他人の顔 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.69
  • (178)
  • (236)
  • (350)
  • (18)
  • (12)
本棚登録 : 3066
感想 : 199
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121017

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 長編。書きつけられた何冊かのノートの内容、という形式。顔がただれた研究者の男は、精巧な仮面の作成にとりかかる。妻とのつながりを取り戻すため、失われた他者への通路をまた開くために。

    ____________

    文章がくどいし、クサくて読んでいて気持ち悪くなってくる。最初に安部公房を読んだときの衝撃はいったいどこにいってしまったのやら。浮世離れした比喩といっしょに怪しげなよくわからない論理で主人公の独白がつらつら書き綴られているのはかなり読んでいて苦痛。題名に顔とあるだけあって顔に関する考察がかなり長い。

    文章中の表現も同じような言い回しが多用されるので安部公房構文なるものがおぼろげながらわかってきた。「〜以上は、〜でなければならない」「〜なのではいけない、〜でこそ〜なのだから」みたいな逆説的な内容の、排中律で、理由を倒置しているみたいなやつ。

    個人的には短編の方が好きだ。短編のあの面白さは一体どこへ消し飛んでしまったのか。長編は「方舟さくら丸」と「けものたちは故郷をめざす」はかなり面白かったが、この小説を最初に読んでいたら安部公房を好きになることはなかっただろう。

    この小説には、他の作品のあらゆる要素、安部公房が普段考えていてテーマにしていたであろうあらゆる要素が入ってきており、安部公房の思想が全て詰まっている感はある。表情、他者への通路、見る見られる、のぞく、社会の中での孤独、自分の消失。輪っかになったヘビ、というのも出てきた。変なことを数式化してそれっぽく言っていたりするのも健在だ。安部公房の思想理解という点では重要な作品だろう。

    特にこの小説がかなり独りよがりで気持ち悪く書いてあるのは、主人公のおかしさを強調するためのものなのだろうか。だとすると、その試みは成功していると言っていいが、普段の安部公房も少なからずこんな感じなんだろうなという気もする。

    すべて内緒ごっこであり、妻はあわれな夫の相手をしてあげているだけなのでは、とぼんやり最初から思っていたが
    予想が当たった。妻の手紙に救われる。なんて常識的で読みやすい文章なんだ。こういう文章が書けるなら最初から早く書けよ、という気持ちにさえなる。ここから考えるとやはり、わざと気持ち悪く書いていたのだろう。

    ていうか、他者への通路=顔のことだったのだなぁ。昔どこかでこのフレーズだけ聞いて感動して覚えていたのだが、この作品が出自なのだろう。

    解説で自分が思っていたこと(短編のほうが面白い、安部公房の長編はわかりにくい、この小説はバランスが悪くて面白くない、失敗作だ)を大江健三郎がすべて、そして、きれいにうまい文章で書いている! 大江健三郎すごい! ありがとう! さらに、その上で読解をし、つまらないという感情のその先に進もうとしているのがさらにすごい。解説だから何かしら褒めなくてはならないのだろうが、フランスでも良い賞取っているみたいだし、大江健三郎の言うように一見そうとは見えないが、それなりの隠れた緻密な構成があるのかもしれない。 

    『愛の片側』って映画本当にあったら面白いのでは。観てみたい。

  • 安部公房にはまりました。顔を通して人間を認識する主人公と、そうではない主人公の妻ということでしょうか。最後の妻の手紙を読むと、全てはただの被害妄想による独りよがりの空回りだったのかなとも思ってしまった。顔というアイデンティティの存在意義とは。。

  • 文学

  • 仮面と素顔。

    テーマは好きだけど…
    ストーリーとして本当に面白いのは最後の2割くらいと思ってしまった。

  • 互いに愛し合っているのに、悲しいまでに行き違う、夫と妻。
    顔の火傷、仮面といった小道具を使ってはいるが、結局そんなものあろうとなかろうと二人が心を通わせることはなかったということではないのか。
    騙したつもりで妻を冷笑し続ける男と、従順に抱かれた妻。一瞬でも感じた夫の愛が、自分への蔑みだと知った時の妻の絶望。妻が仮面との最初の逢瀬の別れ際に差し出したボタン。なぜ、このボタンの意味がふたりの間でこれほどまでに食い違うのか。結局のところ男はどこまでいっても繰り返される行き違いに絶望したのか。

    『だが、この先は、もう決して書かれたりすることはないだろう。書くと言う行為は、たぶん、何事も起らなかった場合だけに必要なことなのである。』 

  • やっと読み終わった。時間かかりました。終わり間近まで主人公の幼稚な自分勝手さかげんにムカついて仕方なかったけれど、最終的に妻にもげんなりした。元々夫婦間はうまくいっていなかったのに、顔を怪我したからと思い込んだ40男にも憤るけど、騙されたふりをしつづける妻にも同情は出来ないなぁ。どうしてダメなのかって多分どれだけこの男に説明しても絶対に理解してもらえないと思うけど。話の通じない相手って小説のなかでもわかるものなんだなぁ。かかわりたくないタイプ。自己評価高すぎる。最後は苦笑しかなかったです。

  • 表紙はグレーっぽい、階段?建物?顔?みたいなものです。
    ある男の独白が延々と続く。最初はアリバイだの罪の告白だのがなんのことやら分からずに読んでいて、徐々に分かるようになってくる。
    その湿っぽさと妙な理屈、卑屈さ傲慢さか、なんとも気持ち悪くて、そりゃこうなるわな、の結末。
    ぞっとする。このざらざらした読後感が安部公房だなぁ。

  • 実験で顔を失った主人公は仮面をすることでどうにか立ち直ろうとするが妻からは拒絶させる。顔を失うと心も塞ぎがちになってしまう。そんな考えさせられる作品です。

  • 人間の力だけで全くの人工の「顔」を作る。
    見た目、物理的な顔だけでなく、
    表情などの顔が介する概念、精神的なものまで

  • 実験中の不幸な事故によって、顔全体 蛭の巣のようなケロイドに覆われてしまった主人公。

    顔を常に包帯でぐるぐる巻きにし、不気味な包帯男とならざるを得なくなった彼は、それまであまり重要視していなかった「顔」について思い巡らすように。

    欲情を妻に拒絶された彼はますます「顔」の必要性を感じ、ついにある計画を思いつく。

    他人の「顔」を作成し、他人として妻を誘惑してやろうと…。

    計画は予想以上にうまくいき、他人として接近した夫にやすやすと身体をゆるす妻。他人の自分に激しく嫉妬し、妻の不貞に怒りながら、欲情し逢瀬を重ねる彼。

    ケロイドの自分は拒絶されたのに、他人の「顔」を被った自分は受け入れられる…自ら進めた計画ながら、彼の自我は苦しむようになり…

    妻に全てを告白し、他人の「顔」を捨てる決意をするのだが…



    いつも夫というものは、妻など簡単に操縦できると思っていて、その実 妻の手のひらで踊らされているのかもしれない。妻は何でもお見通しで、夫の芝居に付き合ってあげているのだ…。

全199件中 51 - 60件を表示

著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

安部公房の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×