台にして昇りつめていくだろう。

    高須相子は、期待に反して惨めすぎる幕引きだった。
    大介に自ら尊大に別れを叩きつけるかと思ったのに、向こうから別れを切り出されるという屈辱を許した挙げ句、絶対別れないと取り乱して未練たらたらとか あり得ない。
    本当は妻の座と子どもが欲しかったのなら、他にやることあったでしょうに。
    結局なんにも手元に残らないとか、カッコ悪すぎ。
    これもちょっと、芝居がかっているように感じたかな…

    元々 銀行にいいイメージがなかったのが、さらに増した。
    「華麗なる一族」というのは、痛烈な皮肉なのかも。

  • 以下、上中下巻で同じ感想です。

    最近、「近過去」のドキュメンタリーや小説が面白い。
    人間の織りなすドラマの本質は古今東西いつも変わらないのかもしれないが、舞台設定として、いわゆる「ザ・昭和」は実は1950-60年代、すなわち昭和30年代前後であり、もちろん、働き方や家庭生活など今ではありえないようなことも多いが、同時にやっぱりいまだに、ということも多い。そしてテーマとなる政治や経済のトピックが、これまた日本はこの数十年間何をしていたのか、というくらい共通なのである。

    「華麗なる一族」の物語は、行政の手厚い保護と支配の元にあった銀行の経営統合という壮絶な戦いを縦糸に、昭和な家長制と血縁の闇を横軸に進む。

    一番の迫力は、ここで取り交わされるさまざまな会話。一歩間違えれば追い込まれる神経戦の連続。経済に関する記述も非常に正確で、企業乗っ取りといえば流行りものを含めそうとう雑なものも多い中、リアリティは今なお色褪せない。

    スカッとしないことこの上ない読後感ではあるが、だからこその読み応え。

  • ドラマを先に見ており、結末を知っていたのに下巻の怒涛のストーリーは一気読みしてしまった。
    結末のなんとも寒々しい空気感が伝わってくる感じ、流石山崎豊子さんだと感じました。

  • 人の欲望の持つ負のエネルギーを見せて貰いました。自らの野望を遂げるためには、人を人とも思わず、利用価値というフィルターを通した生活を送る万俵大介。誇張されたキャラクターではありますが、怪物感がよく出ていたと思います。それでも、政治の世界が絡むと新銀行の頭取となった大介もいずれは...となる怖い世界。家族内でも長男鉄平の死後、少しずつ変化の兆しが現れ始めたことが救いです。

  • 終わりの始まりって感じで完結!って感じではなく、
    ここからどうなるか…気になる終わり方でした。

    世の中ってこんなふうに動くんだ、
    汚さを見せないように隠して動いていくんだなと
    妙にリアリティたっぷりでした。
    しかも、これはいつの世の中でも変わらないんだろうな…と。
    戦後が舞台とは思えないリアルで、
    70年以上も根本では変わっていないことを突きつけられました。

    ドラマではどんな風に終わるのか、楽しみです。
    今日絶対リアタイしよ…

  • 連載小説ですよね。たくさん出てきた登場人物は活かされず触れられなくなることもしばしば。主人公は鉄平だなぁ。壮絶だな。でも裏表紙のあらすじのネタバレは許しません。何を考えていらっしゃるのでしょう。妹には絶対にあらすじを読まないよう厳命して手渡ました。笑

    大介はたぶん悪役だけど、憎み切れないのだ。というか一番悪いのは万俵敬介では? その他登場人物たちについていろいろ書いてしまうと、
    ⚫︎銀平は作中でもっと逆襲すると思ったわ。
    ⚫︎真樹子とうまくいって欲しかったな。
    ⚫︎相子とそんなにあっさり別れられるものか。
    ⚫︎二子はアメリカでやっていけるのかしら。
    ⚫︎三子は自分で結婚相手を見つけられるのかしら。

    今の都銀にオーナー頭取はいないと思うけれどこんな個性ある経営者がいたら面白いな。

    銀行業界の勉強になった。
    父との話メモ_φ(・_・
    合併すると…
    ⚫︎関係する企業の倒産を防げる
    ⚫︎銀行が潰れると共倒れになる企業がたくさんある
    ⚫︎だから政府は基本的に銀行を潰さない
    ⚫︎でも北海道拓殖銀行は潰した
    ⚫︎弱い方の社員だった方は出世できなくなる


    三菱東京銀行
    三井住友
    みずほ
    あとなんだっけ…

    • きのPさん
      Review読ませて頂きました。
      あらすじネタバレは本当に悪意しか感じませんよね・・・笑
      僕は中巻のあらすじで「熱風炉が爆発するという事故が...
      Review読ませて頂きました。
      あらすじネタバレは本当に悪意しか感じませんよね・・・笑
      僕は中巻のあらすじで「熱風炉が爆発するという事故が・・・」というネタバレを見て以来、本書については一切あらすじを読むことなく読み終えました。
      2020/10/13
    • るりさん
      本当にあらすじは読まないのが賢明ですね。私も気をつけるようにします。(かなり前にいただいたコメントに恐れ入ります)
      本当にあらすじは読まないのが賢明ですね。私も気をつけるようにします。(かなり前にいただいたコメントに恐れ入ります)
      2021/02/14
  • 親父が汚い
    鉄平も良く言えば一本気だけれど、融通のきかなさがすごい。
    多分俺は鉄平は苦手(笑)でも一生懸命に情熱を傾けられるのはとても尊敬できる。
    けれど現実的なのはやはり親父かなあ。
    親父の汚さはあるけれど今の社会を生き抜いてどんどん成長できるのは狡猾な冷静な、そんな人間なのかもしれない。
    理想主義にも感じられる鉄平は今の世を生きていくのは難しいと思う。簡単に騙されそう。難しいね。人間て。

    あとなげえwww

  • 2018年2月25日、読み始め。
    2018年3月10日、読了。

    著者は、1924年生まれ。
    「華麗なる一族」は1970年3月~1972年10月に「週刊新潮」に連載された。
    したがって、著者が46~48歳の頃に書かれた作品になる。

    著者の出身地は、大阪市。
    したがって、この作品の舞台が近畿近辺を舞台にしているのは、その辺りに理由がありそう。

    銀行合併が書かれているが、そのモデルと言われているのが、現在の三井住友銀行のようである。

    ちなみに、三井住友銀行の沿革を見てみると、多くの銀行が合併してきていることがわかる。

  • こんなにも全ての人が不幸な本てあったかなぁ。はぁ、おもしろかった。
    悪者のうえには悪者がいるもんだな。
    後味は悪いけどよくできたストーリー。妻妾同衾が表沙汰になってほしかった。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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