霧の旗 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101109206

感想・レビュー・書評

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  • 【虐げられし者が反旗を翻す】

    動機について読んだもの、みんなが「なにそんなことで」と思うだろう。だけど、ここには常識や凡庸の正義はありはしない。テロはいつだって捨て身で、失うものがないからこそ、それに全てを没頭することができるのだから。

    最後主人公の純潔が手折られる時に、ああ。彼女はただの少女だったのだと思い出す。初恋を儚く散らした少女の行く末が、少しでも凪ぐようにと願いたくなった。

    短い作品ながら、松本清張を存分に味わった。

  • 兄の冤罪事件の弁護を断った弁護士への復讐譚。
    話の内容よりも女の執念の恐ろしさに震える。いきなりアポ無しで来て格安弁護してくれと頼み断られ兄が獄死したら復讐というのは筋が通らないと思うが。こういう他責思考の人間とは絶対関わってはならないし良心を信じてはいけないという教科書。

  • この年末年始、たくさんの松本清張を読み返した。
    この本もそうだが、松本清張のよさは、凡庸に結論を導き出す犯罪ものが多い中、奥深い人間心理、感情を「突き詰める」ところにある。なんでも、受け取る側の人数の数だけ受け取り方というのはあるものだが、松本清張の場合、特に顕著に現れる気がする。私はそういう中でも年配者の人の読後を聞いてみたい。そこからその人の人生も半分くらいは正しく伝わってくるような気がするからだ。

  • 九州で起きた殺人事件の弁護をめぐる復讐劇。逆恨みではあるが、正当な弁護を受けるために不公平であっていいのかということ問題を突きつけている。

  • 行き場のない怒りは分かるけどそれ150%逆恨みですよね?まぁ良くも悪くも古いサスペンスって感じでした

  • 偶然と執拗な女性の執念が絡み合って…の結末。
    高名な弁護士でもひとりの若い女性に翻弄されてしまうのか…。
    恐ろしい。
    描かれている時代が古く、今の事件捜査から見ればずさんなんだろうとは思うけど、それでも楽しめる。

  • 面白くて一気読みしてしまった。流石清澄先生!
    兄が無実の罪を着せられた事は気の毒だけど、依頼を断った弁護士を逆恨みするのはお門違い。弁護士からしたらタチの悪い女に関わりとんだ災難。おまけに真犯人はお咎めなし。
    解説では事勿れ主義に対する批判であろうと述べているが、むしろ不条理を謳っている気がする。
    無実の罪を着せられるのも、タチの悪い女に絡まれるのも、人の世の不条理。世の中公正には動いていない。

  • たまにはこういう古い社会派小説が読みたくなる。殺人の冤罪で死刑となった兄を救うべく、高名な弁護士に依頼するが、費用が払えないことと、この弁護士が浮気相手の密会に急ぐために断られる。その後、この兄は獄中死し、妹は弁護士に復讐を誓う。この弁護士は、依頼を断った罪悪感から、裁判記録を取り寄せ独自の調査を行おい、この兄が無実であることを確信する。一方、弁護士の愛人が思わぬ事件に巻き込まれ、殺人者の容疑をかけられる。彼女の無実を証明する鍵を持っているのは、この妹。真犯人の存在を知りつつ、復讐を優先し、愛人と弁護士を破滅に追い込む。結局、真犯人は明るみに出ず、無実の人間が二人死刑となり、一人は社会的地位を失う。元々の殺人事件も社会の不条理からのものであり、なんとも言えない複雑な読後感。令和の今でも、こういうことはあるんだろうか。

  • 松本清張にしてはうーん、、、桐子怖すぎん?逆恨みも甚だしいし、大塚先生に仕返しする前に真犯人探したら?そっちはいいのか?径子に関しては本当に本当にかわいそすぎる、、、

  • TVでも見ましたが、人間の心の奥深さが味わえる
    良い作品と思います。

  • この作品は、何度か映画化されている。
    主演も賠償千恵子から安田成美、堀北真希など有名な女優が演じている。
    無実の罪で投獄されたした兄(弟)を助けようと、東京の有名弁護士に弁護を依頼するが、無残にも断られた主人公の復讐を描いている。

  • 「松本清張」の長篇サスペンス作品『霧の旗』を読みました。

    『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈上〉』、『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈中〉』、『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈下〉』、『眼の壁』、『時間の習俗』に続き「松本清張」作品です。

    -----story-------------
    殺人容疑で捕えられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、「柳田桐子」は九州から上京した。
    彼女は高名な弁護士「大塚欽三」に調査を懇願するが、すげなく断わられる。
    兄は汚名を着たまま獄死し、「桐子」の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる……。
    それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した状況に生きる現代人にとって、法と裁判制度は何か?を問い、その限界を鋭く指摘した野心作である。
    -----------------------

    雑誌『婦人公論』の昭和34年7月号から翌年3月号に連載された作品、、、

    数年前に「山口百恵」主演の映画化作品を観たことがありますが… 薄幸な運命を気丈に生きる女性「柳田桐子」役を演じる「山口百恵」の印象が強過ぎて、物語の展開が記憶から薄れている感じなので、映画のシーンを思い出しながら本作品を読みました。


    北九州のK市で発生した、高利で金貸しを営む老婆「渡辺キク」の強盗殺人事件で、被害者から金を借りていた教師「柳田正夫」が、犯人として検挙された、、、

    「柳田」は、殺害現場での借用証書の窃取は認めたものの、殺人に関しては無罪を主張する… しかし、殺人の物的証拠が揃い十分な動機も認められた状況の中で、「柳田」の主張は受け入れられず、国選弁護人も状況を覆すことはできなかった。

    「柳田」の無罪を信じる妹「桐子」は、兄の無罪を立証するために丸の内に事務所を構える高名な弁護士「大塚欽三」に弁護の依頼を申し出るが、他の事案で多忙なことや、「桐子」が弁護士費用の支払い能力がないことを理由に拒絶される、、、

    やがて、無実を訴えながら「柳田」は獄死し、獄中で非業の死を遂げた兄の復讐を遂げる為に「桐子」はある行動に出る。

    弁護を受けてもらえなかったことへの逆恨みという感じもしますが、、、

    「柳田正夫」と「桐子」の兄妹のエピソードを起点に、誰もが冤罪に陥れられる可能性があり、有能な弁護士を高い報酬で雇わないと無罪を証明できない… という法や裁判制度の問題点を指摘した野心作ですね。


    弁護士「大塚」の愛人「河野径子」に殺人の容疑がかけられた際、「径子」のアリバイを唯一証明できる立場にあった「桐子」は『「径子」には会ってない』と偽証、、、

    しかも真犯人の残した証拠品のライターを隠蔽し、更に「径子」が落とした手袋を死体の横に置く等の工作を行い、果てには「大塚」から真実を語って欲しいと頼み込まれると、「大塚」を自宅に誘い込んで肉体関係を結び、『「大塚」から偽証を迫られたうえ、肉体関係を強要された』と偽証… 自分の身体を犠牲にしてまで信念を貫き「大塚」への復讐に徹する「桐子」の姿勢は圧巻。

    でも、結局、二つの殺人事件で犯罪を犯した真犯人(左利きと思われることから「杉浦健次」の友人「山上武雄」の犯行と思われるが…)は逮捕されず、容疑は「正夫」(獄死)と「径子」にかかったままエンディング… 「大塚」を貶めたことで「桐子」の気持ちは晴れたのかなぁ。

    映画でも感じたのですが、、、

    「桐子」のために真相を探ろうとする編集者「阿部」は、事件を解決することができず、「桐子」の復讐に協力するわけでもないので、ちょっと中途半端な役どころな感じがしましたね… 「桐子」と「大塚」の橋渡し役ということですかね。


    事件が解決せず、冤罪として二人の人間が刑に処されるという、珍しい展開の物語でした。




    以下、主な登場人物です。

    「柳田桐子」
     北九州のK市に住むタイピスト。
     少女のような稚さの残る顔立ちと強い視線が特徴的な若い女性。

    「大塚欽三」
     丸の内二丁目に事務所を構える、日本でも指折りの有名な弁護士。

    「河野径子」
     銀座の高級レストラン「みなせ」の女性経営者。

    「阿部啓一」
     総合雑誌の若い編集者。

    「奥村」
     大塚弁護士事務所の事務員。

    「信子」
     銀座のはずれにあるバー「海草」の女給。

    「杉浦健次」
     「みなせ」の給仕頭。

    「山上武雄」
     杉浦健次の知人の青年。

  • 昭和34年から雑誌に連載された作品で、その後、何度も映画やTVドラマ化されている。冤罪事件で獄中自殺した兄をもつ妹の復讐。その復讐相手は、兄の弁護を断った有名弁護士。



  • 殺人容疑で捕えられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から上京した。彼女は高名な弁護士大塚欽三に調査を懇願するが、すげなく断わられる。兄は汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる……。それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した状況に生きる現代人にとって、法と裁判制度は何か?を問い、その限界を鋭く指摘した野心作である。

    映画やドラマ化されたものは観ていない。後味悪し。

  • 決して裕福ではない若い娘が、依頼を引き受けてくれなかった弁護士に復讐する話し。最後はちょっとやり過ぎの感じ。

  • 桐子の気持ちはわかるけども、弁護士松本を責めるのはお門違いであろうに。 と感じてしまったならばまんまと作者の思惑に乗ってしまっている。それこそが現代の裁判制度の矛盾点なのだ。お門違いな人間が平気で冤罪にかけられて、社会的地位を失う世の中なのだ。まさに本文引用の通り。

  • 時代背景が古くて、ピンとこないことも多かったですけど、十分楽しめました。でも、私には松本清張さんの本は少し敷居が高く感じました。

  • 兄の無罪を信じて桐子は九州から上京、高名な弁護士に依頼するが弁護料を理由に断わられたため、弁護士に復讐する話。
    逆恨みも甚だしく、桐子の身勝手さに腹が立つ。
    全く共感できない話だが、面白かった。
    (電子書籍 Sony Reader)

  • テレビドラマを見て読みましたが、最後の絵描き方はテレビもなかなか面白かった。

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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