聖少女 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101113098

作品紹介・あらすじ

交通事故で記憶を喪った未紀が、事故前に綴っていたノート。そこには「パパ」を異性として恋した少女の、妖しく狂おしい陶酔が濃密に描かれていた。ノートを託された未紀の婚約者Kは、内容の真偽を確かめようとするが…。「パパ」と未紀、未紀とK、Kとその姉L。禁忌を孕んだ三つの関係の中で、「聖性」と「悪」という、愛の二つの貌が残酷なまでに浮かび上がる。美しく危険な物語。

感想・レビュー・書評

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  • 作品の咀嚼難易度や読み辛さを抜きにして、ルナティックな引力と作者の創造的な奥行きに溢れた1冊。
    近親相姦という恋愛的タブーが前面に押し出されているが、作中の大半を占めるミステリアスな少女“未紀”の日記は、読み進めていくと暗黒の脳内を辿っていくような探偵小説的な側面が大きい事が分かる。
    森茉莉の『甘い蜜の部屋』も読了しているが、少女の悪魔性を題材にしつつも個人的には良い意味で趣が異なる作品だった。

  • 中学生のころ、倉橋由美子の描く残酷で美しい世界に傾倒していた。
    解説の桜庭一樹氏と全く同じく、森茉莉「甘い蜜の部屋」尾崎翠の「第七官界彷徨」も高校生で
    読んでいたから、なんともわかりやすく「少女小説」に魅せられていたのだろう。

    今読んでもこの文章の完成度の高さは独特だと思う。退廃的でどこか谷崎っぽいかな?
    「近親相姦」それも父と娘の、このタブーを軽薄に未紀という天性の嘘つきな少女の告白と、食えない「(自称)未紀の婚約者」Kの視点から描いたこの作品。
    登場人物の誰のことも好きになれないけど、「聖性」と「悪」をここまで美しく描けるのは並大抵ではないなぁ。

    「サロメ」のようにビアズレーの挿画で出してほしい。

  • 直喩が独特であまり好ましい文体ではなかったが、発想がよくてそれを物語として表現できるあたりは素晴らしいなと感じた。
    思春期という危うい時期に父という偶像、概念と交わることによって少女は生きた神に変容する。
    罪を犯すことで聖なるものに変化する。聖性と悪は表裏一体の関係なのである。
    しかし、一度は神になった少女もいずれ女性という生き物に変わり、大人になってしまうのだ。解説の桜庭一樹も触れていたが、そのあとはいったいどうなるのだろう。大人になったあとの人生のほうが遥かに長い。少女性の儚さというのは裏を返せば人生の長さである。人生は短いという割には、少女のうちに泡になって消えられるような人はごく少なく大抵かつて少女だった女性は老いという形でまるで魔法が解けたように現実と対峙することになる。そう考えるとおそろしいし、同時にこの小説の幻想じみた雰囲気も少し理解できた。

  • 「悪徳の限りを尽くす」という表現がある。
    しかし、悪徳が尽きてしまった後のこころには何が残るのか。

    過去に人生の負の側面といえるものを謳歌した「ぼく」は、記憶を失った未紀の存在に吸い寄せられていく。「ぼく」は、過去に「ぼく」と同じ蜜を味わった未紀の残したノートの真相に近づこうとするが……というのがあらすじ。

    この小説では美しい比喩を用いて、美学を持って悪事をする人間が丁寧に描かれている。
    今でいうところの「厨二病」タイプの人物が数多く登場するが、簡単に型に入れることができるようなものでもなく、「昭和の厨二病すげぇな」と思ってしまった。
    とりわけ未紀が魅力的で、彼女の言動の裏を読みながら小説を読み進めるとより楽しめるだろう。

  • 正直タイトルと父娘近親相姦というテーマの組み合わせのベタさに拒否反応があったんですが、いざ読んでみたら全然一筋縄じゃいかない感じで、すっごい面白かった。昭和40年の作品ですが、ヒロインの趣味は現代ならさしずめゴスロリとか呼ばれそうですけども(笑)。安保とかそういう背景がなければ、時代を全く感じさせない前衛っぷり。文章の美しさも尋常じゃなく、あー天才ってこういう人のことを言うんだって、恍惚とします。

    • yamaitsuさん
      山尾悠子、文庫化された「ラピスラズリ」だけは読みました!
      この人も寡作で伝説の作家ですよね(笑)大好きです。
      マイナーだから仕方ないのか...
      山尾悠子、文庫化された「ラピスラズリ」だけは読みました!
      この人も寡作で伝説の作家ですよね(笑)大好きです。
      マイナーだから仕方ないのかもしれないけど、もっと手軽に文庫で読めるようになると嬉しいのにな~
      2012/10/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「もっと手軽に文庫で読めるように」
      本当ですねぇ、、、山尾悠子は早川文庫にも入っていたのですが。昔早川文庫のあったと言えば鈴木いづみもかな(...
      「もっと手軽に文庫で読めるように」
      本当ですねぇ、、、山尾悠子は早川文庫にも入っていたのですが。昔早川文庫のあったと言えば鈴木いづみもかな(この方も不思議な味わいある作品を書かれてますね)。。。
      2012/10/15
    • yamaitsuさん
      鈴木いづみは、映画ルートで名前は知ってるのですが、実は作品を読んだことはないのです(残念)。
      すでにお亡くなりになっていますし、カルト的(...
      鈴木いづみは、映画ルートで名前は知ってるのですが、実は作品を読んだことはないのです(残念)。
      すでにお亡くなりになっていますし、カルト的(?)な存在ですから、なかなか気軽に読めるようにはならなさそうですよねぇ(返す返すも残念)。
      図書館か、あとは古書とかで探すしかないかしら。おすすめと聞くと読みたくなります~!
      2012/10/15
  • ストーリーをたどるというのでなく、少女の行き過ぎた精神世界にただ浸るために読みたい作品。

    「あたしにとって嫉妬というのは、自尊心の問題です。パパハドウシテアンナツマラナイ女トネルノカシラ。コノアタシトイウモノガイルノニ。そこであたしはますます完全な女になるためにはげみました。指の先から耳たぶまで、申し分なく愛らしいペルシャ猫になること。」

  • たくさんの禁忌が詰め込まれているのに生々しさはなく白昼夢のような雰囲気。独特な文章が魅力的だった。

  • 交通事故で記憶を喪った未紀が、事故前に綴っていたノート。そこには「パパ」を異性として恋した少女の、妖しく狂おしい陶酔が濃密に描かれていた。ノートを託された未紀の婚約者Kは、内容の真偽を確かめようとするが…。「パパ」と未紀、未紀とK、Kとその姉L。禁忌を孕んだ三つの関係の中で、「聖性」と「悪」という、愛の二つの貌が残酷なまでに浮かび上がる。美しく危険な物語。

  • 少女であるが故の
    狂気を孕んだ純粋さ。
    その危うさは大人になっていくほどに失われていく。
    それはある意味では安定かもしれない。
    その絶望は意識的に、無意識的に
    自分を破壊することにも似ている。

  • 倉橋由美子の1965年発表の小説。"暗い旅"、"夢の浮橋"に続いて3作目。本作品は、近親相姦を扱った内容もそうですが、文章、そして文体も含めて雰囲気が独特すぎて、これは合う人と合わない人がはっきり出てくると思います。学生運動の頃の風俗が色濃く反映されているので、どうしても気持ちが追いついていかない部分も多々ありますが、自分は嫌いじゃないです。甘くて美味しい毒薬を飲まされている感じです。自分の立場が変わる毎に読み直したら、その都度、感想が変わりそう。

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著者プロフィール

1935年高知県生まれ。大学在学中に『パルタイ』でデビュー、翌年女流文学賞を受賞。62年田村俊子賞、78年に 『アマノン国往還記』で泉鏡花文学賞を受賞。2005年6月逝去。

「2012年 『完本 酔郷譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

倉橋由美子の作品

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