冷い夏、熱い夏 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117270

感想・レビュー・書評

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  • 図書館にてお借りした一冊です。
    予約本のピックアップに訪れた際に返却棚に置かれていた本書を追加でお借りすることに。

    辛く、苦しい読書となりました。

    40年前に出版された本書では作者である吉村昭氏が私として登場します。

    一卵性双生児のように育ってきた「弟」が末期の肺癌であることから始まり、最後に「弟」を看取るまでの1年間がリアルに描かれていました。

    いまや2人に1人が癌になると言われる程の国民的病、医療の発展と共に「癌」=「死」では無くなってきているものの、やはり自分や自分にとって大切な人がその病名を聞いた時にはただただ愕然とし、誰しも「死」を連想するのではないでしょうか。

    当時はまだ本人に「癌」である事実を告知することが一般的ではなかった時代。

    確かに日本人の死生観からすればそうなのかも知れません。

    大切な人を癌で亡くされた方が多いのは事実だし、本人にも周りの人々にも辛く苦しいことだということは理解出来る。

    本書では私(吉村昭)の視点から描かれる「癌」との闘病記。

    全体的にモノトーンの風景の中、ところどころで私には青や赤の色味が差したようにも感じました。

    「冷い夏、熱い夏」とのタイトルに込められた様々な情景や思いを感じることが出来る作品ですが、それ故にやはり辛く、苦しい読書となりました。

    万人に読んで欲しいとは言えない作品、ですが、読める方には手にして頂きたいと思える作品でした。


    <あらすじ>
    1984年に吉村昭によって出版された長編小説です。この作品で吉村は毎日芸術賞を受賞しました。物語は、九州を講演旅行で訪れていた主人公が、熊本市のホテルで妻から弟の広志が末期の肺癌であると告げられるところから始まります。主人公は人脈を辿って弟を東京大学医学部元教授の醍醐に預け、大宮市の個人病院に入院させますが、欧米人と日本人との間にある宗教観や死生観の違いから、患者に真実を告げることに抵抗感を持っていたため、弟には真実を告げないという方針を固めます。その後、主人公は弟の病気が初めて発見された時や、13年前に三兄の病気が発見された経緯を思い出しながら、通夜と告別式の準備を進め、弟の闘病を最後まで傍らで見守ります。

    この小説は、当時の日本社会におけるがんの告知のタブーに焦点を当てており、家族や医療関係者が患者に病状を隠すことの苦悩と葛藤を描いています。読者は、主人公の内面的な葛藤や、家族としての愛情と責任感、そして死と向き合う姿勢を通じて、生と死の意味を考えさせられる作品です。吉村昭の鋭い洞察とリアルな描写が、読者に深い印象を与えるでしょう。


    本の概要

    肺癌に侵され激痛との格闘のすえに逝った弟。強い信念のもとに癌であることを隠し通し、ゆるぎない眼で死をみつめた感動の長編小説。

  • ある冷夏の年の8月、主人公の「私」の弟の肺に影がみつかる。残念ながらそれは、悪性腫瘍の中でも特にタチの悪いものであり、1年以上の生存例が皆無であることを、「私」は医師から告げられる。「私」と親族たちは、弟が癌であることを隠しておくことを決める。手術後、弟は一時的に体調を回復させるが、徐々に痛みを訴え、体調を崩していき、再度入院することになる。癌は進行するが、治療する方法はなく、病院での措置は痛みを和らげること、そして、出来るだけ長く生きてもらうことしかない。徐々に身体の自由を失い、痛みが耐えられないものになっていく弟。まさに、闘病である。そして、残念ながら、前年とは打って変わった翌年の猛暑の夏に、弟は息を引き取る。本書は、その間の出来事を綴った長編小説であるが、吉村昭の弟さんは実際に癌で亡くなられており、本作品は一種のノンフィクションと言っても良いものでもある。
    作品の中で、吉村昭は、弟の病状や家族の様子などを、客観的に、淡々と記述している。時に子供時代の弟との思い出を描いたり、自分自身の崩れそうになる感情を書いているが、全体としてはあったことを出来るだけ記録しておこうというような態度をとっているように思える。
    ネットで調べてみると、吉村昭の弟さんが実際に癌で亡くなられたのは1981年の8月、そして、本作品が発表されたのが1984年7月である。その間に3年間の時が経過している。吉村昭がこの体験を小説にするには、3年の歳月が必要だったのだろう。そして、書くことは、弟さんの霊を慰めることであったと同時に、吉村昭自身の魂を鎮めることでもあったのだろうと思う。

  • 肺癌で死にゆく弟に告知をしないで隠し通し、見送った記録。
    時代を感じる。
    麻酔の打ち過ぎで廃人のようになった母の記憶。
    何度も持ち直し、疲弊する妻や付き添い人。
    死ぬ、死なない、死ねない、死なさない、死にたい、死にたくない。
    死生観を問われる小説。

  • 作者の弟の癌が見つかってから臨終までの、約1年間のドキュメント。
    この頃はまだ告知をしないケースが多かったようで、癌を疑う本人に、
    何としても隠し通す親族の葛藤と、傷みと闘う弟の詳細な描写に読むのが苦しくなる。
    現在とは時代背景が違うので、しかたのないことだと思うが、癌を隠し通されたことで、
    命が尽きる瞬間まで、誰とも腹を割って本音で語り合えなかった彼は、本当に可哀想だ。

    全編を通じて重苦しく凄まじい内容なので、闘病中の方、
    またはご家族がそうである方にはお勧めしません。

  • 著者の弟が肺癌となり、亡くなるまでの1年間を綴った実体験小説。特徴的なのは、弟に癌であることを隠すこと。1980年頃の話のため、告知しないのが一般的だった時代とはいえ、どうしても不憫さを感じてしまう。
    弱っていく弟さんの様子と日々見舞いに訪れる著者のやりとりが淡々と描かれているのでそれが迫力を増しています。
    身近な人で癌患者が出たら、と考えさせられる本。

  • 徹底して事実に立脚し、客観的に出来事を記述する一見ノンフィクション風の文章でありながら、
     巧みな構成と深い心理描写をもって、読み手の心の奥深くにくさびを打ち込むような小説。
     深い絆で結ばれた弟が肺癌を発症し、50歳の若さで亡くなるまでの約一年間を綴った作品です。
     末期癌の激しい苦痛や日に日に死に向かって衰弱する弟の様子など、
     身内なら目を背けたくなるような事実も冷徹かつ克明に描きつつ、
     それを看取る側の辛く切ない心情もしっかり書き留めていて、心が揺さぶられます。
     弟に癌の告知をせず徹底的に隠し通すあたりは昭和50年代という時代を感じさせますが。

     なお、吉村さん自身も2006年に亡くなっていますが、その彼の最後の日々を、
     吉村さんの奥様で小説家の津村節子さんが『紅梅』(文芸春秋)という、
     これもまた端正な佇まいの小説にしたためています。
     こちらも併せて読むと、吉村さん自身の人生の幕の引き方が印象深く、
     誰の身にもいずれ訪れる人生の終幕について色々と考えさせられます。

  • 読むのを止められなくなって、一気に読んでしまいました。最後にこれが、作者の体験した実話だと知りました。

    弟の凄絶な癌との闘いの様子に、正直ほぼ恐ろしさだけを感じて読み終わったくらいです。


    たくさん兄弟がいる中の、末の2人である作者と弟。上の兄弟とは歳が離れていることもあり、2人の結び付きは幼い頃から強く、作者は弟のためにずっと傍に寄り添います。弟に「癌」という病名を隠して…。

    癌であることを本人に知らせないこと、モルヒネの取り扱い方など、医療に関してど素人の私でも、
    かなり違和感を感じたのですが、1980年代前半の話であったことに深く納得しました。

    そして、この40年間でものすごく進化し、癌が絶対的な不治の病ではなくなったことや、緩和ケアもすごく良くなってきていることに、心から喜びを感じます。

    当時から本人に告知をしていた欧米と、まだ本人に隠すのが主流だった日本の、死生観の違いについて作中で書かれていたのですが、とても興味深く感じました。


    作者にも興味を持ち、経歴を調べていたら、作者本人も2006年に癌で亡くなられているのですが、その最期の死に方に衝撃を受けてしまいました…。

    めざましい進化を遂げているがん治療ですが、更に研究が進んで、がんで亡くなる人がいなくなるといいのにと思います。

  • あらすじ
    癌に侵された弟が死んでいく迄の様子を兄の目線から描いた物語

    感想
    兄は弟に癌であることを頑なに隠すが、私は正直に伝えた方がいいと思います。苦しい状態が続き、明らかに死ぬであろう状況を本人も自覚しているにも関わらす隠し通す意味がわかりませんでした。
    末期癌の厳しい病状が描かれますが、あんなに苦しいのかと恐ろしくなりました。昔の話なので今はもう少しましだとは思いますが。
    人がいくら苦しんでいても、他人は痛みを感じず酒を飲んだり食事をしたり日常生活を送れるのですね。当たり前の事ですが。

  • ある胸部の癌によって、崩れていく兄弟愛の話です。

  • 夜中に読み始めて、一気に読み終わった本
    お陰で目が腫れぼったい
    私たちの親に対する考え方は、はるかに城戸的なもので、人体が決して物体ではなく、主は安らぎを意味する
    50歳で死んだ弟の一年ほどの闘病過程を私吉村昭の視点から実のまま描いているのだが、それ自体は特に凄絶と言うほかない内容だ。苦痛にのたうち回る弟の姿にはいたたまれない思いがする

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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