沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104300

作品紹介・あらすじ

会長室の調査により、次々と明るみに出る不正と乱脈。国民航空は、いまや人の貌をした魑魅魍魎に食いつくされつつあった。会長の国見と恩地はひるまず闘いをつづけるが、政・官・財が癒着する利権の闇は、あまりに深く巧妙に張りめぐらされていた。不正疑惑は閣議決定により闇に葬られ、国見は突如更迭される-。勇気とは、そして良心とは何かを問う壮大なドラマ、いよいよ完結へ!。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;山崎氏は小説家。大阪の老舗昆布店に生まれ、毎日新聞に勤務後、小説を書き始めました。上司は作家の井上靖氏で、薫陶を受けました。19歳の時、学徒動員で友人らの死に直面。「個人を押しつぶす巨大な権力や不条理は許せない」と言っています。社会派小説の巨匠と言われ、権力や組織の裏に迫るテーマに加え、人間ドラマを織り交ぜた小説は、今でも幅広い世代から支持されています。綿密な取材と膨大な資料に基づく執筆姿勢には定評があります。
    2.本書;国民航空の労組委員長だった恩地(主人公)を通して、人命に係る航空会社の倫理観を問う社会派作品。恩地は会長室の部長に抜擢され、改革を進める。会社の腐敗構造が暴かれるという企業の暗部に迫る最終巻。山崎氏は、「御巣鷹山墜落事故の後も、ドルの十年先物予約を続け、膨大な為替差損を出しながら、閣議決定によって、経営責任を問わずという政治決着をつけた事は、企業倫理の欠如であり、事故に対する贖罪の意識の希薄さは言語に絶する」と結ぶ。
    3.私の個別感想(心に残った記述を3点に絞り、私見と共に記述);
    (1)『第9章 流星』より、「(和光監査役)無責任体質と派閥人事が横行している社内では、良心に基いて、監査を行う事は、非常に勇気がいる事であった。・・(そこで)“五シンの戒め”を自らの言葉で記し、座右銘とした。『①私心を捨てる ②保身を捨て使命に生きる ③邪心を捨てる ④野心を捨てる ⑤慢心を捨てる』、この“五シンの戒め”をもって、公正に職務を行おうとすると、周囲からそれとなく疎外され、孤立して、会社が抱えている重大な問題が真剣に議論されることはなかった」
    ●感想⇒監査役の役目は、会社が法令違反をしないように監視する事です。和光は“生え抜き”であり、監査役と言っても周囲の甘え(仲間意識)を払拭出来なかったと思います。日本の監査役は、“ポスト枠で役員になれない者”或いは“退任役員の褒美”という性格がありました。私が知る会社も、現在でもそうした慣習が続いていると聞きます。ここで言う、“五シンの戒め(①私心を捨てる・・)”は、非常に立派な考え方ですが、実践できる人はそれ程いないでしょう。従って、組織という人間集団で、目的を達成するには、根回しも必要です。自分で見えていない独り善がりでは賛同を得られません。
    (2)『第10章 射る』より、「(主人公の恩地)日夜、骨身を削って再建に取り組んでおられる会長と、新設された会長室の在り方を、よくもここまで貶める事が出来るものです、『日本ジャーナル』という一応、硬派の雑誌の、しかも、記者の真面目な取材態度を信じた私の不明です。川田室長が直ちに、次週分の掲載中止を申し入れております、それにしても、ここまで意図的な記事になるのは、社内の一部派閥と、マスコミが繋がっている証拠に他なりません」
    ●感想⇒私は、マスコミをあまり信用していません。興味をそそる雑誌記事、テレビのワイドショー等は、その典型です。10年程前に、厚生労働省の女性局長逮捕の事件がありました。マスコミは挙って検察の筋書に乗り、彼女を犯人扱いしました。その後、主任検事の不正が暴露されるなど、無実が確定しました。逮捕当時は各社とも局長の不正関与を大きく報じたのに、無実後は鳴りを潜めました。ミスジャッジはあるとは言え、捜査を疑問視する視点がかけていたと言わざるを得ません。マスコミ記事を公正に判断する為に、多角的な分析力を養い、冷静な眼で見たいものです。思い込みは危険です。
    (3)『あとがき』より、「多くの人の生命を預かり、何よりも人間愛を優先しなければならぬ航空会社であるからには、その非情さは許されない事であり、人間性の破壊である。この人間的な要素が複雑に絡み合って、事故を引き起しやすい素地に繋がっている」
    ●感想⇒会社を評価する時に、財務数値に眼がゆきがちです。企業の使命は、関係者(社員・株主・国家・地域社会・・)への貢献です。社会の公器なのですから、もっと多面的に定性的なモノサシでも測るべきです。そこで、会社を統率する経営者の資質は重要になります。経営者と言えども、所詮人間なので欲望もあるでしょう。しかし、前述の“五シンの戒め”をもって、役割に徹し、会社の存在価値を問い続けなければなりません。企業存続の条件は、財務でもなければ、品質・技術でもありません。お客様と社員の安全確保である事を、経営者は肝に銘ずる事です。命は何にも替え難いのですから。
    4.まとめ;「沈まぬ太陽」全五巻の最終コメントです。読み応えがありました。第三巻「御巣鷹山篇」は涙無くして読めない程、胸を打たれました。山崎氏はあくまでも「フィクション」と言っています。それなのに、この作品の週刊誌への連載・映画化に対し、日本航空経営陣が強い不快感を示し、雑誌連載中は日本航空機内での、この週刊誌の扱いを取りやめていました。“火の無い所に煙は立たぬ”と言います。大人げない対応ですね。日本航空の浄化を期待します。山崎氏の言葉、「今回は非常に勇気と忍耐のいる仕事であったが、その許されざる不条理に立ち向かい、それを書き遺す事は、現在を生きる作家の使命だと思った」に感銘。後世まで読み継がれて欲しいと願います。(以上)

    • shukawabestさん
      shukawabestです。夜分遅くにすみません。僕もこの作品は3度ほど読みました。映画も観ました。素晴らしい作品だと思います。山崎豊子さん...
      shukawabestです。夜分遅くにすみません。僕もこの作品は3度ほど読みました。映画も観ました。素晴らしい作品だと思います。山崎豊子さんの執念と、主人公・恩地さんの無私の人柄と行動に畏敬の念を禁じ得ません。
      数年前に読んだきり、細部は忘れてしまっているので、またいつかぜひ読み返し、レビューを書いてみたいと思います。
      未読の「重力ピエロ」とともに、レビューを打っている自分を想像しワクワクします。

      今回はありがとうございます。
      2022/04/29
    • ダイちゃんさん
      shukawabestさん、“いいね&コメント”、ありがとうございました。私は労組関係の仕事をした経験があり、想像を絶する内容に驚きました。...
      shukawabestさん、“いいね&コメント”、ありがとうございました。私は労組関係の仕事をした経験があり、想像を絶する内容に驚きました。権力に屈しない、山崎さんのような書き手を失い残念です。shukawabestさんのコメントは励みになります。今後もよろしくお願いいたします。
      2022/04/29
  • 沈まぬ太陽を読んで。

     生きること、働くこと、誠実でいること。
     何にも背かず、自分の正義を貫いた人が、なぜ周りの人よりも苦労をしなければならないのか。なぜ日陰に隠されてしまうのか。
     山崎豊子さんの本で、初めて手にした「沈まぬ太陽」は、自分に「生きることの難しさ」と、「耐え難い仕打ちに耐えることの意義」を教えてくれました。
     自分に非のないつもりで生きていても、邪魔者と思われる。その誠実さが邪魔、優しさが邪魔、正義感が邪魔なのだ、と。社会に蔓延る無念の陰性感情は、輝かしく、引力の強い人に向けられる。それを跳ね除ける強さを、主人公はどのように湧き出していたのだろう。
     自分の人生を、人並みに謳歌することは、許されたものだけの特権であろうか。
     私は、私の、私だけの人生と命を、運命から見限られるまで、生きていこうと、強く思った作品だった。

  • はぁ、、読み終えた。振り返ろ〜。
    古書店で5冊セットが格安だったため、有名よなコレ〜と軽く買って見たがどハマりしてしまった、、

    ⑴⑵とアフリカ編。
    壮大な自然と恩地の不遇に耐えながらも突き進む強さ。

    ⑶御巣鷹山編。
    予備知識入れず手にし、御巣鷹、おすたか?ん??聞いた事あるね、、?あの飛行機事故か、、、?!と読み進める。
    それまでに飛行機事故が多発してたストーリーの後であり、御巣鷹事故そのままのストーリーなの!?この作品フィクション!?ノンフィクション!?と困惑しながら読めば読むほど、この内容の緻密さや臨場感!?は作り話な訳がない!リアルな過去の事故はきっとこのままの状況だったんだろうなぁ、、と遺族や関係者の辛さや本音、さらには航空会社の人間もまたそれぞれ、辛い立場の中遺族に寄り添うもの、亡くなった機長や乗員の立場を理解する仲間、それに反して遺族に寄り添う気持ちの無い心無い経営陣の姿が頭を駆け巡った。

    ⑷⑸会長室編。
    腐った航空会社にまさかの救世主現る!国見会長の人柄、存在にはほんと我が事のように嬉しくて恩地の立場を考えると救われる思いだった。それでも腐りきり過ぎた会社、利権政治、自分の利益しか考えない飽きれるほどのひどい人間が多すぎる事に驚愕。
    少しずつその悪行の真相を掴みながらも揉み消されさらに窮地に立たされる国見と恩地だがその純粋さには応援したいと思わざるを得ない魅力が溢れる。
    ⑸の半分ほどを読み、まだドタバタしまくっているのに、残りのページ分でどれだけの展開があり、まとめあがっているのだろうと言う楽しみと読み終えてしまう寂しさで終わって欲しくない思いが交差した。

    読み終えてしまいました(笑)

    私は今までに良い出会いもあり良くない出会いもそりゃあった。良い出会いを引き寄せるためには自分を磨くのが1番の近道なのかもな、、と。恩地や国見、志方、他魅力的な登場人物を思うと芯のない私はまだまだ磨かねばならぬなとこの歳になって気付かされたのでありました。

  • 沈まぬ太陽(一)~(五)を読んで

     航空会社の理不尽極まりない体制の中、一社員として立ち向かっていく主人公:恩地元の生き様が心を打つ物語。度重なる屈辱を受け続けた彼は自分の信念に対し、常に真っすぐであった。

     労働組合委員長時代は、従業員の為に会社へ向かって真っ向からぶつかっていった。
     カラチ、テヘラン、ナイロビという僻地での屈辱的な勤務にも屈することがなかった。むしろ、この地でできることを自ら考えて行動に移した。
     ご遺族係に任命された時、彼はご家族に対して真摯に向き合い、労いの言葉をかけ続けた。

     彼は組合長時代にストを決行してから、ずっとアカというレッテルを貼り付けられた。彼を邪魔者扱いする人々からすさまじく残酷な扱いを受け続けた。

     しかし、彼を慕っていた数々の人達がいた。旧労働組合の人々。ご遺族の方。会長の国見。妻のりつ子。彼には信頼という大きな宝物があった。どんなに大金を積んでも決して買うことができないかけがえのないものだと思う。真っすぐな信念には必ず共感してくれる人がいる。と温かいものがこみ上げてきた。

     恩地が出張先で訪れたニューヨークの動物園で目にした「鏡の間」。その鏡に移る人間こそ、この地球上で最も危険で獰猛な動物である。この場面は痛烈であった。複雑で理不尽な人間社会の核心をついたものだと強く心に刻まれた。

     著書を読んで、組織というものがさらに恐ろしくなった。数名の富と名誉の為に大多数の人間が犠牲となる慣習。現代でも尚、その様な組織が多数存在するであろう。
     しかし、互いの地位とお金の為に繋がる人間関係には、心が通う温かさは存在しない。これだけは間違いないと思う。

  • 最後の大逆転を信じて読みましたが、国民航空は相変わらず腐ったままで、行天など少しは制裁が下りましたが、全然足りないと思いました。
    恩地はまたアフリカだし、、こんなに長い話なのに欲求不満って感じです。よく言えばリアル過ぎです。

  •  組織の膿をを出し切るのは、かくも難しいものであることを痛感させられる。不正が不正と言えない会社体質、自身の保身と出世しか考えない役員の姿勢には呆れてものも言えない。
     自分の意見は認められず、会社に振り回され続ける主人公の精神力はどこから来るのだろうか。会社からコケにされても会社のために尽くそうとする。確かに辞めてしまえば会社の思惑通りだろうが、ここまでされても勤め続ける意志にはある種の恐ろしささえ感じる。こうした意志は現代では通用しないのかもしれないが、こういう気骨のある人がいるから会社として存在し続けていられるのだろうとも思う。そうでなければ、会社は潰れてしまいかねない。この作品のタイトル「沈まぬ太陽」には、そうした人達への思いも込められているのだろうかと思えてくる。
     本作は小説ではあるが、描写があまりに細かくほぼノンフィクションのように感じる。3篇5巻の大作である。

  • こんなに感情が相当揺さぶられた小説はありませんでした。腐敗に対する怒りと報われない主人公への同情。いい意味で疲れ果てました。
    願わくば、もう少し復讐劇が欲しかったです。あまりにも苦労が長すぎませんか?最後の最後まで…。

  • 10年くらい前に買ってずっと読めていなかった。自分の今後を考えている中で、ふと目に留まり読み始めた。主人公が労組で社長と戦っていた年齢が今の自分と同じくらいだと思うと、すごいなと思ってしまう。海外僻地をたらい回しされながらも自分の芯を曲げずに生きていく強さと苦労を感じる。会長の真摯さに感動したが、それでも清廉さだけだと生き残れない世の中のつらさ。
    日航の墜落事故は今でも話題になるし、日本人の記憶に刷り込まれているが、悲惨さや現場の状況だったりは全く知らなかった。かなり生々しく描写されている。
    悪知恵を働かせ暗躍する上席者たちを見ていると、倫理観欠如はやばいが、ある意味思考停止せず生きていると言う点は見習うところがある。政治家、マスコミ、とことん根回しをして、不可能を可能にする、白を黒にするためあの手この手を使う強さは見習うところかなと。

  • 辛さのあまり、安易にパッピーエンドを求めた自分がばかだった。

  • 5冊に渡った沈まぬ太陽の最終巻。

    総理大臣の依頼で責任者になった国見会長と、会長室部長の恩地さん、
    その他利権に目がくらんだ人たちの人間模様が展開されます。

    もうどんどん状況は悪化していく感じが、非常にスリリングでした。
    最後どうなるのかと思ったら、総理大臣自体が利権を行使して、
    国見会長を更迭し、その後恩地さん自身も再び海外に飛ばされるという始末。。。

    もう最悪としか言えない中、命を懸けて発信した社員の告発で、
    いよいよ様々な利権に司法のメスが入りそうな部分で、
    本作は終わります。

    一網打尽にされて、すっきり終わってほしい気もしましたが、
    最後まで追い詰められても本当に沈まない恩地さんに関心します。

    恩地さん自身が国民航空の太陽なんだということが最後まで読んで
    改めて伝わってきました。

    フィクションとノンフィクションの融合の小説なので、
    リアリティが最後までありすぎでしたが、傑作だと思いました。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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