- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101117270
感想・レビュー・書評
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ある冷夏の年の8月、主人公の「私」の弟の肺に影がみつかる。残念ながらそれは、悪性腫瘍の中でも特にタチの悪いものであり、1年以上の生存例が皆無であることを、「私」は医師から告げられる。「私」と親族たちは、弟が癌であることを隠しておくことを決める。手術後、弟は一時的に体調を回復させるが、徐々に痛みを訴え、体調を崩していき、再度入院することになる。癌は進行するが、治療する方法はなく、病院での措置は痛みを和らげること、そして、出来るだけ長く生きてもらうことしかない。徐々に身体の自由を失い、痛みが耐えられないものになっていく弟。まさに、闘病である。そして、残念ながら、前年とは打って変わった翌年の猛暑の夏に、弟は息を引き取る。本書は、その間の出来事を綴った長編小説であるが、吉村昭の弟さんは実際に癌で亡くなられており、本作品は一種のノンフィクションと言っても良いものでもある。
作品の中で、吉村昭は、弟の病状や家族の様子などを、客観的に、淡々と記述している。時に子供時代の弟との思い出を描いたり、自分自身の崩れそうになる感情を書いているが、全体としてはあったことを出来るだけ記録しておこうというような態度をとっているように思える。
ネットで調べてみると、吉村昭の弟さんが実際に癌で亡くなられたのは1981年の8月、そして、本作品が発表されたのが1984年7月である。その間に3年間の時が経過している。吉村昭がこの体験を小説にするには、3年の歳月が必要だったのだろう。そして、書くことは、弟さんの霊を慰めることであったと同時に、吉村昭自身の魂を鎮めることでもあったのだろうと思う。 -
肺癌で死にゆく弟に告知をしないで隠し通し、見送った記録。
時代を感じる。
麻酔の打ち過ぎで廃人のようになった母の記憶。
何度も持ち直し、疲弊する妻や付き添い人。
死ぬ、死なない、死ねない、死なさない、死にたい、死にたくない。
死生観を問われる小説。 -
作者の弟の癌が見つかってから臨終までの、約1年間のドキュメント。
この頃はまだ告知をしないケースが多かったようで、癌を疑う本人に、
何としても隠し通す親族の葛藤と、傷みと闘う弟の詳細な描写に読むのが苦しくなる。
現在とは時代背景が違うので、しかたのないことだと思うが、癌を隠し通されたことで、
命が尽きる瞬間まで、誰とも腹を割って本音で語り合えなかった彼は、本当に可哀想だ。
全編を通じて重苦しく凄まじい内容なので、闘病中の方、
またはご家族がそうである方にはお勧めしません。 -
著者の弟が肺癌となり、亡くなるまでの1年間を綴った実体験小説。特徴的なのは、弟に癌であることを隠すこと。1980年頃の話のため、告知しないのが一般的だった時代とはいえ、どうしても不憫さを感じてしまう。
弱っていく弟さんの様子と日々見舞いに訪れる著者のやりとりが淡々と描かれているのでそれが迫力を増しています。
身近な人で癌患者が出たら、と考えさせられる本。 -
徹底して事実に立脚し、客観的に出来事を記述する一見ノンフィクション風の文章でありながら、
巧みな構成と深い心理描写をもって、読み手の心の奥深くにくさびを打ち込むような小説。
深い絆で結ばれた弟が肺癌を発症し、50歳の若さで亡くなるまでの約一年間を綴った作品です。
末期癌の激しい苦痛や日に日に死に向かって衰弱する弟の様子など、
身内なら目を背けたくなるような事実も冷徹かつ克明に描きつつ、
それを看取る側の辛く切ない心情もしっかり書き留めていて、心が揺さぶられます。
弟に癌の告知をせず徹底的に隠し通すあたりは昭和50年代という時代を感じさせますが。
なお、吉村さん自身も2006年に亡くなっていますが、その彼の最後の日々を、
吉村さんの奥様で小説家の津村節子さんが『紅梅』(文芸春秋)という、
これもまた端正な佇まいの小説にしたためています。
こちらも併せて読むと、吉村さん自身の人生の幕の引き方が印象深く、
誰の身にもいずれ訪れる人生の終幕について色々と考えさせられます。 -
読むのを止められなくなって、一気に読んでしまいました。最後にこれが、作者の体験した実話だと知りました。
弟の凄絶な癌との闘いの様子に、正直ほぼ恐ろしさだけを感じて読み終わったくらいです。
たくさん兄弟がいる中の、末の2人である作者と弟。上の兄弟とは歳が離れていることもあり、2人の結び付きは幼い頃から強く、作者は弟のためにずっと傍に寄り添います。弟に「癌」という病名を隠して…。
癌であることを本人に知らせないこと、モルヒネの取り扱い方など、医療に関してど素人の私でも、
かなり違和感を感じたのですが、1980年代前半の話であったことに深く納得しました。
そして、この40年間でものすごく進化し、癌が絶対的な不治の病ではなくなったことや、緩和ケアもすごく良くなってきていることに、心から喜びを感じます。
当時から本人に告知をしていた欧米と、まだ本人に隠すのが主流だった日本の、死生観の違いについて作中で書かれていたのですが、とても興味深く感じました。
作者にも興味を持ち、経歴を調べていたら、作者本人も2006年に癌で亡くなられているのですが、その最期の死に方に衝撃を受けてしまいました…。
めざましい進化を遂げているがん治療ですが、更に研究が進んで、がんで亡くなる人がいなくなるといいのにと思います。
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あらすじ
癌に侵された弟が死んでいく迄の様子を兄の目線から描いた物語
感想
兄は弟に癌であることを頑なに隠すが、私は正直に伝えた方がいいと思います。苦しい状態が続き、明らかに死ぬであろう状況を本人も自覚しているにも関わらす隠し通す意味がわかりませんでした。
末期癌の厳しい病状が描かれますが、あんなに苦しいのかと恐ろしくなりました。昔の話なので今はもう少しましだとは思いますが。
人がいくら苦しんでいても、他人は痛みを感じず酒を飲んだり食事をしたり日常生活を送れるのですね。当たり前の事ですが。 -
ある胸部の癌によって、崩れていく兄弟愛の話です。