どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101131030

感想・レビュー・書評

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  • 「読書会」 課題図書
    半世紀ぶりに再読
    初めて読んだ若い頃、すっかり北杜夫のファンになって
    たくさんの著書を読んだ

    あの目新しかったユーモア、珍しかった海外の様子
    それも懐かしかったが、海の描写が美しいのに感嘆
    やはりすごい作家だなあ

    でもやはりというか「昭和の男性」
    女性感は鼻についた

    自分が選ばない本を読む楽しみ
    「読書会」これからも参加したい

    ≪ 青春の 奔放な旅 もう一度 ≫

  • 医者の私はドイツに行こうかなーなんて思っていたが留学試験で落とされた。なんてこったい、それなら別の手段を考えなければ。
    ということで1959年に水産庁の漁業調査船に船医として乗り込んだ。5ヶ月半の航海で、アジア、ヨーロッパ、地中海まで回る、マグロだって食べられるし、嫌になったら港で逃げ出せばいいじゃないか。

    この航海の様子から大切なこと、カンジンなことをすべて省略し、くだらぬこと、書いても書かなくても変わりはないが書かないほうがいくらかマシなことをまとめたら本になった。



    軽い語り口で、ユーモアというか悪ふざけたっぷりの航海記録だが、停泊した地での体験は、時代や国の様子が伺える。

    停泊地で一人でフラフラしていたら、寄ってくるのはポン引き、物売り、そして女性関係。
    女性のお話は事欠かない。
    船員さんは「船員は海の上で空想的に女を想うから性欲と言っても半ば空想的なもので肉体的なものではない。家庭的なものを求めるし、もし海員ホームに女がいて言葉だけでも買わせる憩いがあれば、性を求めるなんて少なくなるでしょう」という。
    しかし船を降りたら「IPPATHU YARUKA?」と声をかけられて以前の日本人はなんて言葉を教えたんだと思ったり、飲み屋でけばけばしい女性が来て辟易していたら思いの外慎ましかったんだとか、港港での経験があったようだ。

    医療の方は、「診察時間は9時から14時」という羨ましい勤務。「歯の底を破って膿を出すなんて芸当はできぬし道具もない、道具があったとて、私は頭蓋骨に穴を開けて脳の一部を切る手術ならやるが、歯医者のような野蛮極まりない真似はとてもできぬ」なんて言っているが、船酔いや歯痛、虫垂炎、他の船や停泊地の患者を診たり診られないから病院に回したり。
    日本人は気前がいい…というかちょろいと思われているのか、他の国の人が日本の船だと分かったら「オミヤゲ・クスリ」を要求されたり、病気かと思って与えてみたらどうやら転売用?!などということも。
    しかし著者のコミュニケーション能力もかなり高いだろう。
    ポルトガルでは馬を借りて観光したら若者が勝手に案内してくれたんだがお互い全く言葉が通じない。
    しかし若者はこっちが言葉が通じないのをわかっているのに話を続ける続ける。だから自分も日本語で喋り続けた。若者が松の説明らしきことをすれば、「あれは松だ。日本にもたくさんある。ポルトガルにもあるんだな」などとお互いにまったく違う言語で喋りあった。するとむしろ会話がスムーズになった。黙ってチンプンカンプンの言葉を聞いているくらいなら、判らないなりにペラペラ喋ったほうがコミュニケーションが通じるんだ。
    ドイツでは、トーマス・マンの生家で「ブッデンブロオク一家」の原型である古い家を訪ねたんだが、ドイツでは「彼はドイツ人じゃないから〜」などと言う連中がいて、プンプン!と怒ってみたり、
    語り口は軽いんだがかなりの行動力だ。

    マグロ漁の方法や、海によって生息するマグロの違いなども語られる。
    紛れてサメも連れてしまうんだけれど、この頃サメは船員にとっては嫌われていて、腸引き裂いて海に捨ててしまう(食べないのか!)。まあそんなサメは実は臆病で人間がいるとそうそう近づいては来ない。
    自称することになる「まんぼう」は、まさに「何か変てこりんなもの」という感じで、海をぷ〜ぷ〜か浮かんでいる。

    航海が1959年のため、戦争の記憶も残っている。
    南洋では案外日本語や日本人を懐かしがられて「日本は次はいつ来るんだい」などと聞かれた。
    しかしユダヤ人の凄惨は戦後もなかなか変わらないようだ。他の日本人の話になるが、ユダヤ人は陰鬱な目をしてはじめはなかなか打ち解けないが、一度友情を覚えると身をもたせかけてくるという。しかし彼らの警戒心は仕方ないと思っている。北杜夫の友人が勤めていたNYの病院で、国籍不明の精神病患者がユダヤ人とわかった途端に各国の医者たちがそっけない態度になったという。

    基本的に明るい語りなのだが、戦争経験のためか全てを無くすことを怖がっていられない様子や、作者の躁鬱病(別のエッセイで色々と)らしさや、変わり者一家(他の小説やエッセイで色と)の気質を感じられるような、ところどころでドキッとする描写もあり。

  • 最初にこの本に、そして北杜夫さんの作品に出会ったのは中学生。
    ホラとマコトが入り混じったような、船の上でのあれやこれやを読み知って楽しくページをめくった。
    将来の進路を考える時に船乗りになろうと決意し、商船大学に入ったのもこの作品のおかげであり、ひがんだ言い方をするとこの作品のせいでもある。
    あれから50年以上経ってもう一度読み返そうとしているのですが、その間の人生経験はこの作品をどう味あわせてくれるだろうか。

  • 北杜夫ってこんなにユーモア、というより冗談?が好きな人だったんだー。4ヶ月もの航海の中で見聞き体験したことを記しているが、たまに見聞き体験してないことも書いてます。

  • さっと読むにはいいが、やはり差別的な表現など現代ではなかなか受け入れるのが難しくなってるなあ。

    • moboyokohamaさん
      約50年ぶりに読み返して、えみりんさんのおっしゃるように差別的な表現、あるいはもっと言えば差別的思考が散在する事に今回の読書では驚いています...
      約50年ぶりに読み返して、えみりんさんのおっしゃるように差別的な表現、あるいはもっと言えば差別的思考が散在する事に今回の読書では驚いています。
      昭和30年代、世の中はこんな風だったなあと思い起こさせました。
      2022/04/28
  • マンボウの話がでてこないで、トビウオが出てくるそうですが、こりゃ読んでみないと!

    • moboyokohamaさん
      なるほど。
      どくとるマンボウシリーズは航海記が一作目だっただろうか?
      北杜夫さんが自らをどくとるマンボウと名乗り出したのはいつからだっただろ...
      なるほど。
      どくとるマンボウシリーズは航海記が一作目だっただろうか?
      北杜夫さんが自らをどくとるマンボウと名乗り出したのはいつからだっただろう。
      その辺をもう一度探りたくなってきました。
      2022/04/28
  • 水産漁業調査船の船医として日本からヨーロッパにかけて航行したときの体験をエッセイにした作品。
    高校生に読んで以来、17年ぶりに思い立って読破してみた。どんな内容か全く覚えていなかったので実質初めて読む感覚だったが、自虐的な読み口、どこまで本当でどこまで嘘かわからない内容がすごく新鮮でおもしろかった。17年間の間に私が訪問した場所も増えたことで内容がより入るようになったことも、おもしろさを感じた要因ではないか。1960年頃はまだ海外渡航が珍しい時代だったと思うが、そのなかで海外に対して好奇心を持ちつつ、謙虚な姿勢で過ごされてこられたことに驚く。海外に渡航するにあたり大切な姿勢は、今も昔も不変だと痛感した次第。
    文庫本で200ページ超、休日に気軽に読書するのにうってつけの一冊。

    • よっしーさん
      コメントありがとうございました。50年ぶりですか!どのようなきっかけで再読に至ったのか、気になります。
      コメントありがとうございました。50年ぶりですか!どのようなきっかけで再読に至ったのか、気になります。
      2022/04/30
    • moboyokohamaさん
      再読のきっかけはこのブクログでオススメがあったからだったと記憶しています。
      私は大学時代合計で6ヶ月間の練習船での乗船実習を経験しています。...
      再読のきっかけはこのブクログでオススメがあったからだったと記憶しています。
      私は大学時代合計で6ヶ月間の練習船での乗船実習を経験しています。
      残念ながらオイルショックの影響で不況となり船会社に就職できなかったその未練と、むしろ陸上の仕事について良かったのかなという交々がこの作品を読む時の良いスパイスになります。
      2022/05/01
    • よっしーさん
      遅くなりました。コメントありがとうございました。大変興味深い話でした。
      遅くなりました。コメントありがとうございました。大変興味深い話でした。
      2022/05/17
  • いいなー! と思わせ、頭に絵が浮かぶ優しい文章。何となくのんびりしたい時に適当なページから読んでも楽しめます。

  • 著者の時代がどんなものかよく分かる本でした。
    それにしても、昔の高校生は、大人びているなぁっと思いました。

  • 40数年ぶりに読んだ。前回の記憶は全く残っていない。半世紀以上を経ても水々しく爽やかな読後感をもたらしてくれた。ただ思っていたよりは大人で真面目な内容であった。

    • moboyokohamaさん
      40年ぶりですか!
      私もなんと50年ぶりの再読でした。
      皆さんの書き込みを読んでいると同じように何年ぶり何十年振りの再読だという方が多くて驚...
      40年ぶりですか!
      私もなんと50年ぶりの再読でした。
      皆さんの書き込みを読んでいると同じように何年ぶり何十年振りの再読だという方が多くて驚いています。
      そして新たな面白さで読書ができて愉快でした。
      2022/04/28
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著者プロフィール

北杜夫
一九二七(昭和二)年、東京生まれ。父は歌人・斎藤茂吉。五二年、東北大学医学部卒業。神経科専攻。医学博士。六〇年、『どくとるマンボウ航海記』が大ベストセラーとなりシリーズ化。同年『夜と霧の隅で』で第四三回芥川賞受賞。その他の著書に『幽霊』『楡家の人びと』『輝ける碧き空の下で』『さびしい王様』『青年茂吉』など多数。『北杜夫全集』全一五巻がある。二〇一一(平成二三)年没。

「2023年 『どくとるマンボウ航海記 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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