箱男 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121161

感想・レビュー・書評

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  • 初のシュルレアリスム作品でした。
    面白かったです。ぞくぞくしながら読み進めた。読みやすいのに読みにくい。

    どこからが現実でどこからが妄想か、どこからが記憶なのかこんがらがってくる。安部公房の魔法にかかってしまった。

    明日箱男になっているのは、私かもしれない。

  •  安部公房4冊目。個人的な解釈。ほんとうに一意見として。

     読み始めてすぐに、箱男は私自身なのではないかと感じた。一方的に覗き見る人というのは、小説・手記を読んでいる人を差すように感じたからだ。手記の書き手が入れ替わっていく構造も、追っていくうちに、著者である安部公房と、読者である私という関係まで還元したくなる。
     安部公房の小説は、「アイデンティティ」というテーマがいつも(まだ4冊目ですが)読み取れる。書き手である箱男は、ダンボールをかぶることで自分が誰か特定されない、アイデンティティを失った状態である。Aが箱男を空気銃で打った後、自分が箱男になってしまう場面があるが、私も、仕事や目標、友人や家族といったアイデンティティを全て失くして、誰にも観測されない、一方的に覗き見る人になる機会があれば、きっとなってしまうと思う。そして同時に、そんな人間が実際に存在したら許しておけず、自分が所属する社会から弾きだしてしまいたくなる気持ちも理解できる。
     しかし、わざわざ箱など被らなくとも、今の私達にアイデンティティなどあるのだろうか。マンションの一室に必要な生活用具一式を所持して、ネットでニュースを覗き見て中毒に陥っている。ほとんど箱男である。もっと言えば、脳味噌が箱男の中身で、覗き窓が目、皮膚がダンボールと言えなくもない。人々は箱男など、見かけても気にも留めないが、全国に意外とたくさんいるらしい。

     箱男を箱から出すのは、女である。女の描写はとても官能的で、謎めいて描写される。女の内面は全く想像できず、男性的な視点だ。(現実の女も何考えているか訳がわからない。)女は書き手が独りよがりな理論をこねくり回したものをブチ壊す者として登場していると思う。箱男は、女の前では箱を脱ぐことができる。女の裸の前では、自分と女を区別して、二メートル半の距離を保つためにアイデンティティを持てるという事だろうか。それは弱さなのか、甘えなのか、エロなのか。もっと別のものだろうか。

     興味深いのが、女教師のトイレを覗こうとするDの話である。本の末尾の解説では、罰として見る立場とみられる立場が入れ替わる事に言及しているが、私が一番気になるのが、「それだったら俺も見られたいわ!」という点である。それまでずっと、一方的に見られることの不快感について書かれていたと思うが、見る立場と見られる立場に成立する快感の共犯関係のようなものが読み取れる。(看護婦が脱ぐシーンでも似たような描写があったかも?)お互いにアイデンティティがある状態(見る側とみられる側が誰かわかっている状態)だと、またいろいろ異なってくると言うことだろうか。

     結局女なのか。女の裸と性欲なのか。そんな結論でいいのか。(彼女欲しいなぁ。)

     という感じで、ひたすら自分の箱の中に延々落書きを続けられるような人間におすすめの小説です。
     たくさん落書きを書いたら、「他人の顔」で女に叩き潰されるのがよろしい。

  • 内と外、自己と他者。
    怪しい展開と共に、その境界線がまぜこぜになってゆく。
    読んでいる間、気持ちが随分昏くなって、早く手放したかった。
    いつ放り出しても良かったのに。

  • 箱男のすゝめ。まずこれは読み方が難しくて後半になってようやくそういうことかと判った。〈見るもの〉〈見られるもの〉のくだりは興奮した。ドキドキした。まさに物語そのものについて言及した小説だなと思った途端に、記述者がめまぐるしく変わっていく構成。まるでミステリのようなエンタテインメント性!小説として奇抜でありながらひとつの完成、極限であるような気がする。また読み返さないといけないな。

  • 3回くらい読んで考察も読んでやっとわかったかもしれない作品。
    最初はわけわからんけどすごい世界観だとしか思わなかった。次読んだとき実は緻密に作りこまれてるけどなぜか意図的におかしなところがあると気付いた。3回目でこれは上質なミステリ?サスペンス?なのかもしれないと気付いた。
    これを書いたのは誰か、箱男とはだれだったのか、理解するまでとても楽しめた。

  • 【本の内容】
    ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。

    一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは?

    贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。

    輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換するシーン。

    読者を幻惑するいくつものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。


    [ 目次 ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 上手くいえないのですが、
    不思議な気持ちにさせられる本でした。
    少し暗い気持ちになりますがおすすめです。

  • 面白い。

    この小説は、「ぼくの場合」の章にある
    「今のところ、箱男はこのぼく自身だということでもある。箱男が、箱の中で、箱男の記録をつけているというわけだ。」
    の文章につきる。
    つまり、①ぼくが箱男であるのは「今のところ」であり「常に」ではないということ。
    そして、②記録をつけているのは「ぼく」ではなく「箱男」であるということ。
    この2点が絶対的なルールとして本小説は書かれている。

    この2点だけしっかり注意して読むと、めまぐるしく変わる展開が、箱男だった人間が途中で箱男でなくなってしまったり、別の人間が箱男になってしまったりするせいだとわかる。

    なぜだか、貝殻草の件がとても印象に残る。

  • 段ボール箱の中を頭からすっぽり被り、街を徘徊する箱男。

    ラジオを箱の中に持ち込んで、ニュースを聴いて、外界との接点を保ちつつ。
    次第にニュース中毒になっていく。
    『昨夜B52による本年度最大の北爆が行われました、でもあなたは生きています。ガス工事中引火して八人重軽傷、でもあなたは無事に生きています。物価上昇率記録更新、でもあなたは生き続けています…』
    初読は15年前なんだけど、それ以来オイラもニュースはこういう風にしか聞こえなくなっちゃったよ…
    でもこれって、本当のところを突いているよね??
    自分の身の安全の再確認でしかないんだよ、結局ニュースなんて。

    特にオイラより上の世代なんてテレビっ子なはずだから、皆ニュースを見て育ったのでは。
    きっと若年層では、それがケータイメールなんだろうな。
    友達にメールして、返事が返ってくれば、(まだ独りじゃない)ってことなんだろう…

    安部公房の小説が難解だとかアバンギャルドだってよく聞くけれど、そんなこと言う人に限って、本質なんかちっとも捉えていないんだろうな。
    確かに解りやすいとは言わないが、とにかく凄まじいパワーに圧倒されるので、一度その中にどっぷりはまるのも割と心地よかったり。

  • 受験国語の小説問題に出てきそうな感覚に陥った。
    というのは、とにかく読解力を要されている気がしたから。
    昔っから国語が苦手な私にとっては、最後の解説文を読んで、それでも何となく理解。

    時間が経ってからもう一度チャレンジたい。

    これは、身体と精神のことを言っているのですかね。段ボール箱の中に記されたメモこそ、その人が確かに何かを感じた証拠、つまり確かに生きていたという証拠なのかと感じた。
    そして、肉体が精神と近すぎるから、人が苦しみやすくなるのか。その適度な距離感として箱(この場合肉体が精神の入れ物と捉えている)を選んだ箱男。生きること、身体を傷つけること=刻むこと。
    と言ったことを考えさせられた。

    にしても、もう一度クリアに読みたい!

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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