同時代ゲーム (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.52
  • (21)
  • (31)
  • (41)
  • (6)
  • (6)
本棚登録 : 587
感想 : 42
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126142

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 同時代ゲーム読了。いやー時間かかった。
    この難解な一見訳の分からない、作者の物凄い創造力に満たされた文章を読破できたことは、今後の読書にも自信をもてる。
    あまりにも奇怪な登場人物にクスッと笑ってしまうが、あまりにも文学的なので笑っちゃっていいものか悩んだ。
    面白いか面白くないかでは表現できない、混沌とした小説だったので自分としては高評価だった。
    なにしろ、長時間よく読破できた。でも不思議と途中で挫折しようとは思わなかった。それは大江さんの脳内に少しでも入りたいと思ったからかも知れない。

  • 伊坂幸太郎の『夜の国のクーパー』著者あとがきで、この作品からの影響について書かれていたので興味が湧いて久しぶりに大江健三郎の長編を。なるほど、伝説や巨人、孤立した小さな村が大国を向こうにまわして戦争を始めたりするあたりは共通しているかも。しかし伊坂作品ではさすがにエンターテイメントとしてそれらの素材が昇華されていたけれど、大江健三郎はもっと難解。発表当時賛否が分かれたというのも頷けます。

    物語の外郭はある意味ファンタスティック。江戸時代に藩に追われて移住した人々が新しく築いた「村=国家=小宇宙」。森の中の隠れ里として独立したその共同体内で、百歳を超えてなお生き、さらに巨人化した創建者たちと、そのリーダーである「壊す人」の伝説をベースに、さまざまな伝説の人物、幕末維新期の一揆の指導者や、第二次大戦前に「大日本帝国」を敵にまわして戦われた「五十日戦争」などの壮大な歴史が、父=神主に伝承者として教育された主人公を通して、双子の妹への手紙という形で語られる。

    大江作品をすべて読んではいないけれど、随所に他作品との共通のモチーフが見られました。共同体ごとの失踪は短編「ブラジル風ポルトガル語」でも描かれていたし、一揆の指導者をめぐるあれこれは「万延元年のフットボール」、演出家と劇団員は後期の作品のあちこちに登場するし、森のフシギもまたしかり。そういった共通点は他の作品にも見られるけど、これはとくに集大成感が強かった。

    巨人化し、不死となる「壊す人」はマルケスの「族長の秋」の大統領を彷彿とされられました。読んでいて単純に一番面白かったのは「五十日戦争」の章。大日本帝国軍を向こうに回して対等に戦う村の人たちの戦術にハラハラドキドキもしたし、幽霊になって戻ってくる犬曳き屋や、自ら作った迷路から出られなくなってしまう子供たちの話など印象的なエピソードが多くて好きだった。

  • 大江健三郎の持つ創造性と民族の土地への執着、そして寓意的神話の結晶。20世紀日本文学の収穫とだけあって読み応え抜群です。
    メタ文学としては国内最高峰。
    と、ここまでベタ褒めですが、星4つの理由としては万人向けでなさ過ぎるという点。
    村上春樹、伊坂幸太郎などを好む人にとっては『難解』という幻想に苛立ちを覚える可能性が非常に高いです。
    こんな言い方したくはないですが、上級者向けです。

  • 22年ぶりに再読。
    初読時は全く意味不明な言葉の羅列に思われたけど、氏の著作を読み重ね、ほとんど同じテーマながら本書よりも整理された語りの『M/T…』を読んでからの再読で少しは何が書かれているか、くらいは読めるようになった。

    メキシコでの暮らしがダイレクトに故郷の村の神話と歴史に接続される第一章から物語に引き込まれた。一般的には第一章が読みにくいと言われてるらしいのだが、個人的には一番面白い。

    今回は、五十年戦争が一番読み進めるのが辛かった。時代が進んだために神話感に乏しく、やたらと解説的な語り口に思えたからかも。ただ、「いかに木を殺すか」など、その後に繰り返し語られたり、重要な挿話ではあるけど。

    話者の家族が語られる第五章はそれぞれ独立して短編になりそうな面白い話ではあるんだけど、彼らもまた「他所者の子」という出自を考えると、第六章への接続的な語りとしても、ちょっと神話と歴史に接続されるべきものかがこの本の中では違和感があった。ただ、これがきっと衰退する種族へのエレジーのような「揚げソーセージの食べ方」などの語りに繋がったんだろうなとは思う。

    後の「M/T」と大きな違いになってるのは締めくくりの章の内容になるのだけど、死者の道が示す宇宙などより大きなものへの接続や過去・現在・未来が同時に存在することなどは明確にヴォネガットの「タイタンの妖女」と重なるものだ。初読時には分からないながらも読了できたことと壮大な物語が円環を描きながら話者の体験に接続されたことにいたく感動したものだけど、2回目は、そういう構造ね、と若干冷めた感想を持った。というのも、過去に遡って過去から見た未来という描き方のラストだったものが、「M/T」では母(祖母)から光さんへの語り、今から未来への語りになっていてそれがとても素晴らしかったからなのだ。

    ともあれ、こんなに語りがいのある小説、小説家はいないよ、ホントに。是非二読、三読すべき作品ばかりだと改めて思った。


  • そこまで読みにくいとは思わなかった。取り替え子は凄く読みにくかったが、それに比べると全然大丈夫だった。
    大江さんのつくった世界にじっくり浸かれる小説。途中で読み疲れする部分もあったが、神話的で性的で悲劇的で感傷的な世界観をとても楽しめた。

  • 物語として内容を読み取ろうとすると、難解で冗長とも感じられるこの作品、最後まで読んでみると、その文脈を楽しんでいけばいいのだなと気づきます。
    その世界観は、のちの宮崎駿や村上春樹にも影響を与えたのではというところがあります。

  • 純文学を大きな声で好きだといえる人でないかぎり読みきれないでしょう。それくらい難解で、ストーリーの流れなどから簡単に面白いと感じるところはない作品です。ですがノーベル文学賞作品ですから純文学好きには避けられないところなんですね。実際に読んでみるとあまりの文の巧みさに驚き、慣れないうちは1ページに10分ほどかかることもあるでしょう。読んでて暗記してしまうフレーズを例として「大岩塊、あるいは黒くて硬い土の塊」、なんてのが頻繁にでてきます。何がおかしい、とか思われるかもしれませんが、あまりに何回も出てきます。この岩の話は最初から最後まで出てくるのですが、そのたびに毎回「大岩塊、あるいは黒くて硬い土の塊」って出るんですから、こっちはお腹いっぱいになってしまいますよ。まぁ、逆にこういうフレーズが暗に純文学っぽく感じられて自己満足でなんとか読みすすめられるのですがね・・・。そんなわけですので、作者の天才的な文体を楽しむくらいがちょうど良いのではないですかね(汗

著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大江健三郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×