おそらく最初に読んだ関川夏央の本。この本で注目するようになった。
当時私は社会人になったばかり、関川夏央は35~37歳。その年齢の自分がどうなっているかを想像して読んだような気がする。執筆当事の著者の年齢をはるかに超えた今、読み直してみる。
大衆食堂小景
・日曜日の都心近い住宅街は閑散としている。とくに麹町、番町あたりはひとも車も往来が絶え、風の吹く日には街路樹の葉ずれの音しか聞こえない。
白人に大衆食堂の女の子が言う。
「ポークジンジャーなんかグッドですよ。チープでデリシャス。アイ・サポウズ」
著者は書く。
この アイ・サポウズにはしびれた。
駒が勇めば花が散る
・桜のはらはらと散る頃、千鳥が淵を歩いた。花々はあたたかな闇の中でほの白く、土にはしみこんだ酒のにおいがした。
桜の季節の千鳥が淵を女性と歩く筆者。日本にあって外国にないものについての会話。
異形の近代
・済州島へ旅行した。
旅先で観察する日本人の観察と、ある地域に旅する日本人のパンチパーマ率の高さ。
アンカレジ空港の自己嫌悪
・何年ぶりかでヨーロッパ便へ乗った。
世界一高くてまずいと著者が言う、アンカレジ空港待合室のうどんの話。
1985年の「阿佐ヶ谷気分」
・深夜の阿佐ヶ谷をオートバイで通ることがよくある。
中央線沿線に漂う貧乏臭さと、それを体現した店に関する記憶。
悪口の研究
・「朝日ジャーナル」八五年七月十九日号でひさびさに雑誌的楽しさを味わった。
今は亡き朝日ジャーナルの読者は悪口の技術に大いに熟達するであろうとの考察。
「坊ちゃん」の悲しみ
坊ちゃんは柳沢慎吾のような役者に演じられるべきだろう。となれば赤シャツは北野武である。
というのは慧眼と思う。
一九七三年のストライキ
「雑誌」に「おける」「プロ」の「仕事」とは「なに」「か」
週間S潮 の 黒い報告書 を書いた人に関する考察。
一売文業者の経済感覚と労働組合的友情
年うえの友人、サトシくんのことを書こう。
ひとが価値を把握できる金額は年収の十倍が限度
新崎サトシ氏(筆名・呉智英氏)とは関係ありません
カズヒロくんとカツヒコさんて誰だろう。
ロイヤルホストの愛
有名人接近遭遇自慢
有名人との接近遭遇自慢をしていたら、隣に岡林信康がいた話。
あるミステリー作家の思い出
小泉喜美子の思い出。SFマガジンか奇想天外で1作だけ読んだキオクガアルガ、タイトルも内容も覚えていない。
演題「蛇蝎」論
ひと握りの乾いた砂
著者の中学時代の同級生13名が集まったら、
子供の数は11人、配偶者を含めると22人の大人が11名の子供を
生産したという事で、少子化の実体験レポートと言えようか。
これは1985年の話。
今年(2013年)私の学生時代のよく会う同級生は7名、配偶者を入れると12名、子供の数は4名。少子化は確実に進んでいる。
別の集まりでは大人4名、子供0名である。
ハレー彗星回帰雑感
荒畑寒村、管野スガ、幸徳秋水達のエピソードをまじえ、前回のハレー彗星接近時の出来事として大逆事件を語る。74年後(1986年)頃に書かれた文章だが、私自身はこの回帰時のニュースが全く記憶にない。あまり見えなかったそうだが、就職して間もないころでそれどころではなかったのかもしれない。
リオ・デ・ジャネイロの二月
子供にピストルを突きつけられ、カメラを奪われた友人の話。
「こわさも感じないうちに殺されちゃうということだよね」
”同棲時代”の虚と実
上村さんのことを書いてもいいか、と尋ねると担当編集者は苦い顔をした。
それでも上村さんのことはここに書いておきたかった。
筆者原作、上村一夫作画の 「ヘイ!マスター」また読みたくなった。
映画の貧困、あるいは貧困の映画
キネカ大森と「白い街」と「それから」の話。こういう映画のけなし方は悪くないと思う。
鏡の中の日本人
いじめで自殺した中学生が残した漫画について。
渡辺和博のマルキン、マルビってこの頃だったか。
あのひとたちの意見
さびしいひとびと
美しかるべき五月
あなたはチャンタだと思ったのに という部分が非常に印象に残っている。栗木京子の短歌で締めくくり。
なんに対して恥じようか
「日本人として恥ずかしい」という言葉は、日本人として「何に」恥じているのかについての考察。
シングルライフ・イン・トキオ
サランラップの下の弱肉強食
誰もが選挙は好きだけど
だってあたし朝鮮人だもの。
この本ではじめて選挙権の事かんがえたような記憶がある。
九月になっても
八月にはときどき焦燥に駆られる。夏がうろうろしている自分を置き去りに行って走って言ってしまう気がする。
この感覚すごくわかる。私の場合、毎週日曜の夜にこれを感じる。
彼女のオートバイ、彼のヒマ
「洋食」をなつかしむ(1)
「洋食」をなつかしむ(1)
ネコたちの合唱
レンタネコって映画があったがこちらが先だったか。
隠れ煙草の思想
「権」の名のもとに自分を疑わない「正義」の顔がある。
杉山登志とその時代
原稿屋稼業
この年になるとさ、古寺の池のような静かな心で生きたいだけなんだよ。
上からの眺め
スローな走りにしてくれ
夜更けに届く手紙
どれもがよさそうに見え、どれにも騙されそうに思う。
東京オリンピック
ぼくのきぼうをかきます
無用のもの
三十八回目の溜息
年齢と一年の相対化。
愚者の哄笑
春の日の花と輝く
誰がためにベルは鳴る
汽車は走る、感傷は風に散る
「僕本月本日を以って目出度死去致候」
人間、長く生きればいいというものでもない。
グラスに溶かした思い出
おわりに
解説 池内 紀