沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104270

作品紹介・あらすじ

パキスタン駐在を終えた恩地を待ち受けていたのは、さらなる報復人事だった。イラン、そして路線の就航もないケニアへの赴任。会社は帰国をちらつかせ、降伏を迫る一方で、露骨な差別人事により組合の分断を図っていた。共に闘った同期の友の裏切り。そして、家族との別離-。焦燥感と孤独とが、恩地をしだいに追いつめていく。そんな折、国民航空の旅客機が連続事故を起こす…。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;山崎豊子さんは、小説家です。大阪の老舗昆布店に生まれ、毎日新聞に勤務後、小説を書き始めました。毎日での上司は作家の井上靖氏で、薫陶を受けました。19歳の時に、学徒動員で友人らの死に直面し、「個人を押しつぶす巨大な権力や不条理は許せない」と言っています。社会派小説の巨匠と言われ、権力や組織の裏側に迫るテーマに加え、人間ドラマを織り交ぜた小説は、今でも幅広い世代から支持されています。氏の綿密な取材と膨大な資料に基づく執筆姿勢はあまりにも有名です。「花のれん」で直木賞を受賞後、作家業に専念し、菊池寛賞や毎日文化賞を受賞しています。
    2.本書;3編(アフリカ篇2冊、御巣鷹山編1冊、会長室編2冊)の内のアフリカ篇 下です。主人公の恩地は、航空会社の労働組合委員長として、会社と対峙した結果、カラチからアフリカまでの左遷(報復)人事という非道な仕打ちを受けます。家族との別離、孤独を支えたアフリカ、理不尽な“現代の流刑”に耐える恩地と家族を描いています。この小説のモデルは日本航空です。氏が多数の関係者にインタビューした緻密な小説で、“事実に基き再構築”したと言っています。一方、日本航空経営陣は、この小説に強い不快感を示し、雑誌連載中は日本航空内での当該雑誌の扱いを中止したそうです。
    3.私の個別感想(気に留めた記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
    (1)『第7章 テヘラン』より、「(恩地)組合の委員長として、二期二年職場の不平等を正し、空の安全を守る組合員の為に、公正な賃金を要求しただけではないか。それを会社は“左翼分子” “アカ”のレッテルを貼って、僻地を盥回しにし、今また遠く海を隔てた、アフリカの大地へ押し流そうとしている。まさに流刑に等しい。明らかに会社に楯突く者への見せしめの人事に他ならない」
    ●感想⇒労働組合は、組合員の生活安定の為に、労働条件向上の要求をします。経営者は株主や社員等への責任を果たす為に、会社を永続的存続させる施策を推進しなければなりません。その監視役の一つが労働組合です。労使には会社と社員の持続的成長の為に、真摯な協議と判断が求められます。恩地は労組委員長として、当然の行動をしただけなのに、海外の僻地に盥回しにされるという非道な仕打ちを受けます。そして、「ここまで追い詰める会社に対し、怒りを通り越して、人間の汚さへの絶望を感
    じた」と言います。経営者の中には常識人もいるでしょう。しかし、この会社の経営体質は腐りきっていると思います。労使関係が良好でない会社に未来はありません。真摯に勤める社員を思うと、怒りというよりも情けなさが込みあげるばかりです。
    (2)『第8章ナイロビ』より、「(恩地)命がけでやる仕事の場を与えられた人間が、心底、羨ましかった。人間にとって、やり甲斐のある仕事を与えられないことほど、辛いものはない」
    ●感想⇒やり甲斐ある仕事に携われば、幸せに決まっています。では、やり甲斐ある仕事とは何か?やり甲斐は仕事人の考え方によって、決まってくると思います。職業に良し悪しはありません。どんな仕事でも社会にとって必要性があります。会社は“開発・製造・経理・保安・・・等”貴賤上下なく必要です。全員が協力して、社会貢献しているのです。これこそが仕事のやり甲斐の源なのです。
    (3)『第8章ナイロビ』より、「人命を預かる航空会社の、安全に対する使命感が欠如し、パイロットが不足していることを承知しながら、利益優先の路線拡張を推し進めるその無節操な経営姿勢を、一挙に露呈したのが、ボンベイの誤着陸事故であったのだ。・・・会社側の意を汲んだメンバーだけがホテルに缶詰になって、事故原因の作文を強いられた。組織の中で節を全うする事は難しい。いつかは追い詰められ、最後まで筋を通すためには、自己を犠牲にしなければならない」
    ●感想⇒モノづくりには、“S(安全)Q(品質)C(コスト)D(納期)”が重要であると教えられました。安全が第一に確保されない企業に存在価値はないのです。それでも、軽微な災害隠しは日常茶飯事でしょう。私は、「事実の前には謙虚になれ、隠し事は露見すると多大な損失を被る」と教えられました。この小説の会社は、利益優先の為に、隠蔽工作する体質です。それでは、信用という金銭では買えない財産を失います。顧客は早晩、このような企業を見限るでしょう。
    4.まとめ;主人公の恩地は労働組合の委員長に担ぎ上げられたばかりに、会社から不遇の報復人事を受けます。一方、同志だった副委員長は会社に寝返り出世街道を進みます。言葉がありません。この会社の姿勢は、法的に擁護されている労働組合を潰そうと行動しているのです。これは経営者というよりも体質の問題です。昨今、企業では内部通報制度や風土改革などの体質改革を実施していると聞きます。表面的な対策よりも心の通った施策の推進が望まれます。経営者は、『言うは易く行うは難し』を肝に銘じなければなりません。今にも、山崎さんのペンの怒りが聞こえてくる気がします。( 以 上 )

  • 5巻にて感想。

  • 【感想】
    時代の問題もあるだろうが・・・
    俺には単純に恩地が馬鹿マジメで不器用なだけなのではないか、と思った。
    そしてそれを会社のせいにして、自分は会社の上層部を憎んでいる・・・そんなイメージ。
    能力が高いのはとてもよく分かるが、融通がきかない人間はそりゃ干されるよと言いたくなる。
    そしてその自分の不幸さを家庭に持ち込んでしまっていたら、そりゃ元も子もないわ。

    何はともあれ、ようやく日本に帰る事が出来てよかった。
    しかし、既に3巻も途中まで読んでいる自分としては、日本で更なる不幸が待ち受けている恩地が可哀相でならない・・・

    というか、暗すぎるわこの本!!!!
    たまにはHAPPYな要素も盛り込んでくれよ・・・
    この本を読んだらJALの内定辞退者が続出しそうだな。笑


    【あらすじ】
    パキスタン駐在を終えた恩地を待ち受けていたのは、さらなる報復人事だった。
    イラン、そして路線の就航もないケニアへの赴任。
    会社は帰国をちらつかせ、降伏を迫る一方で、露骨な差別人事により組合の分断を図っていた。

    共に闘った同期の友の裏切り。
    そして、家族との別離――。
    焦燥感と孤独とが、恩地をしだいに追いつめていく。

    そんな折、国民航空の旅客機が連続事故を起こす……。


    【引用】p84
    昔から、ペルシア商人とスムーズにビジネスが出来れば、世界のどこででもやっていけると言われている。
    要は彼らは砂漠の民なんだ。
    一度の出会いで物事が決まり、二度と出会わないから、相手を倒すか、倒されるか、死力を尽くす。
    それがペルシア商人のルーツなんだ。


    p126
    本社人事部長の清水
    6年半前、自分が予算室長であった時、支店勤務から本社予算室へ抜擢した人物が恩地であった。
    清水は、組合の委員長になるのなら取らなかったのにと思いつつも、前委員長の八馬に一方的に推薦され押し付けられた事情を考慮し見守ってきた。

    組合活動をやらなければ、おそらく同期のトップをきって、今頃は予算室の課長になり、将来を嘱望される1人であったであろう。


    p213
    会社が、ナイロビへ放り出した恩地を、立往生させ、金で締め上げて、根を上げるのを待っている事が露骨に読み取れた。


    p248
    アフリカの女王
    「人間が人間を差別する不条理…私はそれ以来、アフリカの部族に対して決して差別意識を持たない事を、心に固く誓ったのです。」


    p362
    ・ハインリヒの法則
    一つの事故が発生した場合、その背景にはインシデント(事件)には至らなかった300のイレギュラティ(異常)があり、さらにその陰には、数千に達する不安全行動と不安全状態が存在する。

    我が社のように事故が続発する場合、日常的に不安全状態が多数存在するものでは?

  • 2019年11月17日、読み始め。
    2019年11月24日、読了。

    労働組合の委員長をやっていたことにより、差別的な人事にあい、海外勤務(パキスタン、イラン、ケニア)に10年近く就いたが、ようやく、日本に帰れることになった。

    そして、いよいよ、第3巻の「御巣鷹山篇」を読み始めます。

    • やまさん
      seiyan36さん
      おはようございます。
      いいね!有難うございます。
      山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」いいですよ、読んで感動とその理不尽...
      seiyan36さん
      おはようございます。
      いいね!有難うございます。
      山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」いいですよ、読んで感動とその理不尽さに怒りました。
      やま
      2019/11/18
  • 幾度と無く会社に裏切られながらも、ある時ある時、恩地に寄り添ってくれる上司や仲間が登場した時の安堵感は大きい。でもそんな人達に限って早く恩地から離れてしまう。

    家族との離れる時間の長さの影響は計り知れない。
    それでも乗り越えて行く恩地を応援しながら読み進めて行くばかりだった。

  •  大企業vs一社員の闘いを描いた全5冊の2巻目。
     本巻は企業の労働組合への報復人事でアフリカに行くことになるまでの流転の経緯とアフリカでの生活、日本帰国までを描く。
     航空業界大手の大企業の内規をも無視した人事には正直驚くが、それに屈して辞めたりすると組合の仲間を裏切ることになるという責任感のもと、全てを受けようとする社員の精神に感服する。その分、家族には計り知れない負担をかけることになり、家族バラバラ(物理的にも精神的にも)の憂き目にも遭いかねない。家族であっても言いたいことが全て言えるわけではなく、相手のことを考え、言いたいことでも言えないもどかしさのようなものも伺える。
     また、利益追求を目指す余り、航空事故が相次ぎ、その中にあって尚なんとか責任を逃れようとする企業上層部の体質も浮き彫りになってくる。あまり公にされることのなかった企業体質が事故の報道を受け、徐々に白日のもとに晒されていく。そういうことがあってからでしか、本質を知ることのできないもどかしさも感じてしまう。

  • 大手航空会社に勤務するオンチ君が主人公で、「善人」のモデルとなっています。全5巻にわたって、善をまっとうすることが1つのテーマであり、テーゼになっています。オンチ君の反対のモデルがギョウテン君で、企業・社会を上手く生きていくために、正義を見てみぬふりをしたり、不正を行ったりします。こちらが大勢だったりもします。

  •  恩地が去ってからの本社には、会社の御用組合である第二労働組合ができる。
     第二労働組合は第一労働組合から人員を引き抜いた為、第一組合へ残る組合員はわずかな人員となった。
     恩地が後を託した第一組合の委員長の沢泉からの郵便メールで、現在の第一組合の実情を知らされる。
     かつての労働組合の幹部は劣悪な環境の売却資材倉庫や資料管理室へ追いやられた。第二組合に移籍しない、第一組合員は、第二組合の人間の監視のもと、支店に日がな一日椅子に座らせられて、無為に過ごすことを強制されていた。
     話を聞かされた恩地は憤り、本社への不当人事に対抗する憤りを募らせた。

     パキスタンからイラン、そしてケニアへと、僻地をたらい回しにされた恩地は次第に心が荒んでいく。
     恩地は週末のみのサラリーハンターとして、アフリカの地で、獣を狩る日々に、なんとか心のバランスを保っていた。
     そんななか、沢泉からの連絡で、僅か五ヶ月の間に三度もの事故を起こす国民航空の現状を知らされる。
     128人の乗客の命を失う連続事故を起こしたにもかかわらず、本社の運行管理者は横滑りの人事交代のみで、その無責任体制は続いていた。
     事故をきっかけに国会で、衆議院交通安全対策委員会が開かれた。
     これにより、国民航空の労働規約違反が白日のもとにさらされ、恩地はようやく日本への帰還ができることと成った。

     恩地を、しぶしぶ日本へ戻すことに同意した労務部長の八馬忠次、副社長の堂本信介は、帰ってくる恩地に対する処遇を巡らした。

     日本へ帰れることに成った恩地の荒んだ心は晴れ、家族のもとへ帰れるという希望を持った。

     沢泉委員長が国会で、不当人事の状況を説明し、恩地への報復人事を証言する場面は、読んでいて心がスッとした。
     三度もの連続航空機事故を起こしながら、変わらない本社役員の体質に憤りを感じつつ、あの稀に見る、御巣鷹山への航空機墜落事故の大惨事へと繋がっていく。
    次巻へとつづく。

  • 恩地と関わった人たちのサイドストーリーも面白い。相変わらず八馬が憎たらしいけれど、いつか大逆転があると信じて次を読みます。

  • ちょっと自業自得だよなと思いながらも、物事をよくしようとする恩地のパワーはすごいなあと思った。それと同時に今では考えられないような労働条件があったことを痛感した。
    そう考えると、この時代に生まれてきた自分はラッキーなのかな。それとも未来はもっとホワイトな会社で溢れているのだろうか。
    この時代に戦ってくれた全ての労働者に感謝

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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