輝ける闇 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128092

感想・レビュー・書評

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  • シエスタ・読書・中国将棋・映画、はてはぶらり町歩きと、当初は従軍記者(正確には朝日新聞社の臨時特派員)とは思えない比較的のんびりとした前線生活だった。このまま著者の身に何も起こらず、一生ついて離れないような記憶が植え付けられないよう願ったが、神様は容赦がなかった。

    生まれて初めて握る銃の感触にそこから湧き上がる感情。(自分にとっては教科書でしか聞いたことがなかった、)枯葉剤で荒廃した林を踏みしめる著者と部隊。銃撃戦に怯える著者が敢えてしたためた森の匂い。生々しい文体は決して読者を怖がらせる訳ではない。戒めている。

    「しかし、私は、やっぱり、革命者でもなく、反革命者でもなく、不革命者ですらないのだ」

    高みの見物と言わんばかりに世界各地から押しかけ取材がてら町で遊ぶ記者達を目の当たりにすると、嫌でも現在と重なってしまう。おいそれと非難なんぞ出来ず、かける言葉すら浮かばない。著者が作中感じたもどかしさが自ずとシンクロした。


    何の予習もせぬまま突入したため、本書が三部作の第一作目である事を最中に知りました。

    筆者と行動を共にした大尉は作中で「われわれは(中略)、東南アジアを守るために戦ってる。日本と我々自身を守るためにも戦ってる」と言っていましたが、自分はもっと間近にある日常を守りたいと思っています。
    「世界最後の日に何を食べたいか」といった質問をよく耳にしますが、やっぱり世界最後の日など想像すらしたくないですし、想像する暇があれば幸せだと思えている日常を可能な限り永続させる方を自分は取っていきたいです。

    熱くなってしまいましたがこの久々に湧いた熱意を掲げ、時間をかけてでもニ・三作目に挑みます。まだ、いささか野次馬気味だった筆者の心境の変化もしかと見届ける所存です。

  • 「似ているのは雰囲気」

    その凄烈な文章力に圧倒され
    文学的に堪能したのはもちろんであるが
    その満足とはうらはらに

    どこかでこれと似たようなものを読んだ
    との思いが湧きあがってきた

    開高健はベトナム戦争のさなかアメリカ軍の中に特派員として参加
    ルポルタージュ『ベトナム戦記』を書き
    その経験をもとにしての文学編がこれ『輝ける闇』である

    わたしの若き頃(1960年半ば)のベストセラー
    開高健『ベトナム戦記』と岡村昭彦『南ベトナム戦争従軍記』
    のうちの『南ベトナム戦争従軍記』をその当時読了している

    もしかして「ぱくり?」と疑いがもやもや、

    急いでそちらも読み直してみてやっぱりこれは似ていると思う
    ルポルタージュと創作の違いは判然としているのに
    つまり、雰囲気が似ているのであって

    それはおふたりの気質性格的なものであって
    ものおじせずにどこへでも行って
    人びと(アメリカ人であろうとアジア人であろうと)と交わる
    そんななかから生まれた雰囲気というものが同じである

    同じように特派員としてアメリカ軍の中に潜り込んで
    ベトナム戦争の戦いをつぶさに経験
    命からがら逃げて、記録を残せたのだった

    岡村昭彦『南ベトナム戦争従軍記』も読み返してみると
    今読んでも褪せてないことがわかってよかった

    それにしても
    開高健の『輝ける闇』は重版されていて
    岡村昭彦『南ベトナム戦争従軍記』は絶版

    文学の方が残るのか

    しかし
    上記のような感想は両方読んだ人でないとわからない
    ほんとうは内容を入れて説明した方がよいのだろうが

  • 兵はただ何かが音なく流れてたためにぐにゃぐにゃの袋となった。

    革命、反革命、非革命

  • この本の良さがわかるには、
    一定以上の「文学力」が必要なんだと思う。

    表現の繊細さっぽいもの、
    表現の奥深さっぽいもの、
    著者のすごさっぽいものが伝わる。
    ような気がする。

    同時に自分には「っぽさ」しかわからない、
    もっと言ってしまえば良さがわからない、
    というのが本音であり、
    自分の文学力の低さに少し凹みました。

  • 他の方も感想で書いていたがこれはフィクションなのかノンフィクションなのかというのは自分も感じた。おそらくそのどちらも含んでいるのだろうがベトナム戦争を従軍記者として生で体験するという経験は当事者(ベトナム人や米兵)にとってはあくまでも外部だろうが外部だからこそ冷静に見える日常の異常さというものがより鮮明に描かれる。20歳や20歳にも満たない18歳のテロリストの少年が広場で処刑される現実やそれが2日続けて行われるとさほど動揺も感じることなく受け入れて出している自分。さらにそれをエンタメとして見ている若い女の子たち。人間の(特に女性の)適応力?の高さに驚く。彼女らにとってはもはや自然なのだ。開高健はこの戦争の正当性にはさほど興味を示さない。開高が注目するのはその戦争のただ中で懸命に生き抜こうとしている人々、縁があって知り合ったその時々の人たちにただただフォーカスしている。戦争という暗い闇に翻弄される人間自身を見つめている。そして皮肉なものだが異常事態だからこそ人間の生命がそこに輝いている。まさにこのタイトル通りだと思う。

  • これは小説なのかノンフィクションなのか。開高健氏が「ベトナム戦記」で体験した世界を、ベトナム帰還兵のPSTDの如くフラッシュバックしながら数年に渡って反芻し血肉となり自身を削って書き上げた本である。一文一文に研ぎ澄まされた感覚が乗って全体に漂う緊張感は当時の開高健氏の精神状態を具現したものであろう。読む側もヒリヒリする。

    「ベトナム戦記」「オッパ!」「パニック・裸の王様」と読んだが、本作品が最も凄みを感じる。

  • あんこう鍋(いわきで言う"どぶ汁"に近い)みたいな作品だった。文学の出汁がこってりと出ていて純粋に美味い。のめりこむように貪りつつも、なんかちょっと食べられない部位もあり、食後の余韻はとっぷり残る。

    さまざまな表現や描写がこれでもかってぐらい豊かで鮮やかでかつ繊細。ベトナムを五感で感じるし、戦場の迫力が真に伝わる。映画化できそうな綺麗に段階を踏んだストーリーではないのにここまで前のめりになってしまうのは、開高健の作家としての総合力がそうさせるのだろう。

    キーワードは「匂い」なのかなと思った。「使命は時間が経つと解釈が変わってしまう。だけど匂いは変りませんよ(108項)」とウェイン大尉に話すシーンがひっかかっていて、その後の場面転換や戦闘シーンにおいては重要なところにほぼ匂いに関する表現が出てくる。記者としての使命が曖昧になる一方、死や生に関わる人間の、褪せることのない生々しい匂いを、主人公は心に残すことになったのだろう。

    あとベトナム戦争の知識を少し勉強してからの方がより面白かったな。読んでるうちに分かるだろと思ってしまったが結果、後悔した。


    以下は個人的に気に入った表現集

    45 空をみたす透明な炎の大波に撫でられて私はベッドにたおれ、とろとろと沈んでいく

    48 生理の限界を一瞬で突破された恐怖の圧力がまだ体内にこもって、ぴくぴく動いていた

    76 きわめて優雅に法外な値をささやき、私がさしだす紙幣を卑しみきった手つきでつまみとった。まるで羽毛をつまむような手つきであった。威厳をそこなわずに下劣なふるまいをしたかったらこの女に習うといい。

    84 塹壕や汗や野戦服が知らず知らず私の皮膚の上に分泌していた石灰質の硬い殻のようなものが音なく落ちた。脱皮した幼虫の鮮やかな不安が全身にひろがった。

    226 私は冷血でにぶい永遠の無駄だ。

  • 布団の上でのんびり読んでいたはずなのに、読み終わったときは100メートル走を全力で走らされた後のようになった。


  • 地味に『夏の闇』よりも好き。
    ジメジメした湿度と臭気は毎度の事、本作の主人公(≒作者)の倦怠感・退廃感・焦燥感がリアルで凄まじい。
    勿論同様の経験などした事はないが、国を離れた地で、女とダラダラセックスを続けながら、何か使命感に囚われている男に激甚な共感を抱いた。

  • よく、映像化は不可能と言われるような本があるけど、この本はまさにそういうやつではないか。色々と後付で深遠な言葉で着飾ってみたり、浸透してみたり、いやこの浸透は良かった、その他諸々だけど、実際には一般人が傍から見れば、くうねるあそぶ、そして浸透しているのである。これを映像化しても伝わるまいこの、なんというか。アレだ。
    それでもなんでもベトナム戦争時代の空気というか、いろんなものが伝わってきて、これはこれで面白いのですよ。こうやって本を読んで知ったような気持ちにさせてくれるんだからやっぱり伝わってるんだわな、くうねるあそぶだけじゃないスゴさなんだな、とは思う。

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著者プロフィール

1930年大阪市生まれ。大阪市立大卒。58年に「裸の王様」で芥川賞受賞。60年代からしばしばヴェトナムの戦地に赴く。「輝ける闇」「夏の闇」など発表。78年「玉、砕ける」で川端康成賞受賞など、受賞多数。

「2022年 『魚心あれば 釣りエッセイ傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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