八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101122144

感想・レビュー・書評

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  • 日露戦争前に実施された八甲田山雪中行軍遭難事件を題材にした小説。組織のあり方、組織の中での人の振る舞いようなど、示唆に富む。大変な時代の積み重ねのうえに、今の日本があることにも思い至る。

  • 映画も観ないとな。

  • [暗白]日露戦争を 目前に控え、冬期の山中行軍が可能かという調査命令が二つの聯隊に発せられた。競い合うように異なるルートから極寒の八甲田山に乗り出す二組であったが、結果として一方は全員が無事帰還、一方は隊のほとんどが遭難死を迎えるという事態に陥る。あまりに違いすぎるこの差はいったいどこから生じたのか......。著者は山岳に関する優れた名作を数多く残した新田次郎。


    必ず読み手の中に何かを残す一方で、時代や置かれた環境によって読み手によって得るものが異なる 、というのが(個人的な)名作の一つの条件だと思うのですが、本書はまさしくそういった類の作品。歴史物として読んでもよし、リーダーシップ論として読んでもよし、危機管理論として読んでもよしの秀作だと思います。映画化もされていますが、新田氏の描写の迫力(特に遭難の悲惨さの描写は鬼気迫るものがある)を考えれば書籍版は「外せない」一冊かと。

    〜やはり、日露戦争を前にして軍首脳部が考えだした、寒冷地における人間実験がこの悲惨事を生み出した最大の原因であった。〜

    たびたび読み返したくなる本かも☆5つ

  • 人間って怖い、そして凄い。

  • 日露戦争前夜の5連隊と31連隊の雪中行軍

  • ヒエラルキーが強くて、冷静で正しい判断ができない組織に嫌悪感。

  • 悲劇というより「組織経営論」という感じで経営とはどうあるべきかを考えさせられる物語だった。案外人って死なないもんだな。

     とはいえ、この組織経営の方法がそのまま後の日露戦争のやり方だし、太平洋戦争の時の思考法だと考えて間違いない。そりゃあ全滅するわ。

     すべてが希望的観測に基づいた行動だ。
    ●日本の軍隊は不可能を可能にするから日本の軍隊なのであると思うのであります。
    ●戦地では案内人なんていないのだから、そんなもの頼らないで行軍できなければならない。いや必ずできる。

     思考材料に希望を含めてはいけない。肝に銘じよう。
     もし自分の所属する組織が、こんな感じの意思決定をし始めたら、逃げよう。

  • これは凄かったなぁ。実際には小説になるんだろうけど、これはもう、いわゆるエンタメ・ノンフ。実名に基づいた仮名が使われていたり、会話分も普通に出てくるけど、それによって、よりリアルに雪山の恐怖が描き出されていますね。情景描写だけだとどうしても限界があるけど、各人の心情とか会話が加わることによって、臨場感がグッと上がる。朝晩はまだ寒いこの時期に読んだから、思わずブルブル震えてしまった。行軍の意義とか、軍隊の狂気性とか、やるせない部分は多々あるけど、一貫して思うことは、今の日本がこうでなくてよかった、ってこと。

  • 1902年に、世界山岳史上最悪とも言われる犠牲者を出した、八甲田山における山岳遭難事故を題材とした小説(1971年出版、1978年文庫化)。本書を原作として1977年に公開された映画『八甲田山』は、当時日本映画として最大の配給収入を上げたという。
    題材となった八甲田雪中行軍は、日露戦争直前にロシアとの戦争に備えた寒冷地における戦闘の予行演習として、神田大尉(映画では北大路欣也)率いる青森歩兵第5聯隊と、徳島大尉(同・高倉健)率いる弘前歩兵第31聯隊が雪の八甲田を縦走するというものであった。しかし、雪中行軍演習の経験がある徳島大尉が、綿密な下準備を行なった上で、機動性を重視して小規模な編成で臨み、全員が生還したのに対し、神田隊には上官である山田少佐を含む大隊が随行し、山田少佐から不適切な干渉を受けるなどして、210名中199名が死亡するに至ったのである。その冬は、北海道で史上最低気温を記録するなど、記録的な寒さであったとも言われている。
    本遭難事故は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』に詳しい、近代海戦史上例のないパーフェクトゲームと言われた日本海海戦を含む日露戦争の勝利の前に起こったものではあるが、精神論の重視、指揮系統の不徹底、準備・情報不足など、後の太平洋戦争での敗北の要因のいくつかが既に見られ、本作品はそうした教訓を得るものとして読むことはできる。しかし、映画を含めた本作品の迫力は、そうした教訓を口にするのも躊躇われるような、えも言われぬものである。
    映画とともに、一度手に取るべき大作である。

  • 人名等は実在する人物と若干変えてはいるが、事実を元に述べられている山岳遭難小説だ。ただ普通の山岳小説と違うのは、自ら進んで山に登るため、頂上の景色を見たいために登山に挑戦し、遭難したというものではなく、戦争という暗い背景の中で起きた、いや、起こされた非常に残酷な物語である。
    210名のうち、199人という尊い犠牲を出したこの遭難事件を踏まえ、軍の寒中装備は全面的に見直され、対露戦争に突入していったともいえる。それまでは、寒地や雪のことを知らないで、東京あたりの机の前でふんぞり返っている軍人の姿をした高級官僚が、現地部隊の要請を取り上げようとはせず、軍人精神、鍛錬の名の下に却下してきたのである。そんな官僚も、この事件の教訓から、精神や鍛錬だけでは吹雪には勝てないことを知ったのである。もしもこのことがロシアとの戦争中に起こったらどうなるか。日本は負けるぞ。こういう事件が起こったからこそ、軍は防寒に対して真剣に取り組むこととなったのだ。極端な言い方をすれば、この第5連隊の遭難が、日本陸軍の敗北を未然に防いだとも言えるのだ。いや、そのように思わないと、この英霊達は報われなかったのかもしれない。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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