空の怪物アグイー (新潮文庫)

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著者 : 大江健三郎
  • 新潮社 (1972年4月3日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126074

空の怪物アグイー (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • いわゆる過度期の作品群だけれど、初期作品ほど切羽つまっておらず、そして最近の長編よりは肩の力が抜けていて比較的読み易かったです。「アトミック・エイジの守護神」や「ブラジル風のポルトガル語」なんかは、変な人物や奇妙な事件を扱いながらもどこか他人事な感じが逆に気楽だったし。「敬老週間」のブラックなオチはありがちすぎてイマイチと思ってしまったけれど。

    いちばん好きだったのは表題作。私小説的モチーフは随所にちりばめられているけれど、狂気よりはファンタジーにも受け取れる抒情のようなものがあって、意外にもセンチメンタルな読後感が残りました。

    ※収録作品
    「不満足」「スパルタ教育」「敬老週間」「アトミック・エイジの守護神」「空の怪物アグイー」「ブラジル風のポルトガル語」「犬の世界」

  •  大江健三郎、著。精神病院から逃げ出した患者を探して町をさまよう「不満足」、新興宗教団体から脅される記者の心理的葛藤「スパルタ教育」、寝たきりの老人に現代社会は明るいと嘘をつくアルバイト「敬老週間」、原爆被害者の孤児を引き取った男の真意「アトミック・エイジの守護神」、生まれたばかりの障害児を殺した男が憑りつかれた赤ん坊の妄想「空の怪物アグイー」、突如消えた森林の奥の集落「ブラジル風ポルトガル語」、非行少年が住む世界「犬の世界」の七つの短編を収録。
     長編「個人的な体験」や「万延元年のフットボール」を書く過渡期の短編集らしく、初期の作風から抜け出そうという工夫が感じられた。特に「敬老週間」「アトミック・エイジの守護神」ではショートショート的な分かりやすいオチが用意されていて意外だった。ただ大江健三郎にそういうものを期待していなかったので少し腑に落ちなかった。暴力にあふれているが衝撃的というより虚脱感のあるオチ、生物・無生物の境界を取り去ったような観念的な視点、鬼気迫る比喩、悪文と捉えられかねない奇妙な文章、それらがこの著者のオリジナリティーだろう。それを考えると「スパルタ教育」と「空の怪物アグイー」が抜きん出ている。同じストーリーで別の小説家が文章を書いても決してここまで奥深い解釈はできないだろう。

  • アグイーを探してしまう

  • うーん…。R62号の発明と一緒に借りたのは少なくとも失敗だった。

  • 再読。著者20代後半に発表した7短編を収録。長編『個人的な体験』『万延元年のフットボール』に繋がる過渡期に当る。練習作的な色合いを感じなくもないが、故に生々しくあからさまに絶望というオブセッションを矢継ぎ早に投げ付けてくる。絶望の果てを見極めるのではない、絶望の中で足掻き苦しみ生きることを示す。決して諦めない。読者に判断を委ねるような姑息な手段は用いず、愚直に絶望の恐怖を掘り下げようと苦闘する。無様に見えるかもしれない。でも私はこの人の悪文に支えられて生きてきた。この無様さほどかっこいいものは他にない。

  • いずれも大江の過渡的な時期の作品だが、やはり長編とは別にこれらを書かなければならなかったのだろう。表題作と巻頭の「不満足」とは、『個人的な体験』とも重なり、実生活上の大江にとっては、もっとも辛く苦しい時期でもあっただろう。それを「書く」ことで超克していくのだから、大江はほんとうに根っからの作家なのだろう。かつての太宰がそうだったように。

  • 「敬老週間」なんかは別として、「アグイー」なんかはもう少し読み込みたいと思っているのだけど、サルトル的空気から大江健三郎自身(というのはある種私の偏見かもしれないけれど)の、どんどんずれていっちゃうような、深刻なことを語りながらも同時に滑稽である状況を描いてしまう、彼の常に一瞬前を自省せずにはいられないような意識が書かせる文章が面白くて仕方ない。
    普通の人はシリアスな場面で同時並行して起こる滑稽な部分を削ぎ落として文章を書くのかもしれないけれど、この人はシリアスになればなるほど振り子は残酷を含んだ滑稽へも大きく揺れる。この調子が近年失われてしまっているのが私としてはすごく残念なところなのだけれど…

    と書いているうちに、大雨の中で「バスは行ってしまった!」と三人称で語るように喋ることで大爆笑したサルトルとその母のエピソードが私に焼け付くように残っていて、こういう人が私は大好きなんだ、というのを忘れていたのだけれど、サルトルもこういう側面があったんだったな…。

    にしても、これは三島由紀夫も既に言及しているし他の人も多く言及しているに違いないのだけれど、彼は動物を使った比喩を行う時に決定的な笑いのセンスを爆発させている。
    「アグイー」でのたいていのフルート奏者が貘に似てくるのは事実である」という箇所や、「犬の世界」での「かれはぼくに似ているかね?」「あなたを含めて人間の誰かに似ているというより、むしろイシガメに似ているわ。」のくだりや、「ぼくはますます腹立たしく、涙ぐましい気分になって寝室にひきあげると、あの愚鈍でグロテスクなイシガメのやつが! いや、自分はいらんです、などと陋劣なことをいって! とにせ弟を罵り睡眠薬を大量にのんで眠った」というところなんか、これらの作品を読んだとき私はたまたま気分が猛烈に落ち込んでいた時期だったのだけれど、「ぎゃはは」と下品な笑い声を風呂場で上げずにはいられなかったほど面白かった。
    「ブラジル風のポルトガル語」での、「かれのことを阿波人形の虐げられる百姓の頭に似ていると無遠慮な同級生が嘲弄したことがある。その時、かれは突然、日々の羞恥心にうらうちされた小心なふるまいのすべてに報復するとでもいうように、みんなの前でイスカの嘴みたいに捩れている葉を剥き出し内斜視の目で虚空をにらむとギャッ、と叫んでひっくりかえって見せた。それは虐げられた百姓のうちの最も虐げられる百姓の磔にされる断末魔を演技した訳だったが、それを見たものはひとしく動揺した」に至っては、この話を全く読んでいない家族に向かって私はどうしてもこの面白さを共有したくなって声にだして読み上げたほど。内容の過激さもあるのだけれど、この、文章のくせに文章らしからぬ推敲の抜き加減が、多分わざわざ読み上げたくさせる要因だと思う。「虐げられた百姓のうちの最も虐げられる百姓」なんて、奇妙なくどさがと過激さが、どうしても口にしてみたくさせるというか…。
    引用ばっかりですみません。

  • ユニーク

  • 大江健三郎はどうやら合わないのか、なんら感動というものは得られなかった。印象に残ったのは本のタイトルにもなっている「空の怪物アグイー」。
    最後の方で、子どもに石を投げられて目に当たるという場面がある。その子どもたちは何を思ったのか、そしてアグイーを思った主人公はどうも落ち着いていて、腑に落ちなかった記憶があった。

  • 敬老週間―人を食ったようなユーモアのある短編で、今の時代にこんな老人がいたとして、嘘で渡り合える人なんてごくまれじゃないかな、と思う。

    アトミック・エイジの守護神―主人公の作家が目で追う中年の男が場面場面で善人にも悪人にも変化するけれど、読みやすく大江には珍しくショート・ショートのような肌触りさえ感じられる。
    けれど、この中年の男が特に誇張されているだけで、人はみんなこの彼みたいに善いところも悪いところも持っているのだ。

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