フィッシュ・オン (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128047

感想・レビュー・書評

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  • 『オーパ!』がとても面白かったので、開高さんの釣りエッセイを遡って『フィッシュオン』。ところが、さらに前に『私の釣魚大全』があるらしい。また遡らなければ……まるで自分が、遡上して開高さんに釣られるサケやマスになった気分だ。

    冒頭、いきなり

    「都会は石の墓場です
    人の住むところではありません」

    というオーギュストロダンの言葉。最高かよ……と頭がくらくらした。

    この本は、開高さんが世界を巡り、各国で釣りをする紀行文。アラスカに始まり、スウェーデン、アイスランド、西ドイツ、ナイジェリア、フランス、ギリシャ、エジプト、タイ、そして日本と、国名がそのまま各章のタイトルになっていて、副題がつく。
    目次で気になってしょうがないのが「西ドイツのパンティー大王と出会い、厚遇をうけること」……開高さん、これはどういうことですか?一体何が書かれてるんだ?と思いつつ西ドイツまでたどり着くと、「あっ、ナーンダそういうことね!」と納得できた。

    最初の数頁はあまり面白くなかったが、例の鬱状態の件が書かれていて面白くなってきた。開高さんの鬱の話は大好き。『オーパ!』での旅のお供の読書はシャーロックホームズで、開高さんみたいな人でもいまだにホームズを読むんだねえ!と驚いたが、今回は(仕事の為だそうだが)原民喜だった。

    私は釣りがあまり好きではなく、誘われれば行く程度で、ルアーフィッシングはやったことがない。ゼンゴ(小アジ)を20匹ぐらいババッと上げて、家でササッと捌いてジュッとフライにし、そしてタルタルをミチャチャチャチャ!でサクサクッと食す。美味い!それだけ。友達にはもっとデカいの狙えば良いのにとよく呆れられる(釣りに拘るのがめんどくさい)。なのでルアーのことはよくわからないが、それ以外の部分がとても面白かった。

    前半は普通に楽しい紀行文だった。写真担当の秋元啓一さんと、お互いに殿下閣下と呼び合ったり、あまりにもキュートなオジサンたちの様子。我々男性は小中学生の頃からあまり変わらんのですよ。頭の中に男子中学生が常にいる感じ。男同士、趣味で遊んでると、ソイツが解放されて外に出てくるんだよね。

    だが丁度後半のナイジェリアから様子が変わってくる。実はこの旅行は、世界の戦争地帯をルポする合間に釣りをする……という紀行文だったのだ。つまり『オーパ!』に『ベトナム戦記』の続編的要素を感じた以上に、『フィッシュオン』は『ベトナム戦記』との連続性がある。『オーパ!』は1977年、『フィッシュオン』は1969年なのでより色濃い。

    フランスの章。前年の68年にパリに行った時には五月革命の嵐が吹き荒れていたのに、69年には影も形もなく、エロい歌が大ヒットしていたと……曲名は書いてないけど、ゲンスブールとバーキンの『ジュテームモワノンプリュ』ですね。全世界で学生運動や戦争の時代だった頃。しかし戦争に関しては、今の世界もそう大差ないのでは?エジプトに関しては「アラブの春」の後またクーデターが起きた。

    今回の開高さんの釣り師の服装があまりにもダンディでカッコいいから驚く。チェックのシャツがオシャレ。80〜90年代、いや最近の写真だと言われても気づかないくらい。

    最後の章は日本。釣り人のゴミ問題について怒る開高さん。日本人のルーツはゴミである。と、そこまで書いている。乱獲やゴミや環境問題について、最も考えているのはマトモな釣り人たちのはずで、だからこそ同じ釣り人のマナー違反は許せないんだと思う。
    序盤にカーソンの『沈黙の春』の話も出てくるからびっくり。すこし前に読んでおいて良かった。この時期、日本では公害が大問題になっていた頃(『ゴジラ対ヘドラ』が翌年公開)。それまでの日本人は環境問題に対する意識がかなり低かったのでは。こちらもわりと最近まで不法投棄されたゴミを目にしていたので、今もあまり変わらないのかもしれない。

    69〜70年の世界を記録した、純粋に面白い紀行文であるとともに、これ一冊読むことで開高健が何者かがかなり理解できる名著だと思う。レビューを読むとこの本を愛している方が多いこともよくわかるし、またその方々も同様に愛しく思える。そんなことは他の本ではあまり感じたことがない。

    引用したい文章は沢山あるが、ひとつだけ。開高さんが読んでいた、とある本に対する批評が面白かった。「簡潔、素朴、筋肉質であってしかも繊妙であり、何より率直をつらぬこうとする態度がいい」「ファーブルがヘミングウェーの文体で昆虫のかわりに女を書いたらこうもなるであろうかと思われる」。
    これは、私が開高健の文章に対して感じることを、実に的確に表現してある。その奇妙な一致。この本はエロい本だそうだ。旅のお供に原民喜とエロい本が同居しているのがいい。

  • 釣りの趣味なんてないし、ましてや魚はあまり好きじゃない。
    なのに、とても楽しく読めてしまった。
    一緒に旅してる気分になれる本。
    緑いっぱいの森に流れる川、静謐でひんやりした空気を感じられるシーンがいくつかあって、癒しがあった。
    開高健って、親しみやすいけれど、スマートな魅力があって、とても好きだ。

  • 格好いいなあ、と思った。全編を通して。 
     
    『子は成長して言葉やアルコールで心身をよごし、無数の場所で無数の声を聞きつつ緩慢に腐っていく』
    それでも子は父の言葉を生涯忘れないだろう。
    『着手したらさいご一人でたたかえ。やりぬけ。完成しろ』
     
    僕も父親に釣りを教わった。生涯忘れることのない言葉をもらった記憶は無いけれど。僕の父は無口で、それこそ釣りをするにも釣り場で何かを教えてくれるわけでもなく、ただただ釣りをしていただけだった。それでも僕は、父と釣りに行ったことは忘れない。それだけでじゅうぶん。
     
    本書で語られる釣りは、主にマス類を対象にしたルアーフィッシング。僕にとってルアーフィッシングといえば、始まりはマス類を対象にしたそれで、いまでこそバスフィッシングを連想するけれど、というのも釣りに夢中になり始めた頃の僕の周囲の環境下では、バス類は身近な存在として認識していなかった。バスは夢の中の魚だった。とはいえマス類なども、子どもだった僕には現実的な対象魚とは言い難く、ルアーフィッシングに憧れててはいたものの、実際に釣り場に立つ機会は皆無だった。「いつかは。大人になったら」憧れる気持ちは抑えきれず、ルアーを買い集めたり入門書を読み耽ったり、当時の僕は純粋だった。
     
    西東社という出版社から出版されていたルアーフィッシングの入門書の、著者の西山徹氏が、僕の心の師匠だった。夢中で読んだなあ。夢中で読んで、あれこれ想像したものです。
     
    この本は数年前に購入して、ずっとそのままになっていました。偶然書店で見つけて、記念のつもりで購入したのです。昨年末からの、僕の読書熱の高まりから、この本の存在を思い出し、あらためて読んでみることにしたのです。『オーパ!』という姉妹本?があるけれど、その本は学生時代にどこかの図書室で見たような記憶があった。内容までは知らなくて、釣りのことの本だとしか認識がなかった。実際釣りの本なのだけれど、釣り人…アングラーの流儀を説く文章などは、とても心地良く読むことができた。レイチェルカーソンの『沈黙の春』に触れた箇所があり、環境や生態系の問題など、実際にはわからないことも多いけれど、現在でも何ら改善された印象がなく、この何十年も人や社会は、この問題を蔑ろにしてきた印象しか無い。それは僕自身にも言えることなのだけれど。ただただ恥じ入るばかりです。

  • 釣りに始まり釣りに終る名エッセー

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/detail?rgtn=B21720

  • オーパ同様読み返したくなる。

  • 釣りが好きなら一度は読むべき名著。コロナ禍で行動制限が必要な時代にこそ、アームチェアフィッシャーマンという心は釣り好きでなくても持っておくべきなんだろう。

  • 2019年度第9回新歓ビブリオバトル
    チャンプ本

  • 古本屋で発見された、美品。元の持ち主はこの本を開いたことがないどころか、本棚に差したまま一度も手にしなかったと思われる。平成7年の36刷は20年以上経ているわけだが、読まれた形跡がないというのも、やり切れないね。
    開高健、丸谷才一、山口瞳、思いつくまま福永武彦、遠藤周作、辻邦生、石川淳、安岡章太郎、阿川弘之、野坂昭如、皆なかなか地方の古本屋では見かけなくなって久しい。
    永井龍男なんか見たことない。関係ないけど、倉橋由美子も手に入らない。
    吉行淳之介だけ、文庫で一応揃えて捨てずにいてよかった。まさかこんなに入手しづらくなるとは、思わなかった。

  • 釣りは、小学校の卒業旅行で友達のルアーに「釣られて」以降全くやっていないのですが、またどこかでやる機会を探してみようかと思わせてくれた本です。

    「輝ける闇」の息もつかせぬ濃厚な描写とはまた違って、少し肩の力を抜いた、飲んでばかりの開高健による「世界を釣る」的な紀行文。
    アラスカからアフリカ、アジア、そして日本と各所で異常なまでの?コネとコミュ力を使って素敵な釣りを楽しむ。色々な所にふと招待してもらえるコミュ力、きっと開高健と飲んだら最高に楽しいんだろうなぁ。という開高健のプラスの面を魅せてくれる本です。
    (筆致が軽いとこうなのですが、「最後の晩餐」は逆だったなぁ。。)
    世界各所の自然を描写していくその筆致もまた素晴らしく、秋元カメラマンとのタッグもまた絶妙な息の通じ合いぶりで、読んでいて心地よく感じます。

    装丁も写真対応の光沢紙を全編に奢っていて、秋元さんの写真が引き立っていて現場の空気が伝わってくるようです。
    本著の影響を受けて、久々にウイスキーが飲みたくなって、戸棚の奥底から変な形の瓶を取り出して飲んでしまって、久々の度数の高さに明日の宿酔いを心配してしまう次第です。。

  • 高校時代の愛読書、以来擦り切れるほど読んで もう 5冊
    必ず本棚に入っている!

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著者プロフィール

開高 健(かいこう・たけし):1930年大阪に生まれる。大阪市立大を卒業後、洋酒会社宣伝部で時代の動向を的確にとらえた数々のコピーをつくる。かたわら創作を始め、「パニック」で注目を浴び、「裸の王様」で芥川賞受賞。ほかに「日本三文オペラ」「ロビンソンの末裔」など。ベトナムの戦場や、中国、東欧を精力的にルポ、行動する作家として知られた。1989年逝去。

「2024年 『新しい天体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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