無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121086

感想・レビュー・書評

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  • 文学的挑戦に富んだ短編集。文学を解体して、再構築しているような難解さがありつつも、エンタメ小説としても全く古びない力強さと、奇妙でじっとりとしていてニヒルな感触が印象的だった。

  • 安部公房のSFじみた短編小説群。純文学然とした冒頭作品で油断したが、2本目からは本領発揮の幻想なのかミステリなのかという話が続く。

    帰宅し、アパートのドアを開けたら、見ず知らずの男の死体が転がっている。さてどうするか。警察に届けたら、自分が犯人にされてしまう。アパートの他の住人に押し付けるには、死体を運ばなくてはならぬ…(無関係な死)。

    いやいや、油断した。2本目「誘惑者」で気づくべきだったのだ。安部公房じゃないか。死体が有っても犯人など出てこないし、3階から階段を降りたら4階に着くのだ。比喩をこねくり回したり、理屈をまぜっかえしたりなど不要。これぞ安部公房という短編である。

    「使者」は名作「人間そっくり」の初期プロットなのであろうし、「賭」は「密会」をコメディにしたような作品である。中でも「人魚伝」は完全なるSFであり、メカニズムまで作り込まれている点は、そんじょそこらの中途半端なSF作品より出来が良い。

    読んでいて、つげ義春や諸星大二郎、高橋葉介などの作品を思い浮かべる人もいるかも知れない。逆に、そういう作品が好きな人は必読の1冊である。

  • ◆パス「波と暮らして」→ディキンソン「早朝、犬を連れて」を読み、無性に「人魚伝」を読み返したくなり、再読。
    ◆1957年〜64年に発表された初期短篇10篇。小説でいうと「砂の女」〜「他人の顔」の頃か。
    ◆飛び込んできた不測の事態によって、現実だと思い込んでいた世界は揺すぶられ歪み崩れ落ちる。元の世界が虚構なのか、この事態が虚構なのか。現実を取り戻そうと足掻く主人公はどちらの世界からも滑り落ち、居場所を剥奪され世界の狭間に取り残される。◆読み終えた私に残されるのは、主のいない帽子・白々とした床・緑色過敏症だけ…
    ◆はぁ、やはりこの悪夢のような世界観に魅了される。◆ゾクゾクするのは初読時から変わらず、「夢の兵士」「家」「人魚伝」。特に「人魚伝」は「すると、ぼくは、緑色に恋をしてしまったのだろうか?」…この一文だけでもKO。

  • 追うものが、追われるものになる。
    無関係のものが、関係するものになる。
    支配するものが、支配されるものになる。

    他の安部公房の作品と同様に、この短編集の中でも立場の逆転が沢山起こっている。
    恐ろしいけど、楽しい。
    小さなきっかけ一つで、目に映る世界が大きく変わっていく。

    「誘惑者」と「賭」が、個人的には好み。

  • それにしても、どんなにか恐ろしい、孤独の日々だったことだろう。
    ぼくは灰汁のような憐れみにひたされ、燻製のようになりながら、
    やっとの思いで彼女を振り向いて見た。

  •  「ぼくの眼に、彼女はすりガラスであっても、彼女の眼には、ぼくは単なる透明ガラスだったのだ。」(人魚伝)
     人魚の彼女と「ぼく」の間にある言語・生物的な壁と、それに付随するもどかしさを端的に、そして叙情的に表す表現力。

     安部公房の作品はいつも、どこにでもありそうな風景と人物である。なのに、何かが変で、普遍的世界と表裏一体の非現実。
     あとがきでもあるように、相対する関係がじつは同じ穴のムジナで、メビウスの輪のように交わる世界が安部公房の持ち味である。

     本著の中で特に好きなのは、「無関係な死」と「人魚伝」。「人魚伝」はかなり深い。

    【無関係な死】
     無関係の証明をしようとあがくうちに、その死体との関係性が増し、最後にはどうしても否定できない程の関係性が出来上がっている。床の白さの演出が素晴らしい。
     サスペンスのような筋書きから、ほんの少し、初めの一歩がズレただけで、行き着く結末が非現実味を帯びる。

    【人魚伝】
     全身緑の人魚が可愛く思えてくる。まさか安部公房の作品でここまで女性?を愛らしく感じることがあるとは。

     冒頭の「物語という檻の悲惨さ」は、最後の半ページで意味が啓ける。
     物語にすれば、結末が生まれ、そこに何らかの意味づけがされる。この場合は「ロマネスクな家畜」(この表現も美しい。)
     物語の意味づけは無意味であり、重要なのはその途中にある、書き上げられない小さな蠢き。
     しかし人魚というこれぞ物語、伝説的寓話を伝えるには物語の手法しかない。物語にできないものを物語でしか伝えられない、滑稽さ。

     こうした解釈を加えることも、物語に意味付けをしているという点で、作品を「物語の檻」に閉じ込めることになる。安部公房の妙技によって、作品を語ることを封じられてしまっている。

     そして例に漏れず、「捕食者と家畜」、「物語とその拒絶」という相対するテーマが、メビウスの輪となって絡まっている。

  • やっぱりおもしろいなあ。
    箱、壁、そして穴。
    初期の大友克洋っぽい話もあって、とても楽しめた。

  • 追っているはずが追われてた、人を嵌めようとしていたはずが自分で自分を追い込んでた、飼っているはずが飼われていた……というような状況の話が多い短編集だった。
    相変わらず絶望的というか無慈悲な終わり方をする話ばかりだけどなんだか好き。

    ただ、『なわ』だけはどうしてもだめだった。
    犬好きの私はあの展開はちょっと読めなかったという個人的な問題なのであって、小説自体としては良いんだと思う…けど。

    『誘惑者』は比較的わかりやすい話で好き。
    『夢の兵士』の哀愁も。
    『無関係な死』は私もあぁなったら焦ると思うし深刻な問題なんだけど、主人公の行動はなんだかギャグにもできそうな感じにみえてきて面白かった。

  • 箱男>砂の女>無関係な死・時の壁>壁>方舟さくら丸

    賭、無関係な死、人魚伝

  • 本にはまさに「読み時」があるんだと実感した
    この本はその読み時に読んだからすごくよかった

    表題作が文句ないけど、誘惑者と賭も好きです
    透視図法は難しすぎてわからなかった

著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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