空の怪物アグイー (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126074

感想・レビュー・書評

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  • 「敬老週間」なんかは別として、「アグイー」なんかはもう少し読み込みたいと思っているのだけど、サルトル的空気から大江健三郎自身(というのはある種私の偏見かもしれないけれど)の、どんどんずれていっちゃうような、深刻なことを語りながらも同時に滑稽である状況を描いてしまう、彼の常に一瞬前を自省せずにはいられないような意識が書かせる文章が面白くて仕方ない。
    普通の人はシリアスな場面で同時並行して起こる滑稽な部分を削ぎ落として文章を書くのかもしれないけれど、この人はシリアスになればなるほど振り子は残酷を含んだ滑稽へも大きく揺れる。この調子が近年失われてしまっているのが私としてはすごく残念なところなのだけれど…

    と書いているうちに、大雨の中で「バスは行ってしまった!」と三人称で語るように喋ることで大爆笑したサルトルとその母のエピソードが私に焼け付くように残っていて、こういう人が私は大好きなんだ、というのを忘れていたのだけれど、サルトルもこういう側面があったんだったな…。

    にしても、これは三島由紀夫も既に言及しているし他の人も多く言及しているに違いないのだけれど、彼は動物を使った比喩を行う時に決定的な笑いのセンスを爆発させている。
    「アグイー」でのたいていのフルート奏者が貘に似てくるのは事実である」という箇所や、「犬の世界」での「かれはぼくに似ているかね?」「あなたを含めて人間の誰かに似ているというより、むしろイシガメに似ているわ。」のくだりや、「ぼくはますます腹立たしく、涙ぐましい気分になって寝室にひきあげると、あの愚鈍でグロテスクなイシガメのやつが! いや、自分はいらんです、などと陋劣なことをいって! とにせ弟を罵り睡眠薬を大量にのんで眠った」というところなんか、これらの作品を読んだとき私はたまたま気分が猛烈に落ち込んでいた時期だったのだけれど、「ぎゃはは」と下品な笑い声を風呂場で上げずにはいられなかったほど面白かった。
    「ブラジル風のポルトガル語」での、「かれのことを阿波人形の虐げられる百姓の頭に似ていると無遠慮な同級生が嘲弄したことがある。その時、かれは突然、日々の羞恥心にうらうちされた小心なふるまいのすべてに報復するとでもいうように、みんなの前でイスカの嘴みたいに捩れている葉を剥き出し内斜視の目で虚空をにらむとギャッ、と叫んでひっくりかえって見せた。それは虐げられた百姓のうちの最も虐げられる百姓の磔にされる断末魔を演技した訳だったが、それを見たものはひとしく動揺した」に至っては、この話を全く読んでいない家族に向かって私はどうしてもこの面白さを共有したくなって声にだして読み上げたほど。内容の過激さもあるのだけれど、この、文章のくせに文章らしからぬ推敲の抜き加減が、多分わざわざ読み上げたくさせる要因だと思う。「虐げられた百姓のうちの最も虐げられる百姓」なんて、奇妙なくどさがと過激さが、どうしても口にしてみたくさせるというか…。
    引用ばっかりですみません。

  • 死者の奢りあたりの文体の個性、
    迫ってくるような閉塞感はやや影を潜め、
    いろいろなパターンの小説が増えてきたな、という感じ。
    でも相変わらず短編はおもしろい。引き込まれる。

  • 『不満足』では『個人的な体験』の菊比古とバードが…。
    『空の怪物アグイー』は、『個人的な体験』のテーマ性をそのまま引き継いだ、別バージョン。

    「僕はアグイーの存在を信じようとしてたんですよ!」とかいうせりふがあって、それが響いたなぁ。


    短編集です。どれもよかった。
    『敬老週間』も面白かったし

  • 短編で一番好き。

  • −読後−
    レビュー考案中。

著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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