忘却の河 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101115023

感想・レビュー・書評

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  • 『草の花』『海市』につづいて福永先生の作品を読むのは三冊目。
    連作短編集で、父の語りに始まり娘二人、娘の知り合い、妻など家族それぞれの立場からそれぞれの悩みを描き、ラストはまた父の語り。語り手は変わるが物語は進行しています。

    一読しただけでは語るのが難しくて、読後もなかなか感想を書けずにいたので、また再読したいとおもいますが、冒頭とラストの父の章が最も印象的でした。これ昭和39年に書かれたんですよね、始まり方が斬新でした。戦死した友人の雨天下の瞳の描写や、賽の河原を訪れる場面等々、福永先生ならではの美しい描写。
    一言では語れないので、何度も読み込んで理解したい作品です。

    個人的には『草の花』のようにストーリーがわかりやすく、せつなさが前面に出ている作品のほうが好きですが、福永先生が伝えたいことは『忘却の河』に描かれていているような哲学なのだろうなと思います。

  • 「ふるさと」について考えさせられる本でした。ふるさとはもちろん自分が生まれたところだけど、人によっては人生の深い後悔を置いてきた場所でもある。

    母に勧められたこの本、とても良かったです。

  • 高校生の時に出会って情景を気にいってしまい購入した。話の起伏としては普通だが印象的な描写が多く、お気に入り。

  • 扉にこうある。

    レーテー。「忘却」の意。エリスの娘。タナトス(死)とヒュプノス(眠り)の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという。
    「ギリシャ 神話辞典」

    これでこのタイトル。それはもう。
    四つに組んで読みましょう。

  • 再読。例えば生と死、愛と憎しみ、過去と現在、罪と贖い‥とかアンビバレントで最もらしい御託を並べて感想を述べるのは簡単だが、そんな簡単なものであるはずは絶対にないので言葉に詰まる。章ごとに人称が変わり視点が動く構成の力にぐいぐい引き付けられながら、流れの中に自分も忘却の彼方に蓄積された澱みを思い起こさずにいられなかった。池澤夏樹の言葉を借りよう。〈魂としての人間〉。全ての外皮を削ぎ落とした剥き出しの魂にだって穢れは残る。救いがあるのかどうか私にはわからない。それでも生まれてきてしまった。全うするしかない。

  • 生きる事とは
    人間のふるさととは
    孤独な魂と愛への渇望
    寂しさと美しさの文体が心地よい


  • 面白かった。。



    人は他人の見るようにしか見られないし、他人によって見られることの総和が、つまりその人間の存在そのものであるのかもしれない。

    あたしたちはみんな宙ぶらりんだ、宙ぶらりんのまま生きているのだー生きることも出来ず死ぬことも出来ず、惰性のように毎日を送っているのだ。いつかは何とかなるだろうと、それだけは信じて。

    他人なのだ、みんな他人なのだ、ー他人がいることによって、他人が鏡の代わりに自分の姿を映していることによって、地獄は成立する。そして家庭も亦、他人の集合なのではないだろうか。

  • 2017年11月再読。
    最初の父親=夫(藤代)の独白が一番いい。過去と現在が交互に現れる。現在働いている職場のそばのビルの窓が目のように感じられ、その目が戦死した友人の眼につながっていく。
    文学を読んでいる感が存分に味わえる。でも小難しくはない。

    最後は父親と娘2人の間の不信感や軋轢もそれぞれ解かれ、ハッピーエンドめいている。寒々しい場所に、少しあたたかい風が吹いてきたような読了感。

  • 各登場人物がそれぞれ内面に抱えるものを禊いだり理解したり受け入れたりしていく小説です。

    中心人物の男性が語る第一章・第七章は特に素晴らしいです。記憶の回路が切り替わる書き方も、彼が抱える苦しみの描き方の深さも。

    ただ、個人的には全体的に思ったよりあっさり落着するところに違和感を覚えました(父と娘たちの和解など)。悪くいえば、ややメロドラマ的というか…果たして人間の苦悩とは、ひとつの要素から成り、ひとつのきっかけで解けるようなものでしょうか。

    逆にそういう意味で、第一章の苦悩の複雑さは私には訴えるものがありました。ただ、男の罪の意識の根源として、出生にまつわる記憶や戦中の経験も描かれているのに、最後は恋人との出来事に集約されてしまう点は安易に感じてしまいました。

  • 久々に「純文学読んだ-!」って感じの読後感でした。書かれた当時にしたら、全然通俗小説だったのかもしれないけど。昭和30年代という時代のせいか、賽の川原だの、日本海に面した貧しい村の間引きの話だのが出てくるせいか、寺山修司あたりに通じる薄ら暗さがあり、それでいて、ひとつの話を章ごとに主人公(視点)を変えた短編として発表したあたり、当時多分斬新な形式だったのではないかと。最後にきちんとカタルシスがあり、なんだか無闇に感動しました。

著者プロフィール

1918-79。福岡県生まれ。54年、長編『草の花』により作家としての地位を確立。『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、『死の鳥』で日本文学大賞を受賞。著書に『風土』『冥府』『廃市』『海市』他多数。

「2015年 『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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