木 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101116075

感想・レビュー・書評

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  •  今更な名著ですが、「パーフェクトデイズ」で役所広司さんがお読みになっていたので、読み直しました。
     古びませんね(笑)。
     ブログ「シマクマ君の日々」でもあれこれ。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202401030000/

  • 北海道のえぞ松や屋久島の杉など、著者が日本の各地を訪ねながら、自然のなかで根を張り枝を伸ばしていく木の生命力に触れた感動をつづったエッセイです。

    イギリス人は、シェイクスピアの文章を母語話者としてたのしむことに、なににも代えがたい歓びを感じるという話をどこかで目にしたことがありましたが、著者の端正な日本語をたどりながら、この文章を母語話者としてあじわうことのできる歓びを感じます。

  • 木にまつわる短編集。
    初出から足掛け十三年、飛び飛びに書かれ続けて、遺著となった。
    解説の、「自分の命の完了を以て、新たなものを差し出す。さしずめ、刈られた木が、材となるように。」
    という一文に、深く納得した。

    木にまつわるエッセイと言っても、軽いものではない。
    木は誰の身近にもあるものだが、動いたり声を上げたりするわけではないので、動物のようには注目されない。
    どちらかと言えば、空や水と共に、景色、背景として見られているところがあるかも知れない。

    だが、幸田さんは、この本で木を、背景ではなく主役として綴った。
    初めは、子供の頃、父・露伴に、兄弟三人それぞれに木を与えられて、世話をするように、木への興味を促されたことから。
    すでに若くはない年齢になっても、屋久島に杉を見に行ったり、「材」には向かない、捨てられるべき木をわざわざ製材して見せてもらって、こんなにも暴れるものなのか、と驚いたり。
    読み手も一緒に驚く。

    そして、木は、伸び、葉を茂らせ、または花を咲かせるといった一生の後、材(材木)として生きる、第二の人生があること、材になった後も生きているのだという事を気付かされる。

    一本だけぽつりと立つ木にはそんな事情があるのか、とか、驚きと発見の連続だった。

    「木」の、命を見つめる想いが静かにここにある。
    そっと息をしているような本だ。

  • 「書店グループNET21」の今年の文庫フェア『まちの本屋 のお客さんに聞いた 俺の一冊・私の一冊』の中で、40代の読者がオススメに挙げていたので読んでみた一冊。

    この本を読んでいたら、「美しい感性+美しい日本語=幸田文」という公式が頭に浮かんできた。

    杉にかかる雨を羽織に見立てるなんて、とても凡人の感性にはない。筆者のように、木花に親身な感情を抱くことができる人だけが持つ特権なのかもしれない。

    この感性を表現する言葉がまたすばらしい。特別に綺麗な単語を使っているわけではないのだけれど、筆者の手にかかるとその場で美しくて品のある文章へと変貌する。魔法使い。

    こんな珠玉のエッセーが並んでいる本は、一気に読むのはなんだかもったいない。気分がいい時にじっくり一遍ずつ読んで余韻に浸るのがいい。
    なので、このレビューを書いている今の時点では、15編のうち5編まで読み進めたところ。いつも手元に置いておいて、 いいものに触れたいと思った時に1編ずつ読むことにしよう。

  • 高校のころ、教科書にこの本の倒木の話が載っていて、
    何が楽しくて木なんか見に行くんか、という感じで、何にも心に残らなかった記憶がある。

    時がたてば、人は変わるものなんだなと思う。
    自然の細部に興味を示し、興味ある所にいそいそと出かけ、その場所、木に思いを巡らす。

    こんなに心が自由な人があるだろうか。
    「凛とした」という言葉がこれほどしっくりくる人がいるだろうか。

    このお話の内容が、遅ればせながらも、多少なりとも浸み込む年月の重ね方をしたことは、良かったなと思った。

    • workmaさん
      はじめまして。
      noireさんの書評を読んでいたら…読みたくなりました!
      はじめまして。
      noireさんの書評を読んでいたら…読みたくなりました!
      2023/02/23
  • 『木』
    2022年12月31日読了

    短編集でありながら、読む人を深くふかく惹きつける。木という、日本人にとって身近な存在を扱った本書。

    登場する人々の潔さが、心をすっとさせる。
    わたしもこんな仕事がしたいと思わせてくれる。

    読後に何度もくりかえし反芻してしまう。
    余韻の美しい文章だった。

  • 木に対する著者の見方に、感銘を受けるところもあれば、木のありのままの生き様を深読みしすぎのように感じるところもある。でもそれは木と結ぶ関係が、著者と私とで異なるというだけのこと。私がこの本に最も心を動かされたのは、むしろ、著者を木に向かわせしめた何か、木に著者自身の内心の何かを仮託せしめた彼女の人生を感じたとき、であった。

  • 素晴らしい観察力。木々に囲まれる生活に憧れる。

  • 前半では「屋久杉見に行きたいな」「北海道のえぞ松いいな」などと思っていたが、後半に入り、そんな考えはほとんど消えてしまった。
    恐らく、この本の描写は、木と触れ合い、教えられること、助けられることを真っ直ぐにありがたく思える作者だからこそのもので、その文に惹かれて現地に行ってみたところで、家の木さえ疎かになっているうちは同じ経験はできないだろうと気づいた。
    もちろん、そんな時にも木から感じられるものはあるのだろうが、決して近くはない場所に行くのなら、せめてもう少し木に目を向けられるようになってからにしたい。
    そういうわけで、まずは家や道行きの木を、その木肌を、材をよくよく見るようにしようと思う。

  • 早速図書館で借りて読んだ。定年後関心のあるものとして樹木の名前を知るために、デジカメであちこちの樹木を撮りながら1年間掛けて調べた結果、どうにか日常目にする樹木の名前が判るようになるとともに、樹木の良さが少し判るようになった。そんなところでこのエッセイを読んでみて、年齢も関係するかも知れないが、木を愛する幸田文という著者に、非常に共感するところがあり、嬉しくなってしまった。

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著者プロフィール

1904年東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。’28年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚、幸田家に戻る。’47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。’56年『黒い裾』で読売文学賞、’57年『流れる』で日本藝術院賞、新潮社文学賞を受賞。他の作品に『おとうと』『闘』(女流文学賞)、没後刊行された『崩れ』『木』『台所のおと』(本書)『きもの』『季節のかたみ』等多数。1990年、86歳で逝去。


「2021年 『台所のおと 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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