- Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101109138
感想・レビュー・書評
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同じ教団に所属する者として戦慄したのは、本作によってではなく、当時の週刊誌のインタビューに載ったある女性作家のコメントである。
司祭による殺人(容疑)というセンセーショナルな事件に対し、この作家は以下のように述べている。
「神父様の瞳をご覧になって下さい。澄み切った美しい瞳です。決して人を殺せるような方の目ではありません」
ベルメルシュ神父(作中ではトルベッキ神父)は2009年時点でカナダの地元の名士として存命中であった。この事件についてはノーコメントを通し、死者への哀悼のことばはなかったと聞く。
なお本事件に関し、日本のサレジオ会(作中ではバジリオ会)でも真相を曖昧にした当時の教会当局のあり方を批判する声があることは明記しておきたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おもろいテーマだった
キリスト教の裏側、新興宗教がテーマの本をもっと読んでみたい -
「黒革の手帳」が本気で何が面白いのか分からなかったので、僕のなかで松本清張は火曜サスペンス劇場の人ぐらいのポジションになってしまっていたのですが、この「黒い福音」はよかった。
そもそも僕は、吉村昭作品のようなノンフィクション小説が好きで、本を読み終わったあとは「現実すげー」とアホ面で元ネタの事件について色々調べたりして賢くなった気になっているわけですから、同じく現実に起きた事件を下敷きにしたこの「黒い福音」が面白くないはずはなかったのでした。
しかしこの作品のすごいのは、吉村昭小説では出来る限り事実に即して物語が描かれるのに対し、犯人が結局捕まっていない殺人事件の犯人の行動を全部書いてしまって、「こいつが犯人です」と真顔で言ってしまうところ。
様々な人たちの思惑や、政治情勢の影響によって結局検挙されなかった犯人に対し、そして世界に対し、毅然とNOを突きつけられる文学の可能性を僕は、火曜サスペンスの人だと思っていた松本清張に教えられたのでした。やっぱり読まず嫌いはダメですね。 -
聖職者として身を捧げようとする外国人神父が、一人の女性と恋に落ちる。彼をとりまく教会関係者と裏で暗躍する巨大犯罪組織が、信仰心と愛欲の狭間で葛藤する彼を巧みに利用しようとして、悲劇が起きてしまう。
純粋無垢な神父が追いつめられ犯罪に手を染めてしまうまでの過程と、そして宗教団体をとりまく巨大な闇組織の全貌を後一歩まで追いつめる警察官の様子が非常にスリリングに描かれ、最後まで目が離せなかった。
しかしこのストーリーが実際に起きた殺人事件を基に作られたということを知った時が一番震撼してしまったが・・ -
解説を含むと文庫で699ページに渡る長編でありますが、
読み始めるとどんどん気になり、第二部はほぼ一気に読んでしまいました。
先日、三億円事件と黒い福音がドラマスペシャルで行われていて、
そこで気になった原作本。
ドラマでは、第一部がほぼ割愛され、ビートたけしさん演じる
刑事たちの視点がメインとなっていたので、
原作を読むとトルベック側の状況がよくわかりました。
宗教組織を守る、という一点で、その目的のためなら
麻薬の密輸までも行う。
トルベック神父、ルネ・ビリエ神父の欲望に負けて破戒の日々を
歩むのに、それをうまく自分のなかでごまかして、納得させて
悪事を働く姿を見て
宗教組織というものに属することへの恐怖を感じてしまいます。
正義をふりかざせる立場の危なさよ。
「聖職者が人殺しをするうなどと考える奴らは、魂に悪魔が棲んでいます」
といいますが、夜ごと女性と肉体関係を持ち、砂糖、麻薬などの密売を繰り返す
聖職者は、悪魔そのものではないのでしょうか。
結局、首相が、控えているヨーロッパ外交への影響も考え、
犯人であるトルベックや関係する人物を国外へ。
検索すると当時の首相である岸信介は、ノーベル平和賞候補に推薦されていたとか。
全体の権益を考えたら、1人の人殺しなどどうでもよい、という人が
ノーベル平和賞受賞にならなくて良かったと思います。
小説ではありますが、事実もほぼ等しいと、私は考えますので。
警察の現場レベルで頑張っても、上層部からの圧力で悔しい思いをする。
こういう物語は、昔も今も変わらないことが残念です。
松本さんのこのジャンルの他の作品も読みたいと思いました。 -
たけしのドラマを先に見たので、原作が読みたくなって読みました。ドラマが先だったので特に違和感もなく伏線なども分かってよかったです。
竹内結子演じる江原の役が、あまりに原作と違い過ぎたのに笑えました。
それよりも何よりも久しぶりの松本清張が面白かったけど時間がかかった。
文章が今どきの作家と違ってきちんとしてるけど堅苦しい。でも読みごたえはある。 -
社会派松本清張の憤怒がこの作品を生み出した。
50年前の日本人スチュワーデス殺人事件を扱った本書は
終戦後の日本の国際的地位の低さと
勝戦国から流入した、人、物、金、そして思想がいかに敗戦国である日本に影響を及ぼしたのか、教えてくれる。
清張の取材力と、原動力となった怒りが、本書を映えさせている。