芽むしり仔撃ち (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126036

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル文学賞作家、大江健三郎さんの初長編。

    難解。

    太平洋戦争末期、感化院の少年たちが疎開した先の閉ざされた山村で疫病が流行る。村民が避難をして、少年たちは束の間の自由を得て…という物語。

    感化院とは、少年犯罪者を感化(考え方や行動に影響を与えて、自然にそれを変えさせること)する施設。
    今の少年院みたいなものか?
    少年院の少年たちが疎開する、という状況がそもそも想像することが難しい上に、疎開先の村の村民が疫病から逃れるため少年たちを宿舎に閉じ込めたまま避難してしまう、という設定もなぁ…
    戦時ということもあるのだが、昔の人っていい加減だなぁと。

    人権なんてない。

    この本も伊坂幸太郎さんが選書した一冊。
    伊坂さんは、大江さんの小説に出会い「小説を読むとこんなにヤバい気持ちになるものなのか、と教えてもらった」と言う。

    ヤバい気持ちに浸りたい人におすすめ。

    • naonaonao16gさん
      たけさん、こんにちは!

      伊坂さん、大江健三郎さんに影響受けてるって仰ってますもんね~
      わたしも以前それで「飼育」読んでみましたが、きちんと...
      たけさん、こんにちは!

      伊坂さん、大江健三郎さんに影響受けてるって仰ってますもんね~
      わたしも以前それで「飼育」読んでみましたが、きちんとは理解できず…

      好きな作家さんの好きな作家さんなら!と思ってはみるものの、分からなかった時に複雑な気持ちになります…

      時々メンタルがヤバくなるんで、その時読んでみます(笑)
      ありがとうございます!
      2020/12/26
    • たけさん
      naonaonao16gさん、こんにちは!

      正直、よくわからない作品でした。
      理不尽なんだけど、かと言って主人公に感情移入もできず。心がど...
      naonaonao16gさん、こんにちは!

      正直、よくわからない作品でした。
      理不尽なんだけど、かと言って主人公に感情移入もできず。心がどっちつかずでした。

      メンタルヤバい時読むとどんな作用が起きるか…少し心配ではあります。気をつけてくださいね。
      2020/12/26
  • 大江健三郎さんの本は亡くなってから読み、これがまだ4冊目だが、こんな面白いとは思わなかった。難しくて自分には合ってないと思ってたのかもしれない。恥ずかしい。
    この作品も、人間の嫌なところ、人間の習性を、独特の文体でこれでもかと、読み手の心に刻み付ける。
    大江さんはそんなに人物に感情移入させないので、少年たちが虐げられるシーンも第三者の目で読める。

  • 子供/社会に組み込まれていない者に対する世界の残酷さを感じた。その残酷さは世界がましになれば和らぐものではなくて、世界がどれだけ包摂的になっても、マジョリティでない者はどうしたって無視され、閉じ込められるという話かもしれない。

    村の大人たちは獣じみていて(なにしろ対話が成立しない)教育の余地があるような気はするのだが、『デビルマン』の終盤でも大人は女子供を惨殺していたし、現実世界でも戦争中に起きたことを引けば悪い例には事欠かない。マイノリティに取って世界は永遠に牢獄かもしれない。そういう気がしてきた。

    ピュアな弟と非ピュアな実務全般を引き受ける兄の関係性に『鉄コン筋クリート』をぼんやり思い出した。そういう弟くんたちはかわいいのだけれど、ぜんぶ背負っていこうとするお兄ちゃんたちもいじらしくて泣ける。子供なことには変わりないのに。そしていつ人間は大人になるんだろう。好きかどうかにかかわらず、自分の居場所ができたときだろうか。

  • 戦争末期に集団疎開先の村で、発生した疫病を恐れて逃げ出した村人たちによって、村内に閉じ込められてしまった感化院の少年たちの一週間ほどの出来事を描いた、著者の長編第一作です。太平洋戦争末期の日本が舞台に選ばれた作品ですが、雰囲気としてはディストピア的な不吉さをもつSF小説に近いものを感じ、絶望的な状況に閉じ込められた子供たちの物語としては、『蝿の王』や後年の漫画『漂流教室』なども連想させられます。

    隔離された環境での少年たちの結束や対立をはじめとして、主人公である"僕"の幼い弟の振る舞い、疫病で死んだ母とともに残された紅一点である少女と"僕"の関係、朝鮮人集落の少年との交流、脱走兵の存在、村人たちの帰還など、盛り込まれた数々のエピソードと人物描写で、長編としては長くはないこともあって無理なく読み通すことができました。少年たちが共同体を形成する期間については、予期したより短く終わりました。

    表題の意味については「仔撃ち」は序盤、「芽むしり」は最終盤で明示されます。終り方については好みが分かれそうですが、個人的には好感を持っています。

  • ノーベル文学賞作家、大江健三郎氏の処女長編作。 ということを知らずに読みました。題名が秀逸すぎる。
    最初から最後まで「不条理」な世界です。外国文学でいえば蝿の王+かっこうの巣の上で+ペストといった印象。日本文学では、比べたくない。印象深すぎて。
    時代は世界大戦末期、主人公は感化院の少年たち。山中の村に集団疎開をするも、疫病の流行とともに村人たちに置き去りにされた挙句、強制監禁状態に。絶望的な“閉ざされた”状況にあって、疎外された少年たちが築き上げる奇妙な連帯感と、その終焉・・・といった話。
    非行暦のある主人公と、無垢な弟。男娼の少年、朝鮮人部落に生きる少年、親を亡くした唯一の少女、その他大勢の意志弱き少年たち、彼らと世界を共にすることを拒むかのような、予科練の脱走兵・・それぞれが、大人のいない世界で一定の役割を果たしています。
    純文学とかの分類はよくわからないけれど、私的日本人作家の本ベスト5には殿堂入り。

    薫る文体というのはあるもんだよなぁ、と実感しました。五感が言葉に乗せられていきます。
    読み始めてまもなく、ぶわっと見えない世界の風呂敷に覆われて、気付くと外の音が聞こえなくなっている。
    個人的には自然の描き方が豊かでうっとりしました。決して綺麗な風景ばかりではないんだけれど。
    また主人公の感情が赤裸々で、気付くと彼が歯を食いしばるときは歯軋りの音が聞こえ、彼が涙を流せばそれがうつす月明かりが見える・・という風に、「体感」を超えたシンクロ度合いが成立してました。
    なんだこの本。すごいよこの本こわいよこの本。

    最後は安い救いも希望もなく、少年たちは絶望と諦めと屈辱に身を浸すので、ああ・・・と嘆息が漏れそうになるんですが、
    世界の終わりは来ず、主人公の全力の疾走を持って幕が切れます。
    涙が乾く間もないその疾走、足の指先で土を蹴った時に奥歯に感じたであろう力、腿の緊張に、なんでか戦後の日本を感じました。舞台は戦時中だし、主人公たちにとっては戦争なんて遠い言葉なんだけれど。

    この話はフィクションであって、戦時中にこんなことが実際に起こりました、戦争ってこわいよね、といった類のものではない。
    ただ、実際に存在したであろう空気、言葉、眼差しを、作者が抽出してこねくりまわすことにより、「そのときの現実」を知らない私たちにその残り香が伝わる。その残り香と似たものを、「いま」の隙間隙間に感じるようになる。
    過去を世界の中に溶け込ませる、それも完璧な世界に・・・という、力のあるフィクション作品の一つだと思います。私は、読了後手を叩きたくなった。

    ちなみに、
    「nip the buds shoot the kids」という題名で翻訳されているそうで、アメリカでは課題図書にする高校もあるんだそう。
    英語でこの感覚は伝わるのか、興味あります。映画化したら面白いんじゃないかしらん。今のこの日本だからこそ。

  • 舞台は戦時中。「やっかいもの」として扱われる感化院の少年たちは、疎開先の村でも虐げられる。疫病を恐れた村人たちが逃げ出した後の村で、取り残された弱者たちと貧しくも希望のある山村の共同生活を作り上げるが、戻ってきた村人たちにそれは破壊されてしまう。物語は極限状態での人の関わりや集団の関係性の難しさ・醜さを描いているが、今の時代でも変わらないかな。「芽むしり仔撃ち」の意味は最後にわかる。

  • 閉鎖的な環境に閉じ込められるが朝鮮人の友人や少女との出会いにより、青春小説のように希望を持てる瞬間もあったがそれらがとても脆いもので簡単に壊れてしまう様が悲しく読み応えがあった。

  • 大江は途中めちゃ面白いくせに、結末がいつも気に食わず腹立たしい。

  • 少年たちの真っ直ぐで正当な怒りが私にはとても美しいと思えた。いつか、そんな怒りさえも奪われてしまうのかもしれないね…。表現が素晴らしくて、心が震えるような興奮した感覚になります。文章の虜になってしまうね。主人公の少年に少女への愛情が芽生える場面など、急激に満たされていく幸福感よのうなものに不意に涙ぐんでしまいました。すごい。

  • まだ生と死が目の前に生々しく横たわり、文明から隠されていなかった時代。目に見えない疫病に人々は翻弄されて想像は膨らみ肥大化した恐怖は人間を残酷な行動に駆り立てる。安心感を得るために人をよいものと悪いものに分類していく。
    薄汚れた世界でイノセンスはどこまで保たれるのか。とても脆く壊れやすい純粋さを守り抜こうとするのは愚かな試みなんだろうか。
    そして性。男性性のリアル。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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