二つの祖国(一) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104454

感想・レビュー・書評

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  • 日米開戦後、本編の主人公の邦字新聞の記者である天羽賢治はFBIに連行され、スパイ容疑で留置所へ入れられる。
    そして、アリゾナ砂漠の収容所へ送られる。
    砂漠の収容所から釈放され、ロスアンゼルスの家に帰ると家族は強制退去されていた。
    家財道具一切を二束三文で売り、一人2つまでのスーツケースの所持を許可されて、家族が移動させられたのは、競馬場の馬小屋だった。
    床にタールを撒いた、馬糞の付いた臭くて不潔な馬小屋に何千人もの日系人が、押し込められた。
    一週間に1回のみ、馬小屋の馬を洗うシャワーを使用することを許された。不潔な場所で、日系人達は、家畜の牛馬の扱いだった。
    しばらくして、千五百名の日系人はマンザナールの砂漠の中に建設されたバラックのマンザナー強制収容所へ入れられた。

    ※以下、ウイキペディアより。
    1942年2月19日にフランクリン・ルーズベルト大統領が発した大統領令9066号によって翌3月に開設された。マンザナー収容所は最大時には10,046名を収容し、収容された総数は合計で11,070名となった。

    アンケートや天皇の写真を踏み絵にしたり、日系人は各個人の米国への忠誠心を試される。親兄弟妻子間で意見が別れ、家族の絆の崩壊を招いた。
    同じ二世の賢治の弟の忠は、人種差別の米国に嫌気がさして、戦争前に日本へ帰属した。
    かつて、日本に留学していた賢治は、祖国日本と米国人としての自分との葛藤に悩む。

    戦前・戦時中と、相当な迫害を受けて来た日系人の心の有り様が、本作を読んで初めて分かった。
    日系人は人種差別を受けながら、そうではない白人もいるというエピソードが救いだった。
    物語は、更に続く日系人の苦難の道へ。
    二巻へ、つづく。

  • 山崎豊子の人間に対する深い洞察や徹底した取材には、彼女の作品を読むたびに、驚嘆の念を新たにせずには
    入られない。
    当時の日系人の皆さんが苦難を忍ばれ、我慢を重ねて来られたことに思いをはせた。
    偶然だが本書読中にドラマが放映され視聴したこともあって、深く印象に残る一冊になった。

    • pinoko003さん
      ドラマが結構原作に忠実で驚きました。好きな小説です。
      ドラマが結構原作に忠実で驚きました。好きな小説です。
      2023/05/06
  • 日本の真珠湾攻撃から太平洋戦争が始まり、アメリカに住む日系二世天羽賢治らの周囲に大きな波が起こり始めた。

    ドラマを見て、さらに深く知りたくなり、原作を手に取りました。
    ドラマは原作にかなり忠実でした。

    日系人にとって、父祖の国と今住む国との戦いという悲劇がどんな不幸なことなのか、恥ずかしながら数年前まで知らずにいました。ナチスのユダヤ人迫害にも次ぐような事実に驚かされます。


    「父祖の国日本に殉じるような生き方をするもの
    アメリカ人として生きようとするもの
    絶えず日系二世としてのアイデンティティを模索し苦悩しながら生きるもの」

    一世と違い日系二世だからこその苦悩。
    一巻は賢治がマンザナール収容所を出るところで終わりです。
    続けて二巻を読みます。

  • 新版になったので、こちらも登録。今度は4分冊です。

    ロサンゼルスの邦字新聞『加州新報』の記者天羽賢治、ケーン。
    彼とその家族の運命を通し、真珠湾攻撃、ヒロシマ、東京裁判と
    太平洋戦争の荒波の中で身も心も切り裂かれながらも、
    愛と祖国を求め続けた日系人の悲劇を描いた感動巨編。

    山崎豊子を読むのは沈まぬ太陽以来2作目。
    例によって、本屋で平積みになっていたので、
    何気なく買っただけでしたが、またしても
    山崎豊子の世界に引き込まれました。

    父祖の国日本に対する誇り、そしてアメリカで生まれた
    ものとして、自由の国アメリカに対する誇り。
    二つの祖国に対する誇りの中で葛藤していく賢治。
    そして、正義を貫けば貫くほど回りには理解されない
    このジレンマ。

    先の戦争の中で、多くの人々が苦しみを味わいましたが、
    彼らほど数奇な運命をたどった人もいないでしょう。

    今まであまり詳しく知ることのなかった、フィリピンでの
    激戦の様子や東京裁判のことについても、彼女ならではの
    記述で詳細に知ることが出来ました。
    日経新聞で東京裁判の検証が特集記事になっていましたが、
    こっちのほうがその裏の人々の心情まで描かれていて、
    その場の雰囲気を感じることが出来ます。

    ちょうどこの本を読み終えたとき、靖国神社の
    すぐ近くで結婚式でした。翌日、なぜだか靖国参拝
    したいという気持ちになりました。

    それは二つの祖国の間に挟まれながらその人生を
    送った賢治の忠魂の気持ちなのか、激戦の中で
    日本の勝利のために命を捧げて逝った日本兵のことを
    思ってなのか、はたまた、勝者の裁きによって、
    死刑となったA級戦犯のことを思ってなのかは
    自分でもよく分かっていません。

    ただ一つ確かなのは、人々をこうやって引き裂いてしまった
    戦争を繰り返してはいけないんだというその祈りを
    捧げたい。そんな気持ちが芽生えたということだと思います。

    今また戦争歴史観が話題となっていますが、
    結果的には、アジア諸国に対して日本が侵略行為と
    取られる行為を行ったというのは覆しようのない事実です。
    しかしながら、その時々を生きた人たちにとって、
    自分の立場でそれぞれが正義だと信じる路を歩んだんだと
    思っています。
    国家のレベルと個人のレベルでは分けて論じるべきかと。

    http://teddy.blog.so-net.ne.jp/2008-11-02

  • またまた山崎豊子。
    すきやわ~。

    二つの祖国は、太平洋戦争時代のアメリカでの日系2世のお話し。
    敵国アメリカでの日本人の扱い・・・。
    戦地でなくとも、戦争の非人道的な側面が浮き彫りになっています。

  • アメリカと日本、二つの祖国を持つ日系二世が主人公の物語。
    大平洋戦時下、アメリカに暮らす日系人は皆、日系人であるというだけで、自由を奪われ、非人道的な耐え難い苦難にさらされていたという事実をどれだけの人が知っているのだろうか。
    少なくとも、恥ずかしながら、私自身は、小中学校の歴史の授業でそのことは学んでこなかった。
    この物語では、日系二世である主人公をはじめ、その家族、周りの人々皆がそれぞれ、この困難の中、苦渋に満ちた決断をし、必死で生きていく姿が描かれている。まだその物語は始まったばかり…

    昨年末観にいった映画"永遠のゼロ"、つい先日読了したばかりの"小さいおうち"、そして、毎朝楽しみにしている朝ドラ"ごちそうさん"そのどれも、時代背景は、同じ大平洋戦時下。
    うまく言えないのだけれど、国と国が争い、勝った負けたの事実はあれど、現代に生きる私たちはそのことばかりクローズアップしてはいけないと思うし、買った国負けた国、そのどちらが正しくどちらが間違っているなどと決して白黒つけてはいけないのではないかと思う。

    第一巻でとても心に残ったオーソン相川の言葉。
    「…この私だって、人は二世のトップというが、心の中は理不尽な差別と偏見でずたずたに傷ついている、…われわれ二世は、苦悩する世代なのだ、だからといって、役に立つことが出来る者が、収容所の中でただ漫然と過ごしていていいものだろうか…」
    そして、主人公天羽賢治が、アメリカの陸軍情報部の日本語学校の教官になることを、親子の縁を切ってまで、苦渋の上決断した心の内。
    「…日米戦争という歴史の歯車の中で、帰米二世として果たすべき何かを自ら模索していたからだ…」

    大平洋戦争という時代を生き抜いた、多くの人々の生き様を、私はまだまだ知りたいと思う。

  • 名作

  • 山崎豊子作品の戦争シリーズ第二弾。
    太平洋戦争におけるアメリカ在住の日系二世が主人公。
    1巻では、真珠湾攻撃から始まった戦争において、アメリカ在住の全ての日本人が収容所に入れられるところから始まる。

    ハワイでは日系人は少数派ではなかったため、それほど冷遇されなかったらしいが、本土では酷い扱いを受けたのは歴史的事実らしい。
    そして、日系人の中でも、アメリカのために忠誠を尽くそうとする者と、あくまでも日本民族としての誇りを捨てずに生きていこうとする者(アメリカ政府と対立して兵役にもつかない)とが対立する。
    主人公は、どちらにも属せず、あくまで日本人として誇りを捨てずに生きることがアメリカのためにもなるという信念のもとに行動する。
    そんな行動は、両派から理解されずに時には両派から疎まれることもある。

    そして、この戦争を早く終わらせることが両国の国益になると考え、日本の暗号解読を担う軍人になる。

  • やっぱり戦争のテーマは考えるところが多い。父 乙七と意見の違う賢治。賢治はなぜ、日本語教官になる選択肢しかなかったのに、自分の意志で米軍に協力すると父に伝えたのか。自分が置かれた立場への決意であろうが、父は受け入れ難い。本当のことを話しても決して分かり合えないと知っていたからかもしれない。この後、この父と子は分かり合う未来があるのだろうか。

  • 山崎豊子ワールドはやっぱり面白いなあ。ドラマを見たことあるけど、ドラマではとても描ききれない濃厚さがある。まだ三冊もこの世界に浸れるかと思うと嬉しさしかない。

著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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