ふぉん・しいほるとの娘(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117317

感想・レビュー・書評

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  • 江戸末期に長崎の出島にやってきたドイツ人医師シーボルト。当時の鎖国政策を掻い潜るため、オランダ人と偽って入国活動する。医師として、日本の医術の発展に貢献する一方で、オランダからの指示で日本の国情、地理、経済などを報告するいわば産業スパイのような一面もあった。これが元で日本を追放になる。出島に出入りさせていた遊女を妊娠させ、女児をもうけるわけだが、本書は妻となった女性と、その娘の物語。当時、外国人の子を産んだ女性やハーフの女子がどんな目で見られていたかを想像するととても切ない。男尊女卑の時勢であったとはいえ、この二人の女性のたどった運命を読み進めると、男の身勝手な行動に憤りを感じる。いつの世も、他者に対する配慮、思いやりを持ちたいと思う。

  • シーボルトと言えば、日本に西洋医学を広めたことと、シーボルト事件という歴史の授業習った程度しか知らなかったのだけど、この壮大な歴史ドラマにただただ感動するばかりでした。しかし1400ページの大作に読むのはかなり難儀(笑)。大河ドラマにでもしてほしいくらいだけど。

    シーボルトが日本に来たのは1823年、文政六年。長崎で裕福なこんにゃく屋を営んでいた家の娘・お滝は、雇いの者が店の金に手を付け商売が立ちいかなくなったために、遊女として売られてしまいます。もともと美しかったお滝は、出島でシーボルトの遊女となり、2人の間にお稲が生まれますが、シーボルトは日本地図を国外に持ち出そうとする罪で国外永久追放になってしまいます。

    残されたお滝とその子お稲は、縁あって時治郎に嫁入りするのが、1831年、天保2年(つまり米屋を営んでいた米五が味噌を手掛けるようになった年でもあります)。

    お稲は聡明で寺子屋でも中心的存在になっていましたが、女子にもかかわらず学問をしたいとお滝を困らせます。そのうち、お滝と時治郎の間に男の子が生まれることで、お稲は家を出てシーボルトの弟子であった二宮敬作のところに学問を習いに行くことになります。天保11年、坂本龍馬が5歳のころです。

  • 吉村さんの本で一番好き。
    シーボルトの日本人妻とその娘の物語。

  • 幕末の長崎出島、シーボルトの妻、娘を描いた物語。
    感想は次巻へ。
    タイトルはシーボルトの娘とあるが、むしろ上巻はシーボルトお抱えの女郎おたきの物語だった。
    人間らしい生々しいシーボルトが描かれた物語だと思う。

  • 日本史の授業ではさらっと出てくるだけで、ほぼ忘却の彼方にあったシーボルト事件。長崎へ旅行へ行くついでに、購入してみました(ただし到着したのは旅行中で、本作は旅行中に読みました泣)。

    ・・・
    シーボルト事件とは、平たく言えば、オランダ人に成りすましたドイツ人医師シーボルトが出島で名声を広め、例外的取り扱いを受けつつ、国法に触れる日本地図等の国家機密を持ち出そうとしたことがお上に露見し、彼自身は国外追放、その他関連したものが処罰を受けたというものでした。

    で、本作。上巻では、題名にある「娘」より、むしろシーボルト自身とその妾である其扇(そのぎ)とのロマンス?や、シーボルトが密命を帯びて日本情報をあの手この手で集めようとしていること等(およびその周辺事項)にページ数が割かれています。特に後者はいつ露見してもおかしくないというスリリングが面白い。

    また上刊通じて、当時の長崎の様子がいきいきと描かれているのが特徴であると思います。出島への出入りの厳しさや遊女の取り扱い、年中行事・祝祭化した「絵踏み」の儀式、オランダ船入港時の、港や野母の岬での緊張感など、時代劇を見ているかのようなビビッドさです。

    いわゆる日本史の授業は主に政治史を追うことが中心で、そのなかにあってもシーボルト事件はさらっとしか触れられませんでした(少なくとも私の記憶にはその程度です)。でも本書を読むと、一医者がいわばスパイとして国名を帯びて日本を探る様子など、明治の産声を聞く前の日本の緊張感を学べる稀有な作品であると感じました。

    また、西洋人との間にできた子の取り扱いなど、自身国際結婚をした身としては複雑な心境で読みました。まあうちはアジア系国際結婚なので外見はわかりませんが。

    ・・・
    まとめます。全編にわたり非常に緻密に描かれており、また大部になるため、なかなか読むのにスピードがでませんが、歴史好き(幕末・維新)、長崎に興味があるかた、医学の歴史に興味があるかた等々にはお勧めできると思います。

  • 2016.11―読了

  • 幕末の長崎で最新の西洋医学を教えて、神のごとく敬われたシーボルト。しかし彼は軍医として、鎖国のベールに閉ざされた日本の国情を探ることをオランダ政府から命じられていた。シーボルトは丸山遊廓の遊女・其扇を見初め、二人の間にお稲が生まれるが、その直後、日本地図の国外持ち出しなどの策謀が幕府の知るところとなり、厳しい詮議の末、シーボルトは追放されお稲は残される。

  • 労作

  • シーボルト、その妻である其扇(お滝)、その娘イネの話。
    シーボルトは、以前読んだ司馬遼太郎の胡蝶の夢で描かれているシーボルトとは少し違う。本書を読むと、シーボルトは日本に純粋に医療を広めにやってきたのではなく、オランダから日本の海防情報などを調べるために来た諜報部員のような位置付けであり、少し残念だった。また、其扇もシーボルトを愛してあるわけではなく、お金が目当てであったということだ。まあ、それもそのはずで、其扇は遊女であり、それを引いたのはシーボルトで、其扇にシーボルトを無理やり好きになれと言ってもそれはこちらの都合良く考えているだけだといわれることはごもっともだ。作品名から、イネの話がメインかと思いきや、イネは、やっと上巻の3分の1が過ぎてやっと登場した。

    イネは聡明で、芯が強く、そして何より美しかった。産科医を目指して学業に打ち込み、やっと一人前になった時期に望みもしない妊娠をしてしまう。産科学を学んでいた師 石井宗謙におかされたのだ。イネの出産は凄まじく、ほぼ自分一人で産み上げたようだ。

    イネは、長崎でシーボルトと再会するが、再会時の感動もシーボルトがすぐに召使いの しお を愛人にしたことに不信感を抱き、シーボルトから遠ざかるのだった。シーボルトは日本の医学を飛躍的に向上させ日本人に好意的であったものの、自分の家族への愛情については淡白であり、お滝やイネにはそれは耐えがたいものだった。シーボルトの手記では、お滝が再婚したり、お金をせびるようなことを嫌がったとあるが、これはシーボルトに愛情がなく、しっかりと日本に残された家族のことを考えていなかったことから来るものであることを自覚すべきだと思う。医者とはいえ、当時からすれば、お滝もイネも周りからは相当に肩身の狭い思いや不自由をしたはずで、そこはの思いやりが、シーボルトには足りなかったと思わざるを得ない。
    やがてイネの子のタダ、後にタカと改名、が生まれイネも歳を取る。環境はどんどん変わり、関係のあった者は死んでいく。イネも伊篤と名を変え、孫に鳴滝塾の跡地を残して世を終えた。

    やはり、著者の小説は、小説というより、歴史書のように物語は進む。登場人物の名も、改名したらそれを使うので統一感に欠け、しんどいこともあった。ただ、司馬遼太郎の花神や胡蝶の夢に出てくるシーボルトやイネ、お滝などの印象も本書を読むと是正され、歴史の正確な理解には役立つものと思う。

    全二巻

  • 感想は下巻に

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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