二つの祖国 下巻 (新潮文庫 や 5-21)

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  • Amazon.co.jp ・本 (612ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104218

感想・レビュー・書評

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  • ようやく読了。長かった。
    しかし、いち日本人として、読んでおいて損の無い一作だったことは間違いなし。

    ★3つ、7ポイント半。
    2017.09.18.図。

    ※下巻を読んでる最中に原爆ドームを訪れることになるというタイムリーさに、話の重みが倍増した。

    ※(作中でも記述はあるが)
    東京裁判で散っていった男達の悲運には同情し、散り際の潔さは立派だったと思う。
    しかし、
    例え「戦勝国による報復裁判」であろうと、自分の主張をある程度以上主張出来、家族との別れも済ませ覚悟を決めて死刑台に立つことのできた彼らは・・・・・

    国からの紙見れ一枚で召集され遠い異国で若い命を散らし、妻や子や親元には骨一本も届けられなかった幾千幾万もの命たちと比べれば、やはり数段恵まれていたのだろうと思われる。

    日本の国を守るため、という言い分も分かる。

    しかし、、、ね、、、と。

  • ものすごく難しいテーマ。
    昔は外国人が珍しかったはずだし、日本人って(自分も含むが)知らないものを怖がるというか、率先して受け入れるのが苦手なんですね。
    当時のことは伝聞でしか知らない世代ですが、今はどんどん外国人の方が日本を訪問され、また居住され、同じ職場、同じ学校でともに過ごすことが増えています。
    なのでもっともっと受け入れる度量は大きくなってるだろうなと思います。

    今回のテーマは日系二世が太平洋戦争に突入した時に、アメリカではどんなことが行われ、 また日本においてはどうだったか、どちらの国にいても敵国の人だという風に見られ、自国の人とは差別を受けたのだそうです。

    それでも父なる国、母なる国と双方の国を思い、自身ができる最善解を見つけ出そうと努力する、素敵な日本像が描かれています。

    東京裁判ということも言葉は知っていますが、こんなに長い歳月を掛けて、いろんな言葉に翻訳されて、戦勝国の都合の良い形になっている部分もあるとは思いますが、何とかけじめをつけて戦後復興に踏み出したのだとわかりました。

    日本人としてもっと知っておくべきだと思いますが、なかなか興味を持つのが難しい。私自身も年齢を経てからようやくこの分野に興味を持ちましたし。若い子達にもどうすれば知ってもらえるのだろうか?という部分もありますが、この本なんかは最適ではないかなと思います。
    中学生には早いかもしれませんが、息子にも読ませてみようかな。ー

  • 文句なしの5スター。著者のこの作品に対しての思い入れと狂人な意志には感服する。これを書ききるまでにどれほどの取材に行きと資料を読んだのか計り知れない。
    戦争についての日本側からの太平洋戦争ではなく、日系2世のアメリカ側からの視点の作品。これまでと違った隠された日本人目線。このWW2は日系二世なくては語れないくらいの戦争だったのではないか。

    日本側からの歴史では焦点を当てなかった、俘虜への虐待と戦地住民へのサディスティックなまでの虐殺。
    アメリカは日本の敗戦意志をくみ取ってのハーグ条約違反の2機の原子爆弾後の現実をどうみているのか。日本がオフィシャルに白旗を上げないことを理由として人体実験をしたいがためのあとづけの理由だったのではないか。
    戦勝国が敗戦国を裁く一方的な裁判は的確だったのか。
    そしてその場所での戦勝国からのあからさまなトイレでのracial classification 。
    父なる日本と母なるアメリカの二つの視点だからこそ見える矛盾とやるせなさ。
    日本のトップが導いた戦争という決断がこれほどまでに、関係のないものをフィジカルにそしてメンタルに引きちぎっていく。天皇万歳と最後まで謳った日本のトップたちの天皇神説のような宗教的なにおいが怖くなる。信仰は人を救いもし、人をコントロールもし滅亡もさせる。
    信仰にコントロールされずに自分の意志と考えで行動をあらたまなければ同じことが繰り返されるかもしれない。
    今の平和な日本人に対しての警告と受け止めなければいけない。

  • なんと救いのない。
    そういう歴史があるのだと知らなければならなかった

  • 終戦。
    日本を占領した米軍を中心とする連合軍は
    戦犯を裁く為に東京裁判を開始した。
    それははっきりと復讐裁判であった。
    モニターとして裁判の通訳に関わる事になった主人公は
    またもや二つの祖国の間で激しく苦悩する。
    恋人の被爆、家庭の崩壊、前線で邂逅した弟からの憎悪。
    二つの祖国を愛するがゆえの苦悩が、次第に彼の心を蝕んでいく。

    よき人間であろうとするほどに、苦悩し、追い込まれていく。
    戦争という異常な状況が、人間の醜い心を
    顕わにしていくのだろうか。


    簡単に戦争が悪いとは片付けられない、人間の本質的な
    悪しき心を、作者はじっくりと見つめ、
    描いているような気がする。

    結末は、こうせざるを得なかったのかもしれない。
    重く哀しい物語であった。

  • 日系二世を主人公にした作品

    東京裁判の話が非常に印象的で外国人が日本人の弁護人となり法廷で闘う姿は国家を超えた正義や法の大切さを伝えてくれる

    ラストは最初はうまく理解できなかったし、今でもそう。
    やはり自分は戦争を体験してないし、ましてや二つの祖国の間で苦悩することもない、それを疑似的に体験させてくれるのが本の素晴らしさなのだろう

  • 二つの祖国を持つ日系二世が見た東京裁判とA級戦犯。
    アメリカはその後、強制収容の過ちを認め賠償し、オバマ大統領が原爆ドームを訪問したが、ヒロシマ、ナガサキの公的な謝罪はあったか。
    そして日本の戦後賠償、さらには戦後教育は正しかったか。

    「大地の子」「不毛地帯」を経た上での「二つの祖国」のラストに過去と今を考える。

  • 日系二世の題材は初めて読んだ。
    米国への移住自体が苦労だらけであったはずなのに、太平洋戦争開戦と同時に敵国人、ジャップと罵られて強制収容所へ。収容所内では米国への忠誠を誓うかなどのテスト、それによる待遇の変化、更に戦地での兄弟との遭遇、そして戦後の翻訳員としての苦難。かなりのボリュームの三冊構成であったが、天羽賢治1人の人生を語るにおいて無駄がない作品だった。極東国際軍事裁判の描写も、かなり難解で読み進めるのにかなり時間を要したが、史実に基づき事細かに再現されており当時の裁判がいかに不平等であったかの現実を突きつけられた。
    最後まで息つく暇のないとても濃い1作。

  • ★2.5。
    題材云々はさておき、小説としてあんまり面白くない、率直に言って。
    筋が読めすぎるし、何より書き込みすぎる。読者に想像の余地を与えようとしてない、少なくとも本作では。であれば研究的書籍の方に分があると思います、当方にとっては。小説としていけてないなと。
    あと最後の締めに既視感が。『華麗なる一族』でしたでしょうか?こういう佇まいというか気持ちが好きな作家なんだろうなとは思いました。

  • <下>の物語は太平洋戦争後の日本における「東京裁判」に、ほとんどのページが割かれている。
    東京裁判の詳細は、せいぜいドキュメンタリー番組くらいで、記録を読んだりしたことがないので何とも言えないけれど、太平洋戦争の開戦に至るまでの背景、真珠湾攻撃までのいきさつを考慮しても、各戦場での軍上層部の無謀無策、兵士たちの飢えや苦難、現地の人々への虐待などを思うと、正直、作中の主人公ほど戦時中の指導者たちの責任を割引いて考えることは難しい。その意味では、東条夫人に夫の遺骨を返還すべきかどうか(兵士たちは遺骨を返してもらえることはなく、いまだに多くが野ざらしになっていることと比べると)、という新聞投書の意見に賛同する。
    ただ、戦勝国が敗戦国を裁いた、という構図は、その通りだと思う。戦後を生きる者としては、それを当然のものとして受け入れてしまっているが、そのことについては、一度、疑ってみるべきではないか、とは考える。ことに、そもそもハルノートにおける日本への不公平な煽りや、原爆投下の是非などは、まったく手つかずで検証しないのは問題だ。それは、どちらが正義か、ということではなく、戦争をくり返さないために、だ。そういう意味からすると、この裁判で語られたことが、戦争抑止になっていない、という点では作者の指摘は正しいと感じる。

    この時代を書く以上、広島は避けて通れないだろうが、ABCC(原子爆弾傷害調査委員会)が何をしていたのかは、この本であらためて理解した。日本人は、アメリカ人にとって、あくまでも「実験材料」だったのだろう。
    だが、同様に、日本人にとって、中国人・韓国人は貶めて処して良い存在だった。また、欧米人であっても、捕虜に関する限り、同様に人権を認めていなかった。
    人間として、互いに尊重し合い、こういった負の感情を越えない限り、差別はなくならず、世界の平和と平等は達成できないだろうと思う。

    物語のラストは、こうなるしかなかったのか、との思いがあるが、あとがきによると、実際に東京裁判のモニターは、自殺したり、精神病院へ入院したりと、悲惨な運命を辿ることとなったようだから、作者にはその思いがあったのかもしれない。
    しかし、恋人を失って、生き続けていくことを選べなかった主人公を思うと(もし梛子が生きていたら、賢治はアメリカに帰って記者として記事を書いただろう)、やはり男は脆いな、との思いを抱かずにはいられない。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

山崎豊子の作品

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