キリストの誕生 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123172

作品紹介・あらすじ

愛だけを語り、愛だけに生き、十字架上でみじめに死んでいったイエス。だが彼は、死後、弱き弟子たちを信念の使徒に変え、人々から"神の子""救い主"と呼ばれ始める。何故か?-無力に死んだイエスが"キリスト"として生き始める足跡を追いかけ、残された人々の心の痕跡をさぐり、人間の魂の深奥のドラマを明らかにする。名作『イエスの生涯』に続く遠藤文学の根幹をなす作品。

感想・レビュー・書評

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  • イエスの生涯に続いて刊行されました。
    イエスからキリストという存在へ変わっていく弟子たちの心理などを本当に質の高い内容で描かれています。「僕は大説家ではなく小説家なんですよ」とエッセイで何度も著者は口にしていました。
    それを決して忘れずに読んでいたものの、遠藤氏の文章はどうしても僕に夢をみさせてしまう。読者も多く、たくさんのレビューがあり、十人十色に評価をなさっていることでしょう。宗教と歴史と信仰の危ういバランスを絶妙にとりながら見事な結びまで持っていくその技量を楽しむ一冊として読んでもいいと思います。
    キリスト教に関わっている方なら、是非そこに自分の思いも加えてみてください。

  • 『イエスの生涯』の前にこちらを読んでしまったがものすごく興味深く読ませていただいた。

    日本人にとって、仏教よりもよほどとっつきにくいのがキリスト教、イスラム教だと思う。キリスト教について知りたいとは思うが、聖書はとても読めないなということできっかけとしてこちらの本を読んだ。

    神格化される前の無力な人間であったイエスが、如何にして人類にとってここまでの大きな存在になったのか。人間の弱さ、悩み、もがき足掻く姿が遠藤さんの読みやすく飾らない文章で綴られている。 
    原始キリスト教団の群像劇として読んでも面白いです。
    この本を読むと“沈黙”という言葉の重みがより解るのだなぁ。

    キリスト教ってなんなん?と思っている人にぜひ読んでいただきたい一冊。
    自分もイエスの生涯も読まなければ。

  • ​​​『イエスの生涯』​読了後、続巻のこれを読まないと、と思いつつなかなか進まなかったのに、読めば読んだで、早く読めばキリスト教のことがもっとよくわかったのにさ、という思い。ほんと、この2書はセットで読むべし。

    西欧の文学作品を読むにつけ、神の存在が日本人と全く違って意識され来るのだが、その多くを占めるキリスト教とは何か?の知識は、新書版などの解説書を少々読んでもなかなかわからない。それだから遠藤周作氏が小説家の目で解き明かしてくれたキリスト教の成り立ちに目を開かされる思いがする。

    前に読んだ『イエスの生涯』には、元大工でユダヤ教徒だったイエスという名のひとが、律法に縛られたユダヤ教ではしっくりしないと悩み続けているうちに、ある時啓示を受け「寄り添う愛」にたどり着いた。しかし弟子は多くつどえど、弟子たちは本当のイエスを理解せず、裏切り、挙句の果てイエスは処刑され無駄に死んでしまう。その犬死のような死に意味があったのだった。

    『キリストの誕生』では聖書(使徒行伝、マタイ、ルカの福音書・・・)などの文献から作者は、その後の弟子たちの動きを追う。原始キリスト教団の歩みというような語り口で、だんだん「なぜイエスの死」がキリスト教の普及に繋がったのかがわかってくる。一口に言えば裏切った弟子たちの猛烈な反省と後悔なんだけど、イエスと言う人の卓越した温かみがじわじわと「裏切り弟子たち」の胸に沁みとおってくるのを遠藤氏は切々と描くのだ。

    西暦というのはイエスが生れたときから始まったと思っていたが、生まれたのは紀元前4年というのが通説らしい。ともかく紀元0年~紀元30年にイエスが生き、その後紀元50年、紀元60年までにエルサレムから地中海沿岸を通ってローマ、スペインまで伝播してしまった原始キリスト教の発信力はものすごいと思うし、それから現代までいろいろに歴史を重ねて(宗教戦争など酸鼻をきわめることがあるし)いるのだから、なんとも怖ろしい勢いと持続。ユダヤ教しかり、イスラム教しかり。いえ、一神教のみならず、主義主張にてこの世を動かす権力争いも宗教のようである。

    根本的なことは「人間は誰かに、何かに」寄り添ってもらわないと生きられない」というのは真理だと思うから、それが何であれ続くものならば、互いに認め合っていってほしいものだ。

  • 映画の「沈黙-サイレンス」を先日観た。
    小説の「イエスの生涯」を先日読んだ。
    その流れで、本書を手に取ることに。

    映画も小説も遠藤氏は、「神の沈黙」という事をテーマにされているんですね。

    ステファノの事件
    エルサレムの会合
    アンティオケの事件

    この流れがキリスト(教になる節目)を誕生させる物語などは、初めて知る内容だけに面白かった中、登場人物のポーロが一番気になった。

    ビジネス社会でベンチャー企業だと、ある程度の規模から鈍化することがあっても、熱く猛る信念で、常識を超えて突き進んでいく人が、ある意味無茶苦茶に引っ張る瞬間、異常な壁を軽々と越える時がある。
    それも名もなき人達だったりする。
    いつの時代も、目立つ人だけが歴史や本道を作るわけじゃない。

    イエスの使徒たち皆が、分かっていながらも「何か」に縛られている間に、ポーロという人の持つ、清々しい程の行動力という一点突破で、「ナザレのイエスの物語」だったものを、「イエス・キリストの物語」だけ集約し、昇華させた気がした。

    実話と想像と混在しているとは思いますが、実に心躍る一冊でした。

  • [その後の話]イエスの死に際して自らの弱さに苛まれたであろう彼の弟子たちは、何故にその後殉教をも恐れぬ熱心な信徒となったのか......。クリスチャンでもある著者が、回答定まらないその問いに答えようと、イエスの死後の弟子たちの歩みを再構成した作品です。著者は、本書と『イエスの生涯』を著したことで、さらなる思考が求められたと語る遠藤周作。


    『イエスの生涯』を事前に読んでいたからでしょうか、遠藤氏の考える弟子像というものがすっと頭に入ってきました。その像がいわゆる正統の教義との関係でどう考えられるかまでコメントできる見識がないのですが、遠藤氏自身の自画像が非常に深く弟子像に投影されているように思います。「弱さ」という点が1つのキーポイントになっているのではないでしょうか。


    キリスト教の立ち上がりまでの動きが大まかに理解できるのも本書の魅力の1つ。聖書やキリスト教については、それこそ勉強を始めると終わりの見えない世界だと思うのですが、とりあえず概略を把握しておきたいという方には、(遠藤氏の思いが如実に詰まった作品であるということに留意しつつ)非常にオススメできる一冊です。

    〜イエスは現実には死んだが、新しい形で彼等の前に現われ、彼等のなかで生きはじめたのだ。それは言いかえれば彼等の裡にイエスが復活したことに他ならない。まこと復活の本質的な意味の一つはこの弟子たちのイエス再発見なのである。〜

    どうぞ素敵なクリスマスをお過ごしください☆5つ

  • 2015/02/16
    日経新聞にて
    リーダーの本棚
    自衛隊統合幕僚長 河野克俊

  • 結びはとりわけ肝に銘じたい。人はみな愛を裏切らぬ何か、永遠の同伴者を信じずには要られない。たとえ現実にはそれが沈黙していようとも、である。そういったものとしてキリストは生前から、そして死後も期待に応え続けてきた、と。しかしながら、キリストが持っていたXは分からないままである。
    それぞれの聖者を描き出す筆致は鮮やか。読み応えがある。

    どうも僕はそうやって信じる物語が好きらしい。確かに神は沈黙しているのだけど、それでも信仰されるという筋が好みらしい。心打たれてしまうらしい。
    奴隷道徳ということも頭の片隅に。

  • 神格化された人を、しかもかなり過去の、実在の人物だなんて考えたこともなかった。ましてやそれが民族を超え、厳格に信仰してた唯一の神をも超えた人まで出て、全世界に広がる。
    今ある新興宗教は、どちらかというと教祖が絶対的な立場にあり自ら神格化して表現してるけど、生前も、ましてや死後に信仰が広がるって、本当に教義が素晴らしく、その人格たるや想像も絶する。

  • ☆☆☆ 2022年7月 ☆☆☆

    P287 原始キリスト教のみじかい歴史を調べる時、私がぶつかるのは、いかにそれを否定しようと試みても否定できぬイエスのふしぎさと、ふしぎなイエスの存在である。なぜこんな無力だった男が皆から忘れ去られなかったのか。なぜこんな犬のように殺された男が人々の信仰の対象となり、人々の生き方を変えることができたのか。

    『イエスの生涯』『キリストの誕生』の2冊で筆者が読者に語りたいのはまさにこの点である。『キリストの誕生』では弱虫で臆病だった弟子たちが原始キリスト教の創始者となり、キリスト教が広まっていく頃の事が語られる。
    ペテロやポーロ(パウロ)といった弟子たちの物語。

  • 愛を語り、愛に生き、十字架にかけられて死んでいったイエス。そしてそのイエスを見棄てた弟子達。しかし弟子達は己の弱さ、卑怯さ、罪悪感の中で改めてイエスが遺した言葉と向き合い、信念の使徒と目覚めてゆく。本書は新約聖書や伝承を引用しながら、小説家としての豊かな想像力を駆使してイエス亡き後のキリスト教団、キリスト教の伝導、指導者であったペトロやポーロ達の足跡、またエルサレムの壮大な歴史までも繙いた一冊。あくまでも遠藤周作の想像や推測にすぎないけれど、どのようにキリスト教が発展していったのかを丁寧に描いており、とても勉強になりました。聖書には矛盾や語られてないことが多く、その解釈によって色々な見方ができますが、遠藤周作が著した「キリストの誕生」は個人的には筋の通った解釈だと感じました。これからもキリスト教関連の本は読んでいきたいです。解説が高橋たか子なのも良いです。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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