砂の女 (新潮文庫)

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著者 : 安部公房
  • 新潮社 (2003年3月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121154

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有効な左矢印 無効な左矢印
遠藤 周作
三島 由紀夫
宮部 みゆき
村上 春樹
安部 公房
有効な右矢印 無効な右矢印

砂の女 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 難しかったけど読み終えた。自分の読解力のなさが情けない…。初・安部公房。砂が生き物のようでこわいと思ったけど、東北で例えるなら砂じゃなくって「雪」だと思ったら、こわさも感じなくなった。


    このお話…昭和の東北田舎、祖父母時代の排他的村社会みたいだと思った。配給はなかったけど「モッコ」(←!一番驚いた!㊟青森や秋田の戒めの言い伝え。幼い時はすごく怖ろしく感じる。ナマハゲは実体があるから物理的に怖いけどモッコは実体がないので、心理的に怖さ倍増)、部落、村八分、五分つき…息苦しかったけど読むのが止まらなくなった。


    古代から脈々と続く生命のリズム、性って生なんだなぁ~とも思った。(こういうとこが芸術作品みたいなのかな…)生殖とか繁殖とかギラギラしてないから読みやすかった。


    この本に「PTA」という単語が出てきたので、この時代にもPTAという言葉があったなんてー!と、そっちの方が衝撃的だった。


    主人公のキレっぷりと冷めた女の対応が、うちの夫婦ケンカみたいで可笑しい、どこもこうなのかな…ある意味ホッとした。“いずれ男というものは、何かなぐさみ物なしには、済まされないものだからと納得し、それで気がすむというなら、けっこうなことである”(225ページ)は、なるほどなぁ…と勉強になった。なんとなーく、どこか色川さんの狂人日記を思い出したりもした。


    窒息しちゃいそうだけど数回読まないと理解できないかも。難しいけど面白かった。ぐいぐい読んでしまった。庄内砂漠で撮影されたという映画が見たいな♪映像から入った方がきっとわかりやすい。


    青森や山形の砂防林、砂との戦いがこの作品のベースになっていると分かって、すごくうれしくなった。少し東北スピリッツみたいなものを感じると思っていたので親近感がわいた。(読んでいる途中“おしん”も思い出したりしたので…)

  • 読み返してみると改めて凄みのある怖さ。口の中が渇いてざらざらとした砂の感触さえ感じるような…

    昆虫採集のため、休暇をとって砂丘を訪れた男。部落の人々の勧めに従い、砂丘の底にある一軒家で宿を借りることにしたのだが…

    家には30前後の女がひとり、絶え間なく降ってくる砂を掻きながら生活していた。粗末なものではあったが、歓待を受け、微睡む男。彼が目覚めたとき、縄梯子は取り払われていた…

    蟻地獄に捕らえられた蟻さながら、もう男は砂穴から出られない。理不尽さに怒り、なんとか脱出を試みる男…

    男と女が一対一。力では女が男に敵う訳はないし、いくらでも脱出のチャンスはあるだろうと思ったが、砂による監禁は男の体力も気力も次第に削いでいく…

    先日、10年間にわたり、男に拘束監禁されていた女性3人が米オハイオ州で救出された。日本でも10歳の頃に監禁され、9年ぶりに救出された女性がいる。

    長い年月の間、犯人側にふと気が緩んだ瞬間はなかったのか、その隙をついて助けを求めたり、脱出のチャンスはなかったのか…と第三者である私などは考えてしまうけれど、きっと彼女らは囚人としての生活に慣れ、また慢性的な暴力による支配に、逃げ出す気力さえ奪われていたのだろう。

    自由を奪われたものは「しばらくの間」それを取り戻そうと躍起になる。が、あまりにもその状態が続けばその不自由さにも慣れ、それを生活として受け入れる。『砂の女』…読後にざらりとしたものが残る。

  • ぶっちぎりで面白かった。
    今年は没後20年に当たるそうで、そのせいか書店で見かけた帯には「ノーベル賞受賞目前だった」というようなことが書かれていて、思わず苦笑してしまったけど・・・さもありなん。

    僕が読書を始めた理由は、自分よりも多く本を読んでいるはずの友人(女性)が「太宰(=昔の純文学、という意味で)とかよく読めるな・・・」と言っていたことへのささやかな反撥心からでした。
    いや、それまで全然読んだことなかったのだけど。
    そもそも純文学と大衆文学、ミステリ、ラノベにそこまでの差があるんかいな?と疑わしかったので。そこに線を引いて先入観を持ちたくない。
    だから反撥したくなる。

    この『砂の女』はまさにそんな作品でした。
    質の高いミステリ、スリラーでもある。
    映画で言うと、一頃流行った『ソウ』なんかの
    ソリッドシチュエーションスリラー、脱出もの。

    だけどそれだけじゃないよね。
    「それだけじゃない部分」がほんとに良い。
    現代人の「生きる意味とは?」という問いを、
    喉元まで鋭く突きつけてくる。
    この作品が発表された頃は、まだ戦後の焼野原の記憶が皆にあって
    今や「あたりまえ」になってることが「あたりまえじゃない」、
    半々ぐらいの時期。

    そう考えると、この作品を読んで「あたりまえのことしか書いてないじゃん」と
    もし今の我々が思ってしまうとしたなら、
    それは完全に「砂」に飲み込まれているのかもしれない。
    怖い。

    主人公の職業も、科学的思考も全部ツボ。
    趣味が昆虫採集で、新種を見つけて歴史に名を刻みたがってるんだけど、
    これって現代で言うところのオタクだよなあ。
    行動も思考も完全に。

    昭和初期の文学と比べると、これは'60年代の作品なので非常に読み易かった。
    安部さんの文章の巧みさもあって、すらすら読めました。


    余談その1
    映画版は岸田今日子だそうで、あまりにハマり過ぎてる。
    その昔、岸田さんが主演の『この子の七つのお祝いに』という映画がありまして・・・
    これも幼い頃のトラウマ映画のひとつ。

    余談その2
    これ、『沈黙』『フラニーとゾーイー』と同時にブックオフで
    新品同様を一冊100円でDigしたんだけども、
    昔の表紙は安部公房の奥さんの真知さんが描いたもの。
    現在は本人の撮った写真のやつに変えられてますが、
    これは昔のやつの方が絶対に良いのになあ・・・。
    晩年は不仲だったそうで、そのせいかもしれないですが
    新潮といいハヤカワといい、どうしてこうも昔の良い表紙を
    改悪してしまうんだろうか・・・。
    購買意欲が削がれるよ、ほんと。

  • もう20年以上ぶりに再読~

    はじめて読んだとき
    なんだか腑に落ちない様な読後感で、
    好きだとも嫌いだとも思わず、
    なのに、あまたの大掃除、2回の引っ越しにも負けず
    ずっと私の本棚に並び続けている不思議な本!

    今回、電車でこの本を表紙むき出しで
    吊革につかまって読んでいたら、
    向かいの座席に座っていた男の人が
    すごく「はっ!」とした顔をして、
    私の読んでいる本の表紙を
    凝視したまま固まっていたのだけれど、
    一体、ど う し た の よ ?

    いつか砂の女と同衾した記憶でも甦ったのかしらん?
    貴方はあの村に迷い込み、とらわれ、
    そして逃げおおせた唯一の方?

    ストーリーは知らない方は
    ほとんどおられないとは思うけれど、一応。

    昆虫採集の為、休みを利用して
    ある県の砂丘にでかけた男は、
    村人にだまされて砂穴の底にある家に閉じ込められる。

    読んでいる間中、
    どうしてこんなに砂にまみれた生活を
    リアルに描けるのかな?と…

    安部先生は砂の中で暮らしたことがあるのかな?

    実際、砂の中で暮らしたら違うのかも知れないけれど、
    現実味がすごい。

    口の中に砂が入ってきたり、
    体に砂がついてかゆくなったり、
    色々が湿ってぶよぶよになったり、

    きりがない!もう、嫌だ!!
    すーっとする空気が、吸いたい!!!

    加えて私は閉所と暗所と狭所の恐怖症がある為、
    そこも辛かったわ!

    ラストは相変わらず「ふーむ…?」だけれど、
    そして「…そうなるのかも…?」だけれど。

    引き続き、私の本棚にいることになりそう、この本!

  • 強烈な恐怖がある。「閉じ込められる恐怖」と、そして、「自分が取り込まれる恐怖」。昆虫採集のために地方に旅行をしていた主人公は、突然部落の民家へ閉じ込められる。彼を閉じ込める民家は止めどなく降り注ぐ砂に埋もれかけ、部落へは人からロープを下ろしてもらわなければ上がれない。彼は脱出を心に決めながら、民家に住む30代ごろの寡婦と一緒に暮らし始める。

    物語の中腹までは気概のあった主人公も、脱出に失敗し、また女と関係をもってしまったことから、個性と主張のあった人格が摩耗されていく。それを象徴するように、いつの間にか、「彼」と表現されていた主人公は、文章の中で「男」になっている。

    ホラーが好きなので、そんな「彼」または「男」の様子は、ちょっと「ゾンビもの」を思い出した。ゾンビを恐れないためには? 自分もゾンビになればいい。そんなジョークがあったけれども、得体の知れないものに取り囲まれるだけでなく、それに感染するというのは、「ゾンビ」に共通するものがありそう。

    怖い話ついでに、女の正体は? というのも気になる。女は30前後に見えるが、やけに部落の生活に熟知しているし、主人公が教師らしく部落の政体や防砂の手立てを批判するのに、けして学がないとは言えない答えを返す。それに、冒頭で部落の老人から「婆」と呼ばれているのも気になる。一体何者なのか?
    また、旅人が泊まった民家で消えるというのは日本の民話でよくある話で、有名な「安達が原の鬼婆」もその一つ。それらのオマージュもあるのかも? と思ったり。

    この話では、「砂」「虫」「人」がたびたび入り混じる。砂から虫へ、虫から人へ、読み手の意識をなじませるようにして、じわじわと1/8mmの大きさしかない砂と人間が同一視される。砂の流れは人の流れに見え、虫の集合は人の集合に見える。人間が砂のように虫のように無数に蠢いて見える。それらの無数の集合体は、絶え間なくどこかに流れていく。

    また、3点リーダの使い方が見事で、意識の空白と無為さが生々しく実感される。この「…」の羅列自体、砂が人やその意識を押し流していく様子にも感じられる。

    退屈させず、読ませ、感じさせるという意味でとてもエンタメ的であるし、それだけでなく、なんとも言えない奇妙さ、不快感、人間を俯瞰して見るような気味の悪い視点を与えてくれる、びっくりするような濃い小説だった。

  • 喉が渇く。口の中がざらつく。
    冬の乾いた空気に包まれているはずなのに、じっとりとまとわりつく湿度の高い、熱を含んだ空気を感じる。
    読みながら、自分が主人公に置きかえられたように体感してしまう、凄みをもった作品でした。

    主人公の身に起こった出来事は非日常的であるにも関わらず、不条理に焦り、憤り、抵抗する男の姿にはリアリティがあります。
    結末を見るまではもやもやとした気持ち悪さを抱え続けていそうで、ときに不快感すら感じつつも読むことを止められませんでした。

    そして物語の結末、非日常の砂の世界が男を介して私たちの日常に重なる、という感覚を一番強く感じました。
    薄ら寒さと倦怠感に包まれて読了。

  •  砂丘へ昆虫採集にやってきた一人の男。しかし彼はそこで偶然会った部落の人々に砂の穴の中にある一軒家に閉じ込められる。彼は脱出のためさまざまな方法を試すのだが…

     純文学の作品に位置付けられているので硬質な文章なのかな、と思っていたのですがいざ読み始めると意外と読みやすかったです。

     そして文章は当然ながら上手い! 砂の質感や情景描写、心理描写何よりも主人公が感じる不快感が読んでいて伝わってきます。

     そうした文章の上手さもさることながら、人間はどこに存在意義を見出すか、安らぎと居場所を何に求めるか、ということをこの異常な状況を通して浮かび上がらせている点。

     そして主人公が囚われた砂の家での生活と自分たちが暮らす日常生活、どちらが幸せと言えるのか、二つの世界にどれほどの違いがあるのか、
    ということを問いかけてくるあたりが、この独特な世界観の作品が日本のみならず世界中に受け入れられた理由のように思います。

     突然囚われの身になる不条理な展開に、主人公と砂の家の女の会話やラストの突然ながらもどこかストンと落ちるオチなど、奇妙ながらも味のある安倍公房の世界観を体感できました。

    第14回読売文学賞

  • いちおう日本は人権国家ということになっているが
    それがあんがい不確かなものであるのは
    たとえば、労災争議やブラック企業問題
    あるいはドメスティックバイオレンス、ネグレクトの問題
    はたまた、北九州や尼崎の家族監禁事件などに漠然と見てとれる

    「砂の女」は、拉致されて強制労働に従事させられる人々の話
    はじめのうちは、脱出のための悪あがきをするのだが
    生きるための労働に追われるうち、心がだんだん萎えてくる
    そうなると、これまで「人として当然の権利」と信じていたものが
    たんなる思い上がりだったような気にさえなってくるのだった

    大人になるとはきっとそういうことである
    しかし拉致という行為が、たとえ必要悪だったとしても
    それが悪であるのに変わりはない

  • ぐったりするような読後感。
    今までの自分の常識がまるごとひっくり返されて役に立たなくなるような場所に囚われて、やがて逃げる意思も失うような……
    一度だけ脱出できて、そこから連れ戻されるまでが本当に怖かった。むりやり連れ戻されるより牙を抜かれるようなやり方が描かれています。
    それにしてもすごい想像力ですね、安部公房。圧倒されました。

  • 身体感覚として否が応でも読者に迫ってくる砂の感覚。なにしろこれが凄い。湿った砂、乾いた砂、砂が持つ残酷、無情とも呼べる無機的性質とそれに相反する生々しさ、官能性。
    生物としての人間の極限環境への適応能力の逞しさ、したたかさを感じた。別の面からみれば、感性の喪失、不感症ともとれるが。人の生活にとって何が重要なんだろうか。

  • ヒッチコックの映画に『鳥』という作品がある。とある街、とある暮らしの中に、その外側から怒濤のように、夥しい数の鳥が、編隊を組んだ巨大な質量が、押し寄せる。画面は不規則な羽交の蠢きに覆われ、乱れ迸る不協和音は展開される不可思議な光景に対する人間の圧倒的な非-知を浮き彫りにする。その全体に瀰漫するのは無知への恐怖でも、未知への不安でもない。そこにあるのは知性や理性による既知への吸収を絶対に拒絶する仄暗い否定と、それを目の前に立ち竦む人間の挫折である。

    この非-知を演出する為に、安部公房は砂を用いた。ガリレオ的書物としての自然観から漏れ出し、デカルトの言う機械としての自然理解を逃れた、肉体を持った乾燥が公房にとっての砂である。彼の砂は蹂躙し、侵略し、解体し、略奪する。完璧な規律と秩序を持った、究極の軍隊である。『砂の女』は、広大無辺の暴力を双眸に宿してしまった人間の脳裏を克明に、残忍なまでに描写する。

    砂粒の暴力は航空写真のようにマクロな遠さから、徐々に人間存在へと接近してゆく。男がいる。女がいる。生活が営まれ、人が暮らす。然るべく欲望があり、煩悩がある。しかし、それらは常に、既に乾燥している。朽ちてなお亡骸として起立する枯木のように、この小説が描く人間は乾燥している。砂は容赦なく細部へと、ミクロへと染み込んでゆき、やがて観念となると、精神世界へと流れてゆく。

    人間はこの非-知に抗う手段を持たない。人間からのあらゆる接近は砂という観念に辿り着くことなく挫折する。そこから否応なく導出される虚しい諦念は、ヒッチコックが描いたそれと僕の内部で見事に共鳴した。

    冒頭の報道内容と主人公が最後に胸裡で呟く科白を一本の線で結ぶことは、論理的には容易いに相違ない。しかし、他ならぬ「人間」として『砂の女』を経験した僕はその事実に筆舌し難い躊躇いを覚える。この躊躇こそ、人間という実存が抱え込んでいる葛藤の表出なのだろう。

    実存主義文学の到達として、僕は真っ先にこの作品に指を屈する。

  • はるか昔に読んでからの再読。なんという象徴的なテーマと普遍性をもっているのかと改めて驚く。砂をかき出すという不毛な労働と普通の人生との違いはなにかということか。皮肉な心情の変化に戦慄を覚えた。巧みな比喩に感心しながら読む。50年前の小説であるにもかかわらず古さを感じさせない。まあ元々の作風がモダンというのもあるが。

  • サラサラのはずの砂が、私には妙に湿っぽく感じられ、

    私にまとわりついているはずのない砂が、妙にリアルに感じられる。

    体を動かせば砂がこぼれ落ちそうで、怖くて動けずに、意味も分からないままに、比喩に絡めとられて読了。

    呆気にとられるとはこのこと。気がついたら日が暮れていて、

    自分が行ったわけではないのに、昆虫採集には二度といかないと強く誓ったのを覚えている。

  • 月に30冊くらい本を読みます。
    趣味が読書だというと、「面白かった本は?」「おすすめは?」と聞かれる機会が多い。
    直近でどんなに面白い本を読んでいても、
    いちばんに思い浮かぶ「面白かった本」は、中学生の時に読んだこの本です。
    多感な時の感動は、いつまでも鮮度を保つものですね。

    砂の流れる音が聞こえてくるような緻密な描写、
    スリリングで精緻なストーリー、
    何度読んでも新しい思考のきっかけをくれる、
    わたしにとっては永遠の「一番面白い本」。

  • 不思議な読書だった。
    正直、あまり面白いとは思わなかった。話の筋やタッチにも引かれなかったし、むしろ、なんだか厭世的で僻みっぽい小説だなぁ、と思った。
    それでも不思議なことに、読んでいて全く飽きなかったのだ。

    これはひとえに、比喩が抜群にうまいからだと思う。
    比喩が上手いというのは、それだけで素晴らしい。個人的には、物語をきちんと収束できることよりも、比喩が上手い方が何倍も羨ましい。
    そう感心するくらい、とにかく文章中に出てくる比喩がうまかった。

    その比喩に感心したので、特にこれはと思った比喩が出てきたページを折りながら読む、という読書を初めてした。まぁ、長時間の電車の中だったので付箋もなく、本も状態が悪めの古本だったから、というのもあるだろう。
    しかし、普段の私はページを折るどころか線を引くことだってためらうくらいの人間なので、これはとても珍しいことだった。

  • 砂に関する生々しい描写が強烈で、なんとも喉が渇く作品だった。
    読みすすめるのにはリアルな不快感が伴った。なぜなら比喩が抜群にうまいからだ。サラサラと流れる音、口の内側に張り付くじゃりじゃりとした触感、肌にじっとりと纏わりつく粒、太陽と立ち上る熱気、どれもありありと感じることが出来る。
    逃げる事ばかりを考えていた男の最後の選択にはわずかな希望が見えた気がした。あの結末は、物語の根幹にある「不条理」な設定を際立たせていた。

    中盤に突然詩的な表現が濫発される部分があったが、そこだけ私は合わなかった。

  • 閉鎖された空間が恐ろしい。
    「砂の女」の表情が目に浮かぶよう。ラストの主人公の選択へのストーリーの運びがさすが。

  •  まず砂の描写に始まる数々の偏執狂的視点が素晴らしい。 生存に関わること以外について、ひたすら考え続けることのできる存在である人間を讃えているような気がして、不思議な安堵感と感動を覚えた。

     環境によって、生きる意味や目標が変わってゆくのは自然なことで、かつての人生観たちは、時間と共に遠くなり、本当に、驚くほど思い出せなくなってしまう。 そんな普遍的な現象は、大げさに例えるとこの物語のようになるのだろう。
     男の選択に、寂しさはあるが、それでいいんだと、結局それしかないのだと、今はそう感じる。
     また歳を重ねて読み直したい作品。

  • 15年ぶりぐらいに再読。内容をすっかり忘れてた。
    不条理と無意味と反復と衝動(性・暴力)が緻密に描かれていた。
    安部の作品に見られる理数学問的な異常な緻密さが作品の迫力を増している。

  • 絶望的なくらい不条理だけど、主人公は幸せに人生を全うしたと思う。その点、飢餓同盟の花井の顛末よりは救われる。救われるけど、失踪者認定という現実が重くのしかかる。

  • 初めての安部公房。実は全然聞いた事なかった作者、有名だったとは。新潮文庫に感謝。会社を休み昆虫採集に出かけた男性教師は、より新種を見つけやすい郊外の砂丘に向かう。歩みを進めると、砂に半ば埋もれた形で建つ不思議な家々の集落を見つける。最終バスを逃してしまった彼は、村人の親切によりある未亡人の家に泊めさせてもらう。次の日、唯一の地上への架け橋であった縄梯子がない事に気付いてから、狂気の日々が始まる。なんとこの村の人々は、延々と降り注ぎ舞い散る砂を掻き出し家を保つ事をただ一つの労働とし、暮らしていた。決して地上に出る事はせずーそして教師を帰す気もさらさらないようであった。彼にとってはただの牢獄、そして拷問のようだが、戦後、焼け野原を途方もなく歩き続けるだけの毎日と比べれば、居があるだけましだと未亡人は言う。様々な脱出の手も虚しく、砂を掻き続けながら過ぎて行く日々。地上に思いを馳せながら、やがて子供も生まれ、時も経ち、いつの間にか行方不明の届出が出されてから7年が過ぎたー。とてもオリジナリティ溢れる作品。いまいちどういった感想を抱けば良いのか分かりかねるが、人生もこの小説に描写されている砂の村の一見無為に思える日々と対して変わらない、というのが説得力があり過ぎて、なんだかやるせなくなるなぁ。映画の出来も非常に良いようなので、観てみたい。

  • 本を読む暇がない人生の期間があるとは思いもしなかった。

    昆虫採集のために砂で覆われた土地を訪れた男は、一晩の宿とした古びた家に閉じ込められてしまう。
    家に住む女は逃走は無駄だと男を引き留め、土地の者たちは距離を置いて監視を続ける。
    なんとしてもこの砂の地から逃げ出さなければならない。


    半年以上前に購入したまま積んであったものを、ようやく休みが取れたので手に取りました。

    先日読んだ『変身』を彷彿とさせる不条理さで、男は砂だらけの地に囚われることとなります。
    砂の崖に囲まれた家には女が住んでおり、彼女は男が留まってくれることを期待し身の回りの世話をしてくれるのですが、男はとにかく逃げることしか考えていません。
    巻末の解説でも触れられていますが、逃走を続ける男には元々の生活への希望のようなものがまったく感じられません。
    元の仕事も家庭も、彼にとってはまったく逃走のモチベーションアップにつながるものではないんです。
    閉塞的な状況から逃れたい一心で足掻く男の姿が、異様な現実感を伴って息苦しくなるほどリアルでした。

    作者の比喩描写はかなり独特なものがあり、いい意味でこの小説の頽廃的な雰囲気を加速させていますね。
    特に性的な描写について言えば、最早ニュアンスしか伝える気がないんだなという感じ。
    でも逆にそれが後ろめたいような…まさに文学作品です。

    男を監禁した村の人々の無味乾燥な対応も斬新に思えました。
    普通はもっとこう、積極的に押さえつけるかのような表現をしてもいいのかなと感じるのですが、寧ろ一線を引いて近寄らない描かれ方でしたね。
    読んでいる間中、頭の中には〇取砂丘のイメージが…。
    フィクションですよね?…ね?

  • 冒険・ファンタジー・不条理・サスペンス・ラブ・お伽話・神話・サイコドラマ等など、あらゆる要素が盛り込まれた傑作( ´ ▽ ` )ノ。
    キーンさんが言ってるように、とにかく比喩・心理描写があまりにも巧み( ´ ▽ ` )ノ。
    人と接していてよく感じる、何か「モヤッとしたもの」、あれを寸分違わず明快に文章描写されてて、ドッキリ(゚д゚)!……まるでコーボーに自分の心を覗かれたみたい( ´ ▽ ` )ノ。
    話自体も、「砂」を時間と捉えるか世の煩いと見るか、「女」を広い意味での女性原理とするか無意識の象徴となすか、視座を変えるたびに様々な読み方が出来る( ´ ▽ ` )ノ。こういうところが名作と言われる所以だね( ´ ▽ ` )ノ。
    人生蟻地獄だ( ´ ▽ ` )ノ。

    真実とも似非ともつかぬ科学トリビアが散りばめられているところなど、スタニスワフ・レムの諸作をときおり髣髴( ´ ▽ ` )ノ。
    本作を原語で堪能できるのは、日本人として生まれた特権だね( ´ ▽ ` )ノ。

    しかし、ブクログのレビュー数(゚д゚)!。
    1000を超えてる(゚д゚)!。
    こんな昔の作家なのに、宮部みゆきや伊坂幸太郎にも遜色なしというのが驚異的だね( ´ ▽ ` )ノ。
    まあ、その理由も読めば分かるってもんだ( ´ ▽ ` )ノ。

    2016/04/19

  • 2016/04/14
    怖い。
    だんだん順応していくのが人間なんだろうけど、それにしてもラストの怖いこと。
    そして、砂のザラザラ感。
    気味の悪い世界だった。

  • 趣味で昆虫採集に出かけた男が罠に嵌められ、押し寄せる砂の脅威に晒される部落のために強制的に砂掘りの仕事に従事させられる。ただそれだけのストーリー。

    初めのうちは村人達の仕打ちに憤慨し、何度も逃亡を図ろうとするものの逃亡には失敗し、次第に穴の中での生活に慣れていくにつれ外の世界への希望や憧れは消え失せ、砂掘りばかりの日常の中に生きがいや慰みを見出していくことになる。

    個人的な話になってしまって恐縮だが、私は少し前まで東京で暮らしていて、また1日でも早く東京に戻りたいと思ってはいるものの、今は訳あって地元で生活している。

    これと言った娯楽もなく電車も1時間に1本しか通っていないようなド田舎ではあるが、自分の生まれ育った土地で気心の知れた友人たちと過ごす毎日は予想以上に心地よく、次第に東京に戻りたいという気力を失いつつある自分がいる。

    この小説の中の男と今の自分を重ねて読むことでそうした「慣れ」というものの恐ろしさを再認識することが出来たと思う。

    小説の読みやすさに関しては、比喩や言い回しがややこしく、何箇所か読み飛ばした部分もあったがストーリーが単純なのでなんとか読み終えることが出来た。

    しかし読み終えた後の重厚感はストーリーの単純さからは想像もつかないほどのものがあり、まだこの作品を読んだことがない人にとっては間違いなく一読の価値がある小説である。

    私自身、少し時間をおいてから必ずまた読み返したいと思っている。

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砂の女 (新潮文庫)の作品紹介

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。

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