遠い日の戦争 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.72
  • (12)
  • (29)
  • (22)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 229
感想 : 28
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117164

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 毎年、この時期には先の大戦に関する書籍を意識して手にするようにしていますが、そんな中で終戦記念日に読み終えた一冊です。

    今までは戦争中の悲惨な出来事を描いた作品を手にしてきましたが、本作は戦争終盤から始まり、主に描かれるのは戦後の戦争裁判。

    主人公の琢也はまさに終戦となったその日、B29に搭乗していたアメリカ兵(捕虜)を斬首により処刑した。

    本土決戦が現実味を帯びた戦争末期、本土に降り注ぐ爆弾、焼夷弾により国土は焼かれ、多くの人々が命を落とし、傷を負い、住むところも失った。

    まさに民間人を狙った無差別な空襲。

    実際にそれを行なっていたアメリカ兵に対し、敵討ちともいえる処刑は残念ながらその当時ある意味で当然のことのように思われることであろう。

    そして迎えた終戦。

    GHQによる統治と共に始まった戦争裁判。

    そこから始まる琢也の逃亡劇。

    私が生まれ育った街も舞台に登場し、息詰まる緊張感、人々の心の変化をリアルに感じることが出来ました。

    本作で描かれた全てが史実ではないかも知れませんが、今までとは違った意味で私の心に刻まれる一冊になるでしょう。

    今もウクライナをはじめ、戦争が行われている事実。

    哀しき歴史が今も刻まれ続けていることから目を背けずに改めて戦争と平和について考えたいと思います。


    説明
    終戦の詔勅が下った昭和20年8月15日、福岡の西部軍司令部の防空情報主任・清原琢也は、米兵捕虜を処刑した。無差別空襲により家族を失った日本人すべての意志の代行であるとも彼には思えた。だが、敗戦はすべての価値観を逆転させた。戦犯として断罪され、日本人の恥と罵られる中、暗く怯えに満ちた戦後の逃亡の日々が始まる――。戦争犯罪を問い、戦後日本の歪みを抉る力作長編。

  • 終戦後の戦犯による罪を避けながらと逃避する琢也の葛藤を描いた作品。この難しい問いを淡々と詳らかにする著者の筆致は、相変わらずスゴイ...。戦勝者と敗北者の視点から綴られる記録文学。戦争を知らない世代は取り敢えず著者作品に触れてみよう。きっと気づけるものがあるはず。

  • 戦犯容疑者として追われる元将校の心の葛藤がとてもリアル。死罪に怯えながらの逃避行に息が詰まった。戦後処理を通して正義とは一体何かが問われる。価値観逆転による混乱の大きさは戦後生まれには想像もつかないが、トップの責任逃れやら、メディアの手のひら返しやらはいつの世も変わらないなと…。

  • 戦争の終結とともに日本人の価値観がガラリと変わった。アメリカ兵を殺害した将校の闘争劇。

  • 戦犯者琢也の逃亡の様子、琢也の気持ちの変化の描写どれも吉村昭さんの作風にどんどん引き込まれて、一気に読み終わりました。まだまだ知らなかった戦争の事実が様々な小説に沢山あり、これからも少しずつ読んでいきたいです。

  • 戦争に勝てば英雄。
    負ければ戦争犯罪容疑者。
    そして、敗戦後、数年して空気が一変して戦争被害者へ。
    戦争とは、何なのか。
    戦争の為に国民を洗脳し、戦わせる。
    国と国が争って、負ければ個人へ責任を擦り付ける。
    こんなことがまかり通っていいのだろうか。
    こんなことに青春を奪われた若者が可哀想だ。

  • 海と毒薬のB面というか(亜流という意味ではなく)、戦争犯罪人のひとつの形。
    海と毒薬ほどテーマに奥深さが無いことが、逆に作品を何故書かれなくてはならなかったのか?を感じる。

  • P248

  • 吉村昭の作品は本当に外れない。
    こぎみ良いテンポとそれでいて非常に重苦しい雰囲気が絶妙に交わり独特の作風を際立たせている。
    戦争を反省するための学びの本にもなれば、思想的な部分では、ある種の戦犯への同情的な心理を呼び起こすことで国家主義的な情念も駆り立てられうるため、読者側の心情もかなり複雑になり、動揺させられる。
    吉村昭の得意分野である逃亡や漂流における主人公の孤独な内面性、葛藤をこの作品もまた緻密に描き出している。
    正義とは何か、それは絶対的なものではなく、あくまで時代状況や国家間の関係性に左右される相対的なものでしかないことを断定する教育的利用価値のある作品である。

  • 無差別な空襲から怒りを覚え米捕虜を処刑。官憲から逃亡生活に入る。雰囲気で裁かれ、時の流れで変わる判決、運で転ぶ人生に冷めた境地に達する。2015.11.28

全28件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉村昭の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×