孤高の人(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101122045

感想・レビュー・書評

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  • 加藤文太郎は実在の人物。かつては貴族のものだった登山に、庶民のサラリーマンが単独行で挑んだ。難関とされる冬のアルプス縦走を好み次々と踏破してゆく。夢だったヒマラヤ登頂を成功させていれば登山家として有名になっていたのかもしれない。
    小説のなかでは妻子を持ち幸せの絶頂のなか、孤独な登山仲間の巻き添えにあい遭難死してるので無念としかいいようがない…。ヤマケイのノンフィクションも読んでみよう。

  • 今月の六甲全山縦走大会に向けて

  • 狂ったように冬山にのめり込んでいた加藤が、紆余曲折のあった結婚を機に、スッカリ人柄が変わったかのような生活を送る。ここの部分は純愛小説とも読める。

    また、社会人としての会社での生活はサラリーマン小説としての側面もある。単なる山岳小説ではなく色んな顔のある小説だが、かえって私にはそれが少々煩わしくも感じるところもある。ダイレクトに山岳小説に仕上げても良かったのではないか。しかしそれが物語に深みを与え、人間としての加藤の造形に深みを与えているのも確かだが。

    新田の作品には、山での気象の激変がとんでもない悲劇を招く作品がいくつかあるが、その部分の描写は、ある意味気象のプロとしての作者の顔が十分に活かされていて迫力がある。

    山に入るにあたっての心理的葛藤。山の中での宮村との確執。そして遭難に向かって突き進んでいく二人の行動。結末が分かっているだけに、この下巻は読み進むのが少々辛い。

  • いかなる場合でも脱出路を計算に入れた周到な計画のもとに単独行動する文太郎が初めてパーティを組んだのは昭和11年の厳冬であった。家庭をもって山行きをやめようとしていた彼は友人の願いを入れるが、無謀な計画にひきずられ、吹雪の北鎌尾根に消息を断つ。日本登山界に不滅の足跡を遺した文太郎の生涯を通じ“なぜ山に登るのか”の問いに鋭く迫った山岳小説屈指の力作である。

  • ハッピーじゃないな

  • 最後は悲しい結末でした。
    結婚してから明るくなりよかったのに残念です。

  • 雪山登山したことないけど、その魅力と怖さが伝わってきた。加藤文太郎の登山に魅了された

  • 「新田次郎」の長篇山岳小説『孤高の人』を読みました。

    『アイガー北壁・気象遭難』、『強力伝・孤島』に続き「新田次郎」作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    【話題のコミック!】「坂本眞一」 『孤高の人』原案。
    なぜ彼は単独で山に登るのか――。

    昭和初期、ヒマラヤ征服の夢を秘め、限られた裕福な人々だけのものであった登山界に、社会人登山家としての道を開拓しながら日本アルプスの山々を、ひとり疾風のように踏破していった“単独行の加藤文太郎” 。
    その強烈な意志と個性により、仕事においても独力で道を切り開き、高等小学校卒業の学歴で造船技師にまで昇格した「加藤文太郎」の、交錯する愛と孤独の青春を描く長編。

    〈下〉
    【話題のコミック!】「坂本眞一」 『孤高の人』原案。
    日本山岳小説史上、屈指の名作!

    いかなる場合でも脱出路を計算に入れた周到な計画のもとに単独行動する文太郎が初めてパーティを組んだのは昭和11年の厳冬であった。
    家庭をもって山行きをやめようとしていた彼は友人の願いを入れるが、無謀な計画にひきずられ、吹雪の北鎌尾根に消息を断つ。
    日本登山界に不滅の足跡を遺した「文太郎」の生涯を通じ“なぜ山に登るのか”の問いに鋭く迫った山岳小説屈指の力作である。
    -----------------------

    登山家の「加藤文太郎」の生涯を題材とした物語で、昭和39年(1964年)から昭和43年(1968年)にかけて山岳雑誌『山と溪谷』に連載された作品で、上下巻で約1,000ページの長篇、、、

    登山が金持ちか大学生の特権であった時代に、人付き合いが苦手で、自らの思いを伝えることが下手な「加藤文太郎」が、如何にして仕事と山を両立させることできたのか、どうして山を始め、そしてのめりこんで行ったのか、そして、なぜ山岳会に参加せず、パーティを組むことなく、単独行に拘ったのか… 等々、不世出で孤高の登山家が誕生したエピソードや、単独行を支えた工夫や技術、トレーニング、彼の抱える苦悩、人間関係等を見事に描いた魅力ある作品でしたね。

    読みながら、どんどん作品の中に引き込まれていきました。

     ■第一章 山麓
     ■第二章 展望
     ■第三章 風雪
     ■第四章 山頂
     ■解説 尾崎秀樹

    ただ歩くことが好きだった「加藤文太郎」が、同僚の「新納知明」から地図を読みながら歩くことを教えられて山に開眼し、彼の才能に注目した研修時代の講師で後の上司である「外山三郎」から登山の魅力を教えられ、励まされることにより、ヒマラヤ征服の夢を抱き、日本アルプスの山々を独りで踏破し始める、、、

    他の登山者とのコミュニケーションが取れず、異常に早いペースで歩き、常に独りで行動するという、これまでの登山の常識を覆す「加藤文太郎」の姿に、既存の登山者は嫌悪感を抱くが、本当に山を知る山の案内人たちは、伝説的な名猟師「喜作」の天才的な山歩きや、不世出の名ガイド「嘉門次」の歩き姿を想起… 彼の潜在能力を高く評価し、その実力が登山者の間でも徐々に認められていく。

    数々の実績を打ち立て、単独行の「加藤文太郎」としての地位を築く… 独学で山のことを学び、経験から得た創意工夫や独自的なトレーニングにより確固たる技術を会得し、独自の装備を活用して、次々と難コースに挑んで行く姿は、なかなか痛快でしたね、、、

    やがて、同郷の「花子」と結婚し、娘「登志子」が誕生したことにより、「加藤文太郎」は人が変わったように明るくなり、同僚たちとの付き合いも活発化し、山登りはやめていたが… 失恋の痛手を清算するために冬の北鎌尾根に挑戦し、それを最後の山を断つという「宮村健」からの強い求めに応じ、初めてパーティを組んでの冬山に挑む。

    山では自分以外に頼るものはない… という信念を崩し、断り切れずに付き合った山行で、無謀な計画にひきずられ、二人は吹雪の北鎌尾根に消息を断つ。

    うーん、哀しいエンディングでしたね、、、

    優しい人だったことが裏目に出たのかな… やはり生死を懸けた登山では、本当に信じ合えるパートナーとでないとパーティは組めないですね。

    自分の力だけを信じて、その力に頼って、単独で行動することって、まわりから理解され難いかもしれませんが、その気持ちは分かるような気がするんですよね、、、

    若い頃、一人で旅をしていた頃を思い出しました。



    本作品は、「加藤文太郎」の遺した実際の登山記録であり遺稿集の『単独行(たんどくこう)』等をもとに描かれており、本人の名前や登山の記録は多くが実際に行われたものと共通しているようですが、「吉田富久(作中では宮村健)」の描写が『単独行』と比較すると著しく異なっているらしいです、、、

    本作では、「宮村健」が槍ヶ岳北鎌尾根への登山に誘い、「宮村健」の判断で無謀な行動をとったことが原因で「加藤文太郎」が遭難死しましたが… 実際は違っており、誤解を招く恐れがある内容となっているとの指摘があるようです。

    実際のところ、二人とも還らぬ人となったので遭難のいきさつは想像するしかなく、真実は藪の中なので、事実を下地としたフィクションとして愉しんだ方が良いようですね。



    以下、主な登場人物です。

    「加藤文太郎(かとう ぶんたろう)」
     六甲山に登ったことをきっかけに徐々に縦走登山に熱中していく。
     ロック・クライミングに関しては小説中では批判的な目で見ている。
     実在の加藤はロック・クライミングを苦手としていたようだ。
     現実、小説、漫画でそれぞれロック・クライミングに対する考え方が異なっている。

    「外山三郎」
     モデルは加藤の上司の遠山豊三郎。
     作中でも加藤の上司として登場する。
     加藤を登山の世界に引き込む。

    「藤沢久造」
     モデルは藤木九三。
     加藤に、より大きな山へ向かうきっかけを作る。

    「宮村健」
     モデルは登山家の吉田富久。
     加藤に憧れて1人で冬の北アルプスに登ったりしている。
     園子に恋焦がれるが失恋し、登山を辞めて満州に渡る決意をする。
     自身最後の山行として冬季北鎌尾根縦走を計画し、加藤をザイルパートナーに誘う。
     実際の吉田富久とは大きく異なる人物である。

    「志田虎之助」
     モデルは好日山荘の島田真之介。
     登山用品店の店員。
     加藤に登山に関するアドバイスを与える。

    「金川義助」
     神港造船技術研修所時代の同級生。
     政治活動にのめり込み、やがて投獄され研修所も除籍処分となる。
     その後しまと結婚、1子を儲けるが政治活動に挫折、妻子を捨てて姿を消す。
     一時はヤクザに身を落とすが物語終盤で再起を誓って園子と共に満州に渡る。

    「影村一夫」
     神港造船所の技師。
     技術研修所の講師も兼任している。
     陰湿な性格で加藤を含む生徒達に嫌われていたが、加藤が技手になってからは一転して加藤に目をかけるようになる。
     愛人の田口みやを加藤に押し付けようとするが失敗。
     その後再び加藤に陰湿な嫌がらせを行うようになる。

    「花子」
     少女時代に加藤に下駄の鼻緒を直してもらったのをきっかけに知り合い、やがて見合いを経て結婚し1女を儲ける。

    「園子」
     外山三郎の知人の娘。
     加藤のことをお互い憎からず想っていたが、男に騙されたのをきっかけに悪女になる。
     物語終盤で金川と共に満州に渡る。

    「田口みや」
     神港造船所の事務。
     影村の愛人。

  • 2022年8月16日読了。

    下巻の感想。
    加藤氏は花子さんと出会って明るい性格になったのに、宮村に付き合ったばかりに、悪い方へと向かった。
    宮村との山行の話は、宮村の物語のようだった。

    上下巻を読み終えて。
    読む前は登山上級者の記録が大部分を占めてているのでは、と読むのを躊躇していた。いざ読み始めると、それは陰鬱な人間関係の話が続き、読むのが少しの間ストップした。これはあくまでも小説なので、どこまで本当なのかはわからないけど。ただ加藤氏の神戸での活動範囲になじみがあり、高取山にも何度か登っていることもあり、再度読み始めると、また物語に入れる、と言う感じだった。

    次は『単独行』を読んで、自分なりに加藤文太郎について探ってみたい。
     

  • 上巻とは異なり、ここから人間模様が濃くなっていった。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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