ポーツマスの旗 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 76
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117140

感想・レビュー・書評

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  • 日露戦争の後片付けだとおもったら どうしてどうして、面白いですね。剣を持たない戦争。
    小村寿太郎は食えない感じでした。それがいい。
    条約締結後の日比谷騒動、伊藤博文暗殺、日韓併合などが流れるようで興味はつきません。
    日露から大平洋戦争までの知識をバチっと埋めたいです。

  • 父から昔から勧められていた作品。吉村昭らしく淡々と書かれているのだが、国家の大きな曲がり角をクロージングする大役を、ある意味負け戦覚悟で挑んでいく主人公の姿・心境、交渉におけるスリリングなやりとりが鮮明。文体が古いので読みにくいかもしれないが、慣れてしまえば手に汗握る描写に吸い込まれて、あっという間に読了してしまうでしょう。

    吉村昭は膨大な取材をもとに作品を書いていると聞いたことがあるが、歴史の中に散らばった情報を繋ぎあわせて再構築し、ここまで惹きつける「物語」に仕上げてしまうところに魅了される。

  • 著者吉村昭は小村寿太郎のポーツマス条約交渉の経過を丁寧に描いた歴史小説。
    明治から大正にいたるこの時代の政治家は日本の将来に対する責任感とリアリティを持って、非力な日本を舵取りして来たということがよくわかる。

    この後日本は無責任な政治家・軍人によって散々な目にあうのだが、志やビションを失った国や組織は劣化するという事だろうか?

  • 熱狂する群集に見送られて米国へ出発する全権大使・小村、その胸には帰国した時にはその全く正反対の群集が待っていることを予感していたという。その歴史が100年を超えて吉村昭により、生々しい現実として蘇ります。小村の家庭から始まりその人となりが明らかになるとともに、ウィッテとの交渉は息詰る迫力により描かれています。交渉が纏まった時の小村・ウィッテ双方の頬が緩みそうになるという記述はまるでその場面に居合わせたかのように生き生きと再現しています。ポーツマスのその部屋を探訪する研究熱心さが生んだ賜物です。礼拝に出席し、ポーツマスの人たちに親近さを感じさせ、味方に引きつけようとする日露代表。フランス語が話せることを隠し。和平交渉成立後、流暢なフランス語でウイッテに話しかける小村の姿。ルーズベルト大統領とその親友・金子堅太郎のドイツ皇帝からの親書を巡っての駆け引き。その他、国の存亡をかけた彼らの人間ドラマです。そして和平成立後、日米の精神的な隙間が広がり、日米対立への伏線が見え、日露戦争から15年戦争までの期間が以外と短いことを改めて感じることになります。

  • [翻った忍耐の証]陸海の両面で大戦となり、多くの人命と資材が費やされた日露戦争。両国共に戦争継続のための能力に陰りが見られる中、アメリカ大統領ルーズベルトの仲介の下、ポーツマスにて講和会議が開かれることに。のっぴきならない調整の結果、決裂間近で結実に至った会議の模様、そして日本側全権の小村寿太郎らを始めとする人々に焦点を当てた歴史小説です。著者は、『破獄』や『ふぉん・しいほるとの娘』など、多くの歴史の一場面に光を当ててきた吉村昭。


    外交交渉をつぶさに、そして臨場感をもって読者に追体験させるという小説は珍しいのではないでしょうか。息詰まる交渉はもちろんのこと、それを取り巻く会議への参加者やポーツマスの様子など、漏らすことなく往事の雰囲気を伝えることに成功していると思います。特に後半、会議決裂かに思われた段階からの両者のつばぜり合いには、結末を知っている後代の私たちが読んでも興奮を覚えること間違いなしです。


    小説ではあるのですが、あまりに緻密なため、一つの外交のテキストも読めてしまうのではないかと思います。会議に至るまでの周到な準備、仲介者との間での細かな連絡・報告、そして「敵」にすらなりかねない交渉相手との信頼など、(参加したことはまだないのですが)現在の交渉の実態にも近いものがあると思います。交渉の内幕というのはあまり表に出てこないと思いますので、そういった意味でも価値ある読書体験でした。

    〜歴史の浅い日本の外交は、誠実さを基本方針として貫くことだ、と思っていた。列強の外交関係者からは愚直と蔑称されても、それを唯一の武器とする以外対抗できる手段はなさそうだった。〜

    それにしてもルーズベルトのあの仲介にかける意気込みはどこから来ていたのだろう☆5つ

  • 某戦国さんが私は小村寿太郎だ!といってたのがほんと笑い話だ。この人が今日本にいてくれたらパンダの国やキムチの国相手にどんな外交をしただろう⁈

  • 浪人時代の日本史の先生が「読むべし」と薦めていた本。
    先生がそんなこと言うのは珍しいので強烈に覚えていた。
    大学4年にしてやっと読了。ちなみに初の吉村昭。

    舞台は日露戦争講和会議。
    主人公は日本全権・小村寿太郎。

    小村とロシア全権ウィッテ、そしてアメリカ大統領ルーズベルトそれぞれの「かけひき」……
    「外交」そして「政治」とはどういうものなのかをかいま見れて非常に面白かった。
    “日露戦争・ポーツマス条約・小村寿太郎”
    受験生にとってはこの程度の暗記項目でしかないものに
    ここまでの大河ドラマがある。だから歴史は面白い。

    明るくないと思わせていたフランス語が実は堪能であることを、条約締結後に小村がしれっとウィッテに見せつける場面。
    ここが一番かっこよかったね。

  • 交渉にあたってロシア代表のウィッテは新聞にさかんにアピールして自国に有利なアメリカ世論作りに腐心したのに対し、日本の小村寿太郎は同じような真似をするのを避けて誠実に交渉するのを心がけた、というあたり、日本の対外交渉の体質なのかと思わせる。
    それに不満を持つのは他ならぬ日本国民だったわけで、外交のプレーヤーは国民も入っていることを改めて教える。

  • 日露戦争終結のためにポーツマス講和会議に臨んだ小村寿太郎を描いた歴史小説

    日露戦争では日本軍は勝利を重ねていたわけですが、長期戦になると人手や資源が圧倒的豊富なロシアにはかなわない、そのために不利な条件でも絶対講和は成立させなければいけないわけですが、勝利に沸く国民には、戦争継続を望む声も多く、小村は国民の批判を覚悟の上で臨んだわけです。こうした彼の覚悟とともに、小村を必ずしも英雄として描くだけでなく、家庭人としての彼の姿を描いているあたりも、詳細にその人物や事件を調べ上げ小説に昇華させる吉村さんの徹底した取材力を感じさせられました。でもそのおかげで小村寿太郎の人間臭さも感じることができたと思います。

    講和会議でのロシア側のウィッテとの駆け引きはかなり緊迫していて引き込まれてしまいます。日本は日本で自国の弱みを見せずに結果を得ようと苦心するわけですが、ロシアもロシアで革命の兆しや戦争継続派の圧力などがあり小村、ウィッテともに戦争の終結を望みながらも、それが上手くいかない様子、どこまで譲歩しどこを譲らないのか、日本、ロシアそれぞれの巧妙な作戦などなど、講和に対しての人々の熱い思いを感じることもできました。

    敵国同士でありながら、この講和に参加した人々の最終目的はよくよく考えると同じなんですよね。そう考えるとなんとも不可思議な気持ちにもなりました(笑)敵でありながら、ある意味戦友でもあるこの二人の関係についてもついつい考えてしまいます。

    日露戦争ではこうして冷静に戦況を読むことができたのに、太平洋戦争ではどうして勝ち目のないままズルズルと戦況を引きずって行ってしまったのか、とふと思ったりもしました。

    それにしてもこれだけ熱意を傾けて外交をやった人ってほとんどいないのではないでしょうか。現代の政治家にも見習ってほしいものです……

  • 「ポーツマスの旗」吉村昭訳、新潮文庫、1983.05.25
    373p ¥360 C0193 (2022.03.12読了)(2011.10.10購入)

    【目次】(なし)
    一~十一
    あとがき
    参考資料
    解説  粕谷一希(1983年4月)

    ☆今後読みたい本
    「検証 日露戦争」読売新聞取材班、中公文庫、2010.09.25
    「陸奥宗光(上)」岡崎久彦著、PHP文庫、1990.11.15
    「陸奥宗光(下)」岡崎久彦著、PHP文庫、1990.11.15
    「小村寿太郎とその時代」岡崎久彦著、PHP研究所、1998.12.04
    ☆関連図書(既読)
    「日清・日露戦争」原田敬一著、岩波新書、2007.02.20
    「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」加藤陽子著、朝日出版社、2009.07.30
    「ニコライ遭難」吉村昭著、新潮文庫、1996.11.01
    「海の史劇」吉村昭著、新潮文庫、1981.05.25
    「日本海海戦の真実」野村実著、講談社現代新書、1999.07.20
    「坂の上の雲(一)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.01.25
    内容紹介(アマゾンより)
    日本の命運を賭した日露戦争。国民の多大な期待を肩に、全権・小村寿太郎はポーツマス講和会議に臨んだ。ロシア側全権ウイッテとの緊迫した駆け引きの末に迎えた劇的な講和成立。しかし樺太北部と償金の放棄は国民の憤懣を呼び、大暴動へ発展する――。近代日本の分水嶺・日露戦争に光をあて、名利を求めず交渉妥結に生命を燃焼させた外相・小村寿太郎の姿を浮き彫りにする力作長編。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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