戦艦武蔵 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117010

作品紹介・あらすじ

日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」-厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か?非論理的"愚行"に驀進した"人間"の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。

感想・レビュー・書評

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  • 巨大戦艦時代が終焉をむかえる中、最後の巨大戦艦になるのかな。
    宝の持ち腐れみたいに、機密にしていた戦艦やけど、いざ、使う時には、もう負け戦確定的…
    何か、悲しさ満点やな。

    こんな巨大なもの作るのには、その機材を運ぶのも大変で、巨砲運ぶ為に、運ぶ船作らなあかんとか…
    巨大戦艦建設の最大の難関は、進水なんか…

    武蔵の建造から、沈むまでの話やけど、ほとんどは、戦いまでの話が中心。

    実際に、もう時代は、戦闘機中心の時代に移行して、不沈艦と歌われた武蔵建造の帝国海軍の夢と野心は…
    何か、神話が一人歩きしてる感じ。

    その神話が崩れた時、武蔵本体の運命は知らんけど、乗組員の運命が悲惨…

    神話という夢は、いつか醒めるのに…
    夢のままなんかムリやのに…

    じっくりと真実を見て、
    じっくりと考えて、
    早急に対処する。

    戦時の異常心理か知らんけど、ちゃんとして〜

  • 巨大戦艦「武蔵」の建設計画から、進水、戦歴、沈没に至るまでの7年間を描いた歴史文学。著者の吉村昭は、軍人や乗船兵でもなければ、造船会社の関係者でもなく、戦時中は少年だった。ある意味「第3者」という立場からフラットな目線で、「戦争に突き進み、敗色濃厚でも戦争を続けてしまう」当時の日本社会に迫ろうとしている。
    膨大な人命と物資、金銭と時間を浪費するだけなのに、なぜこのような非合理的な「愚行」が国としてまかり通り、社会に根強く残ってしまうのか。筆者は強い疑問を持っていたのだろう。

    実は、本書はページ数の過半数が、武蔵が建造される期間に割かれている。さすがに戦場、特にレイテ海戦における沈没までの正確な記録は残っていなかったのだろう。ただし、一般人(作業員や長崎市民)という視点から見た「武蔵」に対するイメージは緻密な取材に基づいており、大変興味深い。

    ・何を作るのか知らされないまま、造船所での過酷な強制労働に携わる作業員
    ・造船所がある港を見ることすら許されない長崎市民
    ・漁業で使う材料が一斉に無くなり、狼狽する漁師
    ・愛着を持って建造した戦艦を海軍に引き渡した直後、あっけなく退去命令をくらう造船会社の幹部

    今の時代も、建設現場などでは「国を代表する大プロジェクト」に携わることに対して、技術者や作業員の間でプライドや連帯感は存在する。
    身近なところでは、ワールドカップでの熱狂だって似ていると思う。
    人々の間で「神話」を夢見る気持ちの高ぶりが、現実から離れて非合理的な集団行動を取ってしまうのだろうか。この本質に毎回迫ろうとする吉村文学、これからも沢山読んでいきたい。


  • 国を挙げた一大プロジェクト、超大型戦艦武蔵の起工から最期までを克明に記しあげたノンフィクション。
    手に余った巨大戦艦が辿る海上での末路は壮絶の一言。60年代にここまで緻密な調査を行い、当時の日本の愚かさやひたむきさを迫力と共に描き、花火のように終わる本作は記録文学として圧倒的な位置にいると感じた。

  • 長崎で建造が始まった第2号艦。その地形や造船に関わる人数を考えるとその存在を秘匿するのは容易ではない。前半は数々の困難を乗り越えて巨艦を完成、引き渡しまで。後半は戦艦武蔵と名付けられ戦線に合流するも時代は航空戦力が主になりその能力を発揮できない。
    読みだしたら止まらない。
    知っている最後に向けて話は進む。撃沈。
    しかし話はまだ続いた。
    武蔵沈没の露見を恐れた海軍中枢部は生存者をほぼ邪魔者扱い。内地に送られた者は輸送中に敵魚雷で沈没。生存者はほぼ軟禁状態。
    現地に残された者はほぼ全滅。
    過酷すぎる。

  • 試行錯誤から進水した時の感動と、艦の最期の悲壮の落差に、当時の異常な熱狂について考えさせられます。

  • 2015年3月、マイクロソフトの共同創業者の故ポール・アレン氏の捜索プロジェクトチームが8年がかりで、シブヤン海底に眠る武蔵を発見した。本書を読みながら発見時のテレビの衝撃的な映像を思い出した。

    大和は海軍の施設である呉海軍工廠で造艦されたのに対して、武蔵は三菱重工長崎造船所という民間企業が造ったことは初めて知った。
    武蔵の起工から竣工までが造艦に関わる人間ドラマとともに完成するまでの過程が克明に記されており記録文学の傑作と言える名著だと思う。

    造船所から海軍に引き渡されるまでを前編、海軍が所有してから沈没までを後編として、最新の映像技術でぜひ映画にしてほしい作品。豪華キャストに実力派の監督が手掛けてくれればヒットは間違いないと思う。映像化されれば万難を排して見に行くだろうと思わせてくれる作品だった。

  • 現実の事件・事象をめぐる事実をふまえ,文学的に
    構成した作品を記録文学という。吉村昭はその代表的
    書き手。記録文学を因数分解すると、ノンフィクション
    ルポルタージュ・実録・裏話…になるかな。
    僕の中では吉村作品は「プロジェクト小説」である。
    「羆嵐」は巨大羆との壮絶な格闘記、
    「漂流」は無人島に流れ着いた男の生還記、
    「破獄」は11年間に4度も企図した脱獄記、
    「零式戦闘機」は設計者・技師・操縦者の哀歓の記録。
    善悪・良否という二元論では片付けられない目的を
    果たすために狂おしいほどの熱情と知恵を注ぎ
    プロジェクトを完遂させる様を丹念に描く。

    さて本書。戦略的都合上、徹底した機密保持の下、
    当時日本最大の造船設備を誇っていた三菱重工長崎
    造船所が4年の歳月をかけて建造した「戦艦武蔵」。
    まさしく世界一の攻撃力に加え、最強の防御力を誇る
    不沈戦艦。その建造過程を全ページの内、200ページ
    余りを費やし仔細に記述。

    残りのページは、武蔵が参戦時には日本の戦況を
    覆すのは厳しく、不沈戦艦武蔵の使い道は遮二無二に
    突撃し、肉弾特攻戦に向かうという捨て鉢状態。
    米軍機による波状攻撃を受け、持ち得た能力を発揮する
    ことなくレイテ沖で爆発四散し深海に沈む。
    乗組員2,400名の内1,000名以上が戦死。
    動機と結果の不一致という無様な終焉を迎える。

    戦局の趨勢を握るのは戦艦ではなく航空機に移っている
    ことを軍部は知りつつ、なぜ建造に至ったのか?
    著者は抒情性を一切排した筆致で遺漏なく製造過程を
    丹念に描くことで、軍部の無計画さと戦略の無さを
    浮き彫りにしていく。

    世界一の戦艦を持つことの意義・意図が不明確であり、
    非論理の上に建造が決定される。そこに屹立するのは
    不沈艦を持ちさえすれば日本の国土は十二分に守護
    できるのだという「神話」のみ。
    山本七平の「空気の研究」にある「思考停止」状態が
    壮大な愚行を生んだのか?

    武蔵と大和。一卵性双生児の様な「巨艦不沈戦艦」。
    いずれも重油の確保もままならず、護衛航空機をつける
    ことができない状況下に出撃し、壮絶な最期を迎えた。

    思考停止・非論理・神話の屹立…。
    70有余年前、目を背けたくなる壮大な愚行を日本民族
    がしでかしたことを教示してくれる貴重な記録。

  • 巨大な建造物である武蔵の存在をひた隠しにする「極秘」の徹底っぷりが印象に残った。
    武蔵の起工が1938年。今からたったの80年前の話だ。

    いまの世の中で物事を「隠す」ということは果たして出来るのだろうか?
    あらゆるものが曝け出されている。

  • 太平洋戦争直前、米英日の不公平な軍縮条約は国際連盟脱退につながり、日本海軍が大型軍艦造船に舵を切る。第2号艦として長崎で建造される武蔵を、まず造船大国日本の技術力の面から記述。艦建造の各段階における担当者・作業員たちの群像である。しかし、時代は航空兵力が中心になり、戦艦ではなく空母が海洋戦の主力になると山本五十六大将などが予見していたにも関わらず大型戦艦が建造された。戦隊に編入後はさして活躍することなく米航空兵力によって撃沈される、悪手といえる軍の戦略に翻弄されていく戦艦武蔵の最期は読んでいて辛かった。

  • 戦争に突き進む心理を描かれたことは、設計構想の話を期待して手に取ったのでだいぶ不意打ちであった。しかし、きちんと練られており面白い

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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