冬の鷹 (新潮文庫)

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著者 : 吉村昭
  • 新潮社 (1976年12月2日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117058

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冬の鷹 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 司馬遼太郎のファンで、似た毛色の作家を探し求めている人には吉村昭をお勧めします。そして、いま困難なプロジェクトに四苦八苦している人にこそ、この本をお勧めします。
     大河ドラマにするなら絶対この作品の方がよい!高山彦九郎・平賀源内というサブキャラも魅力的に関与していますし、なにしろ杉田玄白と前野良沢の人生と処世観の差が鮮やかに引き出されています。また、長崎・江戸・中津(大分)と取材箇所が各地に分散する点も魅力を感じます。
     ちなみに、蘭学事始で著名な「鼻はフルヘッヘンドである」云々のエピソードはこの本の中に出てきていません。その理由もあとがきで吉村昭自身が言及しており、資料に丹念に向き合って小説を書く作家であることをうかがわせ、極めて好印象です。
     私は初めてこの作家の著作を読みましたが、別の本も手にしたくなりました。吉村昭は戦時下の昭和日本も司馬遼太郎と違っていくつも取り上げてますしね

  • 予期せぬ感動。
    オランダ語の習得と翻訳業に専念し、富や名声を求めなかった前野良沢と、翻訳チームをまとめて、『解体新書』出版に尽力し、社会的成功をおさめた杉田玄白。どちらのタイプも、大事業を進めるには必要なのだろう。
    だが著者は前野良沢の生き方に、つよく心を惹かれている。とにかく頑固で、清廉潔白に生きた人。それゆえ晩年は貧窮したが、おそらく良沢は、自分の人生にさほど後悔はしてないはず。

    学問の厳しさ、「分かった」ときの純粋な喜び、新しい知識の広まりと反発など。史料に基づく抑制された文章の合間から、歴史上の人物の息遣いまでも伝わってくる。
    『天地明察』にも通じるものを感じた。

  • 日本人に高邁で高潔な知性がかつてはあったんだと希望が持てました。

  • 菊池寛「蘭学事始」の前後左右に肉付けした感じ。ところがこの肉が厚くて豊かで魅力的。玄白がちょっとフォローされてるかな。まあでも、報帖で様子見とか家治への献上とかって玄白のアイデアだし、病弱で独り者だった玄白がこの成功で妻帯できたのは良かった良かった。

    良沢が中津から江戸へ戻る途中で、「大井川に渡しがない」って話が出てきた。先日、角倉了以が江戸初期に舟を通した話(岩井三四二「絢爛たる奔流」。この本の解説、偶然にもこの人)を読んだばかりだったので、あれ?っと思ったけど、よく考えたら了以のは京都の「大堰川」だったw

    あと、そもそもこの話、前野良沢と杉田玄白がダブル主役なんだけど、それぞれの交友範囲に平賀源内と高山彦九郎がいる。史実上、無視できないのはわかるけど、この2人、脇役には相当向かない濃いキャラw。なんで、全体のバランスが崩されちゃって、最終的に座りが悪い仕上がりに感じた。寧ろ例えば、玄白が60歳で良沢70歳の時の20年振りの再会なんかは、もうちょっと紙幅を割いて欲しかったなあ。

    岩崎克巳の「前野蘭化」、挑戦したいけど、東洋文庫3分冊かあ。ハードル高いなあ〜!

  • 「解体新書」で名を残した前野良沢と杉田玄白の対照的な生き方を描く。興味深く読めるのは、彼らを含む4人が共同して訳出に苦闘するくだりで、難事業を克服しようとする各人の情熱と、個々の異なる能力がうまく機能する様は、プロジェクト成功の秘訣を示しているよう。必要な情報や知識が簡単に手に入る現在、かえってその仕事の価値が伝わってくる。ただ、出版を境に良沢と玄白の間に富と名声、家庭環境にまで差が付いていく後半の記述はやや長過ぎる印象で、高山彦九郎のエピソードも蛇足。その辺は作者の思い入れが出過ぎてしまっている印象だった。

  • 面白かった。解体新書の話だと聞いて、てっきり杉田玄白の話かとばかり。実際は前野良沢と2人が主人公の伝記物。サブな物語としては、杉田玄白には平賀源内。前野良沢には高山彦九郎。同時代に生きた人間たちの絡まりを描いているのもリアリティがあって良い。杉田玄白は平賀源内の墓に碑文を収めてるくらいの仲。

    2人の性格の違いがとてもよく描かれており、人生の勉強にもなりました。

  • 解体新書の訳に携わった人たちの物語。こういう風に翻訳していったのかと初めて知った。てっきり杉田玄白だけで翻訳したのかと。職人の脳みそだけだと生きづらいのが人生だけど、そちらのほうが尊いのかもしれないな。

  • 人間性のちがいがよくわかった。

  • 学究肌の良沢、実務家の玄白、対照的な二人ではありますが、どちらが欠けても解体新書はなかったかもしれないと思いました。良沢がいなければ訳業自体できなかったでしょうし、玄白の根回しがあればこそ世に出たわけですし。
    解体新書出版後には交わることがほとんどなく、極端に違う人生を歩んだ両者ですが、辞書のない時代に医学書の翻訳を志して成し遂げた。良沢は五十歳近かったのですから、その信念の強さには頭が下がる思いです。
    玄白が晩年に著した蘭学事始、その執筆時の心境に触れてほしかったなと思いますね。

  • 偏狭までに学究肌の前野良沢の姿を杉田玄白と対比させて描く。生涯学ぶ姿勢にも打たれた。平賀源内の滑稽なまでの軽さも一つの生き様であろう。作者の調査の綿密さも窺える良書。2015.5.5

  • 良沢と玄白の対比があざやか。

  • 解体新書を訳した前野良沢を中心に、長崎でオランダ語を学ぶ苦労、杉田玄白らとの交流が描かれている。学者肌で誤りが残る翻訳を出版したくない思いや、人との交流を絶ったことで貧しく孤独な暮らしになる。その中でも凛として生きていく姿が目に浮かぶ。人の崇高なる生き様を感じられる本である。

  • 解体新書の前野良沢と杉田玄白の人生。

  • 江戸時代。『ターヘル・アナトミア』の翻訳版、あの名高い『解体新書』を世に送り出した杉田玄白ではなく、その翻訳の中心人物であった前野良沢を主人公とした物語。前野良沢という人物は名前だけは知っているが、どういう人物なのかは全く知らなかった。この本によれば、まさに学者という人物で名利を求めるような人物ではなかった。だから今でも杉田玄白と比べると知名度が低い。
    『ターヘル・アナトミア』の翻訳というのは実に難作業だったのだと伝わってきた。辞書もろくに無い中で、単語の意味を別の本や実際の解剖の結果から推測し導き出すという作業は根気が必要で、とても常人には成し遂げられないものだ。そのような翻訳が完璧であるわけはなく、だから前野良沢は広く世に出版する事をいやがった。しかし杉田玄白は、完璧ではなくても世に送り出し広く知らしめる事に重きを置いた。僕はこの点に関しては杉田玄白が正しいと思う。
    平賀源内や高山彦九郎といった時代を彩る人物が登場し、江戸時代の雰囲気を感じる事ができた。良書である。

  • 富と名声を無視してでもオランダ語の和訳に対して昏い情熱を燃やし続けた前野良沢と、日本の医学を発展させるために賢しく世を渡って富と名声を手にした杉田玄白。対照的な生き方の二人をターヘル・アナトミアの翻訳という史実を介して、オーバーラップさせて構築した歴史小説。外面描写に徹した文体や冷徹な目線での語りを見るだけでは公平な眼差しで物語を構築しているようにも見えるが、タイトルを見れば、吉村昭氏は前野良沢に対してシンパシーを抱いていたであろうことが想像できる。そんでもって、どうせ人は死んでしまうという虚無感が、この作品の根底にも冷え冷えを横たわっている。これが心地いい。

  • 前野良沢は杉田玄白の助手という説明でセンターを受けた。読後、この人物こそが解体新書和訳の第一人者なのではないかと感銘を受けた。杉田玄白は正義感の強い主人公ヒーロー、前野良沢は歴史の教科書に載るような生真面目な研究家、そんな印象だった。解体新書の完成過程は、様々なメディアを通して世間に知れ渡っているが、本書では医学研究家2人の憎み合い(親しみ合い)の駆け引きがとても面白かった。現代には無い江戸時代独特の威圧感が容易に想像できた。いつか大河ドラマで解体新書を巡る題材を取り上げるのであれば、本書を希望したい!絶対面白い!

  • 解体新書を訳して出版した杉田玄白と前野良沢のお話。
    合わせて、平賀源内も同時代で親交があり登場。
    何もないところから専門書を訳すのは、できないことはないけど本当にものすごい根気が必要な作業で、それは熱意の成せる業。

    同じ蘭学を学ぶ同士ながら、その志と辿った人生の違いが描写されています。
    三者三様に良いところがあるのに、時の趨勢が彼らを取捨選択する…
    それでも見てる人はいるんだから、頑固に生きていいのかも。

    華やかなエピソードしか聞いたことがなかった平賀源内の死に方と、あとがきのフルフェッフェンドの逸話が衝撃的でした。

  • 2011.6.15以前に読んだ本。

  • ターヘルアナトミアを翻訳後の前野良沢と杉田玄白の対照的な人生。良沢の蘭語への、妥協を許さない強いこだわりが、彼の人生を孤独かつ貧しいものへとしてしまうが、まあ、本人が好んで選択した人生であるのだから、これはこれで幸せな人生だったというべきだろう。リーズナブルな玄白は、「解体新書」の成功で名声を得、優秀な弟子を育て、名医としてビジネスでも成功を収める。良沢の職人気質に惹かれつつも、こだわりを捨てて玄白のように柔軟に振る舞いたいものだ。

  • 吉村昭は癖になります。今回も良かった。孤高の姿がなにやら作者が投影されているような錯覚になる。

  • ひたすらに蘭語を追求した前野良沢と世間をうまく渡り歩き蘭学の権威を手にした杉田玄白。
    解体新書を世に送り出した二人の対照的な生き方が鮮明に感じ取れます。

  • 1774年(安永3年)8月、 オランダの医学書の訳本「解体新書」が出来上がった。 しかし、この本には後に我々が常識のように知っている前野良沢の名前は無い。前野良沢が訳者に自らの名を出すのを拒否したからである。杉田玄白、中川淳庵、桂川甫周との共同作業の中で1番オランダ語に通じていたのは前野良沢だった。しかし彼は「未完訳稿ともいうべきものを出版すること自体が、私の意に反する」と云う。いや、不完全でも医学の進歩のために早く出版するべきだ、と云うのが杉田玄白の考えだった。つまり、2人はたまたま志を同じくして大事業を成したが、性格は正反対だったのである。

    吉村昭はあとがきで、「良沢も玄白も同時代人として生き、同じように長寿を全うしたが、その生き方は対照的であり、死の形も対照的である。そして、その両典型は、時代が移っても、私をふくめた人間たちの中に確実に生きている。」と書く。

    前野良沢は学究肌で一生名誉栄達とは関係無く貧しさの中で亡くなった(しかし不幸せだとは私には思えなかった) 。杉田玄白はプロデューサー的資質に富んでいて、人当たりも良く、医者として栄達を極め、金も儲け、人々に囲まれ亡くなった(しかし決して悪辣なことはしていない)。その2人の対比が面白かった。

    今回この本を読んだのは、50歳近くになって、オランダ語の学問に目覚め、つきすすんで 行ったという前野良沢になにかしら共感を覚えたからである。この本を読むと、めらめらとハングル学習欲が湧いて来た(^_^;)。

    また、人嫌いの前野良沢が何故か急進的な尊皇思想家・高山彦九郎と交流があり、それとは関係無く良沢は択捉(エトロフ)の地理書を翻訳している。完全にノンポリであるにも関わらず、その90年後の激動の思想的準備をしていたことに、何かの「歴史の必然」を、私は思うのである。

    その後、つくづく思うに自分は杉田玄白タイプだった。未完成でも、世に注意を喚起することの方を選ぶ。名誉や金銭欲はあまりないが、名を後世に残したい、世の中の為に成りたいという欲はある。

    前野良沢は、名誉や金銭欲とは全く無縁なので、ついつい自分と重ねあわせがちではあるが、完璧主義の姿勢はやはり私とは無縁だと思う。

  • 「ターヘル・アナトミア」翻訳の中心人物でありながら、自らの訳業に満足せず翻訳書上梓に反対だった前野良沢は、『解体新書』に翻訳者として名を連ねることを拒否した。代わりに翻訳者の筆頭となった杉田玄白は蘭医としての名声と富を手に入れたが、良沢は人との交際を殆ど断ち蘭学に没頭したため生活は困窮を極めた。

    良沢は当時の日本で殆ど唯一蘭書を翻訳し得る語学力をもった学者であり、玄白は学究肌の良沢が効率的に翻訳を進められるよう腐心した有能な編集者であった。良沢がいなければそもそも翻訳は不可能だったが、玄白がいなければ良沢の訳業はいつ成就するとも知れなかったし、成就したとて良沢が訳稿を筐底に秘していた可能性が高い。

    訳稿が玄白の手に渡ったのは、幸いだったと云わねばならない。「物に深くこだわることの少ない性格」だった玄白は、自ら翻訳した殆ど誤訳だらけの原著者序文を付して『解体新書』出版に漕ぎ着ける。そして『解体新書』の影響を受けて西洋医学を志す者たちを門下に受け容れ、優れた門人を輩出して更に名声を高めた。良沢には到底為し得ない芸当である。

    それにしても、両者手を携えて蘭学の発展に尽くすという選択肢はなかったのだろうか。玄白の医家としての華麗な晩年と比べて、良沢の侘しい極貧生活は何ともやるせない。しかしそれは良沢が自ら選び取った道であり、目が霞んで文字が見えなくなっても蘭書と向かい合っていた彼にしてみれば、あるいは学問に専念し得た満足な一生だったのかも知れない。

  • 前半は面白かったです。後半は駆け足すぎてよくわかりませんでした。

  • 杉田さんの陰に隠れてあまり知られていないけど前野さんすごい。前野さんを見つけた筆者もすごい。

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