砂の城 (新潮文庫)

著者 :
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感想 : 53
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123127

感想・レビュー・書評

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  • うっかり裏表紙を読んでしまって結末を知りながらの読書となったのが悔やまれる。何も知らずに衝撃を味わいたかったなぁと。
    同時代を過ごした若者たちがそれぞれの信念の赴くままに歩む人生。破滅であったり、道を踏み外すことも美しく善きものをものを求めて本人たちが選びとったものなのだろう。母の想いを辿りながらの旅はドラマチックで美しい描写で魅了された。古いお話なのだけどとても引き込まれた。

  • ◯青春小説、と帯にはあり、解説にも軽小説・青春小説とあるが、個人的な感想としては、別段軽小説でも青春小説とも感じなかった。(解説の文芸評論家は片手間で書いたのだろうか、それともこれが世間的な評価なのだろうか。)
    ◯「善なるもの、美しいもの」(自分が信じるなすべきことなのか、)を追い求めるも、時代や環境の波に飲まれ、脆くも崩れ去る砂の城としての人間の「エゴ」が描かれており、そういった重厚なテーマを、掲載雑誌テーマと、その読者層に伝わるように書いていると思う。
    ◯もしも軽小説・青春小説と読めるのであれば、表面的な感想であるが、むしろ著者の技術の賜物である。
    ◯ただし、その根底に流れるテーマは、「軽」でも「青春」でもない。著者の他の小説にも引けを取らない、私の好きな遠藤周作そのものであった。

  • 理想像として描かれる母の青春、醜く歪んだトシの青春、そして疑問や不安を抱えながらも、清く正しくあろうとする泰子の青春。
    青春という浜辺で作るそれぞれの砂の城は波に攫われ消えてしまうけど、たしかにそこにあった。泰子の清らかさに眩しくなりながらも、私もそうありたい、と願う瞬間も幾度となく。

    美しい言葉が多くある本だなという印象だった。

    「夢みたものは ひとつの幸福 ねがったものは ひとつの愛」「負けちゃだめだよ うつくしいものは必ず消えないんだから」「美しいものと、けだかいものへの憧れは失わないでほしいの。」「人間がつくりだす善きことと、美しきことの結集」

  • 2022.1.15 再読
    前回どう読んだのか全然覚えていない。
    が、今回はかなり心に刺さった。
    それぞれの青春の痛みが。
    動き始めたら止まらない。転げ落ちていく様が。
    中でも水谷トシの行動は愚かで醜い。けれどそれを否定できない。だってそれが正しい事だと信じているから。
    泰子が本当の意味でそういった事に巻き込まれないのは、賢いからだけなのだろうか。

  • 新潮文庫の解説で遠藤周作の中のいわゆる軽小説と書かれてるけど、この言葉が気に入らない。別に軽くないし。どうせなら青春小説と書いてほしかった。
    さらに言えば新潮文庫の裏表紙のあらすじは結末をドーンと書き過ぎじゃないかしら。

    まず物語が亡くなった母の手紙から始まるというところが好きです。
    冒頭の泰子とトシの高校時代が無邪気で楽しそうで明るい未来が待っているという感じ。砂の城を築き上げている途中といったところですね。初めて読んだのが高校の時だったから2人の楽しそうな姿が目に浮かびました。
    それなのに泰子とトシは全く真逆の道に進んでいくことになるわけで。
    トシの気持ちは分かる気がするんです。泰子って完璧すぎる。こんな人が隣にいたら劣等感の塊になりそうなのに、トシはそればっかじゃなくて、ちゃんと泰子のことを親友だと思っている。
    でもやっぱり泰子より…って思うのは当然だと思うんです。その方向性が世間や泰子の思うような“美しいもの、善いもの”ではなかっただけ。
    泰子の言ってることは正論なんだと分っていながらも引きずられていくトシのことを、泰子は理解できないだろうなぁ。
    西に関しても、容赦なく泰子さえも殺すと言ったとき、あれは泰子じゃなくてあたしもショックでした。砂の城が崩れたのはトシと西よりむしろ泰子だったのかもしれません。

  • 「青春の浜辺で若者が砂の城を築こうとする。押し寄せる波がそれを砕き、流してゆく……。西は過激派グループに入って射殺され、トシは詐欺漢に身を捧げて刑務所に送られた。しかしふたりとも美しいものを求めて懸命に生きたのだ――スチュワーデスになった泰子は三人いっしょだった島原の碧い海と白い浜を思い浮べる。幸福を夢み、愛を願ってひたむきに生きた若者たちの青春の軌跡。」

    中江有里・選 遠藤周作
    「自分は何のために生まれてきたのか、そんな疑問を抱いたのは高校一年の時だった。ーそんな時遠藤周作氏の『砂の城』と出会った。
     仲の良い主人公三人がやがてバラバラの道を歩み、砂の城のようにはかなく波にさらわれ跡形もなく消えゆく青春小説だ。特に印象に残ろうのは、主人公の一人の亡き母が残した手紙にある「美しいものは決してなくならない」という言葉だった。これから戦場に向かう恋人からの最後のメッセージを未来の娘に託した母の思いは、過去も現在も未来までもひっくるめた希望の奥行きを感じた。人は未来を夢見て、過去を後悔しながら、今を生きるしかない。駄目でもみっともなくともこの自分で生きるしかない。なんのために生きるのかではなく、とにかく生きて何をすべきかを探そうと覚悟が決まった。そうして遠藤作品のとりこになったわたしは、その深みに身を沈めていく。」
    中江有里・選 遠藤周作
    ①『砂の城』(新潮文庫)
    ②『わが恋う人は 上・下』(講談社文庫)
    ③『深い河』(講談社文庫)

  • 高校の同級生である、早良泰子と水谷トシという二人の女性の青春をえがいた作品です。

    泰子は16歳の誕生日に、死んだ母から彼女にあてて書かれた手紙を、父親から受けとります。そこには、泰子とおなじ少女時代の母が、恩智勝之という男性とひそかな交流をつづけており、しかし戦争によって二人の運命が別れてしまったことがつづられていました。その後泰子は、母の夢を追いかけるように、得意の英語を生かしてCAとなる道に進みます。

    他方トシは、星野という男を追って神戸にわたり、信用金庫で働くことになります。星野は定職に就かずギャンブルが好きというだらしのない男ですが、彼に泣きつかれるとトシはついお金をあたえてしまうことになります。そんな彼女自身の暗い生活も、好きな男のために生きるという意義を彼女に感じさせ、その泥沼のなかに彼女は落ち込んでいくことになります。

    対照的な二人の女性の生きかたをたどるというストーリーですが、キャラクター造形がくっきりとしていて、エンターテインメント性の強い内容になっています。


  • 青春の試練に、人生の難しさ、厳しさを思い、それを重ねるべく努めないといけない。

    若者が夢想と空想のうちに築いていた青春=砂の城は崩れていく。

  • 壊れゆくことをわかっていて作る砂の城。高校・大学の打算的だけれど甘酸っぱい青春がよく描かれている。大学から就職にかけて社会を知る時期というのは、ある種現実を知って社会に対する夢や希望が壊れる時期でもあると思う。それを感じられる作品。

  • 旧カバーデザイン
    [第13刷]昭和59年12月25日

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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