星への旅 (新潮文庫)

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著者 : 吉村昭
  • 新潮社 (1974年2月26日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117027

星への旅 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  各作品それぞれに死が絡んでくる短編6編収録の短編集。

     小説や映画、マンガをいろいろ読んだり見たりしていると、ほんとに時々「変な話だったな」「奇妙な話だったな」と思うものがあります。
    この吉村さんの『星への旅』もそんな本でした。

     と言っても、作品の完成度が低いわけじゃありません。いずれの作品も吉村さんらしい真摯で丁寧な描写、
    そして過剰に感情を挟みすぎない冷静な文章でとても文学としての完成度は高いと思います。

     中でも死体となった少女が語り手となり、自身が解剖されていく日々が描かれる「少女架刑」は語り手の異様さもさることながら、
    彼女の語りで解剖に一種の美しさが、ラスト場面の荘厳とした感じも圧倒的でエンターテインメント性は皆無の作品ながらも、惹きこまれました。

     表題作「星への旅」は集団自殺を企てる若者たちを、一人の大学生の視点から描いた作品ですが、
    吉村さんの感情を挟みすぎない文章が、彼らが自殺に惹きこまれる理由となる倦怠感と非常にマッチしているように思いました。
    語り手の圭一が星空を見上げた時の描写も美しいの一言いに尽きます。

     この短編集の奇妙さは、それぞれの作品の死に対して必要以上に痛みや苦しみ、死を忌避する感情を挟まない点だと思います。

     普段普通の小説を読んでいると死は避けるべきもの、忌避すべきものとして描かれるのですが、この短編集ではそういう感情があまり読み取れず、死に対して余計な感情を挟まない一種の透明感があるように思いました。それが自分の感じた奇妙さの理由のように思います。

     そして改めて吉村さんの冷静な文章に惚れ直した作品でした!

    第2回太宰治賞受賞作「星への旅」収録

  •  死体愛横溢する作品集。特に「透明標本」の完成度には眩暈がするようだ。

     ...
     義父の問われた罪の内容は意外だった。義父は、焼土になった町々を深夜ひそかに忍び歩き、死体の大腿部の骨を鋸でひき、その骨を持ち帰っていまわしい彫刻をほどこしていたのだという。倹四郎おその仕事を手伝ったのではないかという疑いを受けて、激しい拷問を繰返され追及されたが、ようやく嫌疑もはれて二ヶ月後には釈放された。義父は、その後、体の衰弱が甚だしく未決監で病死した。...(p167)
     ...琥珀色の液の中には、兎の頭部の骨がこちらに鋭く尖った歯列をむき出しにしている。
     ...眼窩と歯列の間から、気泡が液の中を立ちのぼっている。骨のうすい部分は、電光を受けて雲母のような明るい光沢をやどしていた。 (p168-169)
    ...美しい標本を作り上げようと思い立ったのは、その時からであった。かれは、腐肉の中からのぞいている骨を仔細に観察した。骨には、寒天状に透けている個所がある。その部分の骨は、新鮮で美しく見えた。もしも、透明な骨標本ができたとしたら、骨の内部も透けてみえ、医学的にも価値があろうし、また、美しい骨を作りたいという自分の欲望も満たされる。水晶のように透けた骨、水槽のガラスを透して中をのぞくように骨の内部もうかがいみることのできる骨標本。(p173)
    ...かれは、執刀医の肩越しに患者の背の骨がきり開かれてゆくのをまたたきもせずに凝視していた。
    ...シャーレの中に、骨が捨てられた。かれは血にまみれたその艶やかなものを息を殺して見つめた。それは、腐爛死体から取り出される骨とは異なって、水からあげられたばかりの小魚のように、さわれば弾ね返りでもする新鮮なものにみえた。(p179-180)
    ...「反対か?」
    目が凝固して、するどく加茂の眼にそそがれた。
    「俺は百合子の親なのだ。美しい骨に仕上げて残してやるのだ」...(p218)
     「透明標本」。

     併録の「少女架刑」とリンクしているけれど一部齟齬がありそこが絶妙な加減である。
     著者はどれだけ死体が好きなんだろうと感心する。「赤い人」「磔」も肉体損壊描写しつこくて、今思えば源流はこれなんだな。
     それにしても「生麦事件」「羆嵐」の吉村昭と直接つながらず混乱。澁澤龍彦のエッセイに文学仲間として登場してて、えっあの生麦事件でえげれす人にカタカナセリフ書いた吉村昭?と中間小説の人だと思ってた。
     これ読みながらお腹空いて鶏肉のスープ作ってて似られる様子を見て一瞬みぞおちがひゅっとなったさ。

    2017/02/14

  • 死が漂う6編の小説。雨に濡れた蜘蛛の巣など細部の描写がとても美しい。作品を通して何を言いたいのかはさっぱり掴めなかった。

  • 初期短編集
    表題作で太宰治賞をとっている

    「鉄橋」
    傲慢かつ臆病、ゆえに意味なく自分を試そうとしてしまう
    それも無駄に危険なシチュエーションで

    「少女架刑」
    人体標本としてボロボロに使いたおされながら
    誰にも感謝されない女の子

    「透明標本」
    人骨標本に美を追求する老人と
    永遠の架刑にのぞむ娘

    「石の微笑」
    意味のないものにだって美術的価値を見いだすことはできる
    しかし人間は

    「星への旅」
    集団自殺の旅になんとなくついてきてしまう少年
    臆病者と思われたくないがためだけに

    「白い道」
    空襲で街が焼けるなか
    人々は絆の空虚さに直面する

  • 自殺、死、死体、骨、墓地。
    大学の医学部の死体解剖。
    大江健三郎「死者の奢り」

  • 短中編小説集。
    全話、死や自殺に関する話となっている。
    くらい主題を扱いながらそれほど、暗く感じないのは、死を暗いものではない風に描いているからか?吉村昭の小説。
    20161015

  • 全編通して「死」が横たわっていて、それをいろんな角度から観察しているようなイメージの作品集
    詩的な表現を限りなく抑えているように思えるのに、全体に蔓延する死のムードはどこかロマンチックで引力がある
    特に表題作の「星への旅」がとても好き
    退屈な日常から抜け出す手段として「死」に憧れる少年少女たちの熱に浮かされたような逃避行、実際はその逃避行すら日常の反復運動に回収されてしまっていて、結局全員がそこから抜け出せないまま、、

    わたしは吉村さんの豊かな観察眼に裏打ちされた丁寧な表現がすごく好きだけど、状況を的確にあらわしたり、ある人物を詳細に描写したところで決して読者に「あるある」として消費させないような気概を感じる
    だからどこか幻想的だったり、高潔に感じるのかなぁと思った(ノンフィクションは読んだことない)
    時代性もあるとは思いますが…

  • 吉村昭の初期の頃の短編集である。6編のうち、「鉄橋」は、芥川賞候補作となる代表作の一つで推理小説のように展開する。また、「少女架刑」は、死後の少女が主人公となり、周りの様子を語る手法で進められていく。「星への旅」は、太宰治賞に選ばれた作品で、集団自殺を描いたもの。「白い道」は、自身の生い立ちを描いている。全てに共通する点は、生きることの価値、意味を問うこと。そして、死への恐怖が、同時に生と極めて近いものであり、身近なものとして描かれていることである。その後の吉村昭の記録文学に通じるテーマは、すでにこの時期にあったのだと思える。

  • 著者初期の短編6編。取材した実話を基にした作品が多い中、色の違った著作。死を生からの解放にとらえたような主題が多い。2016.1.16

  • 少女架刑のみ。

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星への旅 (新潮文庫)の作品紹介

平穏な日々の内に次第に瀰漫する倦怠と無力感。そこから脱け出ようとしながら、ふと呟かれた死という言葉の奇妙な熱っぽさの中で、集団自殺を企てる少年たち。その無動機の遊戯性に裏づけられた死を、冷徹かつ即物的手法で、詩的美に昇華した太宰賞受賞の表題作。他に『鉄橋』『少女架刑』など、しなやかなロマンティシズムとそれを突き破る堅固な現実との出会いに結実した佳品全6編。

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