戦艦武蔵 (新潮文庫)

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著者 : 吉村昭
  • 新潮社 (2009年11月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117010

戦艦武蔵 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 巨大な建造物である武蔵の存在をひた隠しにする「極秘」の徹底っぷりが印象に残った。
    武蔵の起工が1938年。今からたったの80年前の話だ。

    いまの世の中で物事を「隠す」ということは果たして出来るのだろうか?
    あらゆるものが曝け出されている。

  • 記録文学の金字塔。

    主観を排除し、徹底して事実を拾い、構成している。
    戦争がテーマの小説は、時に感傷的で、涙を誘うもので、美談に仕立て上げれているようで苦手だと常々感じている私にとって、それはとても好感の持てる態度だった。

    大和や武蔵が戦列に参加する頃には、航空兵力が海上兵力に対して優位であることは既に自明であり、しかもそれを証明したのが他ならぬ日米開戦の火蓋を切った真珠湾攻撃であったことは皮肉としか言いようがない。
    しかし、この「時代遅れの」巨大戦艦に投じられた膨大な資本(ヒトモノカネ)や時間、秘匿性がこの戦艦を神話的な存在にしてしまった。

    A:武蔵は不沈艦である
    B:武蔵が沈まない限り日本は負けない

    A、Bが成立するならば「日本は負けない」ということになる。
    日に日に戦況が悪化し、日本の敗戦が濃厚になればなるほど、その神話は膨張していく。
    そして武蔵にとってはじめての戦闘となる「捷」一号作戦の最中に武蔵は敵機の執拗な攻撃により沈没。
    呆気ないほどの幕切れ。
    武蔵沈没から生存した乗組員たちも、その多くが、その後の戦闘で終戦までに命を落としている。

    あとがきにこうある。

    「私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間たちが示したエネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考えを抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた。戦争は、一部のものが確かに煽動してひき起したものかも知れないが、戦争を根強く持続させたのは、やはり無数の人間たちであったにちがいない。あれほど膨大な人命と物とを消費した巨大なエネルギーが、終戦後言われているような極く一部のものだけでは到底維持できるものではない」

    この巨大戦艦に関わった人々が発したエネルギーの渦のようなものを、この小説を通して私は確かに感じた。
    この小説は、この巨大戦艦に関わった「無名の」「無数の」人々のエネルギーを掬い上げることに成功していると思う。

    ものすごいものを読んでしまった。

  • 1971年(底本1966年)刊。◆大艦巨砲主義を体現した戦艦武蔵。防諜に神経を擦り減らし続けた建造秘話と、戦闘に参加せず(油の節約目的)、移動時のついでに輸送業務に従事する落差が…。費用対効果の視点の欠落がどうにも?。本書の、煽った表現なしに透徹した視線が戦争の一面を切り取るのは著者らしい。なお、著者あとがきに描かれるのは、一般人が「武蔵」関連情報を著者に開示(漏洩という自意識かも…)することへの怯えが、戦後20年でも残存していたこと。これは特高・憲兵の民衆への心理的影響を暴いている気がしないでもない。

  • 武蔵の着工前からの異常なまでの警戒、不可思議な棕櫚の買い付け、 着水へ向けての工夫・緊張感、巨大艦完工後の関係者・乗員の喜び、そして無用の長物として全く役に立たず右往左往、燃料食い(大飯食 い)、寂しい最期の沈没場面(巨大艦としてはタイタニックの最期に 似ています)、あまりにも多くの人間として扱われないかのような犠 牲者たち、武蔵自体が生き物のように哀れな姿に書かれ、実はとりも直さず、人間そして日本軍の愚かさを示しています。 期待に違わぬ素晴らしい傑作です。

  • 第二次世界大戦中に建造された戦艦「武蔵」。その規模はかつてないものであり、日本軍の全期待を背負っていた。この小説では、武蔵が完成するまでの当事者たちのドラマを中心に書かれている。しかし、クライマックスである沈没シーンは息を呑む。

  • 戦艦武蔵の起工から沈没までを描いた小説。

    意外だったのは武蔵の戦場での様子より、工事から出航までの様子が長かったことです。というものの武蔵は実際の戦場では、ほとんど戦争に参加しなかったからみたいですね。そのこともこの本で初めて知りました。

    絶対秘密裏の中での世界最大級戦艦の工事は困難の連続で、そこを技術者たちがどう乗り越えていくのか、といったことも興味深く読めましたし、そこに賭ける男たちの熱い感情も想像することができました。それだけにクライマックスでの沈没シーンと前半の人々の熱気の対比が非常に悲しい。

    戦時下が舞台の小説や映画・ドラマは数を絞って登場人物たちにに焦点を当てているためか、死というものがとてもドラマティックに描かれていてそれはそれで悲劇だと感じますし、改めて戦争の愚かしさを教えてくれます。しかしそのドラマティックさがその手の作品を悲劇性のあるエンターテイメントにいい意味でも悪い意味でも変えてしまっているような気がします。

    それに対しこの小説は特定の人物に焦点を当てるわけではなく三人称の淡々とした語り口が続き、ラストの武蔵の沈没間際の凄惨な描写が続くシーンも作者の感情を挟まず淡々と語られます。

    そのシーンの人の死は決してドラマティックで美化されうるものではなく本当にただただ悲惨でした。死とは本来そういうものだと思い知らされ打ちのめさせられた思いでした。こういう描写が戦争の真実の姿に近いと感じます。

    普段は行間を読むようなことはあまりない自分なのですが、今回の小説は自分から積極的に読み取らなければ、という思いに駆られた作品でした。

  • 素晴らしかった。最後が圧巻。

  • ずっと積読にしていたものをやっと読んだ。
    色々な本を読み、いろいろな経験を積み、今だからこそ読めたのだし、武蔵から受け取ったものも大きかったと思っている。

    建造から沈没、生き残った武蔵の乗組員の最期まで。
    行間から溢れてくるとてつもないエネルギーに飲まれてしまって、泣きそうになる。
    読んでいる間、私は造船所の作業員になったり、長崎の町の人になったり、夜の海に沈んだ兵になったり、もう一度「死ぬことになった」兵になったりした。
    でも、一度たりとも現代人になって読むことはしなかった。
    吉村昭の小説を読むとき、今の私は必要ない。

  • その造船の始まりから沈没まで、武蔵の一部始終が書かれている。個人の視点からのものではなく、あくまで中心は「武蔵」。しかしその淡々とした語り口からも、歴史に名を残してはいないが、当時確かに存在した人々のエネルギーが感じられた。これが本著が記録文学の大作と言われる所以なのだろう。
    淡々としているとはいえ、記されている現実は過酷だ。海軍の、日本の期待を一身に背負い秘密厳守で進められた武蔵造船、しかしその建設途中に戦いは既に戦艦戦から空中戦(空母戦)に移り変わっていた。規格外の大きさ、強度で「不沈艦」とまでいわれた本艦も最期には大量の魚雷と空からの攻撃に耐えることかなわず沈没する。
    日本海軍最後の一塁の希望を懸けた武蔵は、もはや戦力どうこうというよりかは、私たちには武蔵がいる、武蔵があれば日本は負けない、など、当時の日本の精神主義の象徴であったのだろうかと思わせる。解説でいう、夢と現実との不一致ということだろう。しかし、そこにある人間のかけるエネルギーというものへの着眼点を本作は失なっていない。
    武蔵、そして姉妹艦の大和は日本の太平洋戦争における栄枯盛衰を想起させるようで切なくなる。
    「武蔵が沈没するとき、それは日本が負けることを意味する」というのも、あながち間違いではなかったのかもしれない。

  • 設計から沈没まで、それぞれに関わった人物の視点より語られる戦艦武蔵の生涯。鉄の塊である戦艦が一個の人格のある存在のように思えてくる。

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戦艦武蔵 (新潮文庫)の作品紹介

日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」-厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か?非論理的"愚行"に驀進した"人間"の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。

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