羆(ひぐま) (新潮文庫)

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著者 : 吉村昭
  • 新潮社 (1985年7月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117195

羆(ひぐま) (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  動物と人間の濃い接点を描き出す短編集。 
     「蘭鋳」 ランチュウの飼育を家業とする義理の兄。その父の後添いだった母。その連れ子でまだ少年である息子の視点で描かれる家庭ドラマ。鑑賞のために奇形的に作られた魚の生育を背景に、大人たちのエゴが逆巻く。ラストの少年の逃げ場のなさはそのまま水槽の中の飼われているランチュウと重なり、読む者の心を引き裂くような読み味。 
     「羆」 母を殺した羆を倒し、その仔熊を飼う熊撃ちの男。3年後に起きる悲劇。飾り気を排した文体の気味のよさと、場面に淡くにじむ感情の影。ラストの寂しい味わいは格別。 
     「軍鶏」 簡潔な文体で、どこか満たされない青年が闘鶏にかける姿を描く。手を掛けて育てられても、戦いでいずれ命を落とすか盲目になっていった銘鶏、嵐、正宗、黒駒の3羽が忘れられなくなる。
     「鳩」 鳩レースにのめりこみ破滅する青年の話。君子という同好の恋人もいたはずが、暗雲が立ち込めていくばかりで結末へ。『..君子や弟の鳩に対する熱意は、世俗的なものにひきずられてくつがえるような脆弱なものだったらしい。かれらは、初めから鳩を飼う資格に欠けていたのだ。父は、家産をかたむけ、妻に失踪されても鳩を飼うことはやめなかった。...それがレース鳩飼育者の本質であり、自分も父と同じような人間でありたかった。…』(P190)クズだ。
     「ハタハタ」小さな子供たちまでもが不漁を心底心配する漁村で、遭難事故が起き、遺体捜索が終わらないうちにハタハタ豊漁が訪れ、父の遺体が見つからない少年はやがて、遭難遺体が長く留まる港が豊漁になるという迷信により漁村の人々が父の死と長い不明を喜んでいるという会話を耳にする。父を失った少年の家庭は豊漁の恩恵は一切受けることない。母は少年の村を出ようという嘆きを聞いても貧窮と労苦の中で少年と弟妹達を育てる日常を変える様子はない...という小説だった。
     乾いた文体でバランスよく悲惨さがかかれる為それほど負担感はなく読み終えた。

  • 短編集。それぞれ題材にとられた特異な環境下にある動物の描き方は、主人公の内面に投影されており、動物たちの運命もまた、物語の結末を暗示しているかのようで、読後に独特の印象を残す。どれも秀作だけに、表題にあえて「羆嵐」と被るタイトルを選んだのは勿体無かったかも。

  • 多くの人が指摘しているが、どれもこれも悲惨な話なのだが、読後感はそんなに悪くない。

    動物小説集とうたってあるが、やはりこれは人間を描いている小説集である。これらの作品が書かれた時点では、オタクなる言葉はなかったと思うが、登場する人物は究極のオタクといってもいいかもしれない。明るい気分にはなれないが、小説としては面白い、

  • 羆、蘭鋳、軍鶏、鳩、ハタハタをテーマに繰り広げられる人間模様が描かれている短編集。嗚呼、暗い。何て暗いんだ。この人の作品を読むと必ず頭の中の映像化は曇天でモノクロ色に染められてしまう。人生の喪失感や悲哀が淡々と語られ、読後のむず痒い程のやるせなさはいつまでも尾を引く。動物に携わる人間達の生き甲斐や息苦しい程の嫉妬、卑屈感、劣等感がひしひしと読み手に伝わり心は鉛の様に重くなる。そしてラストで一瞬光がさし始める予感を感じさせる演出が堪らない。やっぱり吉村昭は面白い。そして凄い。

  • 動物ものの短編集ですが、野生の動物の話や自然に挑む人間の話ではなく、主人公はあくまで人間。それも一つのことにのめりこむ執念などというものではなく、普通の感覚からずれた暗い情念を感じさせるものです。その対象が羆であったり蘭鋳(金魚)であったり鳩だったりするのですが、結果家庭が崩壊したりしますし、迷惑以外の何物でもないほどです。ですから読んでいる時は嫌な気分にもなりますが、不思議と読後感は悪くないです。
    物語が終わった後思うのは、この人、これからどうすんのさということですね。小説だから思うことですが、安易な結末じゃないからいいのかもしれません。

  • 羆、蘭鋳、軍鶏、鳩、ハタハタ 人と獣の織成す5編。人が動物をひきまわしているのか、動物が人をもてあそんでいるのか?人と獣の間には、人間社会という重い空気が流れる。少年も老人も、男も女もそれぞれの動機ときっかけで獣と関わりあい、それぞれの結末に直面する。筆致は硬質で上品だが、どの作品もセックスとバイオレンスに満ち満ちたノワールで情容赦ない傑作短編集。

  • 動物をテーマにし、動物と関わる人間の内面を描いた短編小説集。『羆』『蘭鋳』『軍鶏』『鳩』『ハタハタ』の5編を収録。

    5編ともに動物をタイトルにしているが、描かれるのは人びとの様々な人間模様と心情である。従って、登場する動物たちは脇役に過ぎぬのだが、動物たちは常に人間の営みを見つめているのだ。こうした客観的な極めて冷静な視点が面白い。

  • 動物を中心にした短中編集。どれも素晴らしい。なぜ絶版なんだ

  • 動物に関する短編が5編,収録されています。
    と,いってもファンシーでチャーミングでキュートな話ではありません。

    最愛の妻を飼っていたヒグマに殺されてその復讐をする男の話。

    蘭鋳(らんちゅう:頭がぼこぼこしてる金魚)の飼育に異常なまでに夢中になる兄とその兄を取り巻く人間関係を子どもの視点から書いた話。

    軍鶏(しゃも)という攻撃的な鳥を育てて、戦わせる軍鶏師として軍鶏に夢中になる男の話。

    鳩の長距離レースに夢中になる男の話。

    そして東北地方のある時期に押し寄せるというハタハタという魚と,その地域にすむ家族が排除されていく話。

    どれも,人間として何かが欠けている人たちが登場して,その埋め合わせに動物の世界に没頭しているような感じです。(最初の羆と,最後のハタハタはちょっと毛色が違いますが。)
    特に「鳩」の救われなさがすごく好きでした。この主人公はこのあとどうやって生きていくんだろう,鳩レースは辞めるんだろうか?という自由な想像の余地が存分にあり,それを考えるだけでも楽しめる本。

    吉村昭はきっとこの動物の世界も綿密に調べて書いたんだと思いますが,どれもこれも私にとっては馴染みのない異世界ばかりで,すべてに興味が惹きつけられました。
    動物を育てて競わせる世界がこんなに色々あったとは。それだけでも読む価値があります。驚愕。

    とても面白い短編集で,大当たりだった!と歓喜したんですが,このあと「羆嵐」と「破船」を読んで,意識は完全に持って行かれましたw
    でもこれはこれですごく面白かったです。絶版なのがたいへん惜しいです。

  • 「羆」吉村昭。短編集。「羆」は悲しい物語。「蘭鋳」はなんだかエロティック。「軍鶏」は暗い。「鳩」もっと暗い。絶望。「ハタハタ」これまた暗い。前に読んだのも暗かったから暗い話が多いのかな。 #dokusho
    posted at 02:14:28

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