同時代ゲーム (新潮文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126142

感想・レビュー・書評

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  • 同時代ゲーム読了。いやー時間かかった。
    この難解な一見訳の分からない、作者の物凄い創造力に満たされた文章を読破できたことは、今後の読書にも自信をもてる。
    あまりにも奇怪な登場人物にクスッと笑ってしまうが、あまりにも文学的なので笑っちゃっていいものか悩んだ。
    面白いか面白くないかでは表現できない、混沌とした小説だったので自分としては高評価だった。
    なにしろ、長時間よく読破できた。でも不思議と途中で挫折しようとは思わなかった。それは大江さんの脳内に少しでも入りたいと思ったからかも知れない。

  • 伊坂幸太郎の『夜の国のクーパー』著者あとがきで、この作品からの影響について書かれていたので興味が湧いて久しぶりに大江健三郎の長編を。なるほど、伝説や巨人、孤立した小さな村が大国を向こうにまわして戦争を始めたりするあたりは共通しているかも。しかし伊坂作品ではさすがにエンターテイメントとしてそれらの素材が昇華されていたけれど、大江健三郎はもっと難解。発表当時賛否が分かれたというのも頷けます。

    物語の外郭はある意味ファンタスティック。江戸時代に藩に追われて移住した人々が新しく築いた「村=国家=小宇宙」。森の中の隠れ里として独立したその共同体内で、百歳を超えてなお生き、さらに巨人化した創建者たちと、そのリーダーである「壊す人」の伝説をベースに、さまざまな伝説の人物、幕末維新期の一揆の指導者や、第二次大戦前に「大日本帝国」を敵にまわして戦われた「五十日戦争」などの壮大な歴史が、父=神主に伝承者として教育された主人公を通して、双子の妹への手紙という形で語られる。

    大江作品をすべて読んではいないけれど、随所に他作品との共通のモチーフが見られました。共同体ごとの失踪は短編「ブラジル風ポルトガル語」でも描かれていたし、一揆の指導者をめぐるあれこれは「万延元年のフットボール」、演出家と劇団員は後期の作品のあちこちに登場するし、森のフシギもまたしかり。そういった共通点は他の作品にも見られるけど、これはとくに集大成感が強かった。

    巨人化し、不死となる「壊す人」はマルケスの「族長の秋」の大統領を彷彿とされられました。読んでいて単純に一番面白かったのは「五十日戦争」の章。大日本帝国軍を向こうに回して対等に戦う村の人たちの戦術にハラハラドキドキもしたし、幽霊になって戻ってくる犬曳き屋や、自ら作った迷路から出られなくなってしまう子供たちの話など印象的なエピソードが多くて好きだった。

  • 狭く深く掘り下げるほどに、世界が広く濃く大きくなっていく。語り手、村=国家=小宇宙の世代を超えた歴史、語り手の家族たちの数奇な人生。さまざまな時間が「同時代」のことのように語られ、その中でも否応なく「時間」のにおいを感じざるを得ない。そして、最後の最後で本当に同時代のこととして解体された。閉じ方の完璧さ。
    解説もよかった。解説に書かれなきゃたぶん一生気づかなかったと思うけど、確かにこの小説はどこの章から読んでも問題ない。

  • 以前1/3くらいで挫折。今回も1年くらいかかった。これまでのいきさつと作者の現状の説明と故郷の歴史とのない交ぜと、大江独特の硬質な文体に慣れるまでの「第一の手紙」が一番の難所。大きな歴史としての時間、家族の昔とその後、双子である主人公と妹の目を通して"現在"として移動する時間、と複層的な構造を往還しながら着地点がわからないまま運ばれていく。小説何個分にもなりそうな登場人物やプロットがたいして掘り下げられもせず惜しげもなく投入される。なんか"けり"もつかないまま放り出されて終わるのも凄い。とにかく圧倒的。


  • 大のオーケンファンにして著作もほぼ拝読しているが、これは少し読者に優しくなさすぎる。
    内容や作品の文学的な重要性は別にし、作者の想いが強く入りすぎて文があくどい。読了後に純粋な評価をするには中途の苦痛が大きい。
    伊坂幸太郎大絶賛品だが、作者の見る角度が自分とは違うのかもしれない。

  • 大学入ってから読んだ本のなかでNo. 1。

  • ストーリーのみを追えばSFファンタジー小説だが、緻密に練り上げられた文章で読書の醍醐味を堪能させてくれる文学小説だ。

  • M/Tと森のフシギの物語はこの作品の後に続くものらしい。

    長く、退屈な作品だった。
    「森のフシギ」のようには入り込めなかった感あり。
    でも味わいはなんとなくあるにはある。
    結局視点は主人公から変わらず、書簡形式によって若干他者を匂わせるが、その相手も一度も登場しない。
    結局この主人公が想像しているだけのことなのかと思うと、著者は想像している主人公を想像していることになる面白みはあるんじゃないか。

    それぞれ違う時代の出来事を絵巻物のように一つの時間に閉じ込めるという小説の機能を利用して、後世にも冷凍保存しようとしたのではないかとと思う。

    オシコメ、シリメ、フシギなど大江作品頻出キャラが勢揃い感がある。

  • 再読。二度と読むまいと思っていた禁断の書を解禁。出だしからの悪文に次ぐ悪文に早くも投げ出したくなる。一文を何度も繰り返し読んでは喰らいつき噛み砕く、この行程なしに読み進めることは不可能。これは作者の確信犯的な戦略。タイトルを上っ面で解釈するのは可能だがそんなことしたくない。死と再生なんて言葉を借りて容易く繰り言したくもない。ただこの小説を足掻き貪り読んだ時間こそが掛け替えのない稀有な体験だ。作者と魂を共有できたというとんでもない満足感。生きてるうちにもう一度読み返してやる。これを読まずに死ねるかのスペシャル級大傑作。

  • 大江健三郎の持つ創造性と民族の土地への執着、そして寓意的神話の結晶。20世紀日本文学の収穫とだけあって読み応え抜群です。
    メタ文学としては国内最高峰。
    と、ここまでベタ褒めですが、星4つの理由としては万人向けでなさ過ぎるという点。
    村上春樹、伊坂幸太郎などを好む人にとっては『難解』という幻想に苛立ちを覚える可能性が非常に高いです。
    こんな言い方したくはないですが、上級者向けです。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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