ロビンソンの末裔 (新潮文庫 か 5-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128030

感想・レビュー・書評

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  • これは力強いフロンティアの物語ではない。ひたすら悲惨・暗澹・無残・救い様の無い開拓民達のエピソードが積み重ねられていく。しかし、単なる暴露・告発小説でもない。
    開口健の若いころの作品は、著者自身の発散しようの無いエネルギーが込められている。最初の長編である”日本三文オペラ”では、それがアパッチ族の放埓な生命力として飛び跳ね、この”ロビンソンの末裔”では、全方位的苦難の中で、まるで石のように内向して良くのだが、確かに存在する。
    それは主人公達が悲惨な現実を受け入れ、諦め、押しつぶされながらも、淡々とささやかな抵抗を続ける姿の中にある。そして、終章の前には大きなエネルギーの発散としても現れる。オプティミズムではなくペシミズムも無い。一つ一つのエピソードが、どこか乾いた軽さ・苦々しい笑いというべきもので表現されていく。それがこの作品の魅力である。力強さである。
    この人の作品にはどこか非常に印象に残るシーンが存在する。日本三文オペラでは主人公アパッチ族が鉄骨を持って逃げ回るシーンであり、この作品では水を飲みながら酔っ払った振りをする接待シーンであり、悲惨さが圧縮されて出来上がったともいえる抱き石を抱えて上京するシーンである。これらは10年して作品のストーリー自体は忘れても、なぜか心の隅に残ってしまう。開口健の筆力のすごさだろう

著者プロフィール

1930年大阪市生まれ。大阪市立大卒。58年に「裸の王様」で芥川賞受賞。60年代からしばしばヴェトナムの戦地に赴く。「輝ける闇」「夏の闇」など発表。78年「玉、砕ける」で川端康成賞受賞など、受賞多数。

「2022年 『魚心あれば 釣りエッセイ傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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